86.赤い瞳はルビーのように
言葉にならない悲鳴を上げながら、人の形の炎――ついさっき、私を銃で撃った。紛れもなく人だった。
そのはずだったのに、その人は今、真っ赤な炎をドレスみたいに纏って踊ってる。
痛くて苦しくて、もがいて。
芋虫みたいに転がって。
それでも、火の勢いはちっとも弱くならなかった。
悲鳴が聞こえなくなるまで。
身体が動かなくなるまで。
どれくらい経ったかわかんないけど。でもきっと、銃で撃たれてた時間より長い時間。
誰も。
さっきまで、命のやり取りをしてた私達はもちろん。
燃えた人の味方のはずの、斜面で銃を構えてる――もう、銃なんか構えてる人、誰もいなくなって。
ただ、燃えてく仲間を、見てるだけ。
銃声も怒鳴り声も。
悲鳴も、もう、なにもかも聞こえなくなって、きーんって耳が痛くなるくらいの沈黙に、身体中を押さえつけられて。その場を動けない。
吹きつけてた風も、息をひそめるみたいに止まってる。
少し見上げるくらいの位置――舞台演劇を見るみたいな場所で演じられた、地獄の業火。
もし演劇なら、演目は全部お終いで。
幕が下りて、そこで悲劇は終わるのに、舞台と私達を隔ててるのは、オペラカーテンみたいに重たい沈黙だけ。
その場にいる誰も動かない。
ううん。
動けないまま過ぎた長い一瞬。
最初に動き出したのは、吹き止んでいた風。
斜面の向こう。山のてっぺんから吹き下ろしてた冷たい風と、柔らかい声音で話されるオーシニアの言葉だった。
『随分な騒ぎだね』
昨日の夜、沼で見かけた時と同じ、夜空みたいに深い紺色に染められた左右合わせの服。
吹き上がる風にはたはたと揺れる袂から袖口にかけて、真っ白な百合が染め抜かれてる。
いま、この場所でじゃなかったら、綺麗だなって思えたかもしれない。
でも、どこから降りてきたのかわからない。ただふわりと。雪の上に、足あともつけずに立ってる。
その姿は、はっきりと異様だった。
丸みのある子供っぽい顔立ちに、遠目にもわかる金色の瞳。
ライオンとか虎とか。
おっきな猛獣みたいに光るその眼が、バナさんを。それから、その周りを囲んでる銃を持った人達の顔を確かめるみたいに巡らせる。
『かざさい。なぜ、お前がここにいる。いや、なぜ来た』
『なぜ、って? それはぼくの台詞だよ。君達の役目は、山頂にいるぼくに、人を寄せ付けない事。こんなところで子供と遊んでる暇はないはずだ』
外套のフードを上げて――どぅえとさんとかきゅきぃさんみたいな顔じゃない。
ちょっと髭が濃い気がするけど、普通の顔だ。
揺れる袂が届きそうな場所にいたその人が怒鳴っても、かざさいって呼ばれたその人は、ふわっと笑って、逆に聞き返した。
関節の動きとかそんなのわからないくらいなめらかに。
でも、突き刺すみたいな鋭さで、右手に持ってたとび色の棒を、怒鳴った人に浸りと突きつけながら。
銃に比べたら、おっかなくもなんともなく見えるその棒に、髭をたくわえたいかめしい顔が引きつった。
『タリア連邦で子供を撃った報復のためだ。おれ達には、そうする理由がある!』
すぐ近くにいるのに、私のいるとこでもまだ大きく声に、かざさいは顔をしかめて。
それから、くいって顎を上げて、今度は私達を。
そして、雪の上に倒れてる雪上迷彩の人。
最後に、燃えて真っ黒になった。炭みたいに赤く熾火の残したまま転がった人を見る。
『つまらない義理で三人も命を失うなんて、馬鹿だな。君達は』
『うすらい殿の憤りは、お前にも無関係じゃないだろうが!』
突きつけられた棒を銃で押しやった髭の人に襟をつかまれても、かざさいの表情は変わらない。
口の端っこだけ上げた、嫌な笑みを浮かべたまま。押しのけられた棒をくるっと手の中でまわして、肩に担ぐ。
とび色の地金に金の象嵌――距離があるから、なにが書かれてるのかまでは見えないけど。
小ぶりの花があしらわれたその棒が、とんとんって肩の上で動いた。
リズムをとるっていうより、苛立って、それを叩きつけるみたいな強さで。
『ぼくには、関係ないね』
ちゅーしちゃいそうなくらい近い距離に詰め寄られてるのに、かざさいはそう言い切って。
そして、歯を剥き出しにして、笑った。
『ぼくは君達ほどうすらいに傾倒していない。あの、浪花節は馬鹿馬鹿しいとすら思ってるんだ』
