異世界転生
兄から結構高評価を受けたので、続きを投稿してみたいと思います。
本当は他の小説が仕上げてから投稿しようと思ってたのですが、早く兄の意見を聞きたいと思ったので、前回の前書きを撤回いたします。
皆さんも感想書いていってくださいね。
心地いい、優しい温もりを感じられる。ここはどこだ? まあいいや、眠ろう――
――物心がついた、前世では物心ついたと自覚などできていなかったのだが。あのマギアとかいう糞野郎に異世界に転生させられた俺、ただいま三歳である。このくらいの歳になると自分の置かれている立場が分かるようになるらしい。ちなみに俺は今、……奴隷だ。
「おらぁ! さっさとでろぉ!! 」
俺の耳に怒号が響く、俺の隣の檻にいたやつが売りに出されるのだろう。大丈夫かな、隣のやつはやせ細ってて労働力になりそうもないけど。それとも全然売れないから処分されるのかな。
「……どうでもいいか」
ほかの奴隷たちも連れて行かれるやつをじっと見ている。
何故か俺は奴隷になった。三歳までの記憶はおぼろげにしか覚えてなく、両親の顔も知らない。奴隷仲間が言うには、俺は半年前に一人でここに入れられたらしい。幼い奴隷が両親のことを聞くのは珍しいことはないらしく、優しく教えてくれた。
「……あいつどうなると思う……」
「……処分じゃねえのか……」
「……鉱山行きだろ……」
ここの奴隷たちは食っては寝るの繰り返しでいつも退屈なのだ。だから他の奴隷が売りに出されると、退屈しのぎにみんなでそいつがどこに行くかを話す。そんなことしても意味はないのだが、他にすることがないのだろう。
……あー、暇だ。糞っ、こうなったのも全部あいつのせいだ。何で俺が奴隷にならなきゃいけねぇんだよ。……今頃麻衣はどうしてるだろうか。楓はちゃんと勉強してるだろうか。母さんはちゃんとダイエット続けられてるだろうか。あの糞野郎今度会ったらたたじゃおかねえぞ!
「どうしたアレク、怖い顔して」
「何でもないです、エトムントさん」
アレク、これが今のおれの名前だ。少しかっいいけど、苗字はわからない、無いのかもしれない。エトムントさんはここにいる奴隷の中で一番の古株だ。色々な所へ売られて戻ってきての繰り返しらしい、理由は彼曰く「主人がすぐに死んじまう」とのこと……。
エトムントさんは筋骨隆々で顔もいかつい。それに爪が鋭く、牙も尖っていて、体は鱗で覆われ羽も生えている。……はっきり言おう、ドラゴニュートである。寿命も長くて、人間の数倍長生きなんだとか、主人がすぐに死んでしまうのは、ただ単に彼が長生きなだけだ。
「ときどきそういうとこがあるぞ、お前」
「ははは……」
エトムントさんの他にも、色々な種族の奴隷がいる。ドワーフやホビット、ケンタウルスとかミノタウロスまで。それぞれどの種族も奴隷として需要があるらしい。ドラゴニュートやミノタウロスは主に戦闘用に使われるし、ドワーフは鉱夫として使われる。ホビットは……わかんない、もともとホビットの奴隷というのが珍しいらしい。ただ、エルフの奴隷を見たことがない。前世のラノベとかだと、奴隷と言えばエルフの女の子っていうイメージが強いのだが、エルフの奴隷というのは居ないのだろうか……一度でいいから見てみたいなぁ。
「ねぇ、エトムントさん」
「ん?」
「エルフの奴隷って居ないんですか?」
エトムントさんは一瞬キョトンとした後、爆笑し始めた。え? 俺なんか変なこと言ったんだろうか。うわ、すげぇ恥ずかしい。
「ガハハハハ! え、え、エルフの、どど、奴隷か! こりゃ傑作だ!」
「え、い、居ないんですか?」
エトムントさんは笑いながら転げまわる。過呼吸になってそうだ。
「居るわけがないだろう、他の種族とはわけが違うんだぞ」
「へぇー……」
「いや、なんだ、お前がエルフを知っていたのも驚きだが、エルフの奴隷とは考えたことも無かったな」
「なんで居ないんですか?」
「なんでってお前、エルフってのはだな……」
「神が最も愛した種族と言われているんだ」
向かいの檻にいる一人の奴隷が話に入ってきた。
「どういうことですか、バルトルトさん?」
バルトルトさんは俺と同じ人間の奴隷だ。眼鏡こそ掛けてないが、知的な雰囲気を醸し出すナイスガイ。歳は見た感じだと二十代後半ってところかな、それはもう箆棒にカッコいい。うん、嫉妬心を隠しきれているか不安だ。何故奴隷になったのかわからない。
「アレクはエルフについてどれだけ知ってる?」
うーん、俺も前世で読んだ小説の中に出てくるエルフのイメージしか無いし、それがこっちのエルフと同じかどうか分らないしな。
「えっと、容姿が人間に似ていて、耳が尖ってて、すごく長生きだって事くらいですかね。あと、魔法が得意?」
「お、よく知ってるね、概ねその通りだよ。でも一つだけ間違ってるよ」
おお、大体同じなのか。どこが間違ってるのかな?
「エルフが人間に似てるんじゃなくて、人間がエルフに似ているんだよ」
「え? どういうことですか?」
同じじゃね?
「エルフってのはそもそも世界で一番最初に生まれた種族なんだ。人間は後から、というか全種族の中で最後に生まれた種族なんだよ」
「へぇー」
一番最後に生まれた種族が世界の大半を牛耳るとは、皮肉なもんだ。
「人間っていうのはエルフを元に作った劣化版のようなものだと言われているよ、まあ、その話を信じている人間は少ないけどね、自分たち人間が一番偉いと思ってる輩もいる」
「愚かな連中だ」
エトムントさんが相槌を打つ。
「そんな人間もいるけど、魔法に関してどの種族よりも優秀なのはエルフなのさ、魔力回廊に通っている魔力の総量が平均して一番多い」
魔力回廊ってのは体の中にある魔力の通り道なんだとか、前に俺も使えるようになるのかバルトルトさんに聞いてみたことがあるが。
「うーん……何とも言えないな、人間は皆が皆魔法が使えるというわけではないんだ。簡単な魔法でも使えるのは大体全人類の三分の一程度、あまり魔力の使い方が上手い種族ではないからね」
目をキラキラさせて尋ねる俺に、バルトルトさんは困ったような引き攣った笑みを浮かべていた。なんてこったい、この世界では人間なんて最弱の種族じゃないか。なんでそんなのが世界を牛耳ってるんだ? マギアめ、あいつでたらめ言いやがったな!
「エルフは森の中に居て、滅多に人前に姿を現さない。しかも平衡感覚を狂わせる魔術が森全体にかかっていて、エルフの里へ辿り着くのは不可能なんだよ」
「そういうこった、エルフを奴隷にしようなんてのは考えるんじないぞ」
「べ、別に考えてませんよ、やだなぁ」
この分じゃ触手攻めされているエルフの姉ちゃんを拝めるのはできなさそうだ。いや、冗談、俺は麻衣一筋なんだからねっ!
「お前らぁ! 飯の時間だ!」
そう叫びながら一人の男が奴隷たちの檻に食べ物を……いや、豚の餌を流し込んでくる。残飯である。どう考えても人間の食べ物じゃないだろ! と、思うのだが、もうこれが俺にとっては普通になってしまっていた。……虚しい。惨めだ。自己嫌悪だ。麻衣のおにぎりが食べたい。
こうして、俺の長い長い奴隷人生が始まる。