休日
今日は何の仕事もない日だ、朝の訓練を終えてお風呂に入る。やはり湯船があると疲れの取れ方が違う、家を買って正解だなと改めて思った
『ご主人〜もう限界なのじゃ〜』
玄関からセリアの泣き言が聞こえる、私が朝の五時に叩き起こし二時間程ランニングさせたのだ
『運動は大切よ?私も朝の三時から二時間走ってるんだから頑張ろう!』
『早すぎなのじゃ!それと三時は朝じゃなくて深夜なのじゃ!』
『そのうち慣れるわよ、でもしっかり二時間走りきったことは褒めてあげるわ、私が上がったらお風呂に入るといいよ』
『しかもその後もご主人は訓練してたのじゃろう?全くありえないのじゃ…』
セリアがブツブツと何か言っているが気にせずに風呂を上がり朝の支度をする
『セリア〜今日は朝ご飯食べてから買い物して昼の炊き出ししてから友達の孤児院のお手伝いをしてから屋台巡りするからね〜』
『詰め込みすぎじゃろう!?というか炊き出しするのか!?』
『子供は可能性の塊よ〜私の将来の強敵の種をみすみす死なせるわけにはいかないでしょ〜』
『つまりは強くなってから殺すのが楽しみじゃということか…子供達もまさかそんな下心で炊き出しされるとは思っておらんじゃろうのう…』
ふふふ、私は自己中なのです。沢山食べて強くなるのが楽しみね
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朝はこの街で評判の喫茶店に入る事にした
店は天窓で日光を沢山取り入れたお陰か、爽やかな雰囲気をだしており品の良い香りがした
『朝だから…このビックモーニングセットにしようかな?』
『…ご主人?それは朝とは思えんほどのボリュームじゃぞ?』
『そーかな?でもいっぱい食べないと大きくなれないよ?』
『わ、妾は普通のやつで良いのじゃ…』
セリアも遠慮せず頼んでくれて良かった、必死に床で食べようとする子もいるらしいから少し心配だったのだ。店側もそんな事されたら迷惑だろうし良かった良かった
呼び鈴を鳴らし店員に注文をする
『ビックモーニングセットとローズヒップティをお願い、この子は普通のモーニングセットと緑茶で』ニコッ
『はいっ、承りました!』
ふふっ、そんなに緊張しなくても良いのに?
『ご主人、あんな小さな男の子に期待させるのは酷というものじゃぞ…?』
『唯の挨拶よ?私は笑いかけただけだしね』
『南無…見知らぬ店員よ…』
気にせずに新聞を読む、ふむふむ。
『この街の連続殺人犯は未だ捕まらずだってさ?そして次は連続失踪事件だって、怖いねぇ』
『昨日地下室から悲鳴が聞こえたが気のせいに違いないの』
『隣国のケーペル国との関係悪化かぁ、いつかウチと戦争になるかもね?後は…騎士団の魔物討伐遠征の日取り?』
『パフォーマンスじゃろうな、こうして実際に働いてますよって所を国民に見せるための』
成る程…これは使えるかも?
私は悪巧みを考えながら料理をパクッと平らげる。どの料理も絶品でまた来ようと私は心に誓うのだった
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『彼女の為に服を見繕ってくれるかな?』
『はいっ!喜んでー!』
『えっ!?ちょっとご主人まっ』
『ではお客様!まずは此方の服をご試着なさって下さい!』
はい、見ての通り服屋に買い物に来ました、結構良いところに来たけどセリアの可愛さが増すというのなら少しの出費ぐらいは痛くもない
『今年の流行色って何ですか?』テンインサンオチツイテ!
『はい、今年はアクアマリンが流行色ですね』メガコワイノジャ!
『じゃあ…このブラウスとスカートと…店員さんのお勧めとかありますか?』イヤジャアァァア!
『そうですね…お客様はスタイルが良いので肩やデコルラインを出したオフショルトップスの服に流行色のミニジャケットと白のミニスカートのセットが似合うと思います』ウウッ…ハズカシイノジャ
『じゃあそれ全部お願いします、後ろの子の服も全部買いますのでよろしくです』エエッ!?マダアルノカイ!?
『かしこまりました』タスケテゴシュジンー!?
