21話目 当店では酒類も販売しております
〜新入生合同研修当日、夕方、フンババの森・オリバー視点〜
落ちた・・・
後輩であるレイチェルが、トレントの群れの中に落下した
トレントの群れの奥から、レイチェルの『イテテェ・・・』という緊張感の無い声が響く
ヤバい
極めてヤバい
先に行動を開始したのは隣にいたアリシアだった、俺もその後に続く
アリシアはレイチェルの方に走り
トレントの群れの前で、大きくクレイモアを横に振りかぶる
剣に魔力が行き渡るのを感じた、攻撃系のジョブスキルを発動する前兆・・・
そしてそれは放たれた
紫の輝きを持つ、大きな魔力の斬撃
『紫光魔斬撃!!』
剣士学科の学生なら誰でも使える、『魔斬撃』というスキルを昇格させた中級スキル
特に効果は無いが、魔力により規模と威力を変える斬撃は、多数の敵を一掃出来る破壊力を持つ
まぁ、トレントの様に動きが遅い敵でなければ当てることすら難しいが・・・
爆発音とともに放たれた斬撃は、一撃で12匹のトレントを屠った
しかし、無数に群がるトレントの前に、その数は微々たる損害である
レイチェルとの距離は未だ遠く
間にはトレントが群がる・・・
アリシアの後ろから新たに現れた敵の前に滑り込む
ダガーを仕舞い、トレントの枝を左手で掴み、力一杯、引き寄せる
右手で作るのは魔力の塊
詠唱すら必要ない、純粋な魔力の爆発
『マナ・ブラスト』
下級の魔法でありながら
単純な魔力の爆発を引き起こすだけという原理で
極めれば上級魔法にまで匹敵する破壊力を有す魔法・・・
俗に無属性と評されるジャンルの魔法である
オリバーはこの無属性『にも』適性があった
単純な魔法と言うことだけあって、魔力の消費も激しいのが無属性の欠点でもある
平均以上の魔力量を有すオリバーも、たかが平均以上・・・
無属性を使いこなすことは不可能だと思われた
しかし、オリバーが一度世話になった、魔導系学科の主任教師はこう語る
「オリバーといえば、無属性」・・・と、
騎士見習い時代から磨いて来た無属性魔法・・・
他の属性魔法とは違い、バリエーションも少なく、使い勝手がいいかと問われればそうではない
威力が高過ぎる、魔力消費が高い、コントロールが難しい、等・・・
使い勝手の悪い理由は幾らでも見つけることが出来る
本職ですら、触りしか手を付けない魔法・・・それが無属性魔法だ
しかし、オリバーはソコに目をつけた
商魂逞しいというのか
彼は誰も目を付けていないことが大好きなのだ
何故なら、そこには工夫の余地が大きく残されているからだ
誰かの作った物を利用するのは、それはそれでいい
しかし、オリバーは知っている
自分が作り広めることの楽しさを、開拓することの楽しさを
それに誰もしていないことするのは
誰にも真似されない、真似させない、自分だけの強みを作ることにもなる
故にオリバーは、騎士見習い時代からこの属性に目を付けていた
マナ・ブラストは、文字通り魔力を爆発させる魔法だ
威力は高く、自分の手の近くで発動させよう物なら、手が吹っ飛ぶだろう
俺はそれをやろうとしている
訂正、普通に撃てば手が吹っ飛ぶの間違えだった
工夫を凝らせば、目的の方向に爆発させることも可能なのだ
つまり、手が吹っ飛ばなくても済む
魔力を込めるが、ただ込めるだけではない、計算し魔力に方向性を与える
前方に放出される魔力の爆発・・・
形を整えた魔力を、トレントの身体に押し当て爆発させる
前方にもの凄い勢いで吹き飛ばされるトレント
付近のトレントも巻き添えに吹き飛んだ
前方に道が開ける
アリシアがそこに向かい、剣を振るう
また、10体のトレントが宙を舞った
俺はすかさず前に出て、同じ要領で道を造る・・・
そして直にレイチェルの所まで辿り着いた
彼女は、弓を恐る恐る引いて、トレントを牽制していたのだが・・・
俺の姿を見て気が緩んだのか、弦を放した
放物線を描いて放たれる矢・・・
