呈剣祭
私とセリアは鉱物の森から帰ってきて数日の間はお金の精算と装備の発注に追われて中々に忙しかった、お金が大量に入ってきたのはいいけどゆっくりしたい…
『ふい〜疲れたのぉ?暫くは大人しくしたいのじゃ』
『だねぇ…でもお金は沢山手に入ったしこれだけ有ればやりたい事ができるわ』
さっきようやく一段落つきセリアと二人でゆっくりしていると家のドアがノックされる音が聞こえてきた。思わずイラっときたけど我慢だ、でも本当にゆっくりさせて欲しい
『はいはーい?どちら様ですか〜?』
『『こんにちはアリゼ様!どうか俺の剣を受け取ってください!』』
ドアの前には長剣を装備した若い男達が数人立っていた、一瞬強盗かと思ったけどどうやら違うようだ、なんかプルプルしてるけど大丈夫だろうか?
『ご主人〜?誰がきたのじゃ?ってそうじゃ今日は呈剣祭じゃったのぉ、すっかり忘れていたのじゃ』
『呈剣祭?それって…ああ、そんなのもあったわね』
呈剣祭、その言葉を聞きようやく状況を飲み込んだ。そうなのだ、今日は一年に一度しかないお祭りの日なのだ。盗賊稼業が長すぎて完全に存在を忘れていた、興味もないしね
呈剣祭は好きな相手に長剣を贈り愛を誓う日とされている、男から贈り護らせて下さいと言うパターンと、女から贈り護って下さいと言うパターンが大半を占めている。でも稀に女から男に贈って護らせろと言う男前な女の人もいるらしい、イケメンだね
『えーっと…それで返事はどうなんでしょうか?』
私が呈剣祭について思い出していると痺れを切らしたのか男の人が話しかけてきた、けど正直どの人も線が細くて弱そうだから好みじゃないなぁ。悪いけど断ろうか、これが超強そうなマッチョのおじ様なら地下室に招待するんだけどねぇ
『ありがとうね?でも私は強い人が好きなの、貴方達の思いは受け取れないわ』
『…そう、ですか。いえ此方も駄目元だったので大丈夫です。』
男の人に困ったように笑いかけられた、少し可哀想だし長剣より格は落ちるけど短剣を義理や感謝の気持ちで贈るやり方もあるから短剣を贈ろうかな?
『貴方達の住所を教えてくれる?後日改めて短剣を贈らせてもらうわ、本当にゴメンね?』
『『本当ですか!一生の宝物にします!!』』
それで良いのかと思わないでもないけど本人達が満足そうだしいいや、帰る男達を見送りながらチラリと家のポストを見ると大量の長剣が詰め込まれていた、なんだこれは新手の嫌がらせか…?
『…セリア、今日は家に引きこもるわよ。家を出たら確実に面倒な事に巻き込まれるわ』
ポストの長剣とラブレターを回収しながらセリアに話しかける、ラブレターには甘ったるい言葉が所狭しと書き綴られている、勘弁してほしい。
しかしこの家を出なければ面倒事は格段に減るはず、短剣もそんなに持ってないしこれ以上は辞退したいところだ
『それは無理なのじゃ、だって今日が装備の引き渡しの日じゃろう?諦めるのじゃ』
『なんてこったい』
装備を受け取りに街を出たら確実に絡まれる、でも装備は早く受け取りたいし出ない訳にはいかない。これは仕方ない…か。
『…セリア、覚悟を決めるわよ?』
『何もそんな神妙な顔をせんでも…それにそんなに絡まれるとは限らんじゃろう?』
…確かにそうね、街の住人には人当たり良く接しているけど剣を贈られる程は好かれていないはず、少し自意識過剰だったかな?
『よし!出るわよ!』
『のじゃ!』
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『少し甘く見ていたわ…』
『のじゃ…』
これは酷い、人に囲まれて中々進めないのだ。でも本人達は真剣だし無碍にするわけにもいかない、一人一人の住所を聞きながら丁寧に対応するけど時間がかかってしかたがないなぁ…
『好きです!受け取って下さい!』
『ゴメンねぇ、私は強い人が…』
このやり取り何回目だろう?セリアも結構貰っていて大変そうだ、私はしまいには女の子からも貰ってしまった。可愛い子だったし嬉しいけど私はノーマルだ
『一目惚れだ!受け取って欲しい!』
『流石にそれは受け取れないです』
冒険者風の男には明らかに男の武器とみられる長剣を差し出された、商売道具を簡単にあげたらダメでしょう…そんな泣きそうな顔してもダメなものはダメです!
