これから
まだ朝の太陽すら昇りきっていない時刻にアリゼは起きる
ストレッチをしてから暗闇の中ランニングをする
習慣なのだ初めて武道を習ったあの日から家の庭を走り、盗賊であった時も森を駆け抜けてずっと続けていた習慣、2時間ほどのランニングを終え宿に戻るとようやく太陽が顔を覗かせる
そのまま庭で型稽古を始める
何万回と繰り返した型を今日も繰り返す、この一手は相手を殺す一手になり得るかを考えながら繰り返す、違和感を感じた型には自分流のアレンジを加えた事もあった、ただひたすら殺す為に
それがひと段落つけば次は身体強化魔法の訓練をする、身体強化の方法は属性ごとに違う
《火魔法》や《水魔法》なら魔法を爆発させることによって加速する、《風魔法》や《土魔法》は風や土に押してもらうことによって加速する
しかし《結晶魔法》は特殊な方法で身体強化をする、身体の中つまり内臓を結晶化するのだ、そうすることにより身体能力を向上する事ができる、。聞いた話によると《雷魔法》も筋組織に働きかけることによって身体強化するという
身体の中の内臓を意識しながら身体強化を施す、身体の中については一家言ある、だってかなりの数の人間の中身を覗いてきたからね、伊達に殺人癖を持ってはいないのだ
一通りの稽古を終わらせた頃には太陽が大きく輝いていた、部屋に戻り水浴びをする、スッキリしたあと階段を下り朝ごはんを食べに行くと女将に話しかけられた
『アンタいつもあんな早くから訓練してるのかい?私が朝の仕込みを始める時間より早く訓練する子なんて初めてだよ、多めによそっとくからしっかり食べなよ?』
『ありがとうございます〜嬉しいです!』
うんうん、やっぱり早起きはするもんだね
今日も楽しい日になりそうだ
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冒険者の軽装に着替え、朝の依頼を見にギルドに向かうと女の子に話しかけられた
『ちょっといいですか!』
『はい、なんですか?』
後ろの数人もこっちを見ているが特に話しかけられる覚えがないはず…?
『あの!朝の稽古をみたんですが、かなりお強いですよね!それで今シーフ職を探していて…よければ私たちのパーティに入りませんか!?』
あー誰か見てると思ったらこの子が見てたのね、害意は感じなかったからスルーしたけど。しかし装備と振る舞いを見るに…このパーティのレベルは決して低くはないはず、これは薬草採取を回避するチャンスかもしれない!
『わかりました、ならそっちの人達とも挨拶していいかな?』
『では!?』
『はい、臨時という形でよかったらお願いします』
私がにっこり微笑んだのを見て安心したのか目の前の女の子が『はふぅ…』といって赤くなった、可愛いし撫で回したい。
『では改めまして…私達はCランクの《黎明の苗》です。ではメンバーの紹介をします』
そういうと大柄な重装備の男が前に出た、いい筋肉だ触らせてくれないだろうか?
