偽りの扉
ここに目を留めてくださってありがとうございます。私の実体験を入り交えているため、たいした話でもないのですが、半分実話だと思うので、リアリティーが出せれば良いかなと思っています。まあ半分くらい実話なんですけどね(笑)
僕のこころは熟れた果実。
真っ赤な、紅いプルーンが、美味しそうな甘い香りを発して、僕の鼻をつぅんとさせる。
この香り。
いつも僕を、誘惑する。
あの頃の僕は、激しくイカれた音楽と悲劇と甘い果実でできていた。
それまで趣味だった絵画を本格的に習い始めたばかりの美術科高校生たちは、戸惑いつつも、慣れない環境に身を委ねつつある。そんな中、僕はある疑問を既に抱いていた。
まるで、自尊心を完全に削ぎ落とされた気がした。
「歌手…?なんでそんなもの描く意味があるんだ。」
あぁ…わかってもらえない。
話すら聞いてもらえない。
僕は悔しくて、涙が出た。
「その涙。そういう顔を描くとかさぁ」
高校生らしい絵を描け、か。
わかんない。
僕にはわからない。
なんで、こんなにも熱くて仕方がないほど僕を支配して、譲れないものがあるというのに、この先生はこうなんだろう。
一週間悩んだ末に、僕は初めて納得することもなく妥協した。半ば強制的に、自画像の案を考える。
ノートに描いてみる。
鏡の中で、ふて腐れた顔が無愛想にこちらを伺っているのを見ると、無性に腹が立ってくる。どうしてこんな風に、描かないといけないんだろう。頭は悲鳴しか響いてこない。
「ゆいいちくん、決まった?」
新任美術教師の松浦先生。
先生は若くて美人でみんなに好かれてるけど、正直、ちょっと苦手だ。
「まぁ…えっと、いちおう…」
最近、「いちおう」っていうのが口癖になっていた。
前、僕の担当教師の河岸に注意されたところだけど、もう癖になって手遅れのようだ。
松浦先生は僕のエスキース(大まかな下書き)を見て、う〜ん…と考え込んでしまった。
「…どうですか?」
そう言った僕の顔をちらっと見た松浦先生は、こう言った。
「なんか……絵画っていうか、ポスターよねぇ…」
え。
僕は固まった。
「なんて言うか、こう、直接的過ぎるっていうか…そうだな〜。なんか、自己満足じゃあだめっていうか…難しいなぁ……?なんて言えばいいんだろう……?」
何となく、先生が言いたいことがわかった。
(押し付けがましい、ってことですよね。)
「あの…先生の言いたいこと、ちょっとわかる気がします。」
あまり、濁されるのは好きじゃないから、先に僕は話を切り上げる。
きっと、この絵が余りにも激し過ぎるのは、ここの先生たちへの反抗心で、それを先生は察したからもあるのだろうが、何となく、このコースの絵には独特な派閥感があり、僕はそれを“河岸派閥”と呼ぶことにした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。美術に限らず、何かを本格的にやるとなると、苦しいことの方が大きいと私は感じています。しかし、それ以上に好きだと思える時が一瞬でもあるから、やめられないのだと思います。私の経験は大変浅いものですが、今のこの感じを書いていけたら良いなと思っています。