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第96話 親心と写真

 帝国歴1795年5月上旬、隼人達はマリブールに帰還するために小型帆船でマリ河を下っていた。隼人は船室の1室でマチルダとケルンとアーリア王国の情勢について語り合っていた。


 「それにしても、アーリア王国の現国王は覇気がないとは聞いていたが、外交の混乱が酷いな」


 「北進論、南進論、東進論、西進論、国内開発論で争い、方針が全く定まっていないんだったか?戦争を始める国力は持っているのに、それを使う意思決定力がないのか。どう動くか分からないから不気味な存在だな」


 「全くだ。これからも動きがなければいいんだが……。まあ俺達の領地で税を要求されている所がケルンだけで助かっているよな」


 「アーリア王国の見解としては、ケルンはバイエルライン侯爵領だが、マリブールとナルヴェクはそうではない、という事になっているんだったか?」


 「そうだ。それで、俺達の中島伯爵領はマリブールとナルヴェクとケルンなわけだ。結婚した時の俺の領地がマリブールだけだからなかば無視されたんだな。アーリア王国から離れていたし、辺境の子爵領に過ぎなかったからな。ケルンは従順なままだったし、マリブール如きの田舎でガリア王国といさかいを起こす気にはなれなかったんだろうな」


 「やれやれ、苦労してマリブールを治めてきたのに、辺境の田舎扱いか」


 「そうすねるなよ、マチルダ。マリブールが発展できたのは俺が行商で稼いだ金があった事と、ケルンと交易路がつながった事で製鉄業を始められた事が大きいんだ。マチルダも俺を支えてくれてマリブールの発展に尽くしてくれたからこその今のマリブールがあるんだ。マチルダの時代は不運だっただけで、俺の領地になってからは運が良かっただけさ」


 「マリブールを大陸有数の都市に変えておいてそれか。剛毅なものだ」


 そう言ってミルクティーに口をつけたマチルダの言葉に隼人は苦笑で返し、同じくミルクティーに口をつける。もちろんこの紅茶はそれぞれが別々に淹れたものだ。以前ミルクを先にいれるか、後にいれるかで喧嘩になったので、家族団らんのお茶の時間は自分で好きな飲み物を用意するようになっている。家族みんな好みが違うからだ。


 「それで、隼人がマリブールを発展させ、ナルヴェクを領有してもアーリア王国の態度は変わらず、か」


 「ああ、一度は西進論派が勢いづいたらしいが、マリブールもナルヴェクも遠いし、国論も分断されているから、他の派閥からの、ガリア王国を刺激するべきではないとの意見を押し切れなかったらしい。全く、国の方針を邪魔する力はあるくせに統一する力は無いとは、つくづく憐れなものだ」


 「しかし他国の心配ばかりはしていられないぞ。ガリア王国も新貴族派と旧貴族派の対立が深まっている。恩賞の配分が明らかに新貴族派に偏っていたからな。まっ、隼人が活躍し過ぎた事も原因だが」


 「そんな事を言われても、あれくらい活躍しないとナルヴェクをもらえなかったわけだし、俺はやるべき事をやっただけさ。あの所領の分配は陛下が悪い。自分の派閥を強化しようとしたのだから、対立して当然だ。もっとも、これでようやく新貴族派と旧貴族派の均衡がとれてきた、という程度だが」


