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91.青い衣は凱歌のように

 皇宮に呼び出されてからもうすぐ一ヶ月。


 暦だけでいったら、帝都は本格的な冬。

 なのに、気温は少しずつ上がって、あったかくなってきてる。


 空に蓋してたみたいな雲はもうすっかり晴れて、お日様もぴかぴか。

 ジョギングとかが気持ちいいお天気。



 なんだけど、朝方のお屋敷の空気はまだ冷たい。

 部屋の中は暖房でぽかぽかなんだけど、廊下まであったまってる訳じゃないんだよね。


 今歩いてる、玄関まで続く廊下って、人がいる部屋とほとんど面してないから、お屋敷の中で一番寒い気がする。

 きんと冷えた空気に、ぷるって身震い。


「寒いですね、トレ様」

「そうですね」


 白い息をもくもくって吐いたピエリさんに、なんとなく相槌。でも、南部だとこれくらい、まだまだなんだよね。

 私だって冷え症だし、寒いのは苦手なんだけど。


 それでも、生まれた時から帝都にいたピエリさんより、寒さに強いのかも。


「やっぱり、もう少し着込んでいった方がいいんじゃないかな」

「いえ、大丈夫です。セレさんこそ、鼻水が……」

「ほんとに!?」


 鼻の下に手をやったセレさん。

 仕事の間はぴちーってしてるんだけど、ちょっと気を抜くと子供っぽいとこが見えてくる。

 そういうの、ここ一週間くらいで気づいた。



 大人っぽいって思ってた――十歳くらい年上だし、大人だなって思ってた二人。

 けど、そんな二人を見てたら、そう簡単に大人になんかなれないのかもしれないなって思っちゃう。



 年上のピエリさんとセレさんがそんな感じなんだもん。

 南部に帰ろうって思ってるの、ジゼリオさんに話す決心がつくまで一週間。


 理由とか言い訳とか。なんだかよくわからない事、ぐるぐる悩んでたのだって、しょうがないよね?



 一生懸命考えて、ようやく話してみたら


「お前がそう考えて決めたなら、それでいい」


 って、それだけ。

 なんにも聞かれなかったし、なんにも言われなかった。


 お部屋で悶々としてた一週間って、なんだったんだろ?



 ジレの家で一番偉いジゼリオさんが頷いて。それで、私が南部に帰る話が本格的に動き出して。

 でも、いざ動き出してみたら、お屋敷の使用人さん達――部屋付きのピエリさん、セレさんはともかく。

 家令のコゼトさんまで。



 もう、皆してお土産とか着ていく服とかで大騒ぎ。

 それだけだったら、お手伝いも出来たかもなんだけど、皆、ふとしたタイミングで泣いちゃったりして。

 なにがなんだかわかんないくらいの忙しさのまま。


 けど


「準備は出来たか?」

「はい」


 出発の日を迎えた今日。


 玄関に勢揃いしてる使用人さん達。

 それから、ジゼリオさんも。ふんわり笑ってくれてる。


「教会がなにを言おうと、お前はこの家の人間だ。いつでも帰ってこい」

「ありがとうございます」


 笑ってるジゼリオさんを見るのって、何度目だろ?