『貴様! ――――っ』
同じ言葉を話す、味方同士のかざさいを、私には聞き取れない。
でも、はっきりとよくない意味だって想像出来る言葉で罵ったその人は、ふらふらとした足取りでかざさいから離れて。
それから、ゆっくりとかざさいの頭に向けて、銃を構えた。
でも、それを見てもかざさいは、すっと目を細めるだけ。
『撃つなら撃てばいい』
冷やかな声音でそう言うと、髭の人なんか元からいなかったんだっていうみたいに背中を向ける。
『でも、“英雄”相手に銃なんか無意味だ。無論、ぼくにも。それは、充分思い知ったんだろう?』
『そんなこと、わかってる!』
銃なんか意味ないんだって。
さっきまで、目の前で起こってたのにまだ信じられない。
でも、その嘘みたいななにか――あの、バナさんの周りにオーロラみたいに揺らめいた、赤い光の幕。
そんなの見てなかったはずなのに、かざさいは全部見てたみたいに言い切った。
それに、自分もそうなんだって……。
“英雄”――きっと、私達が“勇者候補”って言ってるのと同じ、力を持って生まれ変わってきた人。
そんな人が目の前にいるのに、かざさいは楽しげに笑ってる。
『タリア連邦の悲劇なんか、他人事さ。そんなものより君達の命の方が、ぼくにとってはよっぽど重いんだよ』
声色だけは、気遣うみたいに優しい。
でも、背中を向けられた髭の人には見えてない、その表情は、もし、鮫が笑ったらこんな感じかなってくらい、凶暴だった。
『化物の相手はぼくに任せて、退きたまえ』
視線でバナを捕えながら。でも、バナさんよりよっぽど化物っていう言葉が相応しい表情のかざさい。
髭の人は口の中でなにかつぶやいて。すごく苦しそうな顔をした後。でも、周りの人達に、手をあげて指示を出した。
それを合図に、銃を構えてた雪上迷彩の人達が、森の中を西に向かって消えてく。
その白と青とグレーのまだらの背中を見向きもしないで、かざさいはバナをきろっとにらんだ。
『さて。どれほどのものかな……』
言いながら、かざさいは右手で持った棒を左腕で支えるようにして、バナさんに向ける
棒の根本を持った右手を、口元に添えた。剣術の訓練でも杖術でも見た事ない、変な構え。
振り回すにも突くにも不自然で、不便そうな型。
でも、私には“見えて”た。
その棒から飛び出したなにかが、バナの肩を大きくえぐるのが。
「バナさん。正面、飛び道具。来ます!」
言い終わるより早く、大きな身体をぎゅっとこごめ、態勢を低くする。
スタンディングからスタートする時と同じ、前傾して、最初の一歩を強く。早く踏み出すための姿勢。
甲高い、耳に突き刺さる様な音が鳴ったのは、それとほとんど同時。
その音を追いかけるみたいに、低い姿勢のバナさんの頭上を通り過ぎたなにかが、木の幹に穴を空けた。
二十メートル以上離れてるのに、身体の表面にびりびりって衝撃が当たってくる。
私達が感じたくらいの衝撃だもん。間近にいたら、痛いくらいだったはずなのに。
そんなのなかったみたいに、縮めていた身体を発条みたいに弾いたバナさんは、かざさいとの間にあった距離を一息に詰めた。
踏込の勢いで加速した、強く握られた右手が、かざさいの身体に向かって伸ばされる。
触れただけで人を焼き尽くしたその拳。
けど、かざさいは雪を蹴立てもしない、滑る様な足さばきでその拳を回り込みながら、手に持った棒で軽く押す。
押そうとして。
でも、金属製のその棒は、バナさんの二の腕辺りに触れると真っ赤になって溶け落ちた。
雪の上に放り捨てられた、真っ赤に焼けた棒。その熱に溶かされて、真っ白な蒸気が吹き上がる。
「――!」
音にならない声で気合を入れて、前にのめった身体を強引に引き起こしたバナさんは、だあんと足を踏み込んで。
その下半身の力で上半身をひねった。
降り抜かれた右腕が鞭のようにしなって、かざさいのこめかみに伸びてく。
私の腰と同じくらいの太さの腕。
それに比べて、防御するために上げられたかざさいの両腕は細くて。さっき、銃を盾にした人みたいに、折れてちゃいそう。
そう思ったのに、バナさんの拳は、透明な壁に邪魔されるみたいに、かざさいの腕の前で一瞬止まった。
でも、それも一瞬。
勢い全部をなくせた訳じゃなくて。
