鉱物の森6
sideセリア
『とりゃあぁぁあ!!』
『Gyagaaaaaa!!』
ご主人が調教師を蹴り飛ばした辺りから魔物達は動きに精彩を欠くようになったのじゃ、迷ったような動きを見せるようになり魔物同士の同士討ちも沢山起こった。かなり戦闘し易くなり妾達は何とか敵の数を減らしている
ドラゴンも金属の魔物を襲い始め、妾達の戦いはどこ吹く風といった風に魔物に食らいついている。腹は立つけどこれはチャンスなのじゃ、今の内に他の魔物を片付けねば!
『エミィ!怪我人の回復より火力の増強を優先して!今が攻め時よ!』
『了解です!《アッドフォース》!』
エミィの支援が入り体中に力が漲る、妾はフランクが引きつけていた魔物を力任せに斬りつけた。激しい金属音が鳴り響き魔物が倒れ伏す、どうにか金属の体皮を貫通したようだ
猿型と熊型は同士討ちと妾達の攻撃により数える程の数に減ってきた、このまま押し切って万全の態勢でドラゴンを迎え討ちたいところじゃな。
しかしそんな事を考えていたせいか直ぐに新手が出現する、アレは蜘蛛型かの!?
『kisyaaaaaaa!!』
『ぐおっ!?』
《アイアンサイド》の一人が飛び出してきた金属蜘蛛に跳ね飛ばされる、調教師が制御していないから本能に任せて襲い掛かってきたのじゃろう。
金属蜘蛛の身の丈は3mはある、獲物を地面に縫い付ける為か8本の足の先端は鋭く尖っていて禍々しいオーラを出していた
『セリア!さっきの人をフォローして!』
『了解したのじゃ!』
跳ね飛んだ男にエミィの《ハイヒール》がかかり淡い緑に包まれる、エミィも怪我人の回復と支援の忙しさからか顔色がかなり悪い。
妾は蜘蛛と男の間に割り込み、止めをさそうと足を振り上げる蜘蛛の一撃を盾で防いだ。腕ごと持っていかれそうな衝撃に思わず顔を顰めるが直後に《暁の血潮》からの魔法が金属蜘蛛に殺到した。
『kisyuuuuuu!!』
『うぉぉおぉぉ!?』
ダメージはしっかりと入ったようじゃが金属蜘蛛はまだまだ動くようだ、しかも口から槍のような糸を撃ちだし後衛を狙いだした。的確な判断じゃがこの状況では洒落にならない!
『『どりゃあぁあぁぁ!!』』
それを妨害しようと前衛は蜘蛛に纏わりつき攻撃を仕掛けている、しかし《アイアンサイド》の主武器は長槍だ、細く硬い蜘蛛の足の芯を捉えきれず怯ませる事が出来ないようじゃ、ならば妾も!
『これでも食らうのじゃ!』
態勢を立て直した妾は蜘蛛の足に横斬りをお見舞いする、しかし浅く食い込むだけで両断には至らない。ならばもう一度と妾は全力の横斬りを再びお見舞いした、すると…
バキィイィィィン!!
と良い音が鳴り響き、妾の自慢の鉄剣が折れてしまったのじゃ!こんな事ならご主人の言う通りラテライト製の剣にしておくのじゃった!というか初めての依頼なのにこの難易度はあんまりなのじゃ!!ご主人の悪魔!鬼畜!人でなし!
妾は泣きたいのを我慢して周りの武器になりそうな物を探す、金属は沢山あるのじゃから何か在るはずじゃ!そうしていると探す妾の目に一本の金属の丸太が目に止まる。
…持てるかの?持てるはず?いや持つしかないのじゃ!
身体強化を最大限に施し丸太を持ち上げる、なぜか吸血鬼の妾が丸太を武器にする事に対して激しい違和感を抱いたがきっと気の所為じゃろう。
『ファイト…一発なのじゃあぁぁ!!』
気合い一閃、金属蜘蛛を叩き潰す。憐れ蜘蛛は短く悲鳴を残し銀色のスクラップとなった。どんなものじゃ!!
『ひゅー!流石は吸血鬼のパワーだな!頼りになるぜぇ!!』
『それ程でもないのじゃ』
仲間の称賛の声に思わず鼻が高くなる、強いのは当たり前なのじゃ、なんたって妾は吸血鬼なのじゃからな!!
