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潜伏

…よし、上手く兵団に潜り込んだ

後は機会を見て市民カードを紛失したことを言っておこう、これがないと話にならない


これで兵団長は私の事を哀れな村娘だと思ったはず。まあ村を襲って燃やしたのは私達で、格闘家を殺したのも私だけどね。完全にマッチポンプである


因みにアリゼという村娘の名前は格闘家が最期ににうわ言の様に呟いていたから知っていた、何度も妻と娘の名前を言いながら謝ってたなぁ。

心が痛まないわけでも無いけど感傷に浸るには人を殺しすぎた、それに私が悲しむのは筋違いだろう。


こんな私はきっと碌な死に方をしないだろうな、でも最期に惨たらしく骸を晒す事になっても、良い人生だったって胸を張って言えるように生きよう。


その為にまずはここを乗り越えよう、ちゃんと村娘のアリゼを演じなければ。よし!

今日から私の名前はアリゼ。唯の村娘のアリゼだ!


________________________________________

side兵団長


アリゼさんを護送してから兵団の雰囲気がもうフワッフワだ…遠征中の兵団にあるまじき雰囲気である…


確かに可愛らしい…いや可愛すぎる女の子だが大の男がデレデレするなど情けない話だ。俺たちは町を守る兵士だ、しっかりせねば!


『ドミニク…お前は副兵団長だろ!前を見ろ!』

『え〜っ…だってもうメッチャ可愛いよ?あんな子が村にいたなんて信じられないくらいだよ!』

『わかったからしっかりとしろ…野犬にケツを噛まれても知らんぞ』

『へへっ…了解でーす!』


駄目だこりゃ、使い物にならん

俺だけでも周りを警戒しなければ


周りを警戒していると隊員とアリゼちゃんの会話が聞こえてくる


『アリゼちゃんは結晶魔法が使えるのかぁ…天使だねぇ』

『フフッ、ありがとうございます。あっ、良かったら暫く兵団で働かせて頂けませんか?私実は料理と掃除が結構得意なんです!』

『えっ!?マジで!よし雇うよ!!』


ちょっと待てやクソボケ共が


『てめーは何勝手に決めてんだ!』

『だっ…だって隊長、身寄りも無いのに助けて後は放っとくのは可哀想だと思います!』

『気持ちはわかるが外部の人間をホイホイ入れてどうする!』

『でもアリゼちゃんは結晶魔法持ちで信用できますし、武道をやっているんなら体力もあるはずですよ!』


ぐぬぬっ…確かにそうだ

意外に悪くない話なのか?いや信用のおける人材を確保できるチャンスかもしれない、こいつらの士気もあがるだろうし…

『…多分キツイと思いますがアリゼさんが良いのなら週に数回ほどやってみますか?』

『本当ですか!!是非お願いします!』


そういうと凄く嬉しそうな顔をしながらこっちを見てくる

うっ、その顔をされると頰が緩みそうになるからやめて貰いたい…!


『あと、市民カードを無くしちゃったんですが再発行の時に口添えしてもらえませんか?普通にやったら凄く時間がかかるそうなので…』

『なるほど、非常時だったから仕方ないな、街についたら言っておこう』

『ありがとうございます!』


うん、可愛いな

…いや俺まで注意散漫になってどうするんだよ


少し自己嫌悪しながら再び周囲の警戒をする、もう少しで街だ


________________________________________


よし、無事に街に着いたね

約束も取り付けたし当面の働き口も確保した、兵団で働くというのはコネを作る意味もあるから中々良い考えだっただろう


市民カードの再発行は普通にやるとバレる可能性があったし良い機転だったかな?当面の目標は家を買うことにしよう、地下室付きの家じゃないと色々できないから結構大変だなぁ