細い身体が、拳に押されてあっさり空中に飛ばされちゃった。
そのはずなのに、かざさいはくるくると空中で身体をねじって、向きを変えると、なにもない空中を蹴る。
足場なんかどこにもない空中をたんたんって走り抜けて、バナの身長より高い位置まで駆け上がって
「右上、防いで!」
「おう!」
大きく振り上げられたかざさいの右足。
落下の勢いをのせて、バナさんの頭に叩きつけられる踵。
“見えてる”未来に、せりあがった右手が防ぐ形で上書きされて。だけど
「バナさん!」
防いだように“見えた”右腕は、次の瞬間、かざさいの足に触れたところから、曲がる訳ない方に向かって曲がってた。
それが“見えた”のと同時に、さっきまで吹きつけてたより強い風が、森の中を突き抜けて。
踏み固められてない雪が、吹き飛んでく。
その風は、離れた私達にも吹きつけて。
それで
「ふぶ、ぅわぁ!」
銃を撃つために立ってた私の身体は、まともにあおられた。
ぐるぐる回る視界。
投げ出されて、ぼてぼてと地面を転がって。ようやく顔を上げられたのは道から五~六メートルも吹き飛ばされてからだった。
左胸が刺されたみたいに痛い。
ほっぺの傷がひらいちゃったのか、顎から伝った血が、ぱたぱたって落ちる。
そこにはもう、雪なんかなかった。
見える先にも。
膝をついたバナさんを、少し離れた位置からかざさいが見下ろしてる。
ふいって大きく息を吸って。
それから、一歩、二歩。
腕をへし折る勢いで叩きつけた右足を引きずって、かざさいがバナさんに向かって歩いてく。
“見える”のは、どうしようもない破局。
もう一度、振り上げられた右足。蹴り砕かれるバナさんの頭。
そんなの見たくないのに、どうして“見え”ちゃうんだろう。
確定されちゃいそうな未来。
それを邪魔できそうな道具――手の中にあった銃は、もう、ない。
吹き飛ばされた時、手から零れ落ちてどっかに行っちゃってる。
もし持ってたって、弾丸を消し飛ばしてたバナさんの膝を地面につけたかざさいに届くはずなんかない。
斜面を登りかけてたダフィアくん達も。
ボルトを戻そうとしたまま、動けなくなってたホノマくんも。
銃を持ってる子は他にもいっぱいいるのに、かざさいは私達の方なんか見もしなかった。
銃なんか怖くないから。
吹き飛ばされちゃったって言っても、バナさんがいるとこまで、三十メートル切ってる。
全力疾走で十メートル、二秒。
私が“見てる”未来に手が届く可能性なんて、ゼロより低い。
でも、これ以上、かざさいをバナに近づけちゃ駄目だ!
『辞めてください!』
もう、ここから届くのは言葉だけ。
だから、お腹にぎゅっと力を入れて、思いっきり。喉が裂けたってかまうもんか!
触れただけで人を燃やしたバナさん。
そんな人の腕を折ったかざさい。
そんな訳わかんない人に向かって、自分はここだって声を上げるなんて、自分から絶望を呼んでるみたい。
でも、目の前でこれ以上人が死ぬなんて――一緒に話して、泣いたり笑ったりした人が死んじゃうなんて、もっと嫌だ!
言葉で全部解決する訳なんてない。
けど、いまこの場所で。
この瞬間に、かざさいに届くなにか。
それが言葉なら、使わなきゃ!
精一杯大きな声で、その耳に届くように。
足を止めたかざさいの眼が私を見て、きゅっと細くなった。
ついさっき目が合った銃口と同じくらい、死の気配を漂わせた金色の瞳が急に近くなる。
恐くてじっと見てたせいで、おっきく見えるんだって思ってたけど。ほんとはそれだけじゃなくて。
吹き飛ばされた私の間にあった距離の壁を、飛び石でも踏むみたいな気軽さで飛び越えたんだって気づくまで一瞬。
それだけで、空気の密度が上がったみたい。かざさいを見上げると、ぎゅっと胸の辺りが苦しくなった。
『昨日、会ったよね?』
『はい。沼で、踊ってるの、見ました』
目の前のかざさいは、遠目に見てた思ってたより小さい。
身長もカレカと同じくらい。
見上げ慣れた高さにあるはずのその顔は、石膏象みたいに白くて。冷たく、表情がなかった。
転がって、這いつくばったままだからかもだけど。
そういうの差し引いたってお釣りがくるくらい威圧的な雰囲気に、お腹の下の方が冷たくなってく。
けど、目を逸らすつもりなんかない!
