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2話目 棺桶はダブルも取り揃えております

「・・・棺桶はうちの主力商品だぞ・・・」


 一人黙々と注文書に向かうオリバーはそんな事を呟いた

 たった一人になった購買部に、その声を聞く者はいない・・・


 この学校における棺桶の使用用途は非常に多い


 通常、棺桶とは遺体を入れて埋葬するために用いる物だ

 この学校は性質上、生徒にしても教員にしても死人が出る事の多い学校だ・・・

 この間もジョブ・錬金術師の2年生が実験に失敗してこの世を去っている

 そのときも売れたのが、この棺桶だ

 この学校は、諸事情から遺体を出来るだけ丁重に扱っている

 そんなの当たり前と思われているが、普通の意味合いとは少し異なるのだ・・・


『ジョブ・死霊使い』

 

 魔術師学科の生徒の一部が選ぶ上級職の一つだ

 彼らはその名の通り、死霊を操る魔術を使う

 それは場合によっては非常に高い威力を発揮し、危険を伴う魔術でもある

 そんな魔術に必要な教材の一つが『遺体』である・・・


 数年前に起きた事件だが・・・

 ある女子生徒が死んだ、彼女の友人達は悲しみに暮れ、彼女の死を悼んだ

 しかし、一人・・・一人だけ彼女の死を納得しない女子生徒がいた

 彼女は魔術師学科に転科し、死霊使いとなり、死んだ友人の遺体を使い魔術を行った・・・・


 その後、どうなったかは諸説あるが、退学処分になったという説が有力だろう

 その事件後、生徒や教師の遺体は厳重に管理される様になり、棺桶を用いた封印術を使い、無断で遺体を使おうとする死霊使いから遺体を守る役割を持つ。

 

 しかし、死霊使いが生徒の遺体を絶対に使えないかと問われれば、そうではない

 生前に当事者が了承している場合、その限りではないのだ。

 また、死霊使い相手にも何故か売れる、売れる


 俺は何となく、注文書の端に書かれている棺桶の絵を見る、小さい頃に読んだ『悪い吸血族が潜む棺桶』とそっくりである。


 棺桶の使用用途の一つに

 吸血族の学生の日用雑貨という用途が存在する。

 

 彼らの生活において棺桶は必需品といっていい存在だ

 しかも、どうやら消耗品らしく(どうやったら消耗できる・・・)、吸血族からの取り寄せも多い


 棺桶自体の値段もポーション、エーテルの比では無い

 桁が5つ違う


 だからこそ大量の死人が出そうな行事の前は棺桶を多めに発注する

 これが、歴代運営委員会会長に代々伝わる『購買部運営~虎の巻き~』に書かれていた知識である


(別にいいじゃねぇか・・・棺桶で稼いでも・・・)


 見ず知らずの新入生が死のうが、俺には関係のない事だ

 そいつらが死んで金が入るなら、その方が利益になるのだ

 無論、死にすぎても困る、当たり前だが客が死滅しては意味が無い・・・


 オリバーはニヤリと不気味な笑みを浮かべた

 生徒達から『守銭奴』と恐れられる彼の笑みは、さながら魔王の冷笑といって差し支えなかった。

 その笑みを目の当たりにして、入店しようとしていた生徒が走り去って行ったのは別の話・・・


 いいだろうアリシア・・・

 お前に商売の何たるかを教えてやる

 顧客のニーズに応えるのだけが商人の仕事ではない、


「・・・商人がその気になれば、世界の情勢だって意のままに出来る・・・」


 彼の商人の師に叩き込まれた言葉だ

 師からの言葉の数々は、俺にとって大事な宝であり、武器だ


 今回のことだって、きっと打破してみせる


 オリバーが不適な笑みを浮かべたそのとき・・・


「なに、ニヤニヤしてんだよ・・・ 気持ち悪りぃな」


 目に前に立つ長身の男

 種族はヒューマン(人間族)で、茶色掛かった髪を短く切りそろえた、精悍な顔立ちの好青年・・・見た目はな・・・

 オリバーはあからさまに顔をしかめて見せた、こいつに関わると碌な事が無い。ただでさえ、購買部は問題だらけなのだ、これ以上問題を持ち込むな!