お金自体はアイテム袋に唸るほど入ってるけど唯の村娘の私がいきなり屋敷を買ったら確実に目を付けられるからダメだしね


そんな事を考えていると詰め所に辿り着き

中で市民カードの再発行の為の手続きが始まった


『はい、お疲れ様です。では早速ですが再発行の為の手続きに入らせて頂きます』

そういうと私の目の前に水の入った皿を置く


これは《審議水》という嘘を吐くと水が濁るマジックアイテムだ、水面に私の顔が映り揺らいだ


『貴方は犯罪行為をした事がありますか?』


…が正確には対象者の心の動揺に反応して水が濁る仕組みなので私には意味がない。穴だらけのシステムに感謝しよう。


『もちろんありません』


私はこんな事では決して動揺しない、こんな事で心を揺るがすようでは武人失格だね


『おお、全く濁らないですね。人は何かしら負い目がある物なので多少は濁るものなのですが…結晶魔法に適正があるという話は本当のようですね』

『…はい再発行が終了しました、理解してると思いますが紛失すると大変面倒くさい事になるので気をつけて下さい。今回は非常時なので特別ですよ?』


『はい、ありがとうございます』

『ではようこそアーカムへ、良き毎日が送れる事を願っています』


こうして私はアーカムに入る事に成功した


^^^^^^^^^^^^^^^^^^


3年ぶりの街の空気は良いものだった、堂々と道の真ん中を歩けるというのも気持ちが良い。この三年間ほとんど森の住人だったからね、お日様が眩しいよ。

盗賊稼業は儲かるし人も殺せるから中々良いものだったけど、寝床と風呂だけは不満だった、でもここは町だ安心して眠ることができる。


そもそも私が川で水浴びすると覗きにくるような環境では落ち着くこともできない、そいつを殺すとまた汚れるし大変なのよね


『とっても美味しいスライムコアのソテーだよー!そこのお嬢ちゃんどうだい!?』

通りには屋台が沢山並んでおり客を捕まえるために店主が声を張っていた


『スライムコアですかぁ、一本貰えます?』

『あいよ!お嬢ちゃん可愛いから安くするよ!140ゼニーだよ!』


お金を渡し食べるとコレが中々美味しい

コリコリとしていて塩味が効いているスライムコアは店でだせるレベルだった


しかもこれは…

『これ藻塩使ってますよね?』

『おっ!?お嬢ちゃん分かるか!それ入れると味がまろやかになるんだよ』


藻塩とは珍しい物を、何としても確保せねば…

『藻塩を少し売って貰ってよいでしょうか?』

『お嬢ちゃんも料理するのかい?彼氏は幸せ者だなっ!少しなら良いぞ』


おっちゃんはそう言い棚から藻塩を取り出し分けてくれた、食を豊かにする事は大切な事だ。私は食費に糸目をつけないほうなのだ。


『ありがとうございます!』

『おう!また来てくれよな!』


この藻塩は南の紅海で作った藻塩だから紅い色をしているらしい、ピンクサファイア色の美しい海で人気の観光スポットだと楽しそうに話していた

思わぬ出会いに気分を良くしながら、私は軽い足取りでギルドへゆっくり歩いていった


余談だがその日は楽しげな女性に見惚れて通りは衝突事故が多発したという報告が兵団に上がったそうな


^^^^^^^^^^^^


初めてギルドに入るなり視線が一斉に此方を向いてくるが今更そんな事にビビるような私ではない、伊達に盗賊生活を営んでいたわけではないのだ。

様々な視線を無視してサッサと受付に行き登録手続きをする


『登録の手続きをお願いします』

『はっ、はい!それでは此方に名前と職業と適正属性を書いてもらえますか?それと市民カードの提出をお願いします』


サラサラと書いていく、シーフと拳闘士で迷ったがシーフにしておいた

あまり女の拳闘士なんていないしね、短刀でも腰に差しとこうかしら


『はい!ありがとうございます!!』

『…って、ええっ!?《結晶魔法》に適正があるんですか!?』


キラキラした目でこっちを見た後に顔色がサッと青くなる

『すっ、すいません!個人情報なのに!』

成る程、確かにあまり良くないかもしれない。けど私は隠してないし《結晶魔法》持ちというだけで信用されやすいから隠すメリットもない


『問題ないですよ〜隠してないですし。で、記入事項に問題はないですか?』

『ありがとうございます〜!記入事項に問題はないです、ではギルドカードをどうぞ』


えらく表情がコロコロ変わる人で見ていて楽しい、ギルドカードにはGランクと書いてある、地道に薬草取りからはじめるかな?


『紛失した場合は再発行に3万ゼニーがかかるのでお気をつけください、また昇格基準に達した際には此方から声をかけさせて頂きますのでよろしくお願いします。』


通常は依頼達成の有無を査定基準としているらしいが、街の役に立つ事や実績を残した場合でも昇格する事があるらしい


『申し遅れました、私はリリィと申します。それではアリゼさんのご健闘をお祈りします』


そう言うリリィさんは抱きしめたくなるような可愛さを出していて、思わず手を伸ばし頭を撫でたい衝動を抑えてその場を後にした


^^^^^^


後にしたかったのだが屈強な筋肉に絡まれる、視線的にまず間違いなく私の体目当てだろうが此処で騒ぎを起こすのは賢くない

先手を打つために美しい所作で挨拶をする


『こんにちはおじ様、私はアリゼと申します。若輩者ですがご指導ご鞭撻のほどをお願い致します。』

よし完璧だ、此方をじっと見ている人達にもサッと頭を下げる。

この非の打ち所がない突然の挨拶には流石の筋肉にも動揺が走る


『そ、そうじゃねぇよ!いいか、俺が言いたいのはっ…!』

『あっ!すいません、今夜の宿をそろそろ探さなければいけないので失礼します』


畳み掛けるように言葉を重ねもう一度礼をするとギルドを素早く出た

後にはナンパに失敗したマヌケな筋肉が残った


^^^^^^


全くあの筋肉は命拾いしたわね、外であんな事したら…フフフっ


密かな楽しみが一つ増えたところで受付嬢がオススメしてくれた女性でも安心して泊まれる宿である《小鳥の止まり木亭》に到着した


手早くチェックインを済ませてベットに飛び込みこれからの事を考える

…地下室付きの家を買うことと、次のターゲットを決める事が当面の目標かなぁ


そう考えながら目を閉じると数年ぶりのフカフカベットのお陰かすぐに睡魔が襲ってきた


あ〜夜ご飯食べてないなぁ

などという他愛のないことを考えながらその日は意識を闇に落とした








1ゼニーは1円です。

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