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始まり

私は背後で起こっている戦闘の怒号を聞きながら、木々の間を走り抜けている。

兵団も逃げ遅れた連中に食いついてるお陰か逃げる私の事には気づいていないようだ。

いくら私でもこの数の相手はしていられない


何故私が追われているのか?

答えは簡単、私が盗賊だからだ


今は崩壊したが私は盗賊団《夜鷹》に所属していた構成員だったのだ。


盗まなければ生きていけなかった…訳ではない

私は自分の意思でこの盗賊団に入団したのだ

そして走りながら今までの事をボンヤリと思い出した



________________________________________



私は元々、トルク王国のルインゼルク街の大商人の一人娘だった。


私の見た目はよく艶がある美しい真紅の毛、マリンブルーの宝石をはめ込んだような目、人形のように可愛らしい顔立ちと言われていたそうだ。


見た目が良かったお陰もあるのか両親には大層可愛がられ、何一つ不自由のない生活を送っていたのだ。私自身も要領がよかったお陰か、習い事やマナーなどの両親が求める事は全て卒なくこなして自分の物にしていた。


私は所謂、幸せな家庭という所で育ったのだろう

しかし、私は満たされない毎日を過ごしていた


そんな毎日を送っていた私はある日、母に連れられて街で買い物をしていた

沢山の物が溢れ、12の年頃の女の子なら目を輝かせて然るべき場所であっても私の心は動かなかった


そんな興味が無さげな私を見た母は、私の琴線に引っかかる品がないと思ったのだろうか店を変えようとし雑多な大通りまで私を引っ張っていった


今思えばアレは運命だったのかもしれない


突如、近くで悲鳴が上がった

周りの人の顔が青くなり、騒ぎの中心から距離を取ろうと後ずさる


子供心に興味が湧いた私は母の制止を振り切り、その原因を見に行ったのだ


そこには、剣を血で濡らした男がいた

状況を鑑みるにどうやら貴族の男が粗相をした奴隷を斬り殺したようだ、非常識ではあったが奴隷の扱いは主人に一任されているので法的には問題の無いことなのだ


すぐ母が駆け寄り私の目を隠してその惨状を私から隠した

そんな周りの恐慌した空気とは裏腹に、その時私の中には一つの思いが渦巻いていた


…圧倒的充足感だ

生まれて初めて感じる満足感に私はその場で呆然と立ち尽くしてしまったのだ

母に抱えられながらその場を後にする私は、その秘部を密かにしっとりと濡らしてしまっていた



あの体の芯が熱くなる感覚をもう一度味わいたいと私は初めて一生懸命に頭を動かし、一つの結論を導き出した

『そうだ、冒険者になろう!』


数日後、私は武道を習いたいと父に頼み込んだ。

父は最初『女の子がそんな事をするなんて良くないぞ』と渋っていたが

私が『あの恐ろしい光景が頭から離れないから私自身が強くなって簡単に負けないようにしたいの!』と目を潤ませながらお願いをすると父は大いに動揺し了承してくれた。


そもそも私がお願いをするなんて初めてのことなのだ、あの甘甘な両親が断るはずが無いと密かに私はほくそ笑んでいた


父の雇った教師は女性の格闘家と魔術師だった。

父は流石に剣を持たせたくなかったようだが、殺しの技術が学べるなら何でも良かった私は厳しい訓練にもめげず必死に教えを体得していった

そして《結晶魔法》に適正があったようで私は魔法の訓練も順調に進めていた


そんな生活が3年ほど続いたある日の晩

屋敷がにわかに騒がしくなった


ドタドタと騒がしい足音が鳴り響き、辺りから悲鳴と怒鳴り声があがった。

強盗だ、私はそう直感した。すでに屋敷には火の手が上がり赤い火の粉が蝶のようにそこら中に飛んでいた

突如寝室の扉が開け放たれ一人の盗賊が躍り出てくる


私は殆ど脊髄反射で手に結晶魔法を纏わせ、貫手で相手の喉を貫く。盗賊から激しく血飛沫が吹き出し私は返り血で赤く染まった

盗賊もまさかこんな小さな女の子に襲われるとは思っていなかったらしく、驚愕の表情を浮かべ死んでいった


これだ…

数年振りの充足感に私は打ち震えていると新手がやってくる、そして部屋の惨状をみて驚いた表情を浮かべ話しかけてきた


『これはお前がやったのか?』

『そうよ、殺したいから殺したの。貴方も私に殺されてくれないかな?』


そういうと男は面白そうな物を見つけたように目を細めてこう言いだした。

『待て待て、殺しが好きなら俺たちの団にはいらねぇか?』

『貴方の団に…?』

『俺たちの団に入ればお前のやりたいことが好きなだけできるぜ?』

『なるほど、それは面白そうね!』

『だろ?互いに利益のある話の筈だ…よしそうと決まれば俺に掴まれ、この街からズラかるぞ!』


燃え盛る屋敷を背に私は新天地を夢見て盗賊の男に身を任せた、それが私の盗賊になった日のお話