俺の真横を通り、後ろのトレントに突き刺さった瞬間、マナ・ブラストもビックリな大爆発が発生した
〜合同研修生徒キャンプ場、夕方・マリエル視点〜
森の奥で煙が上がっている
先程の爆発音はあれだろう・・・まったく派手だなぁ、私も混ざりたいな・・・
不穏なことを言う、ウサ耳剣士は職務中にも関わらず三色団子を肴に酒をあおっていた
『今宵は満月ぞ・・・宴じゃ、宴』
と、騒いで
他の先生に怒られたのは、つい先程のことだ
しょんぼり独り酒・・・まだ、満月も出てないが、宴は始まっていた
「マリエル先生、酒は控えて下さいと言われていたではありませんか」
声に振り返ると
そこに立っていたのは、美しいプラチナブロンドの髪を肩まで伸ばした、真面目そうな少女、・・・少女の前に『美』がつくか・・・
彼女は常に無表情なため、感情を窺い知ることは出来ない
「いやぁ〜、記憶にないなぁ〜、飲み過ぎたかなぁ・・・」
マリエルにとって、生徒中、唯一苦手とする生徒だった
「そうですか、なら、仕方ありませんね、ご一緒させて頂いても?」
この生徒から、この台詞が出るとは思えず、少し咽せた
現役の生徒会長が職務中に酒は不味いだろう、と、自分のことを棚に上げて注意しようとしたとき
少女は感情の籠らない声で告げた
「勘違いしないで下さい、私は現生徒会長です、生徒会長を務める以上、酒などにかまけている暇はありません。それに、職務中に酒を飲むなど論外です」
苦笑いしかでねぇーよ!!
「私は、一人寂しそうに酒を飲んでいる先生が可哀想だったから声を掛けたまでです
勘違いしないで頂きたい」
「・・・傷つくぞ、コラ
ウサギは悲しくなると死ぬんだぞ、コラ・・・」
涙目で訴えてみるが
「先生は獣人でしょう?
何、寝ぼけたこと言っているんですか?」
「・・・返す言葉も御座いません・・・」
少女は私の横に座り、団子を取る
酒は駄目だが、団子はいいのだろうか?
言おうと思ったが、何か言い負ける状況しか思い浮かばない・・・止めた
少女は遠くの方を見て呟く
爆発が発生した方角だ
「一人は雷属性の下級を多数と上きゅ・・・いや、中級ですか、それとスキルを何度も使ってますね
もう一人は、地属性の下級と、無属性の『マナ・ブラスト』・・・
あの爆発は違いますね、魔法による魔力の流れではありません、マナ・ブラストはもっと小規模で発生させたのでしょう・・・
一人はオリバーですか? あれほどの無属性・・・流石ですね、本職としては腹立たしいですが
もう片方はアリシアさんでしょうか?
才能に磨きが掛かっているのが解ります
今からでも、我が学科に変わって頂けないでしょうか・・・出来れば、購買部運営委員会などに席を置かず生徒会を任せたいのですが・・・
先生からも説得して頂けませんか?」
何時見ても圧巻だ
煙の上がっている場所からここまでかなり遠い筈だ
私だって、オリバーが森に入ったという情報があったからこそ、別にアリシアに頼まなくてもいいことで彼女を森に送り込んだのだ
だから、あそこで争っているのが、オリバーとアリシアということが解る
因みにフィオナは、数刻前、片腕に怪我をして戻って来ていた
生還して来ただけマシだが、まだまだ爪が甘いね・・・
少女は立ち上がった
どうしたのだろうか?
「先生に付き合うのは無理そうです
何やらピンチの様なので、私が助けに行きます
消灯時間までにはキッチリ戻りますので御心配なく
それでは・・・」
少女は大きく飛び上がった
光の翼が少女の背中に生えている・・・
光属性の上級魔法じゃないか、空間移動魔法を除けば、移動用魔法として最高位の魔法だ
それほどの急事なのだろう
・・・いや、単にオリバーが愛されているだけか、色男め・・・
私は『混沌を嫌う魔女』の異名を持つ少女・ジュリアが恭しく一礼してから飛び去るのを見送った
別に心配などしていないのだが・・・
彼女が向かうなら、修羅場と化すだろうけどねwww




