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第1章 「収穫祭」 (1)

 


 日の出から一刻ほど過ぎ、未だ陰の色濃い王城西側の頂に近く。

 軍将校の官舎の建ち並ぶ一角から、力強い羽ばたきと共に一頭の飛竜が飛び立った。


 珍しい銀の鱗を持つ、まだ幼さを感じさせる若い飛竜だ。だが羽ばたき一つで一息に上空へと()け上がる。

 銀翼が斜めから差す朝日を切り取り、遠い場所に影を落とす。


 空へと伸びる王城の尖塔の高さまで上がった銀色の飛竜は、一旦真っ直ぐ目的地のある西区域に向いかけ、そこで僅かに迷う素振りを見せた。

 長い首を巡らせ、青い瞳を問いかけるように背中に向ける。


 その背にいるのは、この若い飛竜に相応しい年頃の少年だ。まだ十五、六歳といったところ。

 襟の詰まった黒いかっちりした服を着て、背中に同じく黒の長布を纏っている。王都の住民が見れば、それが近衛師団の軍服である事がすぐ判る。


 正規軍は濃紺、近衛師団は黒。

 少年の髪と眼の色は漆黒、ただ瞳の輝きがそれを補って明るい印象を与えている。整った面は、精悍さをほんの少し、備えはじめたところだ。


「まだちょっと早いし、一巡りして行こう、ハヤテ」


 主の弾んだ声にハヤテと呼ばれた飛竜は嬉しそうに鳴き、ぐるりと縦に大きな弧を描いた。

 飛竜の荒っぽい旋回にも、背中の少年は動じる気配もなく却って楽しげな笑みを浮かべる。


「半刻くらいは飛ぶ時間があるかな? やっぱり早起きはするもんだよな」


 実を言えばほんの少し前まで寝台で丸まっていたのだが、二度寝と飛竜での遠駈けを天秤にかけ、後者を選んで跳び起きた。

 飛竜は特別だ。

 特にこの若い銀翼は僅か五ヶ月前に王から下賜されたばかりで、彼と共に遠駆けをするのが楽しくて仕方がなかった。


 少年――レオアリスは、朝日が伸びていく方向へ、手綱を繰った。

 銀翼は飛竜族の中でも特に速い翼を持つ。

 そして、軍の大将級に与えられる乗騎でもあった。



 ハヤテは広げたしなやかな翼に風を(はら)み、王都の上空を翔け出した。






 飛竜の翼を追うように、昇り始めた太陽は朝の光を空と王都へと投げる。


 グノーシス大陸の西端に位置する王国アレウス国の王都は、王城を(いただき)(いだ)く小高い山のような姿をしている。

 城下の街は緩やかな傾斜を描いて裾野を広げ、東西南北、どの方角から見ても均一な傾斜と広がりを持っていた。


 均整の取れた美しい街並が王城を取り囲んで複層的に広がる姿は、花弁を広げた艶やかな花を思わせ、その名――『美しき花弁(アル・ディ・シウム)』というその名は、国土を越え、近隣諸国にも知られていた。





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