93.勇者様、今はまだ花ひらかぬまま也!
南部に帰ってきて、そろそろ一ヶ月。
帝都を出る頃の寒さが、南部の春くらいの陽気だったから、どうしても時間が巻き戻っちゃったみたいな感じがするんだけど。
それでも、士官学校で身についた――なんて思っちゃうけど、ほんとは小っちゃい頃から変わってないんだよね。
起床のラッパが鳴る頃になると、ぱちって眼が覚めた。
窓から見える空は、まだ深い紺色のまま。
でも、そんな夜の色は、お日様の気配で少しだけ白くなって、柔らかい色に染まってる。
昔は、窓の外の明るさで大体の時間がわかったんだけど、一年のブランクって思ったより長いのかも。
はっきりした時間なんて、ちっともわかんない。
まぁ、わかんなくたって起きなきゃなんだけどね。
毛布からはみ出してるほっぺに当たる冷たい空気。
吐いた息も白くなってるから、今日も寒いんだろうな。
でも……。
「えいっ!」
気合を入れて、毛布をはねのける。
はねのけた毛布にかきまわされた冷たい空気に撫でられて、ぷるって身体が震えて。
それからすぐ、さーって広がってくちょっと痛痒いみたいな、ちくちくした感触。
粟立った肌がざらざらって邪魔するけど、そういうの我慢してぽいぽいぽいってパジャマを脱いで。
ちょっと厚手のレギンスに足を通す。
靴下と黒白しましまでもこもこなウォーマーで、足元をあっためて。
母さんお手製の腹巻。ニット地の長袖シャツの上からオフホワイトのセーター。
その上から、がばっと織物のワンピース――っぽく作ってるんだけど、要は割烹着。
これも母さんお手製。
かぶるみたいにして頭が出たら、着替えはおしまい。
鏡の前ではねはねの髪を手ぐしで整えて、廊下に出る。
「おはよう、ちび」
「ちびじゃありません!」
そしたら、小っちゃい頃とおんなじ、眼が覚めるくらい真っ青なコートを羽織ったカレカがいた。
朝の支度は私とカレカの仕事だから、ここ一ヶ月いっつもこんな感じ。
同じ時間に起きて。同じペースで暮らせる。
こういうの、ちょっと嬉しんだよね。
「今日はおれが氷落としてくる。ちびは暖炉な」
「お願いします」
「ん」
リビングに降りる階段で、軽く段取り。
一階についたら、T字型の棒を担いでカレカが外に出てくのを眼で追って。リビングに。
暖炉に薪をくべて、小さくなった火種を火箸でつつく。
ぱちぱちって火が熾きるまで五分くらい。
そしたら、今度はキッチンのオーブン。
きゅーって狭いオーブンは、暖炉より熱が高くて。だから、薪はぴちって音を立てて爆ぜた。
中の水分が抜けてこんな音がするんだって、母さんが言ってたっけ。
音がしたら、後は勝手に燃えてくはず。
オーブンの扉を閉めて、つっかけ――って言っても、裏地が毛皮であったかいサンダルを履いて外にでる。
ドアを開けたら一面の雪景色!
……っていう訳でもなくて、つらら落としが終わったカレカが、ざくざく雪かき中。
井戸まで私一人通れるかなっていう道を作ってくれてるから、てけてけ歩いて水汲み。
昔は手桶一個運ぶのがやっとで。
だから、二往復もしてたんだけど、今は両手に一個ずつ運べちゃう。
キッチンまで運んだ水はポットとお鍋に。
どっちもをコンロにかけて、バスケットを持ってもう一回外に出る。
氷室に寝かせてあるお芋と人参をぽいぽいって入れて、それから雪の下に埋まってるキャベツを……って。
ここまではいつも通りだったんだけど。
だけどね。
なんでだろ。
急に気づいちゃった。
不作だったなんて聞いてないけど、雪の中から顔を出したこのキャベツ。
なんか小っちゃい気がする。
私の身体がおっきくなったから、そう見えるのかな?
それとも、畑が小っちゃくなっちゃって。実りが悪くなっちゃったのかな?
