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第1章 「収穫祭」 (7)


 硬質な音を立てて、鞄から水晶が転がる。


 執務机の上にあの鞄の中身を広げ、レオアリスは椅子に深く腰掛けたまま、それらに視線を注いだ。

 小銭の入った財布、王都の地図、そして乳白色の一寸程度の水晶が三つ。身元が判る物は何もない。

 水晶は見かけがあの露台に落ちていたものと酷似しているものの、法術の気配は感じられなかった。

 果たして同じものなのかどうかは、今の段階では何とも言えない。


 ただ、アスタロトからの回答は早かった。

 他の四件の現場からも、同じ水晶が見付かった、と、そう伝えてきたのはつい半刻前だ。


「これも、関連してるか――?」


 分析に回して、何か判るだろうか。

 扉が叩かれ、顔を上げるとグランスレイが扉を開けた。


「上将、三刻から会議の時刻です。そろそろ総司令部へ」


 そう言いながら、グランスレイはレオアリスの手元に目を止め、怪訝そうに近付いた。


「それは?」

「上層の現場から、これと同じ物が見付かった。正確には近い物か――館の露台に、法術の触媒らしい水晶が落ちてた」


 指先で持ち上げた水晶は、背後の窓からの陽光を受け、微かに光を蓄めている。


「触媒? では、それが」

「いいや。これは今朝、例の盗難にあった荷物から出てきたんだ。その場で引き取り手が出て来なかった物だ」


 そう言って水晶を置き、レオアリスはグランスレイの意見を諮るように、その謹厳な面を見つめた。


「関わりがあると思うか?」

「――この状況では判断は難しい処ですが、引き取り手が現われなかったというのは、確かに引っ掛かりますな」


 レオアリスは頷いた。


「結果関わりが無くても、一通り調査はすべきだと思う。これは西方軍に回す。西方軍から法術院に依頼するだろう。ただ……」


 一度置いた水晶を、再び取り上げる。乳白色のそれをじっと覗き込めば、内部で屈折した柔らかな光が踊る。

 あの部屋――攫われた少女の部屋に満ちていた、柔らかな昼の光。

 憔悴し、微かな希望に縋りついた瞳。


『どうか、娘を――』


 レオアリスは顔を上げ、真っ直ぐグランスレイを見た。


「グランスレイ。今回の件、もう少し協力するつもりだ」


 初めは確認だけのつもりでいたが、あの部屋と、憔悴しきった父親の様子を見て、その気持ちは変わっていた。

 そして今手元にあるものは、事件を解く手がかりになるかもしれない。


「一つ手元に残して、少し様子を見ようと思う」

「しかし、あまり表立って関わるのは」


 当然グランスレイは懸念を示して眉を寄せた。


「判ってるさ。アヴァロン閣下へも今回の経緯をご説明した上で、アスタロトかワッツを通じて情報提供するだけに止めるよ。ただ、できる限り協力をして、できるだけ早く、無事家に返したいんだ」


 攫われた少女達がどのような状況なのか、そもそも何の目的で攫われたのか判らないが、一刻を争う事態である事は間違いない。

 グランスレイにも二人の娘がいる。レオアリスが感じた事は良く理解できたのだろう、暫く黙っていたが、ややあって頷いた。


「それがいいでしょう」


 レオアリスが緊張の解けた、ほっとした顔を見せる。

 グランスレイが是と言うか、否と言うか、それはこの立場で物事を判断する上で、大きな基準だ。何よりグランスレイの近衛師団での経験は、レオアリスの軽く十倍の年数になる。


 一方でグランスレイは、そんなレオアリスの様子を見て笑みを抑えた。

 彼が反対してもおそらく、レオアリスはこっそり行動するのだから。


「では、隊内にも事件に対する警戒を周知し、街中で不審な動きがあれば隊士達にも対応させる事にしましょう」

「有難う。――会議だったな」


 レオアリスは笑みを零すと、一旦鞄の中身を仕舞い、立ち上がった。






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