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格の違い

遅れてすみません

 全力で振り下ろした俺の剣は、空を切って地面に突き刺さった。

 避けられたっ!? あの攻撃を!?

 素早く剣を引き抜き、距離を取ろうと踏み込もうとしたところに足を引っかけられ、俺は盛大にすっ転んだ。 

 振り返ると喉元に剣が……あるわけではなく、ジャックは数メートル離れた場所に腕を組んで立っていた。

「その程度か?」

「くっ!」

 畜生! 舐めやがって! 

 俺を倒すなんて余裕ってわけだ。ならこっちだって、黙ってやられてるわけないだろ。

「『身体強化(ブースト)』!」

 体のダメージなんて無視だ。全力でぶっ殺してやる。

 まるでスローモーションになったかのように、世界がゆっくりと動いていた。知覚強化の影響で、反射神経も二倍以上になっている。

 右足で踏み込み、左肩から斜めに斬りおろす。右足で踏み込み、左肩から斜めに斬りおろす。何度も何度も頭の中でシミュレーションを繰り返し、俺にとって最適な動きを導き出す。

 俺は導き出された答え通りに、体を前に運んだ。余裕な笑みを浮かべている銀髪の男を殺すための、一番最適な答え。

「だぁあああああ!!!」

 強化された足が、腰が、腕が、手が、細長い鉄の塊を、凄まじい速度でジャックに叩きつける。

 土煙が舞い上がった。

「ざんねーん」

 俺の剣は、ただ地面を割っただけで、ジャックは元居た場所からたった一歩後ろに下がった場所に、平然と立っていた。

「う、嘘だ」

 おかしい。こんなのおかしいだろ。

「避けられるわけがないんだ。今の攻撃が」

「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさと剣を振れよっ」

 ジャックの右足がぶれたかと思うと、脇腹に衝撃が走る。俺は地面を数メートル転がった。

「ぐぅっ……」

 何でだよ、何で当たらないんだよ。

 ジャックは持っている木剣さえ使ってない。お前ごとき素手で倒せる、そう言っているように感じた。

「ぅらぁああ!」

 ジャックに向かって剣を振り続ける。一振り一振り、殺意を込めて。身体強化ももはや、俺の中にある全魔力をつぎ込んでいた。体中が悲鳴を上げ、激痛が駆け巡り、一瞬でも気を抜けば気絶してしまいそうだ。

 俺にはもう、目の前の男しか視界に入っていなかった。ただこいつを殺すことだけに集中し、それ以外は何も考えない。狂ったように降り続けた。

 それでも、ジャックにはただの一つも当たらない。得物も使わず、足捌きだけで避け続けている。そして何より――

「――何で、身体強化(ブースト)してない!」

 驚くべきことに、ジャックは身体強化を使っていなかった。

 戦場において、身体強化魔法が成す意味は、決して小さいものではない。剣を使う物のほとんどが身体強化を覚えていると言っても過言ではないのだ。身体のあらゆる能力が向上し、通常では考えられないほどの力と反射神経が得られる。正に近接戦闘とは切っても切り離せない存在だ。

 それ故に、目の前で起きている出来事は異常だった。

 子供の体とはいえ、身体強化を施した俺の攻撃を、身体強化を一切使わずに、正確に全てを避け切るなど、ありえないのだ。絶対に、ありえない。

「何で! 何で身体強化を使ってない!? 使ってないのに、何で避けられるんだよ!?」

 まるで剣の方がジャックを避けているかのように見えるほどに、ジャックの動きは滑らかで無駄がなかった。

「くそっ、くそっ……くっそぉおおお!」

「んな熱くなんなよ」

「っな!?」うそだろ!? 

