奴隷
どうも、見た目は子供、中身は元好青年リア充のアレクこと安藤浩介です。ある日、俺は道路に飛び出した猫を助けるためにトラックに轢かれて死んじまい、マギアとかいう糞野郎に異世界に転生させられた。
そして現在、俺はどっかの奴隷商店の地下の奴隷の檻の中。別に俺はふざけて韻を踏んでるわけじゃない。マギアに異世界に転生させられて、気がついたら何故か奴隷になっているという状況だ。うん、俺も訳分かんねえ。あいつ、絶対にぶん殴ってやる。そんな俺だが、もうすぐで五歳になる。でも全然おめでたくないね。何故かというと、奴隷は十歳になると売りに出せるらしい、売りに出せないことも無いけど、男の奴隷だと戦力になってからじゃないと滅多に売れない。だから俺はあと五年で人に所有される奴隷になる……かも知れない。誰かの手に渡る奴隷は、それはそれは酷いものだという、鞭で打たれてろくな飯も出ない。かといってずっと売れ残る奴隷というのは、強制的に鉱山などで死ぬまで働かされる。どちらに転んでも地獄、奴隷になった瞬間からその人生は決まったようなものなのだ。と、エトムントさんが言っていた。まったく、子供になんてことを言うんだろうか。
そのいつも良くしてくれていたエトムントさんは、半年ほど前にどこかの貴族に買われていった。まあエトムントさんは優秀な戦奴隷だからな、帝国軍に入ってもおかしくない戦力らしいし、すぐ買われるのも当然だろう。ちなみに、俺がいる奴隷商があるのは、ザルダート帝国という仰々しい名前の国らしい。なんでも、世界一の軍事帝国らしいが、九年前の魔王襲来時に壊滅的な被害を被ったらしい。え? それで世界一なの? と思った俺は別におかしくないと思う。
「おいお前ら、出ていいぞ」
いやらしい笑みを浮かべた痩せぎすの男が、奴隷たちの鍵を開けていく。この男はここの奴隷商で雇われている奴隷調教師のエマヌエルだ。奴隷調教師なんていやらしい職業についているおかげか、顔も喋り方も名前も、何もかもがいやらしい。
「おら、さっさと出ねぇと鍵閉めるぞ」
俺がいる奴隷商が扱っている奴隷は、どうやらどれも高価な物らしい。そのため、奴隷の健康を保つために、定期的に外で運動をさせる。まあ商品価値を落とさないための工夫だな、そんなことをやるのはここみたいな大きな奴隷商だけらしいが。
敷地内の運動場でやるのは、戦闘術オンリーだ。なんで戦闘術を学ばせるのかは知らないが、俺としてはありがた迷惑な話である。なんで五歳の子供が屈強な男どもに交じって戦わなきゃならないんだ。みんな手加減はしてくれているが、それでも子供の体には酷である。
「うぐっ」
どてっぱらに衝撃が走った。強烈な吐き気とともに、意識が飛ぶような感覚が襲う。
「おいおい大丈夫かよ」
前言撤回。こいつに関しては手加減ってものを知らないようだ。
「大丈夫か? アレク」
「だめ……かも」
「よわっちーなぁ」
うるせーな、何なんだよその言い草は、ぶっ飛ばすぞ! いや、ぶっ飛ばされたのは俺なんだけどね? 俺を殴った奴隷はテオという奴だ。俺より五歳年上の十歳だったか、親の借金が膨らみ、泣く泣く親に売られたとか。同情はしないけどな、そのくらい珍しくもなんともない。
「おいお前、そんくらいにしろ。値が下がるだろうが」
「はーい」
エマヌエルにそう言われ、テオは素直にやめて他の相手を探しに行った。テオも悪気があって俺を殴ったわけではないだろうが、それでも痛いものは痛い。
「おい立て、糞っ、手間取らせてんじゃねぇよ」
俺はエマヌエルに襟首を掴まれ、運動場の隅に投げ飛ばされた。あーあ、情けねぇ。早く大きくなりたい気持ちと、十歳になったときの奴隷として売られる恐怖が俺の中でせめぎ会う。あぁ、心が折れそう……。
奴隷にも種類が沢山ある。
戦争に借り出されたり用心棒としておいておく戦奴隷、武術の腕がいい物は高い値段で売買される。鉱山用の奴隷は、とにかく手がほしいので、処分寸前の奴隷をタダ同然の値段で仕入れる。最も多く扱われているのは雑用の奴隷だ。俺もこれに分類されるのだろう。鉱山用の奴隷の次に過酷で、持ち主から受ける仕打ちはハンパじゃない。他にもいっぱいいるが、我が同士たちが一番気になっているのはやっぱりアレだろう。
「性奴隷!? 」
「ええ、そうよ?」
自分の部屋(檻)に帰ろうとした俺は、迷ってとんでもないところに来てしまったらしい。いや、言い訳させてもらおう。この奴隷商館広すぎる。それはもうとんでもない。ジャスコぐらいある。今の俺はゲーム売り場に行こうとして婦人服売り場に来てしまい、ブラジャーをつけたマネキンにうろたえている斉藤君みたいな状況だ。
「ぼく、何処の奴隷? 一人で戻ろうとしちゃだめよ、ここの商館はザルダート一なんだから、すぐ迷っちゃうわよ」
「あ、はい、すみません……」
妙に色気のある、お姉さんが優しく話しかけてくる。俺が最も嬉しく、最もきょどってしまうシチュエーションだ。それにこのお姉さん、ほぼ半裸である。目のやり場に困るったらない。
「はやく戻りなさい、エマヌに何されるか分からないわよ」
「は、はいぃ……」
か、かっこ悪ぃ。前世では周りに麻衣か、家族しか女性がいなかったからな、他の女性に免疫がまだ無い。
俺は運動場に戻りながら、先ほどの性奴隷のお姉さんについて思い出していた。おっと、勘違いしないでほしい。別に変な気分になったわけではない、俺はあくまで紳士だ。君らとは違うのだよ。俺が気になったのは、あのお姉さんだけ他の性奴隷と雰囲気が違っていたような気がしたのだ。何処が? と言われると困ってしまうのだが、何処と無く元気があるような、奴隷っぽくないというか……気のせいかな。
案の定運動場に戻った俺はエマヌエルに十発鞭を貰った。エマヌエルに本気の殺意を覚えた俺は悪くないと思う。
よし、人生の目的が出来たぞ。マギアをぶん殴ることと、エマヌエルをボコボコにすることだ。お礼は三倍返し、きっちり恩返しさせてもらおう。
いい加減もう一つの小説を投稿したいと思います。
良かったらそちらも読んでみてください。