『俺はフランクだ、チームの盾役をやっている。土魔法が得意だ、よろしくな!』
次に気弱そうな女の子が前に出る、庇護欲をそそる見た目をしている
『私はエミィです、ヒーラーをやっています。小さな傷でも言ってくださいね!』
弓を持った細身の男が出てくる、こいつはチャラいな間違いない
『俺はケイトだぜ、弓師をやってるんだ。風魔法が得意だ!よろしくな可愛い子ちゃん!』
瞬間、隣の勧誘してきた女の子にど突かれる、いい肘が入った。
エミィがチャラ男を慌てて治療しているのを見ながら話しを聞く、いい子だねぇ
『バカがゴメンねぇ、私はリーダーのリザよ!魔術師をやっているわ火魔法が得意よ!』
なるほどバランスの良いパーティね、メンバーの仲も良好そうだ。
『では私も、シーフのアリゼです。結晶魔法が得意です、得物はなくて素手で戦います』
『おお!?本当に結晶魔法なのか珍しいな!』
『というか素手なんですか!?』
フランクとエミィが物珍しそうに見てくる
『格闘家の父に習いましてね、身軽さは中々のものですよ』
うん、中々善良そうな人達だ。騙して悪いが…何てこともなさそうだ
『なら依頼は明後日からということでよいかな?』
『はい、これからよろしくね!』
薬草集めからやろうと思っていたが大幅な短縮ができて良かった
それに明日は兵団で働くから丁度良いしね
周りがザワつき
『俺も誘えばよかったぜ』
『そんなに強かったのかよ…』
などの声が聞こえた、残念だけどタイミングが悪い人は嫌いなのよ
やっぱり早起きはするもんだねぇ…
そんな事を思いながら結局仕事をせずギルドを後にする
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ターゲットを探す為に道行く人を物色する
一般人はあまり殺しがいがない、だって彼らすぐ壊れるし淡白だもの
逆に悪党は活きが良いから好き、虐めがいがあるからね、にしてもサディストで殺人癖持ちって本当に私は救いがないわね。あと匂いフェチも
まあもう一つ異常性癖があるんだけど、それはまた今度
しばらく通りを見ていると昨日の筋肉が話しかけてきた
『おいっ!昨日はよくもっ…!?』
うるさい口を人差し指で塞ぎ準備していた紙を握らせる
『待ってたわ、私は貴方の匂いが好きなの、メモに時間と場所書いたから来てね。誰にも言ったらダメよ?』
そういうとまたも面食らったようだが直ぐに持ち直し
『へへっ、わかってんじゃねぇか。取り分が減るから言わねぇよ、じゃあ夜にな!』
と笑顔で言い踵を返していった。うん、バカで良かった
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夜、待ち合わせの時間と場所に筋肉が現れる
『こんな場所でヤルのか?お前も物好きだな』
ここは路地裏の奥の奥だ、浮浪者ですら近寄らない。汚く暗いから好き好んで近づく人などいやしないんだろうね
『ふふっ、ここじゃなきゃダメなんですよ』
そう言いながら筋肉を壁に押し付け胸板に顔を擦り付ける。ああ、男臭くて仄かな汗の香りが素敵!私は人の体臭が大好きなの
『へっ、早くヤろうぜ』
そう言いながら私を抱きしめてくる、幸せだ…よし、ヤルか!
毒魔法の《身縛手》を発動させ筋肉の口に指を突っ込む、直ぐに神経毒が粘膜を介して流れこみ筋肉が倒れこんだ。毒の扱いにも慣れたもんだしこれで殺すようなことはない
『ダメだよーちゃんと立ってくれないとヤリにくいよ』
無理矢理立たせて結晶魔法の《結晶針》を使い壁に縫い付ける、勿論声を出せない筋肉は恐怖と痛みの混じった目で許しを乞う、でもダメだよ?
《結晶針》をグリグリしながら《酸融手》で体をなぞり溶かしていく、筋肉は意識を落とすが気にせず続けると魚が跳ねるように意識を取り戻し再び苦痛に身を捩った、ああ…気持ちいいなぁ!
『そろそろ、潮時かな。中々楽しかったよ!ありがとう』
満足した私は満面の笑みを浮かべ止めをさす、そして紙を回収してから《影歩》を使い、影から影に渡り宿屋に戻って水浴びをする
『やっぱり家を早く買わなきゃなー』
悲鳴すら聞けないとは少しアッサリし過ぎててダメだね。人は死にかけている時が一番生きているから沢山虐めなきゃ、そしてその命を摘み取るときの快感といったら他にない!
少し喉の乾いた私は近くの喫茶店に入り紅茶を飲み、新聞を読んだ
うん、今日も良い一日だった。早起きしただけで良いことが3回も起こるなんてね
これは東洋の島国の書物【古事記伝】に書かれし【Hayaokiha_syannmon_no_toku】という奴に違いない
明日も早起きしようと思いながら私は外の景色をボンヤリと眺めた。
使った魔法の解説
《身縛手》神経毒を手から分泌する技
《酸融手》強酸を手から分泌する技
《結晶針》結晶のダーツを射出する技
《影歩》影に潜る事ができる、周囲の影にジャンプ可能だが影が消えると弾き出される