 片手で数えられるくらいしか見た事ない気がする。


「トレ様は、根を詰めるところがございます。無理などなさいませぬよう」

「ありがとうございます。気をつけます。……コゼトさんも、たまにはお休みしてくださいね」


 帝都に来たばっかりの頃、長四角って思ったコゼトさんの顔。

 だけど、笑って、顎の方が少しふっくらしてる今日は、台形みたい。


 そういう表情だったら、怖いなって思わなかったのに……。


「トレ様、南部でもお元気で……」

「私達、トレ様のお帰りをお待ちしてますから」

「セレさん。ピエリさん、今度来る時は南部のお土産持ってきますね」

「はい……はいっ!」


 二人の目の端っこに、涙の粒が膨らんでる。

 聞こえない様にって思ってるのかもしれないけど。


「笑顔でお見送りって決めたでしょ!」


 って、セレさんがピエリさんの脇腹を肘でとんとんってしてるの、聞こえて。そんなの見てたら、鼻の奥がつんとしてきちゃった。


 でも、相変わらず涙は出ないんだ。


「皆さんも、お仕事お忙しいのにお見送りありがとうございます」


 お庭、厨房、洗い場。

 ジレの家のそんなに多くない使用人の皆が、玄関に集まってくれてる。


「では。いってらっしゃいませ、お嬢様」

「短い間になっちゃいましたけど、お世話になりました。いってきます!」


 来たときは、荷物と一緒に不安な気持ちをたくさん持ってきて。


 帰るときも不安な気持ちは変わんないんだけど。そんな重みなんかなくなっちゃうくらいの思い出が、私の心に残ってる。


「じゃあ、行くか」

「はい!」


 ドアを出たとこで待っててくれたカレカと手をつないで、車に乗る。

 小豆色の腕章のおかげで、今日からはカレカと隣の席に座れるんだ。


 ちっちゃいけど、嬉しい変化に口元がにへってゆるんじゃう。

 えへへ。




 南部行きの汽車が出るのは、ジレのお屋敷からはちょっぴり距離がある帝都の中央駅。

 いつもなら、着くまでで、もう乗り物酔いでげーげーなっちゃうんだけど。今日は全然。



 新しく入った運転手さん――カレカも私と一緒に南部に帰っちゃうから。近衛師団の人を引き抜いたんだって。


 酔っちゃわなかったのが不思議で。だから、荷物を下ろしてくれてるその人に、なんとなく

「あの、自動車ってもっと揺れる物じゃないんですか?」


 なんてきいてみたらさ。


「感じ方は人それぞれだと思いますが、運転によるのではないでしょうか」


 ……だって。

 じゃあ、私が酔っちゃうのって、カレカが下手糞だからって話しなんじゃ……。


「ちび。おれの腕、疑ったろ?」

「……いいえ」


 疑ったけど。

 なに?


「お館様の指示だからな!乗物と揺れに慣らせって言われたんだ」

「へぇ……。ふうん」


 わざとだったんだね。


 ……まぁ、いいけどさ。


 ほんとはよくはないけど。

 でも、南部に帰ったら自動車なんてほとんど乗んないもん。


「なんだよ、その眼は」

「……なんでもないです」

「こうしてやる!」


 なんだよ、馬鹿!

 ほっぺが伸びるでしょ!


 車の外でぎゃーぎゃー大騒ぎしてたら、運転席から笑うのが聞こえて。それでようやく、二人して居住まいを正した。


「お二人とも、よい旅を」

「ありがとうございます。……えっと」

「フレオと申します」

「ごめんなさい。フレオさんもお元気で!」


 あと、今の馬鹿みたいな私達のことは忘れちゃってください。




 野外演習で使った北門の駅もそうだったけど、停車場が何個もあってわかりにくい中央駅。


 頼りのカレカも


「あれ?」


 とか言ってるし。

 これって、完全に迷子だよね?



 乗り遅れたらどうしよう。って、ちょっと心配になってきょろきょろしてたら、紺色の制服の人影が見えた。


 士官学校はまだお休みのはずだし。お休みにまで制服でいたい人なんている訳ないって思うんだけど。

 でも、片目だと遠くって見づらいんだよ。


 えーと……って、眼を凝らしてたら


「トレ!」

「ふぎゃあ!」


 後ろから、格闘技の訓練でタックルされた時みたいなすごい衝撃が……っていうか、ほんとにタックルされてない?


 誰?