『さて、最後じゃな…!』
食事を終えたらしいドラゴンが此方を睨みつける、オヤツでも見つけたような顔をしておるの?じゃがタダでは食われんのじゃ!!
ご主人の事も気になるが今は目の前のことじゃ、それにご主人はきっと大丈夫じゃろう。対人戦ならきっとご主人は負けない筈じゃ。
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『Guooooooooooo!!!!』
やはり凄まじい威圧感じゃの、肌がピリピリするような空気の振動を感じるのじゃ。額からは汗が流れ落ち地面を湿らせた、緊張のせいで汗が止まらないのじゃ
『囲め囲めぇ!!ブレスの予兆を感じたら直ぐに防御するんだぞ!』
《暁の血潮》のリーダーが指示を飛ばしながら魔法を撃っている、流石はBランクパーティのリーダーともなると場慣れしている。皆も指示を聞いて散開しドラゴンを取り囲むように展開した。
『くそっ!?コイツ馬鹿みたいに硬いぞ!』
『後衛は防御が薄い翼に弾幕を集中させろ!胴体は硬すぎて話にならねぇ!!』
こっちは丸太が重すぎて話にならない、新たな武器を探し右往左往するが全く見つからない。誰かから借りたいのじゃ!
『セリア!新しい剣よ受け取りなさい!!』
『わわっ!?分かったのじゃ!!』
ご主人がナイスなタイミングで武器を投げ寄越してくれる、どうやら向こうは終わったようじゃ、ならこちらもどうにかせねばの!
ドラゴンは魔法に蜂の巣にされ武器を叩きつけられているようだが殆ど応えていないようじゃ、出鱈目な硬さじゃのう、しかも暴れまくるから手が付けられないのじゃ!
『ぐあっ!?』
仲間が一人ドラゴンの尻尾で叩かれピンボールのように飛んでいってしまう、そして木の尖った部分に刺さってしまった。死にはしないだろうが戦線復帰は不可能じゃろう、即座に回復魔法と他の仲間のフォローが入る、しかしこれはマズイのじゃ!
今ので前線に穴が出来てしまいドラゴンはそこに突っ込んでいく、ご主人もフォローしているが間に合わない!ええい儘よ!
進路上に無理矢理割り込み、盾で突進を受け止める。盾はひしゃげ先程とは比べ物にならない程の衝撃が腕に流れた、しかしどうにか気を引くことに成功したようで、ドラゴンは次は妾に突っ込んできた!
間一髪で身を投げ出し突進を避けた、ドラゴンは妾の後ろにあった金属の木に激突し木を激しく揺らす、今がチャンスじゃ!
『セリアぁ!!上っ!!』
ご主人の声を聞き上を見上げると沢山の金属片が降ってきていた、金属の葉っぱだ。それは鋭利な刃物のように降り注ぎ、妾の身体を切り裂いていく。ぐっ…抜かったのじゃ
すぐに回復魔法が飛んできたが流血の多さに頭がクラリとする、そしてその瞬間を狙ったかのようにドラゴンは口に魔力を貯めている、ブレスだ!
盾は使い物にならないしこの至近距離ではバリアを張っても持たないじゃろう。とすればおそらく魔剣と思われるこの剣一本が頼りなのじゃな…何処か遅くなった時間の中、空を見上げると満月が輝いていた。どうりで明るいわけだ。綺麗なものよ。
…妾も吸血鬼じゃ、今宵は満月で力も満ち足りておる。やってやれないことはないじゃろう!女は度胸なのじゃ!!
『とぉりゃあぁぁああ!!!』
魔剣は豪火を纏い燃え盛った。妾は剣を振り下ろし黒いブレスを斬りつけるが、ブレスは真っ二つに割れるだけで押し切る事が出来ない、あまりの熱量に髪や防具が燃え始める。視界は赤く染まっていき意識が朦朧としてきた
しかし!だからといって!こっちも負けるわけにはいかないのじゃあぁぁあぁ!!
妾の魔剣は遂に白い焔を吹き出しドラゴンの黒いブレスを押し切り出す、そしてそのまま地面を溶かしながらドラゴンを真っ二つに焼き切った。やって…やったのじゃ…!