どっちなのかわかんない。
わかんないけど、大好きだった母さんの畑がなくなっちゃいそうで。それが悲しくて、鼻の奥がつんとしてきちゃう。
「どうした?」
「……わかんないです。でも……」
なんだろ。
こういうの、ちょっぴり寂しい。
家の前を通ってる道はぴかぴかに舗装されて。自動車が行き交えるくらい大きくなって。
その向こう側。
母さんの畑があったとこは、車だまりになっちゃって。お手製の柵ももうなくなっちゃってて。
一人で歩くのがどうしても怖かった白樺の木の林もずいぶん切り拓かれて。
かわりに、帝都で見かけるみたいな街灯が、夜明け前の今も道を明るく照らしてる。
便利になったんだなって。
それだけで暮らせれば、ほんとはいいのかもって思うけど。
でも。
でもさ。
涙は出ないんだけど、鼻水はたりーって垂れてくるから、ずすってすする。
そしたら、ちょっぴり冷たくなったカレカの手が、ぐしぐしって私の髪をかき混ぜてくれた。
「さみいし、腹減ったし。とりあえず入ろう」
「はい」
すっごく冷たいカレカの手。だけど、繋いだ私の手をしっかり包んでくれて。それだけで、ちょっぴり胸があったかくなってく。
そんな気持ちの朝だった。
朝の支度が終わったら、母さんと一緒に三人でパンとスープの朝御飯を食べて。
さっき、ちょっぴり寂しい気持ちで見てた、畑の跡の車だまりに止めてあった自動車で、フフトの町に向かう。
「いってきます、母様」
「いってらっしゃい、トレ。カレカ、お願いね」
「はい」
今日から、また学校に行くんだ。
っていっても、勉強に行ってた頃とはちょっと違うんだけどね。
家の前の畑がなくなっちゃって。
運転席にいるのがリクヤさんじゃなく、カレカになって。
町まで続く街道は、ぴかぴかに舗装されてて。
色んな物が変わっちゃって。一年間、村から離れてた私だけ――もしかしたらカレカもなのかもだけど。
変わってないような気がする。
「まためんどくさい事考えてんな」
「んー。めんどくさいでしょうか……」
こういうの。
やっぱり、めんどくさいのかな。
ハンドルから離した左手に、くしゃくしゃって髪をかき混ぜられて。少し下がったその手は、ほっぺをすっと撫でてった。
くすぐったくて「んっ」って声が出て。それが、なんだかおかしくて。
だから、ようやく笑えた私に
「やっぱ、お前は笑ってる方がいい」
そう言ったカレカは。でも、じっと正面を見て運転してるばっかりで、私の方なんかちっとも見てなかった。
その後、なんだか恥ずかしくなっちゃって。カレカもだまーって運転したまま。
なんにも話せないで。
舗装された道を走ってるからだと思うけど。ちっとも揺れなかったし、あっという間に町までついちゃった。
乗物酔いになるひまもなかったよ。
「じゃあ、夕方迎えに来るから」
「はーい」
帝都にいた頃みたいにエスコートしてくれるカレカの手を握ったら、なんだか胸がときってしちゃった。
だって、見上げたカレカの顔が、なんだか知らない人みたいだったんだもん。
課業前の廊下を、木札を首にかけた小っちゃい子がわーって走ってく。
その子達を、ふんわり巻き毛のエアーデ先生――相変わらずおっきなおっぱいをふるって揺らして
「こらー、待ちなさい!」
「きゃー!」
どたどた追っかけてる。
私達もあんな感じだったんだろうなって、ちょっと懐かしくて。
だから、先にあいさつしなくちゃいけないのに
「トレちゃん!?」
「はい。お久しぶりです、エアーデ先生」
「おっきくなっちゃったねえ」
気づいて呼びかけてもらってからご挨拶。
身体もそんなにおっきくなってないけど、心もそんなでもない感じで、ごめんなさい。
エアーデ先生。
「今日から先生なんだよね」
「はい、まぁ……。でも、生徒さんは二人だけですし」
「しかも、おっきい生徒さんだもんね」
「ほんとに」
そう。
今日から、私は先生なんだ。
「また、ゆっくり話しましょ」
「はい。また」
なんだけど……けど。
ねぇ。
教室の中。
ちょっぴり高いところにある教壇から、目の前に並んでる机を見下ろす。
先生って、こんな景色見てたんだなあって、ちょっと感動したりもしたんだけど
「じゃあ、はじめましょうか。トレ先生」
「……あの、ほんとにやるんですか?」
教壇のすぐ前の机についたクレアラさんに、もっかいだけ確認。
やっぱり、これって、なんかおかしいもん。
オーシニアの言葉を教えてって、クレアラさんに言われたのは先週くらい。
読み書きできるのが私だけって不便だし。
もし、新しく勇者候補の子が生まれたら、学校の先生やってるクレアラさんなら、その子達に教えてあげられる。
そしたら、父さんも司令も。
町の商館の人とか、もっと楽ちんになるからって。
そう、言われたんだけど……。
「先生、まずは挨拶から」
「え!? あ、挨拶ですか?」
なんか、クレアラさんの方が先生みたい――っていうか、ほんとに先生だったんだけど。
それに、クレアラさんの隣の机でにこにこ笑ってるテアもさ。
ほんとになんなの?
