7話目 これ一本で三度お得です
戦闘描写、魔法詠唱・・・
どれも若干、苦手なので心の目で見て下さい
〜一年前・決闘場、オリバー視点〜
『さぁ、それでは赤コーナーからの入場です
呪われた168期生の生き残りにして、商業・職人学科の誇る最強の商人・・・
守銭奴こと、オリバー選手の入場です!!!』
声に合わせて姿を現すと、観客席からの声が一層激しくなる
観覧席からの声がさらに響き渡たった
罵声、怒声、激昂、声援、応援歌・・・
これほど混沌とした声を浴びせられるのも、この学園広しといえど俺ぐらいのものだろう。
その一部をご紹介、
「オリバー、テメェいつか殺してやる!!!」
「この守銭奴が、田舎に帰れ!!!」
「オリバー〜〜、負けるなよ〜〜、俺はお前に賭けたんだからな〜〜」
「オリバー、金貸してーーー」
うん、俺は人に好かれる人間ではないのだ
俺はただ、
人のいやがる顔を見るのが大好きで、
金を稼ぐのが大好きな、
自分の本能に忠実な極普通の商人なのだ
商人仲間や、変な奴からのウケは良いが
一般生徒達にとって俺は、ただの守銭奴にしか見えないのだろう
決闘推進促進委員会のステラは、もう一人の選手を紹介する
つーか、アイツの声は、どこから響き渡っているんだ?
『続きまして青コーナー
極東から現れたアル中の化身、生徒達から『酔剣』と恐れられる変幻自在の剣士・・・
酒乱の牝狐こと、ハルカ選手の入じょ・・・あれ?』
ステラが驚きの声を上げる
観客席もどよめき始めた
それは何故なら・・・
「よう、オリバー!
なんか知らないけどハルカさん急に倒れてな、俺が代理で出る事になった
手合わせ願うぜ!!!」
出て来たのは、つい先ほどまで一緒に居たエドガーだった・・・
『・・・え〜と、皆様、ただいま情報が入りました
本日、出場予定だったハルカ選手ですが、先ほど選手控え室で急性アルコール中毒により倒れ
保健室に緊急搬送されたとのことです!!!』
どよめきが一瞬にして静まった
別にみんな、奴の心配をしているのではない
「またか・・・」と、思っているだけだ・・・
奴、ハルカは、今までに幾度となくアルコール中毒で倒れ
保健室のお世話になっている・・・
今までに、心肺停止状態に陥ったこともあるのだとか
保険の先生からも酒を控えるよう、ドクターストップの掛けられている身なのだ
さらに悪酔いするから、数々のトラブルの元にもなって来た
あの学園長から直々に
「そろそろ自重してね♪
じゃないと退学にしちゃうぞ♪」
と、釘を刺されたほどだ
それでも酒を飲み続ける奴は、生徒達から『酒乱の牝狐』と呼ばれ恐れられている
今回の場合は恐らく、
『ひい〜っく!
久しぶりにオリバーとの決闘だぁ〜
あいつどれくらい強くなったかなぁ、楽しみだな〜っと・・・
にひひ、景気付けに少しだけグイッと・・・」
みたいなノリで飲み過ぎたに違いない
蟒蛇のような奴だが、倒れるまで飲むから非常に質の悪いアル中だ
行動理念が、酒を美味しく飲めるかどうか、なので
運営委員になったのも、自分の酒代を稼ぐためだと聞いた覚えがある
実際、アイツが委員になった年からの購買部の売り上げは跳ね上がっている(大量に消えた売り上げがあるが追求しない、どうせ酒代に消えたのだろう)
俺が深く溜め息を吐いていると、ステラが勝手に進行を始めていた
『と、言う訳ですので本日の決闘は急遽・・・
守銭奴 VS 神速の魔槍
に変更となりました。
それでは、掛け金等の払い戻しは随時開始しますので。
守銭奴 対 魔槍の賭けの受付を開始いたしますので、少々お時間を頂きます」
〜20分後〜
『大変お待たせ致しました、それでは今回の決闘を開始致します!!!』
槍を置いて、変わりに大小二つの剣と、投げナイフを数本装備
相手によって装備を変えるのは戦闘の常識だ
観客席から声が響き渡る
驚く事に、観客席からは誰一人立ち去るものがいなかったのだ。
それだけ俺とエドガーの試合が気になるのだろうか?
