鉱物の森5
ドラゴンの背中から地面に転がされた男は風魔法でうまく受身を取り最小限の怪我で済んだようだ、私の蹴りも空中で放った物のため相手の行動に支障を来たすほどの威力は出ていない。
まあ簡単に死なれても鬱憤は晴れないし面白くもないしで嫌だから良かった、簡単に死ぬような人を殺してもあまり楽しくはないからね
私もドラゴンから飛び降り男と向かい合う、隙のない構えを見るにこの男も武人なのだろう、後ろで指示を出すだけのモヤシとは違うというわけね。
『ペットの調整をしてたのにとんだ邪魔をしてくれるねぇ君は、殺したくなってきたよ?』
『あら、奇遇ね私もよ。そして言葉はいらないわ、殺りあいましょう!』
手を結晶化させ相手と対峙にする。相手の得物はカットラスのようだ、リーチはそれほどでもないが刀身は危険な輝きを見せている、迂闊に飛び込めばナマス切りにされてしまうだろう。間合いを測るためカットラスの届かない距離から《結晶針》を放ち続け様子を見る、すると相手も私に合わせるように《ウィンドカッター》を撃ってきて近距離での魔法合戦となった
私が飛んでくる魔法を結晶化させた手で乱反射させているのに対し、男はカットラスで魔法を断ち切っているようだ。射撃戦は互角の勝負となる、キリがないため一度身を引き男と距離をとった。
『えらく上等な剣を使ってるのね!魔法を断ち切れるってことはそれ魔剣でしょ!』
『おや、ご存知でしたか?ならこの手も知ってますよね!?』
カットラスから風が吹き荒れる、私は男の一撃をかろうじて避けたが剣に纏った風が私の皮防具をズタズタに切り裂いた。そう魔剣は普通の剣と違いエンチャントが出来るのだ、それゆえに強力で滅多に市場に出回らない
当たれば命はなかっただろう、その事実に私は脳が痺れるような快感を覚えた
『そっちが来ないなら此方からどんどん行きますよ!!』
男が流れるような剣筋で剣を振るう、その一刀一刀が剣圧を持ち、私を傷つけ興奮させていく。このギリギリの命のやり取りが堪らなく楽しいのだ、私は気分が良くなりテンション高めに男に話しかけた。
『アハハ!アハハハハッ!!貴方強いのね!?いいわっ!!久しぶりに死ぬかと思ったもの!!』
『何を言ってるんですかねぇ!?劣勢なのは貴方の方なんですよ!!気でも狂いましたか!?』
本当に綺麗で良い剣筋をしている、剣は専門外なので流派は分からないけどここまで洗練された動きは中々出来るものではない。きっと長い間剣を握り人並み以上に努力していたのだろう。強敵を望む私にとってそれは嬉しい事だ
…でもちょっと素直すぎるかなぁ?相手を絡めとる狡猾さが感じられない。それではいけないねぇ!
男の太刀筋を一通り見た私は攻勢に転じた、可能な限り上半身のフットワークだけで攻撃を避け続け、当たるコースだけ手を使い受け流す、そして焦りからか甘く入った横なぎを叩き落とした。そのまま”大きく”右腕を引きさげる
『はあっ!!』
右腕で攻撃すると見せかけて、腕を引いた勢いを殺さず後ろ回し蹴りを上半身に叩き込んだ。身体強化した私の後ろ回し蹴りをモロに受けた男は、吹っ飛んで木に激突し血反吐を吐き出す。これは内臓が破裂したかな?
『セリア!新しい剣よ受け取りなさい!!』
『わわっ!?分かったのじゃ!!』
転がっていた魔剣をセリアにぶん投げて渡す、これで向こうの方はどうにかしてくれるだろう。さて私は少しお話でもするかな?
『貴方、殺意が足りないわよ?』
『ゴフッ…何言ってるんだ…俺はお前を殺すつもりでやったに』
『違うわよ、訓練の時も本当に相手を殺そうと思って剣を振ってる?振ってないでしょ?だからそんな綺麗なだけの剣筋になるのよ。ま、楽しかったわ』
騎士団長には敵わないと思うけど強い男だった、前菜と考えたら上等なものだったわね。っと、大事な事聞かなくちゃ!
『最後に一つだけいい?』
『げほっ、うるせぇ早く殺しな…』
『貴方、ケーペル国の人でしょう?』
『…!』
ふふ、いくら死にかけだからって動揺しちゃダメじゃない。カマをかけただけなのにね。でも情報ありがとう
思い当たった理由は色々とある、最近ケーペル国との関係が悪化したこと、引く手数多の実力者なのに何故か今まで噂も聞いたことがない事、わざわざお金にもならないやり方で産業地帯を狙った事、他にも色々と理由はあるけど予想は当たったようね
『…死ねっ!!』
男が最後とばかりにナイフを投げてきたけど当たるはずもない、次を投げさせる前に《影踏み》を使い男を痺れさせ止めをさした。
はあっ…最高ね、往生際が悪い所も評価できるわ
さて、セリア達はどんなものかな?
私は返り血を拭い皆の安否を確認する、誰も死んでなかったらいいけど
《ウインドカッター》風の刃を飛ばす魔法
《影踏み》踏んだ影の主が軽く痺れる、影が濃いほど効果が上がる