 「……陛下と言えば、隼人はアーリア国王に臣従を誓っていないな」


 「会った事もないな。向こうも遠くの子爵の事など、気にも留めなかったのだろう。もっとも、今は俺に臣下の誓いをさせるかどうかでももめているようだがな」


 「ははは、もうグダグダ過ぎて笑うしかないな」


 「全くだ。おかげで俺はそんなに苦労せずに済んでいるが、アーリア王国はもう国としての体をなしていないな。強大に見えるが、ちょっと突っつけば分裂するんじゃないか?」


 「それは勘弁願いたいな。労働力不足のマリブールはともかく、ケルンには流民の受け入れ能力などないぞ」


 「冗談だよ。しかしアーリア国王も国内がこれでは心労で倒れるんじゃないか?」


 ここで2人また優雅に紅茶に口をつける。そんな隼人達を乗せた船団は鉄鉱石と石炭を満載してマリ河を下っていくのだった。




 5月18日、隼人達を乗せた船団はマリブールに到着した。隼人達は積み荷の荷下ろしを港湾関係者に任せ、すぐに城に帰還する。マリブールを出立してから1月半ほどたっており、子供達の様子と妊娠中のエーリカの様子が気になって仕方なかったのだ。


 「ただいま、桜」


 「おかえりなさい、隼人さん」


 城の入り口で桜が出迎える。


 「他のみんなは?」


 「居間で子供達の相手をしていますよ」


 桜が隼人の手を取って居間まで案内する。桜も隼人の帰りが待ち遠しかったようである。もちろんその気持ちは梅子とエーリカとも共有するものだと知っている。だからこそ隼人の手を取って嬉しそうに、しかし速足で居間へ向かう。マチルダ、カテリーナ、ナターシャ、カチューシャもその様子を微笑ましく見ながらついていく。特にマチルダ、ナターシャ、カチューシャは内向きの才能を持ち合わせている分留守番が多く、今回留守番となった桜、梅子、エーリカの気持ちがよく分かるのだ。


 「みんな、隼人さんが帰ってきましたよ」


 侍女が開けた扉から居間に入った桜が中の梅子とエーリカと子供達に声をかける。


 「ただいま」


 「「「「おかえり」」」」


 「お父さん、おかえりなさい」


 梅子とエーリカだけでなく、熊三郎とセレーヌも家族に混じっている事はいつもの事なのでさておき、義人が隼人の方に向かって歩いて来て挨拶をし、隼人の足に抱き着く。時が経つのは早いもので、義人は先月2歳になったばかりなのだ。


 「おお、義人。また大きくなったな。挨拶もちゃんとできて、偉いぞ」


 隼人は義人を抱きあげてあやす。


 「お父さん、遊ぼ?」


 「そうだな、最近は忙しくて相手をしてやれなかったものな。それじゃあボールで遊ぼうか」


 「うん」


 義人は満足そうにうなずき、隼人とボール遊びを始める。他の子供達はまだ1歳前後なので、それぞれの母親に甘えに行ったり、隼人にじゃれつきに来る。それが嬉しくて隼人はつい頬が緩んでしまう。

 だが妻達の事も忘れない。特にエーリカは妊娠中だ。


 「エーリカ、調子はどうだ?」


 「順調だな。去年出産したからだいたいの事はわかっているから不安もないさ。しいて言いうなら、隼人の帰りが待ち遠しかった事かな」


 そういうエーリカは満足そうな顔で自分の子のエーリヒを抱いて椅子に座っている。


 「仕事とはいえ、すまないな」


 「気にするな。俺も頭では分かっているからな。ケルンは相変わらずか?ルドルフとフリッツは元気にしてたか?」


 「ああ、ルドルフもフリッツも元気に職務に励んでいたよ。まあルドルフは白髪が増えていたがな。ケルンの統治も安定している。今度マリブールからの資金で製紙工場を作る事に決まったから景気もさらに上向くだろうな」


 「それは良かった。……という事はアーリア王国も相変わらずか?」


 「ああ、未だに俺達に対する態度を保留しているよ」


 「ふん、そうだろうとは思ったが、よくもまああれで王国として存続しているものだ」


 エーリカは鼻を鳴らして祖国を貶める危険な発言をする。マリブールだから許される発言であるが、そうであっても許容される雰囲気なあたり、エーリカの性格とアーリア王国の体たらくを物語っている。




