悪巧み
sideセリア
拝啓、お母様。今、妾は不本意ながら深夜の森深くのボロ小屋にいるわけで、虫や魔物が大変煩わしいわけで、というより暗すぎて明日の希望も何も見えないわけで。やはり妾には執事付きのお城の方が似合っていると思われ、兎に角早く帰りたいわけで。
事の始まりはご主人のお誘いでして
『セリア!ちょっと大森林でマイナスイオンを一杯浴びてみない!?』
釣りが趣味の妾としては願っても無い誘いだったわけで…何も考えずホイホイ着いていったのでして…その結果がこの有様だと思われ…
『セリア?何を書いてるの?これからバリバリ働くのよ!』
…はっ!軽くトリップしてしまったのじゃ!それどころではないのじゃ!
『ご主人!妾は急用ができたのじゃ!』
『ふふ、セリアは慌てん坊ですね、私達は一週間は帰らない予定ですよ?それに貴方一人でこの樹海から出られると思ってるの?確実に遭難する保障をしてあげます!』
『今樹海って言ったのじゃ!もう大森林ですらないのじゃ!それとマイナスイオンはもう懲り懲りなのじゃ!』
『諦めは人生を豊かにするって誰かが言ってたような言ってなかったような?』
『そこは断言して欲しいのじゃ!』
なんてこったなのじゃ、妾はどうやらご主人の趣味のお手伝いをさせられるそうなのじゃ
『ま、とりあえず。ここら一帯を掘ってみようか?』スッ
『マジで?』
『マジで』
おもむろにご主人がスコップを取り出す、そういえば土を無限に掘って埋める拷問があったなーと妾は軽く現実逃避するのじゃった
^^^^^^^^^^^^
『一つ掘っては父の為〜♪二つ掘っては母の為〜♪』
『何個っ…掘ったら…終わるのじゃ!』
『子供の悪戯じゃないのよ〜五百個は覚悟しなさい〜』
…落とし穴作成中なのじゃ、妾は《火魔法》しか使えないので《土魔法》で穴掘りという訳にもいかないのじゃ
『そもそも此処は冒険者はおろかゴブリンすら殆ど通らぬ一帯じゃぞ?騎士団も《逢魔がの森》に行くのなら崖の道か吊橋を通る筈じゃろ?』
『まあ作戦があるのよ、また今度話すね?』
今回の騎士団のターゲットは《逢魔がの森》にいるオーガの村になったそうだ、手前の森林地帯と《逢魔がの森》の間には渓谷があり《逢魔がの森》への主なアクセスの方法は山沿いの崖道を通るか吊橋を通る方法が主流だ
普通はとらないがもう一つは今、妾達がいる樹海を通る方法だ、しかし木々が濃すぎて通行が困難なため殆ど取られないルートだ
『掘り終わったら底に何か差さなくていいのかの?』
『冒険者ならともかく騎士団はフルアーマーで靴まで鋼鉄製だから意味ないわね』
『本当に騎士団を狙ってるんじゃな…』
騎士団の遠征は盗賊も狙わない、リスクが高すぎるからだ。そして成功しても国の敵とされ恐ろしい報復が待っているからだ
じゃがご主人はきっとやる、間違いなく騎士団を襲う、そして成功して何気ない顔で街に戻りそうじゃ
結局、全ての作業が終わったのは5日後のことじゃった、穴掘りやら細工をするだけじゃったのじゃが半端ではなく疲れたのじゃ
でも血と休暇を所望すると好きなだけ飲ましてくれたし休暇もくれた。飲み過ぎて少しご主人はフラフラしていたが妾をこき使うからじゃ、反省して欲しいのじゃ。
^^^^^^^^^^^^
sideアリゼ
セリアは休暇に釣りに行きたいようだ、何だそのポカポカした趣味は?吸血鬼なんだから趣味はマンハントですくらい言って欲しいものだ。
『そういえば、手紙にお母様って書いてあったけど何処にいるの?』
『…もう会う事はないじゃろな』
…地雷を踏んでしまった、これは悪いと思ったので素直に謝る、ゴメンねセリア
『へっ?妾のお母様は生きてるのじゃ、お父様も』
え?人に襲われ両親は殺されてセリアは人間に捕まったとかそういうんじゃないの?セリアの年齢的には両親が寿命で死ぬ事はありえないし。因みにセリアは今年で35だそうだ、見た目はロリなのにね
『…妾は家の習わしに耐え切れずに家出をしたのじゃ』
なるほど、きっと成人するには村を一個滅ぼしてこいとか言われたに違いない、セリアは優しいからできないだろうしね
『…両親が夜型だったのじゃ、両親は大層妾を大切にしてくれたがアレだけは耐えられん!』
…は?まさか家出の理由…生活リズムの違いなの?私の心配を返して欲しい。
『いや吸血鬼なんだし夜型なのは当然なんじゃ…?』
『いやじゃ!夜は寒いし暗いのは怖いのじゃ!太陽万歳なのじゃ!』
今まで私は、セリアは夜型なのに無理に私に合わせて昼に活動していると思っていたから其処は評価してたんだけど…というか暗いのが怖いって町娘じゃないんだから…
嫌な予感を感じながら次の質問をする
『ちなみになんで捕まったの?』
『あ〜釣りをしてたら後ろから捕獲されてしまったのじゃ』
うん、薄々勘付いていたけどセリアはどうやら少し残念な子だったようだ、ならあの奴隷にしてはかなり太々しい態度にも納得がいく。
『セリア!貴方は可愛いわね!残念な子可愛い!』ヒシッ
『わわっ、ご主人照れるのじゃ!』
セリアは私がしっかり手網を握ってあげよう、放って置いたらどうなるか分かったものではない
私の心配をよそにセリアは釣りを楽しんでいるようだ、なんだか手の掛かる妹ができた気分ね
河原にサアッと風が駆け抜ける、太陽も暖かくかなり気持ち良い
うーん、釣りか…中々良いのかもしれない。そう思いながら私もセリアに習い釣竿を川に垂らすのだった