バタリと倒れると同時に水魔法が妾にかかり火を消火した、もう…限界なのじゃ…
『セリア!しっかりしなさい!』
『…ご主人、妾はやったのじゃ』
『馬鹿!無茶苦茶よ!ほらこのポーション飲んで!!』
ご主人は妾に上級ポーションを無理矢理飲ませるがそんな物を妾は求めていない…もっと良い物があるじゃろう?
『…ご主人、お願いがあるのじゃ』
『死にそうな顔して何言ってんの!?喋っちゃダメよ!!』
『血が…ご主人の血が欲しいのじゃ』
もう空腹で死にそうなのじゃ、後生じゃから血を妾に飲ませて欲しいのじゃ…!ご主人が呆れた顔をしているけどお腹が減ったから仕方ないのじゃ…
『…いつでもセリアは変わらないね、お疲れ様、好きなだけ飲んでいいよ?』
ご主人は倒れている妾に抱きつき首筋を寄せてきてくれた、カプッと噛み付き血を吸うと濃厚な旨味が口中に駆け巡る。むふふ、この為に生きておるのじゃ!
『吸血鬼の嬢ちゃん良くやった!スゲェもん見せてもらったぜ、感動しちまったよ!』
『いやいや!アリゼさんも凄いぞ!アリゼさんがいなかったら全滅してたしな!』
心配した仲間が周りに駆けつけてきて口々に感謝の言葉を妾達にかけてきた、中々悪くないものじゃのう。もっと褒めるのじゃ!
周りは焼けた金属やボロボロの地面で酷い有様だけどどうにかなって良かったのじゃ。そう思いながら妾は主の血を堪能するのじゃった
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sideアリゼ
『もうセリアは飲み過ぎよ、今回はいいけどまだ帰り道もあるんだし加減してよね?』
『むふふ、美味しいのじゃ〜幸せなのじゃ〜』
頬っぺたをムニムニして不満を述べるが全く聞いていない、飲まれすぎたらクラクラするから手加減してほしいものだ。まあセリアが生きてたしいいか、にしてもセリアは柔らかいなぁ
『アリゼさん?可愛がってるのはいいんだが剥ぎ取りの分け前について話し合おうぜ、こっちは二人に通常分の量と貢献度を考慮してドラゴンの素材の4割を受け取ってもらいたいんだがどうだろうか?』
今は10人いるし全員で公平に分けたら一人一割の量を貰える、そう考えると二人で4割は破格だろう。
けど多すぎね、ドラゴンの素材は一頭売るだけで5億ゼニーは固いわ。伊達に黒金の鱗を持っていない、因みに普通のドラゴンは一匹5000万ゼニーで売れるのだ。
『ありがとう、でもセリアは元々無報酬の話だし3割でいいよ?』
『ん〜、ならその魔剣を嬢ちゃん達の取り分にして欲しいぜ、命救われたのに何も払えないんじゃ男が廃るってもんだ。ここは何も言わず受け取ってくれ』
そう言われたら弱い、有り難く受け取っておこう。それにこれだけ黒金が手に入ったら黒金装備も作れそうだ、売る分を残しても余裕で作れるだろう
地面に転がったままお礼というのも失礼なのでしっかり立ってからお礼をする。
『ありがとう!なら遠慮なく貰います、今回は本当にお疲れ様でした!』
『ん、礼はいらねぇぜ!?っておまっ、なんて格好してやがるんだ!!』
その声に反応し皆が一斉に私を見る、ん?どんな格好って言われても普通の冒険者の格好のはずじゃ…?
あ…!防具がズタズタなのすっかり忘れてた。私の格好はかなり際どいというかアウトなレベルで露出している、そして不幸にも私を見てしまった人達が鼻血を噴いて倒れ伏す。
『あ〜ゴメンね?すっかり忘れてたよ?』
『『いいから早く服を着ろ(てください)!』』
なんとも締まらない終わり方になったが依頼はなんとか成功を収めた、その後は剥ぎ取りと死者の埋葬、そしてギルドへの報告の際には根掘り葉掘り問いただされ、国から追加報酬が出る事になった。
国は今回の犯人を生け捕りできなかった事を悔やんでいたそうだが私には関係のないことだろう、溢れ出る殺人欲を我慢できなかったのだ後悔はしていないし反省もしていない。
にしても白い焔か…セリアは案外大物なのかもしれないね。
ますます今後が楽しみになってきたなぁ
《アッドフォース》力が増す支援魔法




