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序章「夜行」

 


 永遠の美しさをあげよう。


 過ぎる時も、不条理も、君を損ないはしない。





 君の美しさが変わらず、





 君が









 そこにあるように――






















 夜の中に、(りん)、と鈴の()が響いた。



 寝静まった大通りに並ぶ建物の間を揺れる。

 通りの左右の建物は全て三階まで層を重ね、紅樺色の瓦屋根と乳白色の壁で統一された街並みが、月明かりにぼんやりと浮かんでいる。


 王都アル・ディ・シウムでも特に裕福な商人や国の高官達が暮らす区域――

 その一角、二階の窓の一つに赤い羽根の房が映り込み、ふわりと揺れた。



 見れば羽根は帽子に付いた房飾りだ。

 こんな静まり返った夜の通りではなく、貴族達の華やかな祝宴の場か、それともきらびやかな舞台に相応しい。

 帽子の下の顔は口元を残し、白い陶器で作られた鮮やかな色彩の仮面で被われている。


 それがちょうど、窓の中を覗き込む高さにあった。

 けれど、二階にある窓に?



 そう――

 それは背の高い、奇妙な姿をしていた。


 二階の窓までおよそ一間半はある高さに顔があり、胴体が続き、ただ下半身が異様に長い。身体はゆらゆらと、不安定に揺れている。

 膝が高い位置で曲がるのを見ればすぐにそれと判るが、おそらく身長と同じくらいはあろうかという、高足を履いているのだ。足は長い衣ですっぽりと覆われている。


 (りん)、と鈴の()が響く。帽子の房飾りに付けた鈴が揺れる。


 身体を左右に振り、拍子をつけて鈴を鳴らす。

 その音は一つではなく、二つ、三つと重なり始めた。


 振り返れば後ろにも、前にも、同じ高足を履いた人影が揺れている。

 灯りを落とした深夜の街の通りで、街燈にそこだけ鮮やかな色が照らされて過ぎる。


 長く裾を引く原色の衣裳。


 異形の列。



 リン、リン、リン……

 呼び交わすように――呼び掛けるように鈴が鳴る。

 夜の静寂(しじま)を震わせて流れるそれは、だが不思議と住人達の眠りを覚ます様子は見えなかった。


 鈴を楽の音のように振り撒き、夜の静まり返った通りを、一見不安定な高足に揺られながらゆっくりと歩く。

 足音も立てず、時には身を縛る重さなど感じさせずに飛び跳ねて。


 夜行(やぎょう)が進む。

 行進していく。


 ふと、一つの露台の前で行進が止まった。

 仮面の下の瞳が何かを確認するように瞬き、それからゆらりと身体を揺らして露台の手摺に手を付くと、その奥の窓を覗き込んだ。


 ぽう、と窓の奥でごくごく小さな光が宿る。

 リン、と鈴が鳴る。

 仮面の下の赤い唇が(あで)やかに笑う。


 吊り上がる笑みに誘われたように、露台の奥の硝子戸が開いた。

 部屋の中から、若い娘が寝間着のまま露台へと現れる。半開きの瞳は、まだ緩い眠りの中にあるようだ。


 仮面は彼女を見つめ、白い手袋と長い飾り爪をはめた手で優雅に手招いた。

 少女の手から、ぽとりと何かが落ちる。

 それは冷たく薄い水色に発光している水晶の欠片のようで、石造りの露台の床に落ちて転がった。


 ゆっくりと光が消える。




 (りん)――




 微かな鈴の音を残し、夜行の列は夜の影の中に消えた。







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