鉱物の森2
鉱物の森の気温は昼夜問わず高い、金属の木が日光の熱を吸収するからだ。
特に夏場のひどい日になると入るだけで火傷するようなこともあるらしい。今はまだ春先だったから良かったものの夏だったら地獄の行軍になっただろう。
『にしてもこれはひどいわねぇ…』
『ですねぇ…触ったら怪我しちゃいますよ、もし怪我したら言ってくださいね?』
森林に足を踏み入れ暫く歩くと喰い散らかされた木々が広がっていた、地面には喰い跡である金属片が散らばり喰われた木はささくれ立ち危険な鋭さを見せている、穏やかな森から一変して危険地帯となった
『敵はどうやらそう遠くなさそうだな』
『まあ金属の体で隠密とかはできないでしょうねぇ』
『だな、追跡自体は楽そうだ』
各パーティの斥候係りで集まり進む方向を決める、自重が重いせいか足跡が凄くわかりやすい。
『とにかく奴らの住処を割り出しましょう』
『だな、住処を潰さなきゃまた湧いてきやがる。まあすぐは増えないだろうが早めに片をつけよう』
鉱物を食べる魔物の特徴として絶対数が少なく生活範囲が狭い事が挙げられる、ゴブリンを森から殲滅しろと言われても無理だが鉱物を食べる魔物はあまり動かないため住処さえ見つけてしまえれば殲滅は不可能ではない
『できるだけ早く見つけてくれよ?茹で上がっちまうぜ!』
『こっちはフル装備でクソ暑いんだから宜しくな!』
《アイアンサイド》の人達がフルフェイスの兜越しのくぐもった声で冗談めかしたように急かしてくる、気持ちはわかるけどちょっと待ってね。
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私達は彼らの住処に入らないよう慎重に生活範囲を割り出していく。もう三時間はこうしてるが、これもいきなり住処に足を踏み入れて戦闘になる事を避けるためだ。狩りに来ているのに突然鉢合わせなど目も当てられない。
そうして探索していると何処からか金属が擦れるような音が微かに響いた、隣の斥候係も気づいたようで腕を上げ全体の動きを止めた
そして無言でアイテム袋から双眼鏡を取り出し音源の方向を確認した、私もそれに倣う
大猿がいた、体皮を銀色に鈍く輝かせたメタリックな身の丈2mの大猿が3匹。そして彼等はどうやらお食事中の様だ、鉄木に噛り付き美味しそうに咀嚼している。
各パーティのリーダーが互いに目配せしあい頷いた、そして全員が遠距離攻撃のサインを出す。そのサインを見てケイトさんや《暁の血潮》の人達は一歩前にでて大猿に狙いを済ました、真剣な表情だ。
そして一呼吸おいて一斉に攻撃する。距離は200mとかなり遠いけど…
弾着、どうやら全弾命中したようだ。この距離をしっかり当てるとはプロは凄いものね
しかし大猿も流石の耐久力なのかまだ動いていた、あの砲撃を食らっといて生き残れるとは凄まじい耐久力だ
『『いくぞぉおぉおぉぉ!!』』
前衛組が突撃を開始した、私も彼等の後ろを走り距離を詰めていく。そしてこちらに気づいた大猿は怒り狂い咆哮をあげる
『『Gyagaaaaaa!!』』
凄まじい迫力だ、森に彼等の咆哮が反響し山彦のように繰り返される。しかし此方とて伊達や酔狂でここまでのランクに上がった訳ではない、圧力を振り切り決して足を止めない
そして咆哮が終わる頃には全員が自分のポジションに移動し終わっていた
前衛が後衛に大猿が流れないようにブロックし後衛は確実にダメージを与えていく、そしてそれを見ながら私も援護に行動を移す
『これでも食らっときなさい!』
私の攻撃は大猿に命中し爆発を起こした、中々良い威力で爆発の威力に大猿がたたらを踏む
『アリゼちゃん弓使えたの!?ていうかその弓は爆裂大弓じゃん!?よくそんなの買えたね!?』
『使えないわ!大体の所に打ってるだけよ!あとこの弓はレンタル武器屋で借りたの!』
ここまで近づいたら弓の打ち方を知っている者なら大体近くには当てられる、そして最悪地面に当たっても爆風でよろめかせる事ができるし問題はない。
そしてこの弓は街のレンタル武器屋で借りたものだ、少しでも傷付けたら多額の請求書を叩きつけられるから気をつけよう!
『おいおい!アリゼさん頼むからぶつけないでくれよ!?』
『善処するわ!』
『『本当に頼みますよ!!』』
前衛から悲鳴が上がる、妥当な所だろう。適当に範囲攻撃するシューターが後ろにいたら気が気でないに違いない筈だ。でも流石に当てるようなヘマはしないように安全な距離に打ち込んでいる
戦闘は順調に進み、大猿も最後の一匹となった。前衛の一人が長槍を止めとばかりに突き出す。
『貰ったぜぇ!!』
その瞬間遠くの木の上で何かが光った、これはヤバい!!咄嗟に前衛の近くの地面に向かって弓を撃つ、矢は着弾と同時に爆発し前衛を吹き飛ばした。
『ぐおっ!?何しやがんだ!!』
『バカっ!早く構えなさい!!新手よ!!』
場に緊張が走り、皆が戦闘態勢を再びとった、しかし敵はそれ以上は仕掛けて来ず何処かに消えていく。そのまま私はしばらく索敵し周囲の安全を確認した、うん大丈夫そうだ
『いてて…敵って何処にいるんだよ?』
『俺も確認できなかったな』
『…あれを見なさい、金属糸よ』
前衛が止めの時に立っていた場所には一本の直径1cmほどの槍が突き刺さっていた、当たったらいくら重装備でも大変な事になっていただろう
『おそらく撃ってきたのは金属蜘蛛ね、すぐ何処かに消えたけど』
『…そうなのか、いや助かった恩にきる!』
何故逃げたのか、色々と気になることはできたけど再び森には静寂が戻る。まるで平和な森のようだ
結局その日はそれ以上戦闘は起こらず一日中探索する事になり、不気味な静けさを感じながら私達は彼らの生活範囲を割り出す作業を続けることになった