夜叉
蔵の小窓から差し込む細い朝日に目をさますと、また僕の孤独な1日が始まる。
僕には父も母も兄も双子の弟もいるが、
彼らは母屋の屋敷に住み、僕は離れの蔵に幽閉されている。
いつからだったか…
僕が手を触れると、触れたものの感情を感じ取れることに気がついたのは…
始めはごまかせていたが、その不思議な力を隠すには僕は幼さなすぎた。
その力が屋敷中に知れ渡る頃、屋敷の皆は化け物を見るような目で僕を遠ざけ、
母すらも僕に触れないように振る舞った。
そんなある日、
寝ている僕を布団にくるみ、蔵へ投げ入れた。
僕は何度も謝り、出してくれと懇願したが、
それから今まで10年間、小窓からしか朝日を拝んでいない。
ナツ
10歳まではそう呼ばれていた。
しかしあの日から僕をそう呼ぶ者はいなくなった。
夜叉
今は陰でそう呼ばれているらしい。
双子は菩薩と夜叉の生まれ変わりで、
先に生まれた方はもう一方を押しのけて生まれる“夜叉”
後に生まれた方はもう一方は“菩薩”
なのだという。
しかし僕は見てしまった。
布団にくるまれ抵抗する僕を見て、薄ら笑う弟の顔を…
果たして夜叉は本当に僕の方なのだろうか。
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