プロローグ1
異世界転生物の常識を覆したいと思って書いてます。試しに投稿するだけなので、プロローグを投稿したらしばらく更新しないと思います。他の小説を片付けてからにしたいので。では、良かったら読んでいって下さい。
「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」という言葉がある。しかし、実際には世の中にはさまざまな身分の者がいる。大富豪や貴族、王族といった何不自由なく暮らせるものもいれば、貧民や奴隷といった人間としての権利が保障されてすらいない者もいる。現代日本には貴族も奴隷もなじみがないものだろう。でも今も世界のどこかで……いや、他の世界のどこかで、その身分の違いに苦しんでいる人がいるのだ。
「浩介! おきなさーい!」
「あと十分……」
今日は日曜日のはずだろ、何でこんな起きなきゃなんねぇんだよ。俺は布団の中にうずくまった。
「おにいちゃーん! えい」
「ごふぁ!」
ツインテールの悪魔が俺の上でタップダンスを踊ってやがる。「えい」なんて掛け声でだす威力じゃない。
「お兄ちゃん、お ・ き ・ て♡」
「だぁーるっせーな! なにが『お ・き ・ て ・♡』だ、気持ち悪い!」
「だって起きてくれないんだもん」
起きてくれなかったら人体の上でタップダンスを踊っても良いって言うのかよ。内臓をスクランブルエッグにする気か、今朝の朝食のように……これは我ながらうまい。
「今日は日曜日だろ? なんでおきなきゃならないんだよ」
「牛乳買って来てくれない?」
「……やだ」
牛乳のために俺はあばらを折られたのか?
「残業で疲れてんだ、後にしろ」
うちの家族は何でこうも俺をこき使うのかね?
「……パソコン隠しフォルダ、パスワード『△$&%#!○■』」
「はあ!? なんでそのことを……!」
「本棚の『世界大全集』の中身、麻衣さんに言っちゃおうかな?」
「分かった! 行ってくるから!」
「コンビニじゃだめだからね、スーパーだよー」
俺は急いで家を飛び出した。
「ったく、楓のやつ」
妹に言いなりになるなんて、自分が情けない。あいつはどうやって隠しフォルダのパスワードを突き止めたんだ? それに俺が精巧に作った世界大全集だって。俺のプライバシーがあいつに筒抜けだ。
小さい町工場に勤めている俺は、母と妹との三人暮らしだ。父親は楓が小さいときに肺がんで死んでしまった。それからは母は女手一つで俺たち兄妹を育ててくれた。中学を卒業した俺は、早く家計を助けたいという思いで工業高校に入った。もともと機械いじりは好きだったのもあり、卒業後はすんなりと町工場に就職した。
今年十五歳の楓は、都内有数の進学校に通いたいらしい。楓は遠慮して何処でもいいというが、できれば通わせてやりたい。
「157円になります」
少し本を立ち読みした後、牛乳を買った俺は再び帰路についた。
麻衣と出会ったのは町工場に就職して半年くらいのとき、ようやく仕事に慣れてきたときだった。
工場の前にすごく綺麗な女性がお弁当を持って覗いていた。俺は彼女に一目ぼれだった。
『あの、なにか?』
俺がそう声をかけると、彼女は少し驚いたような表情を浮かべた後、微笑んでこう言った。
『お父さんにお弁当持ってきたんです』
麻衣が工場長の娘だって聞いたときには驚いた。それから麻衣はちょくちょく顔を見せるようになった。麻衣が工場にくるたびに、俺は仕事が手に付かなくなっていた。工場の人たちは皆俺の気持ちに気づいて、いっつも俺を冷やかしにきていた。工場長でさえもニヤニヤしながら。
『幸せにしてやってくれよ』
文字にしたら文末に「w」が三つほど付いていただろう。
麻衣が顔を見せるようになって数ヶ月経ったとき、俺は意を決して彼女に告白した。
『お、俺と付き合ってください!』
心臓が破裂しそうなくらいに緊張していたのを覚えている。彼女の反応は最初に会ったときと同じだった。少し驚いたような表情を浮かべた後、頬を赤らめ優しく微笑んだ。
『はい!』
今では麻衣は母と楓にも気に入られて、俺は工場長に息子のように可愛がられている。
牛乳は低脂肪でよかったのだろうかと思いながら俺が信号で止まっていると、一匹の黒猫が道路を横断しようといていた。そこに一台のトラックが……。
「やばい!」
考える前に体が動き出していた。猫に向かって走り、あと少しで猫に手が届くといったところで、けたたましくトラックのクラクションが――――。