盗賊討伐依頼
《黎明の苗》に入って1ヶ月がたった
パーティのメンバーはみんな良い人で依頼は滞りなく達成された。そして私のランクもEランクまで上がった
Cランクパーティは依頼料と剥ぎ取りなどで一回の依頼で150万ゼニーほど稼ぐ事が出来る。つまり依頼一本で一人頭30万ゼニー稼ぐことができるのだ、それを月に5回。なので一人の月収は約150万ゼニーほどになっているのだ、命懸けとあって中々の金額だと思う
そこに兵団でのバイト代を足し、宿代とかを引いたら大体手元に120万ゼニーが残った。ちなみに地下室付きの家は相場で1000万ゼニーほどする、目標はまだ遠いなぁ
普通ならここから武器防具の整備や新調、ケガの治療費、ポーションなどの消耗品の補充などで結構な額を削られるのだが私には殆どかからなかった
武器はなし、負傷しないから防具や消耗品の経費も最小限なので私は燃費が大変良いのだ
ランクによるレベルは
Gランク:子供の使いパシリ
Fランク:ゴブリンは狩れるかな?
Eランク:護衛依頼もできるかも?
Dランク:一端の冒険者
Cランク:できる子、指名依頼が来ることも
Bランク:貴族にもスカウトされる
Aランク:もはや権力者
みたいな感じだ
町の人とは顔見知り以上になり今では店に行くと少し割引きしてくれるほどだ、今はお金を貯めているので有難い事だ
そういえば最近ゴロツキが街の人気のないところで殺される事件が多発しているらしい、いつも行っている八百屋のおばさんに心配されてしまった。
『少し怖いですね…』
と言っておいたけど勿論心当たりがあるので全く怖くない、ゴメンねおばちゃん。
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今日の依頼は盗賊退治だ、東の街道を通る馬車が度々被害にあったため領主から依頼が出されたようだ、依頼料は中々にお高いがその分難しいということだろう
しかし私は久々の大量殺人の予感に胸のドキドキが抑えられない、楽しみだなぁ
私たちは襲撃が頻繁に起こるとされている地点を馬車と荷車を引きながら移動している
御者は私が引き受けた、接近戦ができて尚且つ武器を持たないからだ、この馬車は一見するとただの商人の馬車にしか見えないだろう
調査によると盗賊団の規模は30人前後のようだ、そしておそらく戦力を襲撃班とアジトの防衛で半分にしている筈だ、全員で襲ってくるようなバカだったら討伐依頼が出される前に倒されているだろうしね
馬車に揺られながら戦い方を考えるていると前方の草陰から濃い害意の視線を感じ取った、気配を殺せていない所を見るとそこまで強くもないようだ
街道に盗賊数人が弓を構えて躍り出てくる、隠れているの含めて15人か…
『ふひひっ、嬢ちゃんこっちに来な!おっと!馬車の中の連中は動くんじゃねえぞ?怪しい動きをしたらこの嬢ちゃんを射殺すからな!』
『この嬢ちゃんえらく美人だな、売っぱらう前に俺らで味見しようぜ!』
『いいねぇ!美人を泣かせながら犯すのが俺は大好きなんだよっ!』
私は恐怖で震えながら盗賊の方に歩み寄る、勿論演技だが全力で無力な小娘を演じる
『あ、あの!私はどうなっても良いですから馬車の中の人の命だけはお助け下さい…』
少し涙を含ませながら震える声で私は言った、我ながら迫真の演技だ、今度劇団で働こうかな?
『へへっ、それは嬢ちゃんの頑張り次第かな?』
そう言いながらこちらに手を伸ばしてくる、利き腕を渡すとは少し油断しすぎだね
私は逆に腕を引き、躓かせてから結晶化した手で相手の喉を抉り取る、そして隣の男の首筋を手刀で斬りつけ動脈を断ち切った、うん気持ち良いね!
