3話目 人に向けて投げないで下さい
タイトルに話数付け忘れたので修正
6月24日 修正
~1年前図書室・アリシア視点~
ジェロームの話を聞くために訪れたのは、莫大な数の魔術書を蔵書する図書室の二階だ。
この図書室には、歴代の『八聖勇者』が記した日記や、禁忌に分類される書物、さらには、王都の最新ファッション誌など、ありとあらゆる書物が国中から集められている。
壁一面、3階建て地下5階、魔法により天井にまで本を納めた空間は、まさに『本の海』と評されるに相応しい建物である。
それでも『図書館』でなく『図書室』と言い張るのには理由がある
学校が創立した最初の頃は、校舎内にある一室に過ぎなかったからだ。そこから、無理な増設、増築を繰り返し今の現状に至る。
年間、数名が遭難するとか・・・
ジェロームは、本を読んでいた一年生男子を追いやり、長机を占拠すると踏ん反り返って座った
目で、レオンとアリシアに向かいに座るよう促してくる
二階には、先ほど追いやった一年生の他に、離れた机で勉強している男子生徒が二人いるだけだ
「けっ、最近の一年は先輩に席を譲る事も出来んのか」
いや、まだいっぱい机が余っているし、さっきの一年生だって『なんで、わざわざ僕の所に?!』って顔してたよ・・・
この男は、どうやら人に迷惑掛ける事を楽しんでいるようだ・・・
レオンは、なにやらジェロームを恐れているようでソワソワし始めた
(この二人の関係性が読めないな)
「ジェロームさん、アリシアさんに先ほどの話をお願いします」
「別にこの女は、オーガ倒すだけでいいだろう
それだけでも十分な報酬な筈だぜ?」
ジェロームは面倒くさそうに言うと、レオンがそれでもと促した
(オーガを狩るだけではないのか?)
ことと次第によっては、先生に突き出さなければならない
「・・・ちっ、しかたねぇな、特別に教えてやるよ
お嬢さん、『神の遺物』に興味はないか?」
神の遺物・・・
所謂、聖遺物の類いだ
その物によっては信仰の対象にもなりえる超レアアイテム
神の力の一端を宿した大量破壊兵器・・・
その全ては、例外無く強力な能力を有し、当代の所有者がその力を意のままに行使することが出来る
神の遺物には特殊な術が施されており、
どのような手段で手に入れようと構わないが、
現在の所有者が死亡しない限り、その力を次の所有者足り得る者が使用することは出来ない
現在、生徒の中で所有者は5名
教職員の中には3名
あえて教職員に含めなかった学園長が3つ所持している
そんなレアなアイテムのことをどうしてここで聞くのだろうか?
とりあえず素直に知っていると答えた
すると、ジェロームは気持ち悪い笑みを浮かべた
「まぁ、そうだろうな
入学式での学園長のはっちゃけ振りを見て、知らないと言う奴はいねぇわなwww」
私は、この学園の伝統となりつつある行事を数ヶ月前に経験したばかりだ・・・
思い出すだけでゲンナリする・・・
我が校の学園長・グラディス先生は歴代最強クラスの勇者とされている人物である
『第155期八聖勇者』の唯一の生き残りであり、ホビット(成人しても、人間族の子供ぐらいの身長までしか成長しない小柄な種族)でありながら、歴代最強と呼ばれた女性・・・
入学式
彼女の武勇伝に憧れて学園入学を決意した生徒も多い前で、彼女は本性を暴露した
「あたし、こういう行事って嫌いなのよね・・・
あっ! そうだ、みんなに好い物をみしてあげるね!」
学園長は幼い声でそう言い出した
今年で三十路となった学園長は、容姿も幼いままであった・・・
見た目は10歳前後にしか見えず、どうみてもロ・・・
・・・外見はかなり若く、人間の子供のように見える・・・
そして中身も、それに相応しいものだった・・・
最上級魔法メテオ・ストライク(本来は地面に向けて、焔と岩で出来た隕石を落下させる広範囲破壊魔法)の超大型版を花火と称して上空に打ち上げ
それを彼女が保有する『神の遺物・月女神の弓』でソレを射抜く、さて、どうなるか?