 って、首を回そうと思ったら、きりきりって締められちゃった。


 なんか、こう。

 あれだよ。


 魂的な物が口から出ちゃいそう。


「やめなって、クルセ。トレが死んじゃうでしょ」

「なに言ってんの、これくらいで!……って、あ……」


 うん。

 あのね。


 死んじゃうかどうかは別にするとしてもね。

 頸動脈を締められちゃったら、割とあっさり意識不明にはなると思うの。



 けほけほって咳して。肺の中に空気が行き渡って。それで、ようやく顔を上げたら、目の前に車椅子――ギヘテさんが作った、組み立て式の台車とおんなじタイヤがついてる。

 ぴかぴかの車椅子があって


「チ、ギリ、さん?」

「うん。久しぶり、トレ」


 ぱたぱたって振られる左手。

 反対側の袖は、中身に支えられてないからなのか、くてっとしてる。


 ほっぺが少しこけて。おっぱいもちょっぴり控えめになった――なんか、おっぱいばっかり見てるみたいであんまりだけど。

 でも、一番最初に眼が行っちゃうんだもん。


 そんな、ちょっぴりボリューム控えめになったチギリさんが、眼の前にいた。


「なにも言わないで行っちゃおうとしてたでしょ」

「……はい。あの、でも」


 会いには行ってたんだよ。

 けど、どうしても会えなかった。会わせてもらえなかったんだもん。


 なんて。

 言い訳だってわかってるけど。でも、チギリは車いすの上で笑ってて


「トレ。私を生かしてくれて、ありがとう。それだけ、言いたかったの」

「チギリさん……」


 そう言ってくれた。

 そう言って笑ってくれた。



 勝手に生きろって押しつけた私に、チギリさんは笑ってくれた。


 だから、私は……


「感動してるとこ悪いんだけど、おれ達もいるって忘れてない?」

「眼帯ちゃん。さっき、私達に気づいてたよね?」

「あ。あれ?あの……」


 わーって声かけられて、なに言おうとしてたのか忘れちゃった。


 アカテさん。

 脇腹、うりうりってするのやめて!

 まだ、肋骨くっついてないってジゼリオさんに言われてるのに!


 ダフィアくんも、頭が。

 そんなぐしぐしってしたら、とれちゃう!



 っていうか、なんでそんな皆で私を囲むの?

 ダフィアくんもアカテさんも。その彼氏のジェナくんもさ。


「おれ達だけじゃないんだぜ」

「ふへ?」


 ぴって伸びたダフィアくんの指先。

 その向こうを見たら、改札の奥に紺色の制服の人がいっぱい。


 明らかに存在感のおかしい人――だって、一人だけ熊みたいにでっかくて、変に目立つジデーアさんを先頭に。

 もう、ほぼ全員そろってるんじゃないかなってくらい。


 ……教官もいるみたいだけど、学校はいいのかな?


「すげえな、ちび」

「すごい、ですけど……。なんで?」


 こんな風に見送ってもらうなんて、絶対おかしい。

 だって、私は……。


 私は。

 右腕につけられた小豆色の腕章を握る。


 ぎゅっと、しわがよるくらい強く。


 これをつけてる私は、もう“選ばれた子”じゃないんだ。

 士官候補生でもない。


 こんな風に見送ってもらえるなんて、思ってなかったのに


「眼帯、よく聞け!」


 もう、ずいぶん聞いてなかった、お腹にびりびりって響くジデーアさんの声。

 冬に南部に行くなんて人、ほとんどいないんだけど。


 それでも帝都の中央駅だから、人は少なくなくて。ちらちらどころか、ぎょっとしてじっと見てる人もいるのに。

 それなのに、ジデーアさんは声を小さくしたりしなかった。


「我々第七校は、お前を。お前の行動を。お前が助けた命を、決して忘れない」


 そうじゃないよ!

 助けられなかった人の方が多かったんだもん。


 こんな風に感謝してもらうなんて、ほんとは駄目なのに


「総員傾注!」


 びりびりとお腹の下の方をゆすぶられて、紺色の制服の皆と合わせるみたいに、思わず靴のかかとを合わせる。

 でも、支給品のブーツと違って柔らかい踵だから、かちって音なんか全然しないし、ぶつけちゃった踵がじんじんして。


 けど、学校でいつもしてたより、ぴちって出来てるんじゃないかな?