二人とも私より年上だし、しっかりしてるし。なにより、きらっきらの美人さんで。
ちょっと低い位置にある机から見上げられるみたいな視線って、すっごい破壊力。
緊張で、鼓動がいつもより早くなってるし
「前世でも外国語の授業があったでしょ?」
「はい、まぁ……」
「あんな感じで、まずはオーシニアの言葉で挨拶するところから始めよう」
「あ、はい」
生徒に指導されちゃう先生って、あんまりなんじゃないかなあ。
でも、もう済し崩されちゃってるんだもん。
授業で使えるように、プリントも準備してきた――相変わらず高級品のはずの紙。
なのに随分、値段が安くなってたんだよなあ。
なんて。
そんなの関係ないよね!
一生懸命準備したんだし、頑張ろう!
うん。
「じゃ、じゃあ。えと、『おはようございます』」
『お、はよ、うござます』
ずっと前、転生してきた勇者候補なら、オーシニアの言葉を聞き取れるって、ほんとだったんだ。
ちょっぴり聞き取り辛いとこもあるけど、クレアラさんの発音は、思ってたより滑らか。
「じゃあ、次はテア……」
『おはよう、可愛いトレ』
「な!?」
なんか変な事言った、この人!
……じゃなくて。
なんで、オーシニアの言葉しゃべれるの!?
「あのお婆ちゃんに習ったんだ」
「けむりさん、ですか?」
「そう。文字はまだだけど、軽い挨拶とか、簡単な言葉なら、話せるよ」
あのばばあ、余計な事を!
なんて言ったら失礼なのかもしれないけど。でも、こんな不意打ちで可愛いとか言われて。
心臓どきってしたよ!
まったく。
「月に一回くらいこっちに来てたからね。剣の稽古をお願いしてて。そのついで」
「ついでって……」
きゅきぃさんとあって、言葉を覚えようって決めたのが五~六歳の頃。
要領もよくなかった――まぁ、いまもそんなによくなってない私が言うのもなんだけどさ。
でも、十四~五歳で。頭の中、器用になって。だから、覚えるスピードが速かったりって、そういうのはあるのかもって。
それでも、一年かそれくらいで、そんな風に滑らかに話せるようになっちゃうものなのかな?
私の苦労って、一体なんだったんだろ……。
「すごいね、テア。『おはよう』と『トレ』はわかったけど、なにを話したのかな?」
「それはですね……」
「私語は慎んでください!」
しれっと話そうとするテア。
悪いけど、この授業は私語厳禁ですから!
これ、鉄の掟!
っていうか、あんなの何回も言われたら、心臓と一緒に魂的ななにかが口から出ちゃうもん。
課業終了の鐘が鳴って、ようやく授業はおしまい。
普通なら、がっくりしてるのは生徒のはずなのに崩れ落ちたのは、クレアラさんでもテアでもなく。
先生役の私だった。
「お疲れ様、トレ」
「……ふぁい」
疲れてまともにしゃべれないよ。
何回も何回もおんなじ言葉を繰り返し発音するから、オーシニアの言葉が口の中に残ってる感じするし。
教科書代わりに用意した手書のレジュメも、あんまりよくできてなかったかも。
反省するとこばっか!