放たれた矢は、隕石に触れた瞬間に眩しい光となり爆発
隕石は粉々になり、上空には、幻想的な焔と光の波紋が広がっていた
不覚にも、見とれてしまった・・・
同じく、私の前で空を見上げていた男子が倒れるまでは・・・
学園長が作った隕石は巨大だった、裕に40メートルはあったかもしれない
それが破壊されたのだ、地面に高速で降り注ぐ焔と石の雨は容易に想像出来るだろう・・・
後の惨事は思い出したく無い
怪しいとは思っていたのだ・・・
入学式にも関わらず在校生の姿が見えず、教職員の数も少ない様に感じていた
極めつけは入学式に参加した学園長以外の教職員
彼らは何故か雨も降っていないのに傘を持っていたのだ・・・しかも、魔力コーティングされた特別製を・・・
思考を戻す、
隣ではトラウマを刺激された哀れなレオンの姿があった
何を隠そう彼こそが、入学式で私の前で倒れた男子生徒だったのだ
彼は直に保健室に搬送、数日間は空から焔をが降ってくる悪夢に唸されたとか・・・
「ギヒヒ、どうやらお前達も相当ヤバかったらしいなwww
俺の時も相当だったが・・・
あのクソババアはどうにかならんのか?」
不気味な笑い声を上げるジェロームに初めて共感してしまった
「話を戻すぜ
実はな、今回向かうオーガの巣で、神の遺物を見たという行商人が居る」
「!?」
絶句した、まさか、本当に、そんな物が?
頭の中が混乱する・・・いや、冷静になれ私、こんな男の言っていることを真に受けてどうする?
そんな凄い物がオーガの巣などに落ちている筈は無い・・・
・・・いや、でも、もしかしたら本当のことなのかも
アリシアは内心葛藤しいていた
そんなレアアイテムが都合よく落ちている訳無い、しかし、もし・・・
もし、それを手に入れることが出来れば私は・・・
邪な妄想が心を支配する
それほどまでに神の遺物が誇る能力は蠱惑的であった・・・
「・・・けっ、お嬢さんよぉ、顔がだらし無いぜwww
あんたみたいなエルフでも欲望に溺れることってあるんだな(笑)
驚きだわwww」
下衆な笑みを浮かべるジェロームを睨みつける
やはり、エルフとドワーフは生理的に嫌悪の対象同士なのだろう、そう今、実感した
「・・・話の出所は確かなのか?」
ジェロームはニヒニヒと薄汚い笑みを浮かべる
「ああ、確かだ
俺の親友に購買部運営委員の奴が居てな、そいつの知り合いが、見たと証言した商人だ
アイツルートの情報にデマは少なく・・・ゲフ!!!
なっ、なにしやがる!!!」
ジェロームの顔に百科事典がヒット
怒りに顔を赤く染め、ダルマの様になったジェロームは投げた人間を睨み付けるが・・・
一転、真っ青になった・・・
投げたのは、人間族の青年である
奇麗な黒髪に赤い瞳が印象的だが、細身な体格で、無気力そうな印象がある、ハッキリ言って弱そうだ
彼よりはジェロームのほうが、数段強そうなのだが・・・
「オ、オリバーさん、なっ、なんでこんな所にイラッシャルンデスカ」
ジェロームは音を立ててガタガタと震える
そして、横に居るレオンも恐ろしい者でも見る様な顔をしている
「あっ、あれが悪名高い・・・」
『ギロ』
「ひっ・・・」
レオンはオリバーと呼ばれた青年に睨まれ動けなくなってしまった
一体、彼は何者なのだろうか?
そして、オリバーは口を開く
「ジェローム、好いご身分になったな
同学年に相手にされないからって、下級生に相手にしてもらおうとするなよ、見苦しい」
「す、すいません!」
先ほどまでの偉そうな態度は何処行った?
ジェロームは、直立不動で背筋を伸ばし、上官の前に立つ兵士の様な姿になっていた
「しかもテメェ・・・
勝手に人の掴んだ情報漏らしてんじゃねーよ!
それに俺は何時、お前の親友になった? おい!?」
徐々に迫ってくるオリバーに、ジェロームが徐々に後退る
顔が恐怖一色だ・・・
「そもそも、あの情報は後で教員に高値で・・・」
「おい、オリバー!
神の遺物って本当か?
マジか、今直ぐとりに行こうぜ!
さぁ、速くさ!!!」
なんか、賑やかな人間族の男が割り込んで来た
「五月蝿いぞ! エドガー!!!
今、俺はご立腹なんだ、話かけんじゃねぇ」
「あわあわあわ、神速の魔槍に、雷鳴の巨人、そして守銭奴・・・
ここは何処の地獄ですか!!!」
レオンはとうとうパニックを起こして逃げ出した
あっ! この図書室は走ると・・・
『図書室ではお静かにしやがれ馬鹿共』
何処からか声が聞こえ、レオンは電撃で黒こげとなる
生きてるよね?・・・
「ちっ・・・
おいジェローム、そいつを運べ、場所を変えるぞ、話したいことは沢山あるからな・・・
そしてソコのエルフの人、悪いが付いて来てくれ、悪い話にはならないからさ」
オリバーは邪悪な笑みを浮かべた
これが私とオリバーとの出会いである