 俺が振り下ろした剣を、ジャックは木剣で受け止めた。めり込むどころか、傷もつかず、ただ鉄の柱を叩いているかのような感触だ。

 こんなのが、こんなのが世界には居るのか……。

 木剣が振るわれ、俺の体が真っ二つにされるような感覚に襲われたかと思うと、気が付いた時には俺の体は、芝生の上に無様に転がっていた。

「アレク!」



 城の中の退屈さから逃げるため、私はアレクの小屋へ遊びに行くつもりだった。でも、小屋には誰もいなくて、私はアレクをぶらぶらとアレクを探していた。

 中庭に着くと、私の奴隷は剣を持って、男の人と戦っていた。それは戦うと言う言葉は似合わないほど、一方的な暴力にも見えた。

「アレク!」

 アレクが死んじゃう! そう思ったら、私の体は勝手に動き出し、倒れ伏しているアレクの元へ駆け寄っていた。

「アレク! ねえってば! 起きなさいよ!」

 叩いても、揺すっても、アレクは全く起きる気配がない。私は泣きそうになった。死んじゃう。アレクが死んじゃう。また、私を置いて死んでしまう。

 アレクを斬った男を睨みつける。そこに居た男は、髪の毛がまるで話に聞いた魔族のように銀色だった。怖くて足がすくみそうになるのを必死で堪えて、私は言ってやった。

「こ、この奴隷が、誰の物だか分ってるの!? バッハシュタイン公爵家の長女である、私イザベラ・バッハシュタインの奴隷よ! あ、あなた、絶対に許さないんだから!」

 これで、この男もいつものようにうろたえて、膝をついて頭を下げるはず……はずだった。でも、銀髪の男は私の事を睨みつけて、じりじりと近づいてきた。

 何で? 何でこいつは、皆みたいにならないの?