「アーデ候補生に敬礼!」


 そこにいる、紺色の制服を着た皆が、胸に手を当てる――儀礼の時とかにする、最敬礼を私に向けた。


 制服に比べたら締めつけも緩やかで。スカートの中もふわふわで。

 だから、堅苦しい軍隊の儀礼なんかちっとも似合う訳ないのに。それでも、私も最敬礼を皆に返す。


「皆さん、お世話になりました!」


 しばらくびちーって敬礼して。

 でも、どれくらいの時間そうしてればいいのかよくわかんなくて、ちらっとカレカを見たら


「お前が歩きださなきゃ、皆辞めれねえぞ」

「え゛!?」


 そうなの?

 こんな、お見送りしたりされたりするなんて、一回も体験なかったんだもん。


 南部から来るときだって、父さんと母さん。

 あと、コトリさんくらいしかお見送りに来なかったし。



 そういう決まりだったら、もっと早く教えてくれてもいいのにさ!


 最後の最後で笑われちゃったじゃないか。

 まったくもう!




 改札にずらりと勢ぞろいした皆の間をへこへこしながら通り抜けて、乗り込むはずの車両を探してる。

 だけど。


「あれー?」

「っかしいな」


 列車の席も“授かり物”のあるなしで変わるはずなのに。


 こう。

 なんだろう?


 切符に書いてある車輌の番号がね。

 おかしいの。


 何回確かめてみても、一等車両より上の。車輌一個を全部貸し切ってる、一番上のとこに来ちゃう。



 八両もある客車を二往復もしたけど。やっぱりここなんだよね。

 おかしい。


 二人して首をかしげてたら、積み込む荷物の検収をしてる、荷運びの力夫さんと同じくらいの背丈の人が車輌から降りてきた。


「ホノマくん?」

「トレ。それに、カレカさんも」

「ん」


 野外演習の準備の時、カエルみたいなおじさんと話した時と同じ、外向きの笑い方でカレカと握手して。

 それから、ホノマくんは私の方を向いた。


「なにを探してるんだ?」

「いえ、あの……」


 鉄道の切符が間違ってたかもなんて、言い出しにくいんだけど。


 それに、あんな風に送ってもらったのに、引き返すとか馬鹿みたいだし。

 っていうか、馬鹿そのものだもん。


「ジレの家から預かってきた切符に間違いがあったみたいでさ」

「間違い、ですか?」


 ぴらってカレカが取り出した切符を受け取ったホノマくんは、くくって笑った。


「間違ってませんよ」

「でも、私……」


 右腕の小豆色の腕章をちらっと見る。


 乗れても二等客車まで。

 こんな、一等車どころか、車両一つを貸し切ったところになんて――そもそも、腕章なんかなくても、乗れない。


 そんなお金、どこにもないもん。


「おい、ハーバ。これ、注文してたのより二ミリ大きいじゃないか……って、あんたか」

「こんにちは、ギヘテさん。ご旅行ですか?」

「「え!?」」


 二人してそんな顔しなくてもいいんじゃない?

 おかしなこと言った?


「あんた、なんにも聞いてないのか?」

「なにをでしょう?」

「……なにをって」


 顔を見合わせたギヘテさんとホノマくん。それから、可哀想なものでも見たみたいに、ホノマくんは目を手で隠しちゃった。


 なに?

 どういう事?



 眼を真ん丸に見開いたギヘテさん。おんなじ形に、大きく開いた口。


 空いた口がふさがらないって、こういう感じなのかも。

 こんな顔してるギヘテさん、初めて見た……って、なんか今日は初めてが多い日だな。


「ジレのお館、なんか言ってなかった?」

「特に……」


 ちらっとカレカの方を見るけど、ふるふるって横に首を振るばっかり。


「私、近衛師団に入ったんだ」

「そう、なんですか?」

「そこも聞いてないの?」

「……ごめんなさい」


 なんとなく謝ってみたけど、なんか理不尽じゃない?


 なんも知らない。

 なんも聞いてないんだもん。


「寒冷地で運用可能な装備の開発が私の任務。んで、あんたはその助手」

「私が!?」


 いやいや。

 ほんとになんにも聞かされてない!



 おかしい。

 そんなのおかしいよ!