丁寧な接客で好感の持てる人だ、これで暫くは服の心配はないだろう。後ろでセリアが大変な事になっているがこれもセリアの為だ、スルーするのが良いだろう
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店員さんは店を出る私達を見送って深々とお辞儀をしていた、本当に教育の行き届いた店だ。まあ20万ゼニーを現金で払ったというのもあるかもしれない
セリアは白いワンピースと麦わら帽子を被ったお陰か避暑に来たご令嬢のような雰囲気を出していた、道行く人も立ち止まり見惚れたようにセリアを見つめている。
『本当にご主人は薄情なのじゃ!必死に妾が助けを求めているというのに!』
『ゴメンねぇ、でもセリアの為なんだよ?帰ったら血を飲ませてあげるから!』
『むぅ…仕方ないのぉ』
チョロい、チョロすぎて私は心配だ
『それより次は炊き出しだよ?エプロン貸したげるからしっかり働くのよ?』
『やっぱりやるんじゃの?何を作るんじゃ?』
『ホワイトシチューよ、材料はもう切ってアイテム袋に入れといたから後は野菜と肉を調理するだけよ』
『そこまで手際は良くないから期待せんといて欲しいのじゃ』
『まあ大体は私がやるし気楽に手伝ってね?』
『了解したのじゃ』
スラムの一角に到着した、机と皿と調理器具を出して手早く調理を開始する
『おぉ、美味しそうじゃの?此処にご主人の血を入れたらもっと良くなると思うのじゃ!』
『…それは貴方だけよ私にそういう趣味はないしね』
『むぅ残念じゃ…』
私は変態属性を複数持っているがまだそっちの属性には手を出してないのだよ。というかセリアのご飯じゃないからね?
ご飯の匂いに釣られたのかボロ屋の影から沢山の人達が出てくる、そんな顔しなくたってあげますよ?
『お姉さん達それくれるの?』
『そうですよ〜みんな仲良く順番に並んでくれたらあげますよ〜』
『分かったよ!』
子供は素直が一番だ、にしてもセリアが結構いい働きをしている、シチュー混ぜるの結構しんどい筈なんだけど楽々とかき混ぜているようだ。
『ご主人、そろそろできるのじゃ』
『お疲れ様、撫でてあげます』ナデリ
『妾はもう大人なのじゃ!』
そう言いながら精一杯背伸びするセリア、可愛さプライスレス
『お姉ちゃんありがとー!』
『大きく強くなるんだよ〜』
『小さいお姉ちゃんお姫様みたい〜!』
『ふふふ?そうかの?やはりオーラが出てしまうんじゃな…あと小さくない!』
列は順調に捌けていて、シチューを貰った子供達も美味しそうに食べている。
手を動かしながら周りを見ていると近くで言い合いが始まった、ケンカかな?
『セリア、悪いけどちょっと鍋見といて』
そう言いながら私は騒ぎの中心に駆け寄る
『やめてよっ!このシチューは病気の妹にあげなきゃいけないんだ!』
『うるせぇ!ガキが調子に乗ってんじゃねぇぞ!!』ドンッ
…ちっ、久しぶりにイラっときた
『ちょっといい?』
『あぁん?こっちは今取り込み中なんっ』
腕を振りぬき浮浪者の男を殴り飛ばす
『ぐっ…糞が!何しやがんだ!!』
『私が個人的に炊き出しをしているのは未来ある人のためです。貴方のような子供を脅すことしかできないダニにあげるものなどないです』
『何だと!?バカにしやがって!』
キレた浮浪者の男がナイフを取り出した
『やりますか?私は貴方を殺しても罪に問われませんが貴方が私を殺したら追われる身になりますよ?』
『…ちっ!覚えとけよ!』
そう言いながら浮浪者の男は何処かに消えていった、市民権を持たないスラムの住人は殺されても文句を言えないのだ、なのに住人は一般市民を襲うと当たり前のように罪を問われる。男も割に合わないと感じたのだろう
『君、大丈夫?怪我してない?』
浮浪者の男に転がされた少年は砂塗れになっていた。
『…シチューを、妹のシチューを落としちゃったよぉ…うわぁぁあぁん!』
…自分の身より妹の食べ物か、両親を見捨てた私には眩しすぎる話だ
『貴方もシチューを食べなさい、案内してくれれば妹さんにもシチューと薬をあげるわ』
『えっ…本当?』
『その代わりこの炊き出しを手伝うのよ?』
『分かったよ!約束だからね!』
偽善だ、やらない善よりやる偽善というが、私の場合は偽善程度では償いきれない罪を犯しているのだ
私は無神論者だが今更こんな事したぐらいで神様もお許しにならないだろう、行き着く先はきっと地獄だ
…でもそうしたいと思った、そう思ったんなら少なくとも自分には正直に生きよう
必死に皿にシチューを入れて妹の為に働く少年を見ながら私はそう思った