「あ、あ……っ」

「おい、ガキ」

「っ……な、何よ。私に手を出したら、お、お父様が黙ってないんだから!」

 余りの恐怖に、今にも泣き出してしまいそうで、声が裏返ってしまった。

 ついに、男が私の目の前に立った。セバスチャンより大きくて、手には剣を持っている。

「おい」

「ひっ……」

 もう限界だった。殺されてしまうかもしれない、今さっきまで死ぬことなんて全く考えてなかったのに、ここで終わっちゃうかもしれない。そう思うと、涙があふれてきた。

「アレク! 助けて!」

 崩れ落ちるように、地面に倒れているアレクにしがみついた。

 すると、突然アレクの左腕が、私の肩を抱いた。いきなりの事に体を固まってしまった。でも、今までの恐怖が、嘘のように消しとんだ。

「大丈夫。安心して、イザベラ」

「うっ、ひっく……うぅぅ……」

 弱々しい声だったけど、私は安心してまた泣いてしまった。

「怖いよぅ……」

「大丈夫だって」

「イザベラ様、大丈夫ですか?」

 いつの間にか、アルマが横に立っていた。アルマは抱え起こし、ハンカチーフで私の顔を拭ったあと、銀髪の男の方へと向きなおる。

「お嬢様を泣かせるなんて!」

「そのガキが勝手に泣いたんだろうが」

「貴方が怖い顔で睨むからです!」

「睨んでねぇ。この顔は生まれつきだ」

 アルマが銀髪に向かって凄い剣幕で怒鳴っている。全く話が読めないけれど、どうやらもう安心らしい。

 私はアレクの横にしゃがんで、回復魔法をかけた。

「『回復(ハイルミッテル)』」

 学校で覚えたての魔法だけど、アレクの表情は見る見るうちに良くなっていった。成功したみたい。

「ねえ、アルマ」

「はい、お嬢様。大丈夫でしたか?」

「ええ、問題ないわ。でも、どういうことか説明しなさい。何で私のアレクがこんなに傷ついてるの」

「それは……」

「イザベラ、私が答えよう」

 低くて渋い声が、私達の会話に割って入った。声のした方を向くと、そこには現バッハシュタイン家当主、私のお父様が居た。

「お父様?」

「この御人は、私が雇った剣術の指導者だ。私の独断で、お前の奴隷につけさせた」

 剣術の……。

「でも、そんな話、私は聞いていませんわ」

「すまないな。お前に教える前に、アレクの戦いを見たいと言われてな。それに、肝心のお前がふらふらとどこかへ消えてしまった」

「う……すみませんでした」

 やっぱり、勝手に出ていったのは間違いだったかもしれない。

「それで、ジャック殿、この奴隷の具合はどうだ?」

「ん? ああ、まあ、悪くないぜ。闘志むき出しのところがまた、いじめがいがありそうだ」

 そう言って嫌らしく笑うジャックに、私は少しムッとした。こんな奴が剣の指導なんて、ちゃんと出来るのだろうか。

 アレクは黙って起き上がり、ジッとジャックの事を見ていた。その眼が何を言っているのか、良く分からないけれど、何かものすごく遠くの物を見るような目つきだった。

「アレク……」

「イザベラお嬢様、心配要りませんよ。俺は平気ですよ。少し熱くなってしまっただけで」

 いつもと少し顔つきが違うような気がして、私は声を掛けづらかった。

「お嬢様ー! どこですかぁー!」

「あ、ジル」

「ああ! イザベラお嬢様! もう、こんな所に居たんですか!? 私がどれだけ探したと思って……」

 家庭教師のジルにさんざん怒られて、私はしぶしぶ自分の部屋に戻った。

 振り向くとアレクは、優しく微笑みを返してくれた。

 ……奴隷のくせに。



「ねえ、ジャックさん」

「んあ?」

 俺はジャックに小屋に運ばれ、固いベッドの上に寝ていた。固いと言ってもそれは前世の基準であって、奴隷に与える寝具としてはそこそこ上等なものだ。だって普通石畳に直で寝るんだもん。 

 ジャックはベッドの横でイスに座り、丁寧に剣の手入れをしていた。さっきは乱暴に放り投げてただろ、と思ったが、それとはまた別の剣らしい。

「あの時はありがとうございました」

「あの時?」

「あの時、イザベラお嬢様が誘拐された時、僕とお嬢様を守ってくれたのは、ジャックさんですよね?」

 今の今まで気が付かなかった。イザベラがサクリファイスの連中に連れ去られ、俺が助けに行ったとき、俺は魔力切れを起こして戦闘不能になり、案の定悪い男達に殺されそうになった。

 しかし、俺が殺されることはなかった。見ず知らずの人が、気色悪い黒ずきんの連中をバッタバッタと斬り倒し、俺に名前も告げずに去っていった。

 その時の銀髪の剣士、やっとわかった。あの時の言葉の意味が。

「近いうちに会うことになる、ですか」

「やっと気付いたのか、案外鈍感なんだな」

「すみません」

「いや、別にいい。さっきの戦闘はなかなか面白かったぜ。何故か知らんが本気で殺そうとして来てたしな」

「す、すみません。ちょっと熱くなってしまって」

 何であんなに激情したのか分からないけど、まあアドレナリンの分泌がちょっと多かっただけだよね。許して。

 ジャックは手入れが終わった剣を鞘に戻すと、俺の方に向き直った。鋭い視線が、俺を捉える。セバスさん以上の威圧感に、俺は息を詰まらせた。本当に、何者なんだ、この人?

「合格だ」

「は?」

 ジャックは唐突に言った。

「実はな、本当に稽古付けてやるかは、戦ってから決めようと思ってたんだ。まぁた貴族様の気まぐれで、糞みたいな奴に剣を教えろって言われんのかと思ったが……まあいい。合格だ。お前のその内なる狂気を見たくなった」

 う、内なる狂気って。俺は健全で謙虚で堅実な日本男児ですよ。

 


 その日から俺とジャックとの……いや、ジャック先生との訓練が始まった。

 

だんだん文章の質が落ちているんじゃないかとすごく悩んでます。大丈夫かなぁ……。

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