________________________________________



そんな思い出が3年前の話だ、私は今年18になった。周囲の安全を確認した私はこれからの事を考える。


《夜鷹》に入ってからも盗賊頭のラッツェに稽古をつけてもらい、今では圧倒まではいかないでも勝ち越せるようになってきた、更に新たな魔法の才能も開花した


《毒魔法》と《影魔法》だ

魔法の適正は本人の人格が大きく影響する


基本四属性の特徴として

《火魔法》は熱い性格の人

《水魔法》は冷静な性格の人

《風魔法》は知性的な人

《土魔法》は堅実な人

に適正があるとされている


私が持っている特殊属性である三つは

《毒魔法》は他者への激しい害意を持つ人

《影魔法》は暗い隠し事を持つ人

《結晶魔法》は純粋で自分に正直な人

に適正があるとされている


なので《毒魔法》と《影魔法》は良いイメージが持たれておらず、《毒魔法》に至っては使用できるとばれた時点でお縄についてしまう


逆に《結晶魔法》は持ってるだけでやたらと人に好かれる、小動物にも好かれるという割と凄い属性なのだ


《毒魔法》と《結晶魔法》

相反する属性に見えるが私はその二つを両立している、これは私の大きな武器だ


『…よし、街に入りましょう』

私の実力が有れば冒険者として身を立てる事も容易なはず、そうと決めた私は頭の中で問題点を洗い出す


私の顔を知っている《夜鷹》の幹部は兵団に捕まるヘマはしないでしょうし、仮に捕まったとしても彼らには見せてないけど《結晶魔法》持ちの私はそれだけで身の潔白を証明しやすい。問題にはならないはずだ


『と、すると他に問題は…あ!』

市民カードがないのだ、村の子供でさえ持っている市民カードがないというのは些か問題になる


『何か妙案がないかな…』


…よし、あの手でいこうかしら

そう決めた私はアイテム袋から農民の服を取り出し手早く着替えた、これで村娘の出来上がりだ。


________________________________________

side兵団長


今回の盗賊討伐遠征は難しい任務だった

隣の同僚のドミニクも疲弊した表情で歩いている


『あんだけ綿密に計画した襲撃なのに取りこぼしが出ちまったぜ…』

『敵が予想以上に強かったんだ、死者が出なくて良かったって話だよ』

『畜生め、あいつらは男臭すぎて鼻が曲がるぜ』


確かにそうだ、兵団でさえ女っ気がないっていうのに盗賊とデートするなんてゲイじゃないと喜ばないだろう


『は〜っ…何処かに可愛い子いないかねぇ』

『娼館で金毟られたばっかなのによく言うぜ…』

『俺はラブハンターなんだよ!ハンターが難しい狩りで怪我を負うのは名誉なものさ…』


そう思えるコイツは幸せなヤツだなと思っていると、前方に人が倒れているのを発見した、見たところ大きな外傷はないが大丈夫だろうか?


『おいっ!アンタ大丈夫か!』

ドミニクが走り出し俺も続く


抱き起こすと女の顔が見える

瞬間、俺とドミニクの顔が固まる


女の人の顔は人形のように可愛らしい人だったのだ、真紅の髪からフワッとした薔薇の香りが膨らむ、普段嗅いだ事のない女性らしい香りに何故か動揺してしまう


『どっ…どどどうされましたか!?』

ドミニクが驚きのあまり噛みまくっている、情けないが気持ちはわかる


女は意識を取り戻したのか気だるげに起き上がり答えた

『…私はルソン村のアリゼです、村が盗賊に襲われて命からがら逃げてきたのです』

そういうと安心したのかアリゼさんは泣き崩れた


『安心してください、私は兵団長のアイクです、もう大丈夫だ。他に逃げてきた人は?』

『グスッ…私は父から日頃から鍛えてもらっているので大丈夫だったのですが恐らく村の皆は…格闘家の父さんも盗賊にやられました』

『…辛い事を聞いたね、ほら水とパンがあるから少し食べなさい、アルドは小隊を編成して村の現状を確認してこい』

『了解です!』


なんという事だ、行商にしばらく来てないと思っていたがルソン村がやられていたのか…恐らく先の盗賊団《夜鷹》によるものだろう


『では街まで護送します、辛いかも知れませんが頑張りましょう』

『…はい!』

そういうと涙を拭いながら花が咲いたような笑顔を向けてきた、思わず頰が赤くなるのを隠しながら手を引いた


柔らかい女の子の手に鼓動が速くなる

『…っ!よーし、この子を守りながら早く街に帰るぞ!!』

『おうっ!!』

兵団の士気も上がったようだ、これは嬉しい誤算だ。

では気をつけて帰ろうか


________________________________________

後でドミニクが

『あの子…俺に惚れたな…!』

とかアホなことをいって袋叩きにあっていたが自業自得だろう


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