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銀髪の男

めっちゃ短いです。すみません。

 帝都の中の、四つある城の一つ、バッハシュタイン城。その城の主、バッハシュタイン公爵の執務室に、二人の人物が居た。一人は威厳のある顔立ちの壮年の男の姿、もう一人はくすんだ銀髪の目つきが鋭い男だ。

 銀髪の男は、口元に皮肉げな笑みを浮かべ、バッハシュタイン公爵を舐めまわすように見ていた。そんな視線など意に介さず、公爵はゆっくりと口を開く。

「久しぶりだな。来てくれて嬉しい限りだ」

「はっ、何だその喋り方。気持ち悪ぃ」

「ここは一応は公共の場なのでな、この口調で話させてもらう」

「……ま、深くは聞かねぇがよ」

 銀髪の男は肩を竦めて、乱暴にソファに腰かけ、足を組んだ。公爵家の当主が目の前に居ても、そんな態度を取れる者は、世界広しといえどそうは居ないだろう。

「それで、仕事の内容なのだが」

「ああ、あれだろ? 奴隷に稽古付けてくれって言う。へっ、最初に聞いた時は笑っちまったぜ、まさか俺に奴隷を教えろって言うんだからな。貴族のボンボンに教えろって言ってくる奴ぁ星の数ほどいたが、奴隷に教えろって言ってくる奴はあんただけだぜ」

 男は本当に愉快そうにケタケタと笑った。

「引き受けてくれるだろうか?」

「別にいいぜ、金さえくれるんならな」

「勿論、報酬は色を付けて出そう」

「へえ、どうやらその奴隷に随分惚れこんでるみてぇだな。そんなに強いのか?」

「いや、だが、強くなってもらわねばならん」

 公爵の言葉に、顎に手を当てた銀髪の男は、ニヤリと口元を歪ませた。

「なあ公爵様、一つ条件を付けても構わねえか?」

「え? あ、ああ、もちろんだ」

「じゃあ、その奴隷にある程度の戦闘力があることを、俺が指導を引き受ける条件にする。指導してやるのは俺がテストして、十分だと判断した場合のみだ」

「……了承した」

 公爵の答えに満足したのか、男は口元の笑みを深めて立ち上がった。

「今日はもう帰る。用事があるんでな」

「ああ、引き受けてくれて感謝する」

 部屋を出ようと、ドアノブに手を掛けたとき、突然男が振り返った。その顔には、先ほどまでの笑みはなく、斬り付けるような冷たい視線を公爵へと向けられていた。

「そういえば、門番の男が俺を見て面白い顔してたぜ。まるで鬼でも見るような顔だ」

 場の空気が凍った。男は公爵としばし視線を交わすと、踵を返して去っていった。



 

  今日のセバスさんは、いつもとどこか違っていた。なんと言うか、能面みたいに動かない顔に、凍えるように冷たい瞳、まるで俺を汚物でも見るかのような……うん、いつも通りだ。

「あなたに足りないものは何だと思いますか?」

 セバスさんは唐突にそう聞いた。

「えっと、魔力量ですかね?」

「なるほど」

「っ……?」

 穴が開くんじゃないかというほどの衝撃が、俺の腹を襲った。意識が一瞬飛んだ。声が出ない、息が出来ない。頭に浮かぶのは、何故俺の腹にセバスさんの拳が突き刺さっているのかという疑問だけ。

「ガハッ……ハア……ハア、っなにを……?」

 やっと息が据えたと思ったら、次に襲いかかってきたのは想像を絶する痛みだった。俺何にもしてないのに……。俺は十数年ぶりにマジ泣きした。

「今より少し魔力量が上がったところで、仕える魔法が増える訳でもない。一つ忘れていませんか? 何故あなたは魔法を学んでいる?」

「え、それは、イザベラお嬢様を、お守りするため」

「よろしい。ですが、魔法だけでイザベラお嬢様をお守り出来ますか?」

「……無理です」

 自慢じゃないが、これでも結構実力がある方なんじゃなかろうか、と自分では思っている。六属性の初級魔法をほとんどマスターし、中級魔法も四つまで使えるようになった。サラッと言ってるが、騎士団の魔法部隊に入ってもそこそこやっていけるほどの実力なのだ。それでも、上にはさらに上が沢山いる。俺より高位の魔法使いとはすぐに負けるだろうし、剣士との接近戦では魔法は使えない。今の俺は遠距離からの攻撃が主なので、あまりボディガードには向いてないと言える。だからこそ。

「俺、一応近接戦闘訓練受けてますよね?」

 剣、槍、盾、徒手、弓、はたまた暗器まで。ありとあらゆる戦闘訓練を受けてきた。今はまだ戦えるほどの技量は無いが、このまま訓練を受けて入れば、俺の欠点もすぐに解決するだろう。

「習得が遅い!」

「ひぇえ!」

「暗殺者が態々遠距離からの魔法戦をしてくれますか? 剣士が距離を取って戦いますか? 今の状態では、陰密行動が得意な刺客が現れたとき、あなたは露ほども戦力にならない。魔法の発動までに三秒もかかっていたら、下級の暗殺者でもあなたとお嬢様を二回は殺せるのですよ」

 こんな場面前にもあったような……。俺の戦い方は所詮広い場所での、相手と対峙した状態での戦い方だ。いきなり襲ってこられたら、いくら俺でもひとたまりもない。

「そこであなたには、ある人物に指導をしてもらうことになりました」

「ある人物?」

「ええ、近接戦闘のプロです」

「セバスさんがこれまで通り教えてくれるんじゃないんですか?」

「私が教えるのも限界がある。基本的に私は、近接戦闘向きではありませんので」

「は?」

 おいおい冗談だろ。セバスさんなら素手でバッファロー一頭ぐらい葬れるんじゃないか、と思うくらい強いはずだ。

「魔法なら教えられますが、近接戦闘は私では力不足だと、旦那様が判断されました。安心なさい。あなたに教えるのは旦那様に認められた、私より十分に実力がある方ですので」

 ぎゃ、逆に安心できんわ。セバスさんより強いって、どんな化けものなんだよ。

「しかし、今日からではありません」

「え? 何故です」

「その方を雇う条件が、教育する奴隷の一定以上の戦闘能力だということ。あなたがザルダートの騎士と同等の戦闘力に達したら、その方に指導してもらうことになっています」

「そ、そうですか……」

 公爵家に条件を提示してくるって、何様なんだ、その人? 

 

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