・・・悪い気はしないな
目の前のエドガーも笑みをこぼしている
コイツは元から目立ちたがり屋なので、このような舞台は涎ものだろう
気になる事を聞いてみた
「なぁ、エドガー
ちなみにこれに俺が勝っても、購買部は俺の物になるのか?」
「そうらしいぜ、俺はハルカさんの代理だからな
悪いが手加減なしだぜ!!!」
エドガーは自身の武器を振りかぶる
エドガーが振るうのはハルバートと呼ばれる長柄武器の一種
この武器は別名『槍斧』とも呼ばれ、槍の穂先に斧頭、その反対にピックが付けられた形状をしている。
状況に応じた戦闘を行う事ができ、購買部での売り上げも上々な商品だ
斧頭で容赦なく俺の頭を狙い何度も槍を振るう
流石に『神速の魔槍』と呼ばれるだけあり、その制度は正確無比、単調な攻撃に混ぜて来るフェイントも狡猾なもので槍術の達人である事が解る。
しかし、その速度は『神速』を名乗るには、些かお粗末なものだ
まぁ、俺レベルだから避けれてるってのもあるけどな。今の状態でも並の生徒では避けられないだろな。
そんな取り留めの無い事を考えるオリバーは、
その攻撃を常に寸でで躱す離れ業を披露している
観客席の歓声も一層増したようだ
オリバーは槍を躱し続けながら、冷静に相手を観察した
僅かにエドガーの口元が動いている・・・
読唇術など出来ないが、エドガーの身に纏う魔力の変化から、何らかの魔法詠唱であると推察できた
そして唱えたのは超初級魔法
「スピード・ブースト!!!」
自身の俊敏生を上げる肉体強化魔法を唱えた瞬間・・・
・・・エドガーは姿を消した
瞬間、背後から感じる殺気!
瞬時に身を翻し、背後からの一突きを避ける
「ちっ、流石にこの程度で仕留められてくれねぇか、残念!」
槍を構え直すその顔は、普段の人懐っこい笑みは消え、変わりに獲物を追いつめる捕食者のソレになっていた
コイツが『神速の魔槍』呼ばれる所以は、魔法を使った後のこの速度に由来する。
コイツはある種の天才なのだ、
理論上は、同様の魔法を同様の方法で使った場合、ある程度魔力を持って人間が使えばエドガーと同等の速度まで達する事は可能だろう、それほど難しい魔法ではない。しかし、それは、机上の空論といってもいい理論であった。強化された後の速度に常人の反応速度が追いつかないからだ。
しかしコイツはそれを実践する才能を持っていやがる。
騎士見習い時代、エドガーの才能に目をつけた、あのハゲの仕業だ
コイツの反射神経、反応速度、魔力コントロール能力は常人のソレを遥かに凌駕していた。
槍を構えるエドガーは一瞬、不快そうな顔をする
「いまスッゲー失礼なこと考えてただろ
顔に出てるぜオリバー・・・」
「うるせぇ、テメェみたいな天才肌を相手にするのって、非常に面倒臭いんだからな!」
オリバーは短い剣を抜く
ショートソード・・・
小振りで扱い易く、比較的安価で手に入り、サブウエポンとしてどの学科からの需要も高い武器だ
本来、戦闘とは単純にリーチの長い方が有利だ
しかしそれは、常人との戦闘に限られる
相手が頭ぶっ飛んだ天才である場合、その限りではない
ぶっちゃけ言ってしまうと、俺はコイツに槍で勝てる自信が無い
つまり、ほぼ無計画に持って来た武器なのだ
「おお! やっと武器を抜いたか!!
これで俺も本気を出せるぜ!!!」
おい・・・
このジョブ・ナイト、なに言ってるの?
武器抜いたって言っても、俺のジョブ・商人だぜ?
前衛職がなに本気だしてんの? 馬鹿じゃないの?
『気紛れな風の精霊よ、我が武器に宿り敵を切り裂け!!!』
「ウインド・ウエポン!!!」
エドガーが唱えたのは基本的な属性付与魔法、だがしかし・・・
一陣の風が吹き抜け、奴のハルバートを中心に気流が発生する。その風圧は、付与魔法のソレではない
術者であるエドガーは平然な顔をしていやがるが、この魔法も初期魔法なのにも関わらず、規格外の威力を発揮している。本来なら、小さい風の渦ができる程度だ。
あれを間近で、魔物に振るう瞬間を見た事のあるオリバーは、その危険性を理解していた
触れた瞬間に、カマイタチが発生し身体を切り刻まれるゴブリン・・・
しかも、出来た気流のお陰で、当たり判定が極めて広くなるという凶暴さ・・・
ははは、何こいつ、商人相手に本気出してんの? 馬鹿だろ、絶対!!! この化け物!!!
端か見れば、自分も化け物じみた動きで槍を躱していたことに気付かないオリバーなのだった・・・
ハルカさんが出て来ると思っていた読者様、スミマセン
ハルカさんはアル中で倒れました