始まり(X+9話)
補習が終わり、また病院に向かえるようになった。
彼女が目覚めたらすぐに話をしたい。僕のこの悲しいという感情をぶちまけてしまいたい。そして、おかえり、と言いたい。でも彼女は目覚めない。目覚めてくれない。
彼女の病室には、タブレットPCがずっと電源をOFFにしたままで、ただイヤフォンジャックがささっている。
日が暮れるまでそこにいて、ただただ彼女だけを見ていて、僕は彼女を待っていた。
時間になって僕は立ち上がった。最初の頃は、警察呼びますよ、とか看護婦に言われてたんだけどな。笑ったように話すけど、全然笑えてはいなかった。
ひとまず、家まで音楽を聴きながら帰っていく。音楽を聞いていると、なんだか心地よく思う。そして、自分は寂しい奴だなと認識させられる。
彼女が傍らにいてくれない世界を生きることは苦痛だった。
知り合いがいる前ではうわべを取り繕って、いつも通りの自分を作っているつもりだ。僕の友達は僕のことを、いてもいなくても変わらない存在だと思っているだろうし。
気づいてはいたんだけど、気にしないようにしていたのに。
心に必要なものがなくなると、埋めるものを探すように感性が鋭くなった気がする。
こんな考え事を時々口から漏らしながら家路につく。いつの間にか家の前にいた。
家に着いたのは7時半くらいだった。もちろん、親たちはいない。靴をぬいで階段を上る。
部屋に入り、電気をつける。こんなに整ってある部屋だと、自分の部屋でないような気がしてしまう。
今日はネットで調べなければならない宿題が出ている。補習の最後に先生に言われた言葉が心に残ってしまい、やる気になってしまったのだ。スマホは文字うちが面倒だから、PCでしようと考え、それを起動させる。
久しぶりに開いたから、メールボックスに累計300通程度がたまっていた。迷惑メール対策はちゃんとしていて、普通に考えたらこれほどの量は来ない筈だ。おかしいと思い、全部開いてみることにする。
来ているのは2chの住人からだ。そう書いてある。
以前は自分が作ったパッチのデータをあるサイトで配布していた。その界隈ではそれなりに有名になった。
疑問点がある。
ネットでメールアドレスを公開した覚えがないが、何故知っているのだろう。
そう思いつつ、中件名だけを確認する。メールの本文は、文句の内容や変なリンクが貼られたもの、パッチのバージョンの更新などの要望のものであった。
パッチを貼ることを辞めてしまってからの文句が来るのは仕方がないなとは思った。
しかし、どこでアドレスを手に入れたのだろう。その疑問が払拭されない。
何だか分からないのに、むやみにリンクを開いてはいけない。しかし、その文字列に僕は見覚えがないわけではなかった。
http:// から始まり、途中にr2pgという文字を見つけた。あるゲームのタイトルだ。こんなサイトは知らないため、ネットで検索をかける。すると、大方一致するものを見つけた。
確かにこれならば、リンクのものが悪徳サイトではないことは分かった。
しかし、リンクが少し一致していない。
だからメールに貼られているリンクからとんでみることにした。
すると、さっきのサイトではあったが、ゲームへの繋がる音楽があるページだった。
美郷に久しぶりに連絡し、入ってもらうことにした。しかし、1時間程が経っても報告は入らなかった。制限時間は30分にしたと聞いていたが、報告が入らないということは、まだ抜け出せないようだ。
抜け出せないのは、条件参加者がログインしていないか、製作者がログアウトできなくしているかのどちらかだ。
美郷が帰ってきていないため、報告が聞けない。僕もゲームに参加することにした。