『はあっ!?』
突然の私の攻撃に驚き、そしてその悲鳴を合図に馬車から皆が飛び出てくる
『ファイヤーボール!』
リザが魔法を撃ちそれと同時にフランクさんが盗賊に突撃する、ケイトさんもエミィも的確なポジションに移動した、良い連携だ。
『畜生!何だって言うんだ!!』
盗賊は軽い恐慌状態に陥り連携が全く取れていない、孤立した盗賊から確実に各個撃破していく、数が武器なのにバラバラになるのはダメでしょう?
『ヒッ…ヒイッ‼︎』
仲間が次々と倒れていく様を見て恐怖したのか一人の盗賊が逃げ出した、しかしその背中に《結晶針》を投げて逃亡を阻止する、動きが遅すぎるね
皆の方を見ると着実に盗賊を撃破していっている、敵の全滅も時間の問題だろう
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皆も大きな傷なく無事に終わった
周辺の安全確認をしながら今後の事について話し合う
『お疲れ様!いい演技だったわよ、あれは騙されちゃうわね』
『ふふふ!私は演技派なのです!でも素手だったから油断したんだろうね』
『…アリゼちゃんには下手な事が出来ないな』
ケイトさんがそんな事を言うが私はそんなに喧嘩早くないとだけ言っておこう
『だが大丈夫か?その…初めてだったんだろ?』
『え?何がですか?』
『…人を殺した事』
『あっ…はい、でも割り切りました』
完全に忘れていた…ボロが出ないように気をつけなければ。私は唯の農家の娘のアリゼなのだ。
『じゃあ尋問…しなきゃね?』
リザさんがそういうと場の空気が落ち込む、もしかして拷問とかはやりたくないのかな?
私がやるのは無理があるからねぇ…仕方ない今回は助け船を出しますか。
『アジトは西に14kmほど行ったところの鍾乳洞らしいです?』
『…へ?なんで分かったの?』
『あそこで死にかけていた盗賊さんが最後の償いといって教えてくれました』
嘘ですけどね、でも間違いないと思う
ここらで拠点にできる所は崖下の洞窟、打ち捨てられた小屋、そして最後は鍾乳洞の洞窟しかない
そして盗賊の防具や体に付着している白い粉はおそらく石灰だろう、あの鍾乳洞はぬかるんでいるからあまり良い住み心地じゃないんだけどね
『最後くらいは…か。成仏してくれると良いな』
フランクさんがそう言いながら生き残りを一撃で絶命させる、苦しまないようにしているのだろう、エミィも手を組みお祈りをしていた本当に優しいパーティだなぁ
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草木をかき分け鍾乳洞の洞窟を確認できる位置に移動した、見張りを二人確認する
『で、どうするよリザちゃん?』
『夜襲…は襲撃班が帰ってこない事に警戒するから難しいわね。あとリザちゃん言うな!』
『見張りを倒したいがあんまり近づいたらバレるかもな…』
煮詰まっているようだ、よし私も案を出そうかな?
『私が先に潜入して皆の突入と共に内部を荒らすというのはどうかな?』
『それは難しいんじゃないの?見張りの練度も低くはなさそうよ?』
『違う違う、盗賊見習いとして入るのよ。最近は農民崩れの盗賊も多いし珍しい事じゃないのよ?最悪捕まっても私なら殺されないわ』
『む〜アリゼに頼ってばっかね私達』
『適材適所ってことよ、任せときなさい!』
よし押し切った、これでやりたい事ができる
『もう…本当に気をつけてくださいよ?何かされそうになったら大声をだしてくださいね?』
エミィがかなり心配そうな顔でこちらを覗きこんでくる、可愛いなぁ!
頬っぺたをムニムニすると少し怒ったような仕草を見せるがそれすらも可愛らしい、天使か!
『ふふ、私は演技が得意みたいですし大丈夫です。二時間経ったら突入して下さい。ほら!フランクさんもケイトさんもそんなに心配しないで!』
背中をパンっと叩いてやると気を取り直したようだ、男なんだからシャキッとしてもらわないとね。
皮防具を外し簡単な外套を羽織る
『じゃあ行ってきます!』