そうこうしていると一台の馬車が私達のすぐ側に止まり中から1人の高慢そうな太った青年がでてきた、そして開口一番に笑える事を言ってくる
『そこの女!中々に美人だな、妾にしてやるから一緒に来い』
周りの男共から殺気が膨れ上がる、気持ちは分かるけどこれは私の獲物だ。それに私はこういった面倒事なら大歓迎なのだ、ここは私に任せて欲しい
『すいません、全然好みじゃないので無理です』
『何だと!?この俺をオーグランド家の長男と知って言っているのか!』
『知らないです』
『平民の分際で身の程を弁えぬか!俺は子爵だぞ!この俺の妾になれる事の喜びを知らぬのか!』
『もっと知らないです』
私の明確な拒否に周りの人達の殺気は鳴りを潜め次に私を心配するような雰囲気が漂う
貴族に喧嘩を売ったのだ、皆も心配するし勿論唯では済まないだろう、しかしここでダメ押しだ
『本当に生理的に受け付けないのでお断りします!』
『貴様!貴族を愚弄したな!もういい、この女を捕まえろ!!』
貴族の護衛らしき人達が抜刀する、腕も中々悪くはなさそうだ。けど今は大通りだし相手にはしない、それに目標も達成できたしね
そう、こういった面倒事なら大歓迎なのだ。大衆の面前で恥をかかせたからこれからは何かと人を私に送るだろう、そしてその時は有難く返り討ちにして地下室で遊んであげようじゃないか
となると悠長に大通りを歩いてられないわね、セリアの腕を引きながら屋根に飛び乗りますか!
『セリア!行くわよ!』
『の、のじゃ!』
私達が屋根に飛び移ると数人の護衛が追いかけて屋根によじ登ってきた、普通ここまでやるかなぁ、その執念は認めるけど今は相手にしないわよ!
『セリア!走りなさい!』
『のじゃ!って屋根は走りにくいのじゃ!転けてしまうのじゃ!』
『気合いでどうにかしなさい!』
『ご主人速すぎなのじゃ!?』
セリアが慣れない屋根の上でモタついているが置いていく、貴方の犠牲は無駄にしないわ!私は護衛が餌に食いついている間にスイスイと走り抜け距離を引き離した。
『あかんあかんて!あっあっあっ!いや〜〜!!』
後ろを見るとセリアが転んだのか屋根から転げ落ちていた、まあ丈夫だし死にはしないだろうから頑張って逃げてもらいたい。そしてまたキャラが崩れているぞ?
セリアの冥福を祈りながら私は武具屋に向かった、屋根の下からは目を丸くした住人が私を見てきたが無視する。ちょっと恥ずかしいからコッチを見ないで欲しい…
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『というわけで装備を引き取りに来たわよ〜』
『お嬢ちゃんも大変だなぁ…しかし喧嘩を売るとは大丈夫なのか?』
『ふふ、大丈夫ですよ。しかし口が滑っちゃいましたね、やらかしました』
ピシャッと武具屋の扉を施錠し親父さんと話をする、護衛は撒いたけど他の男の人達が武具屋に押入ったら面倒だからね鍵はしっかり掛けないと
武具屋に入ろうとした時に男の人達が青い顔をしながら『誰に剣を贈るんだ!?』と聞いてきたけど贈る予定はありませんので安心してください、そしてもう本当に勘弁して下さい
『代金はもう貰ったからな、ほらこれが装備だ。いい仕事させてもらったぜ?』
親父さんは私にローブとプロテクターと皮防具、そして中装の黒い鎧と盾を渡してきた。
言わずもがな私とセリアの黒金シリーズの装備である、手には黒金の頼もしい手触りが広がった。
『お嬢ちゃんのプロテクターと皮防具も新調
したからな?皮防具の上からローブを羽織ってくれたら問題ない』
プロテクターなども上質な素材に変えられており満足のいく一品だ、うんうん中々良い感じだね。良い物はやっぱり違うなぁ
『にしても流石は結晶魔法使いだな、しかも美人とくればモテる規模が違うぜ』
『え、結晶魔法関係あるの?確かに信頼はされやすいかもしれないけど…』
『お嬢ちゃん、結晶魔法持ちってのはシャイボーイの星なんだよ。もしこの人が彼女になってくれたら絶対に自分を大切にしてくれる。皆がそう思うからこそ普段恋愛に積極的じゃない奴も腹を括って告白できるんだよ』
シャイボーイの星ってなんなのよ…せめてマッチョマンの星になりたかった、そしたら乱獲するのにね
『あとはこの街で嬢ちゃんに告白するのが一種のイベントみたいな感じになってるからハードルが低くなってるんだろうな』
『なにその記念受験みたいな扱い…』
私は当て物じゃないんだぞと小一時間問い詰めたい、面倒だからやらないけど。
『あ、あと短剣の大量注文をお願いしていいかな?』
『了解、あんたのおかげで今年は儲かるよ』
なんだかダシにされたようで嫌だが仕方ないだろう、もうサッサと家に帰ろう。セリアも怒りながら待っているだろうしね、しかし帰りも屋根からかな?目立つから嫌なんだよね…
私は来る刺客に期待を膨らませながら武具屋を後にした、帰りも頑張らないとね