「なんの用だエドガー、

 お前に構っている暇はないのだがな・・・」


 エドガーと呼ばれた青年は、同年代の女子達に『可愛い』と評される人懐っこい笑みを浮かべる。

 あー、・・・気持ち悪い・・・


「別に用がなくても来ていいじゃねぇか、ここは皆の購買部だろう?

 それに俺たち親友じゃないか、そっけなくするなよな」


 俺は、体育会系の鬱陶しいノリで話すコイツが、マジ苦手だ

 断じて俺はコイツの親友などでは無い


「そういえば、あの可愛いエルフの店員さんは何処行ったんだ?

 俺、あの娘に逢うの密かに楽しみなんだけどさ」


 結局、お前は何しに来やがった!!!

 アリシアを探して店内を見回す姿は、どこか愛嬌がある


「アリシアは出て行ったぞ。

 まったく業務を放棄して出て行くとは好いご身分だよな」


 エドガーはあからさまに落胆の色を見せた

 分かりやすい奴


「なら、ここに来た理由なくなるな・・・

 オリバーよ、あまりアリシアちゃんを困らせるなよ!」


 何故、俺が悪いみたいになっている!?

 悪いのは業務を放っといて出て行ったアリシアだろう


「・・・なんで、お前みたいな奴が会長している購買部に、アリシアちゃんみたくいい娘が居るんだよ! 理不尽だ!」

「しるか! それに関しては、お前も十分ご存知の筈だが!?」


 アリシアと初めて出会った時、こいつもいたのだ


「なおさら理不尽だ!

 俺たちのスタートは一緒だった筈だ、どこで抜け駆けしやがった」


 もういい喚くな、客が来なくなる

 たたき出してくれようか・・・



 アリシアと初めて出会った時、

 俺はエドガーの課題を終わらせるため図書室に来ていた。

 エドガーの野郎、留年の危機に直面していたのだ・・・


 勇者養成学園といえど、成績が悪ければ留年する

 4年制の我が学園では、毎年の様に100人単位で留年生が生まれるのだ・・・

 エドガーは留年候補生筆頭だった


 エドガーは実技、対人戦闘、クエストにおいては主席

 しかし、筆記が壊滅的であった


 その頃、『とある事情』から二度目の二年生をしていた俺は、同学年となったコイツの勉強を見るはめに陥っていた


「あああ、もう、わけわかんねぇ!

 なんで騎士が勉強なんかせにゃならんのだ!!!」


 エドガーの喚き声が図書館に響き渡る

 図書館ではお静かにして頂きたい物だ


「騎士にだって最低限の常識は必要なんだよ!

 それに、王家の近衛兵に配属されれば、高位魔法を扱えなければならない

 国境警備隊に配属されれば他国の言葉を理解する語学力と交渉能力が必要になる、

 魔物討伐部隊に配属されると陣形や連携を頭に叩き込む所から始まる

 だからな、

 何処に行っても勉強は必須なんだよ!」

 

 『とある事情』から、騎士学科から職人学科、ジョブ・商人に転科した直後の俺は、

 まだ、エドガーより強かったし、騎士学科の勉強も教えれた


「残念だが違うぞオリバー

 俺の槍さばきは高位魔法に負けないし、

 人の国でデカい顔する奴も問答無用で槍の錆に出来る、

 魔物など俺の槍で瞬殺だ、

 問題ないな、俺は勉強などしなくても何処にでも行ける」


 ある程度、学校内で有名になると渾名を付けられることがある

 コイツ、エドガーも1年の終わり頃に渾名で呼ばれる様になった


『神速の魔槍』


 なんとも大層な渾名だが、それに相応しい実力をコイツは持っている


 そして、俺の渾名は


『守銭奴』


 間違いじゃないな、うん

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