バイト
今日は兵団で働く日だ、詰め所に入り皆さんに挨拶をする。朝の挨拶は大事な事だしね
『おはようございまーす!』
『『おはようアリゼちゃーん!!』
ふふ、元気があって良い挨拶だ。こういう所から組織の質が読み取れるから普段からの心掛けが大切だね
そして今日の雑務担当の兵隊さんにも挨拶をする、兵団の雑務は持ち回りらしいのだ。
『おはようございます、今日から週に数回ほど働かせてもらうアリゼと言います。よろしくお願いします!』
『はい、よろしく。掃除以外にも訓練中の兵士のサポートとか料理の仕込みもやってもらうつもりだし覚悟してね、大変だよ〜』
副団長のドミニクさんが仕事の説明をしてくれる
確かに骨が折れそうですがやり甲斐があるってもんですね!
『あと時間があれば隊員とも積極的に話してくれると嬉しいかな?なんせ全く女っ気がないもので、みんな今日を楽しみにしてるんすよ』
ドミニクさんが恥ずかしそうに言ってくる、成る程…士気向上も仕事のうちですか、士気は大事だしね。
『わかりました、精一杯頑張ります!』
『よろしくな、それではまず部屋の掃除から始めようか』
ドミニクさんの言葉と共に全員が各自に割り振られた場所に動き始めた、よーし頑張りますか!
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兵隊さんの寝室は毎日掃除されてるおかげか中々綺麗なものだった、細かいゴミやホコリを取りながら手際よく各部屋を丁寧に掃除をしていくと、対応に困るものを発見してしまった
…エロ本だ
うんまあ、女っ気がないっていうくらいだから気持ちはわかるよ?ベッドの裏に貼り付けてたしバレないと思っていたのかなー?隠すなら屋根裏とか絶対バレない場所にして頂きたい。
他の雑務担当の方に対応を聞く…のは酷かな
うん、この本の事は私の胸の中にしまっておこう。いやでも一応良くない事だと思うし…よし!
必殺"エロ本机の上置きの刑"を執行しよう
これで反省するだろう、しっかり悶え苦しんで欲しい
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私が担当の部屋の掃除を終える頃には他の雑務担当の方々は昼御飯の仕込みを始めていた、流石に手馴れてるせいかみんな早いなぁ
『遅れてすみません!』
『いやいや、初めてなのに早いくらいだよ。じゃあ今日の昼はシチューを作るから早速で悪いけど玉ねぎを剥いてくれるかな?』
ふふふ、大量の食材を調理するのは盗賊稼業をしている時に嫌というほどやりましたよ!経験を活かし素早く作業をしていく、ふんふん♪
『おおっ?すごく速いね、何かやってたの?』
感心したように隣の隊員が聞いてきた、正直に答えるわけにもいかないので適当に誤魔化しておく
『普段から母の手伝いをしたりしてました、あと村の祭りの時は沢山の食材を扱いますからね』
もちろん嘘ですけどね、何の祭をやってたかも知らないし。また念の為調べておこうかな?
『へー偉いねぇ、何にしろ戦力になりそうで嬉しいよ。それじゃあパパッと終わらせましょうか!』
もうこれからは褒められたら全部ルソン村の両親のおかげにしておこう、ある程度はそれでイケるはずだ。
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そのまま上機嫌で作業を続けているとドミニクさんが話しかけてきた、何だろう?
『作業もひと段落ついたしアリゼちゃんには訓練中の隊員に水と果物の差し入れをして貰っていいかな?もう彼奴らはアリゼちゃんが来るのを今か今かと待ち侘びてるはずだから』
『了解です!』
『その後は訓練場の観覧席で見学しながら手でも振ってもらえると嬉しいな』
それで良いのかと聞くと、午後は夜ご飯の仕込みまでは比較的スケジュールに余裕があるらしい。そしてそれも大事な仕事だと返された。
そうと決まれば早速と果物をアイテム袋に入れ、井戸水を取りに厨房を後にした
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井戸水もアイテム袋に回収し終わり訓練場に入った、訓練場といっても土をならしただけの所で頭上には太陽が元気に照っている、おお!みんな元気にやってるねぇ、中々の気迫を感じる。
汗だらけの隊員達がこちらに気づき、そのまま数人の隊員が何故かぶっ倒れた、事故か何かかな?
『ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?』
駆け寄り意識の有無を確認する、意識は混濁しているが命に別状はなさそうだ。
『へへっ…ちょっと本気を出しすぎたようです…でも貴方の腕で死ねるなら…本望…』ガクッ
私が近くに駆け寄ると安心したように隊員が意識を飛ばす、一体なんだったんだ?
『すんませーん、バカが迷惑を掛けましたー』
数人の隊員が気絶した隊員の手足を掴み医務室に運んでいった、扱いが雑すぎる気がしないでもない
『彼奴らはアリゼちゃんが来るって聞いて張り切りすぎたんだよ…気にしないでくれ』
成る程、良いとこ見せたかったんだろうね、倒れるほど気合を入れられるのは正直凄いと思うけど
気を取り直し差し入れをする
『みなさーん、水と果物の差し入れを持ってきたので少し休憩しましょうか』
アイテム袋から差し入れを出して兵隊さんに渡していく、結構量があるから中々に忙しいな
『うまいなこの水売れるぜ!』
『ただの井戸水ですよー』
『このリンゴも糖度が間違いなく上がってるな!』
『良かったですねー』
そんなに女の子に持ってきて貰うのが嬉しいのかな?私も節穴ではないので、自分の見た目くらいわかってるけどそれにしても喜びすぎな気が…
『いやー美人がいるって最高だな!!』
『『全くだ!!』
何はともあれ兵隊さんとのコミュニケーションをとっていく、どの人も楽しそうに話してくれて一安心だ
そして前々から聞きたかったことを聞いた
『この国で一番強い人って誰なんでしょうか?』
『…やっぱり騎士団長様じゃないかな?あの若さであの実力とあの顔!そして稀有な雷魔法の使い手!いやー天才って居るところにはいるんだねー』
なるほど…知性と強い精神力を持つ者に表れるという雷魔法の使い手ね…なら次の長期目標は騎士団長にしようかな。楽しみだなぁ!
『…まさか惚れたのか!?』
"ほにゃ"っと顔を崩した私を見て隊員が絶望的な表情を顔に浮かべ聞いてきた、まだ会ってもないから安心して下さい!
『そんな訳ないですよ、ただ私は強い人が好きなだけです』
その言葉を言った瞬間に場の空気が変わる
『おいお前!俺の鬼爪神剣流の奥義を見せてやるよ…』
『は?お前は便所のラバーカップでも振ってな?俺今から日課の丸太素振りしなきゃなんねーから』
『お?喧嘩売ってんの?お前が俺に勝てないのは確定的に明らかなんだよ…!』
そうした不毛な言い合いが各地で勃発する
…あちゃー今度いい感じの女の子でも紹介しようかな?
途方に暮れている私にアイクさんが話しかけてきた
『ホントにバカばっかりですまない…後は聞いてると思うが暫く見学をしといてくれ、今からバトルロワイアルでも始めるから』
促されるまま私は避難するように訓練場から離れ、観覧席に座り見学に徹する事にした
訓練場の幾つもの場所で試合が始まり真剣の勝負のような気迫が放たれる、怪我しない事を祈ります…
気持ちの良い風が頬を撫でた、騎士団長か…また色々考えなくちゃね。勝利した兵士に手を振りながら今後の事を考える、やる事は山積みだ
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その日、一人の兵士が一冊の本を抱え逃走した事件があったそうだが程なくして確保されたようだ
脱走兵は本を"聖典"と呼び本の保護を求めたが素気無く却下され焼却処分されたらしい
更にこの日を境に兵団の練度は大きく上がり合同の演習では他兵団を圧倒したそうな