 機械の事とかなんもわかんないのに、助手とか。


「じゃ、じゃあ、カレカは?」

「ビッテ従士は元から南部方面軍の所属だし、なんの問題もないでしょ」


 あ、そうか。

 ……って、違う!


 そういう話じゃないよ。


「とにかく、そういう事だ。あんたの事も、あの馬鹿と話はついてる。さっさと乗って」

「えー」

「えーじゃない!ビッテ従士、入ってすぐのとこにコンパートメントがあるから、荷物はそこに」


 わーって言いきったギヘテさんが窓から首をひっこめて。今度は、中でわいわい指示を出してるのが聞こえてくる。


 それをぽかーんと眺めてた私とカレカ。

 でも、「あぁ……」ってなにかに気づいたみたいに頷いたカレカは


「貸しにしとく」


 って、ホノマの肩をとんって叩いて。それから、私が持ってたトランクを持ってくれた。


 あの、とんっていうの男同士の合図みたいなものなのかな?

 そういうの、よくわかんない。


 元男の子なのにな。

 なんでだろ。


「……じゃあ、荷物運んどく」

「あ、はい」


 よっこいしょって掛け声をかけたカレカが客車に入って。それで、ホームには私とホノマくんだけが残されちゃった。



 機関車が蒸気を吹き出す音くらいしか聞こえない。

 静かな訳じゃないけど、変な沈黙。


 そんな風にじっと見られると、この間の事、思い出して。ほっぺが熱くなってきちゃう。


「トレ。あの指輪、つけてくれてる?」

「あ、はい。あの、つけてます、よ」


 って、すぐ見せてあげたいのに、手袋がうまく外せない。


 こんな時くらい、格好よくいたいのに。どうしてうまくいかないんだろ。

 やんなっちゃう。



 ようやく外せた手袋。

 それで、ようやく出てきた右手は、手袋の後がついてへんてこだった。


 うん。

 格好悪い。



 薬指にはめた、銀の指輪を見せようと思って、手の甲をホノマくんに向けたんだけど。

 その掌にあったかいものが触れて、すいって引き上げられちゃった。


 それから、手の甲に湿ったものが触れて


「ありがとう」

「あ、あの……」


 ありがとうは私が言わなくちゃいけないのに。

 なのに、ホノマくんはそう言って、ふわって――さっきみたいな、商売用じゃなく。学校とかで見せてくれてたのと同じ。


 すごく自然に笑ってくれてた。


「次、会えたらさ」

「……はい」

「その時は……」


 その時は?

 なに?


「そろそろ時間だよ、トレ。乗って乗って!」

「あ、はい」


 言いかけてたホノマくんと私の間に、ぐいぐいーって身体を割り込ませてきたギヘテさん。


「別れ際に不意打ちなんて、駄目だ」

「いや、そんなつもりは……」


 不意打ち?

 なにかされそうだったの?


「ほら、あんたもさっさと乗るの!」

「あ、はい」


 なんだか、ちょっと眉を釣り上げて。私の手をぎゅっとつかんだギヘテさんは、最初は私の手を引っ張って。

 でも、ホノマくんがなにを言おうとしてたのかなって気になって。


 だから、ちょっと抵抗した私。

 でも、ぎゅーって客車に押し込まれちゃった。

 こういうの、どっかで見た事ある気がするけど、なんだっけ?



 まぁいいや。


「ホノマくん、また会いましょう!」

「……あぁ、また」


 一瞬言葉に詰まったみたいだったけど、にって笑ってくれたホノマくん。

 その笑顔は、すっごく素敵で。ちょっぴりどきっとして。でも、そんな笑顔も、汽車が走り出すとすぐ遠くなってった。



 さよなら、帝都。

 また会おうね。

今回は、お見送りしてもらうエピソードをお届けしました。


長々とお送りしてきた帝都編も、今回でほんとにおしまい。

次回からは、南部での日々が戻ってきます。


予定してる結末まで、あと一息。

お休みしないで走り抜けていければいいなあ。



次回更新は2014/07/24(木)7時頃、賑やかになった故郷に凱旋するエピソードを予定しています。


更新についてなにか変更があれば、活動報告にて。

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