人に教えるのって大変なんだね。
でも、それ以上に、テアがちょいちょい恥ずかしい言葉を投げてきて。
そのせいで、心臓がぎゅーってなっちゃったのが、ぐったりの原因。
「じゃあ、明日もよろしくね。テア、車まで送ってあげて」
「あの、一人で大丈夫ですから……」
「だーめ!君はいまや南部の最重要人物なんだから」
むにーって、クレアラさんが私の鼻を押してくる。
最重要人物とか、そんなことないと思うけど。
でも、もし私の事、大事に思うんだったら、テアのお色気で心臓のどきどきが速くなって。なりすぎて、早死にするかもですよ。
その辺はいいのかな?
なんて、言える訳ないんだけどね。
「じゃあ、行ってきます」
行きたくないなあ。
なんて思いながら、テアに手を引かれて教室を出る。
外に見えるのは昔と同じ、真冬なのにお花で飾られたお庭。
それから
「トレ、お疲れ様!」
「エウレ!」
紅茶色の髪と同じ色の毛皮でおおわれた大きな耳。
門のとこまでってわかってても、エウレがお見送りに来てくれたんだって、嬉しくなっちゃった。
三人一緒に帰るのって、何年振りだろ?
ちょっと元気出てきたかも。
「寄り道してく?」
「いえ。今日はギヘテさんが帰ってくる予定なので」
「そっかー。残念」
「ぼくも」
しれっと混じってきてたけど、テアの残念は、エウレのと違う残念だよね。
授業中だけで、そういうのお腹一杯なんだから。やめてほしい。
まぁいいけどさ。
言葉を教えるくらいしか出来る事がない私と違って、ギヘテさんはあっちこっちに引っ張りだこ。
軍隊の道具を作ったりももちろんしてる。
でも、普段の生活を便利にするような品物を、作ったり。州都からくる貴族の人と会ったり。
毎日、ばたばた忙しいんだ。
一応助手のはずだけど、それっぽい仕事なんて、クリーネ王国宛にプラチナの棒――なんに使うか、よくわかんなかったな。
そういえば。
そんな発注の書類を書いたくらい。
だから、お休みでうちに来るときくらい、美味しい物を食べてもらおうって決めてる。
「この間は、トルキアさんとポトフ作ったんだっけ?」
「はい。たくさんおかわりしてました」
「ぼくも食べに行きたいな」
にこって笑うテアの視線が、ちくちくって肌に刺さる感じ。
授業の時もそうだったけど、こんな風にじっと見られると、かーってほっぺが熱くなってく。
そういうの見つけるとすぐからかってくるはずのエウレ。
でも、今日はそんな気分じゃないみたい。
「私だって、もっとトレと一緒にいたいよ」
「……エウレ」
ちょっぴり沈んだ声。
門まであと少し。また、明日会えるってわかってるけど。でも、エウレが悲しい顔してるなんて、やっぱり嫌で。
だから、テアの事、ちらって見る。
「今度、クレアラ様に頼んでみたら?」
「そうですよ。外出許可くらいなら、くれるかも!」
「そういうんじゃなくて」
軽くうなずいて、提案したテアの言葉に、ぷくってほっぺを膨らませたエウレはやっぱり可愛くて。
でも、その顔はまだ泣きそうで。
それでも、お別れのタイミング。
「トレの事、お願いしますね」
「誰に言ってんだよ」
門に横付けした車の前で待ってたカレカが、ぶっきらぼうに言い返すのを聞きながら、エウレのほっぺを撫でとく。
ぷくぷくで気持ちいい。
「じゃあ、また明日」
「はい、また!」
朝と同じように、ドアを開けてエスコートしてくれるカレカの手を借りて座席に座ると、自動車はすべるように走り出した。
帝都でのがたがたごとごとの運転。やっぱりわざとだったのかな。
ちっとも揺れない。
リビングのテーブルに広げられた、なんだかよくわかんない図面。
その上で、さりさりってペンを滑らせて。でも、その端っこでぐりぐりぐしゃぐしゃって線が乱れる。
「これじゃ、駄目だ」
「そうですね。こんな狭さじゃ乗れる人、いません」
眼の下を紫色にしたギヘテさんと、なんだかつやのないお肌のコトリさん。
二人とも、なんていうか。ものすごく疲れてるみたい。
明日はせっかくのお休みなのに、お仕事持って帰ってきちゃったんだね。
大変そう。
「なにかお手伝いしましょうか?」
「いい。なんか食べたい」
「私も、お腹が減りました」