 そうして仕事の話をしながら子供達と遊んでいると、隼人が唐突に思いついた事を口にした。


 「ああ、子供達の記録を映像や写真で残せたらなぁ」


 「映像?写真?なんだそれは?」


 隼人のぼやきに梅子が突っ込む。映像どころか写真すらこの世界にはまだないのだから当然だ。


 「(あー、しまった。この世界にはないんだった)えーっと、写真はすごく精密な絵みたいなものだな。映像はそれを動く状態にしたものだ。確か……、ロマーニ帝国末期にどこかの地方で発明されたと聞いている」


 「ふーん。絵なら定期的にパウルの配下の画家が肖像画を描きに来て、それを元に街中に宣伝ポスターを貼っているが、それではだめなのか?」


 梅子が隼人の嘘に薄々気づきながらも、空気を読んでそれを指摘せずに質問する。


 「写真は手軽かつ精密に絵が撮れるからな。パウルの配下の画家だとどうしても宣伝臭くなってしまうから、家族で見る分には写真が良いかなーって思ったんだ。映像の原理はこんな感じだな」


 隼人はそう言って棒人間のパラパラ漫画をでっちあげる。それを見て妻達は驚きの声を上げるが、1番気に入ったのは義人で、隼人が1度見せると目を輝かして見入り、隼人の許可をとって持って行ってしまった。


 「写真はともかく、パラパラ漫画は面白いのう。アントニオとパウルに持って行ってはどうじゃ?」


 「そうだな。明日朝一で頼んでみるか」


 こうして熊三郎の一言で隼人はアントニオとパウルの仕事を増やす事にするのだった。




 翌19日朝、アントニオとパウルを集めて隼人はパラパラ漫画を見せる。2人ともその発想に驚愕していた。特にパウルはこれを宣伝の道具として大きな価値を見出した。


 「まずパウルには漫画を使ってこのように動く漫画、『アニメ』を作ってもらいたい。新しい試みだからきっと売れるはずだ。アントニオはこれを市民が簡単に楽しめる方法を編み出してもらいたい。その手段の1つとして写真の原理を応用してもらいたい」


 そう言って隼人は昨晩インターネット閲覧能力で調べた写真の原理を簡単に説明する。


 カメラの最も基本的な原理は、暗室に小さな穴を開けると、像が反対側に映る、というものである。この原理自体はアントニオもすでに知っており、すでに穴がレンズになっており、日食の観測などに応用されているらしかった。その像を固定する技術の開発はすでに錬金術師の小グループが行っているという。

 すでにマリブールで研究されている事を知らなかった隼人は驚いたが、大きな研究課題以外の研究の実施と予算の割り当てはアントニオらに一任されており、叱責する事はなかった。むしろ色々な技術の開発を奨励しているので、今回は当たりを引いた、という事になるだろう。


 いきなりロールフィルムの開発は困難であろうから、ガラス板に写真乳剤と呼ばれる感光物質を塗ったものに像を固定する方法で開発を進めるように指示する。写真乾板と呼ばれるものの開発だ。

 アントニオに説明した後、その足で研究していた錬金術師の研究室を訪問し、開発方針の指示と、予算、人員の大規模化を約束して錬金術師達を驚かせた。


 彼らの努力により3年後にはのぞき見式のアニメが完成し、5年後には写真乾板による白黒写真の撮影が可能になるのであった。

 筆者はカメラに詳しくないのでこの程度しか分かりませんでした。とはいえ物語終盤にはニュース映画くらい出したいので、この段階でカメラの研究を開始しました。


 マリブールとナルヴェクが二重課税の対象になっていないという矛盾点は全てアーリア王国に押し付けちゃいましたw……こんな国情でよく国がバラバラにならないよなー。アーリア王国は諸侯の独立性が高く、領地が細分化していて個々の領主の力は小さいのかもしれません。


 今週は艦これイベントに熱中して執筆時間がとれませんでした。そのためいつもより短めです。矛盾点や誤字脱字もあるかもしれません。ご指摘があれば筆者が喜びます。

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