ぐったりな感じの二人。でも、食欲はあるみたいだし、意外と元気なのかも。
その証拠に、二人の視線は図面からちっとも離れないもん。
「なにがいいですか?」
「なんか、お腹に優しそうなの。……シチューとか」
「じゃあ母様と……」
「いや。あんたが作る甘い味のがいい」
シチューだったら母さんの方が上手なのに、ギヘテさんはペンのお尻の方で私をさして、そう言い切った。
なんか、おかしいんじゃないかな。
せっかくだから、美味しいの食べたらいいのにさ。
声を出さないように。でも、口の中でぶちぶち言いながら、キッチンに。
「しかめっ面して、どうしたの?」
「私が作ったシチューが食べたいんですって。……母様が作った方が美味しいのに」
しかめっ面なんかしてないつもりだったのに、母さんに笑われて。それで、ようやく眉間にぎゅーってしわが寄ってるって気がついて。
だから、ぐにぐにっておでこの辺りをさする。
「食べたいって言われて作るの。嬉しいでしょ?」
「そう、で、しょうか……」
よくわかんない。
リビングで図面とにらめっこを続ける二人。
私の指定席になってる暖炉の前の席しか居場所がなくなっちゃったカレカが、どう思うってきかれてて。そういうの、仲間外れにされてる感じがして、ちょっと嫌で。
でも、そんな気持ちが顔に出ちゃったら、母さんに笑われちゃう。
「せっかくだから作ってあげなさい。私はお茶を出してくるから」
「手伝ってくれないんですか?」
「一緒に作るのも楽しいけど、トレの手料理がどんな味か興味あるな」
そういって母さんはリビングに行っちゃった。
ちょっとおかしんじゃないってお腹の中ぐるぐるしてても、手だけはちゃんと動く。
野菜は角切り。
鍋に油を引いて、ベーコンと一緒に炒めながら塩胡椒。たまねぎが透明になって、じんわり水分が出て来たらコンロからあげて。
そこに小麦粉を入れてぐりぐり混ぜる。
野菜とベーコンから出た出汁で、小麦粉が馴染んでぺたってして来たら、牛乳と水。
かきまぜながらコンロに戻して、火はちょっぴり弱めに。
味を見ながらもっかい塩胡椒。
トロトロになってきたら、出来上がり!
シチューを人数分のスープボウルに盛りつけたら、オーブンでパンを軽くあぶって。ふわってしてきたとこで、どかどかってバスケットに入れる。
これで、晩御飯の準備はおしまい。
我ながら、美味しそうにできたんじゃないかな?
「出来ましたー!」
うきうきしながら、おっきな声でリビングに向かって呼びかけたんだけど、誰も返事してくれなかった。
もりもりになったトレーをリビングに持ってったら、ギヘテさんもコトリさんも。
あと、母さんも図面を、じーっと見てて。
その隅っこでなんだか必死に眼で訴えかけてくるカレカがいて。
「……なにかあったんですか?」
そういうちょっと異様な空気が怖くて、声かけられるまで二秒くらい。声に反応した皆の顔が、ぎぎぎってこっち向くまで一秒。
「あんた、戦車乗ってみない?」
「はひ?」
どうしてそんな話になっちゃったの?
母さんとコトリさんはともかく、ギヘテさんは私が乗物苦手って知ってるはずなのに。
なんでそんな。
って、頭の中はてなでいっぱいなんだけど
「あの。とりあえず、シチューが冷めちゃうので、ご飯にしませんか?」
トレーを軽く持ち上げて見せたら、ギヘテさんは図面をものすごく乱暴にテーブルからどけた。
母さんが作るより薄味っていうだけのシチューは、なかなか好評。
父さんの分が残らなかったけど、まぁいいかな。
今回は、南部での暮らしのエピソードをお届けしました。
大人なのに水ぼうそうになってしまって、もうぐだぐだ。
小っちゃい頃になってて、免疫あるはずなのに三男のお土産をもらっちゃいました。
痕が残りそうで恐いです。
その上、予告通りに更新出来ないって、格好悪い展開!
なにをするべきなのか。
なにが出来るのか。
終幕のひとまとまりを、じっくり書いていきたいところです。
次回更新は2014/08/10(日)7時頃、少しずつ形になってく進路についてのエピソードを予定しています。
更新についてなにか変更があれば、活動報告にて。