『君、ぼく達の言葉をしゃべるんだね。タリアの子かい?』
『違います』
『ふうん』
別に興味なんかなかったのかもって思っちゃうくらい、熱のない相槌をうちながら、かざさいは一歩。
一歩だけ、私に向かって踏み出した。
「ちび、逃げろ!」
「くっそ……」
遠くに聞こえるカレカの声。
それから、かざさいの背中に向かって銃を構えるホノマくんが肩越しに見える。
助けようとしてくれてるんだよね。
ありがとう。
でも、これは、私の戦い。
『あの……。さっき、言ってましたよね?命の方が大事って。私達も同じです!友達が、死にそうなんです!あとを追っかけたりなんてしません。この先の村まで行きたいだけなんです』
言葉は耳に届いてる。
返事してくれてるんだもん。それだけは絶対なんだ。
けど、心まで届いてるかなんてわかんない。
だから、言いたい事、全部、一気に叩きつけた。
わーって話した私を、最初、眉を上げて。それからにいって笑って、かざさいは私を見下ろす。
それから、少しだけ。
ほんとに少しだけ間をおいて、一回、大きく頷いた。
『うん、わかった。今日は、これくらいにしとこう』
そう言って、かざさいはとんって地面をつま先で叩く。
そしたら、つま先にたたかれたその周りから、ごわっと風が立ち登った。
渦を巻いたそれは、かざさいを中心にした大きなつむじ風。
ううん。
竜巻みたいに、空に向かって伸びてく。
『次、会う時は、もう少しゆっくり話をしよう。君に、興味が湧いた』
その中から伸びた手が、血があふれ出た私のほっぺに触れた。
触られた瞬間走る、ぴりっとした痛み。
それから、触れられた気持ち悪さで、さあっと全身を駆け抜けた寒気のせいで、ぷるっと震えて。
それを見たかざさいは、くくって笑った。
ほっぺの感触が消えて。それから竜巻が空に向けて消える。
風にあおられて、生い茂ってた緑の葉が、円を描いて舞い落ちてきた。
秋より先にやってきた冬に、ようやく気づいたみたいに……。
怖かった。
でも、負けなかったよね。
ほんとは、よくわかんないけど。とにかく、私は生きてる。
だったら、自分の足で立たなくちゃ!
くたって力の抜けるお腹に力を入れて。
お尻をきゅって締めて。
生まれたばっかりの小鹿みたいに震える膝をえいって叩いて。それでようやく立ち上がったのに
「トレ、あんたって子はもう!」
「や、あの。クル、セさん、ちょっと!」
飛びついてきたクルセさんの勢いに押されて、お尻がもう一回地面に逆戻りしちゃった。
さっき、かざさいが起こした風で雪はほとんど吹き飛ばされてて。でも、湿った下草は水をたっぷり含んでて。
だから、ちょっと尻餅ついただけなのに、パンツまで水がしみてくる。
おもらししちゃったみたいで気持ち悪い。
しかも、力いっぱい抱き着いてきたクルセさんのせいで、息苦しいの。
元から力持ちだし。
そういえば、格闘技の授業とか罰掃除の時とか。男の子を締め落としたりしてたっけ……なんて。
薄くなってく意識の中で、そんなこと、ぼんやり思い出してたんだけど
「ほら。トレが死んじゃうって」
「ごめん」
けほけほって咳き込むぐらい締められてた私を助けてくれたのは、ギヘテさん。
ほんとにやばかった。
もうちょっと遅れたら、締め落とされちゃってたかも。
「あの、ありがとうございました」
「ん……」
お礼を言って、ぱんぱんってお尻を叩いて。
それで、ギヘテさんの方を見る。
そしたら、ギヘテさんも私をじっと見てて。ぱちっと目が合った。
「……クルセ、ちょっと包帯とってきてくれない?この子のほっぺたの傷、思ったより深いみたい」
「あぁ、うん」
そんなに深い傷なのかな?
別にもう、痛くないし。血も止まってる気がする。
なのに、ギヘテさんは私のほっぺたに手を当てて、抑えた。
背が高いギヘテさんは指も長いみたいで、手を当てられると左目まで隠れちゃう。
「あんた、その眼。どうした?」
「眼、ですか?」
言われるまで、ちっとも思いつかなかった。
いつも左目を隠してた眼帯が、なくなってるなんて。どうして気づかなかったんだろう?
隠しとかなきゃいけないって言われて、お風呂の時もつぶってるようにしてた左眼。
怪我して。いつのまにか色が変わってた瞳。
どうしよう……。
見られちゃった……。
耳に聞こえるくらいの勢いで、さあっと血の気が引いてくのがわかる。
「話はあとで聞く。包帯巻いてあげるから、隠しときな」
「あ、りがとう、ございます」
「いいよ。でも、気づいた子、他にもいると思う」
そう、だよね。
夢中で気づかなかったけど、誰にもみられなかったはずなんかない。
「村についても、バナかビッテから離れないで。出来れば、帝都に戻るまで一緒にいた方がいい」
「はい。あの、ギヘテさん……」
自分でも、変だって思ってる。
けど、ギヘテさんはどう思ったんだろう?
いま目の前で戦ってたバナやかざさいとは違う。
剣術を使うテアとも違う。
戦うためだけじゃない能力を持った“勇者候補”のギヘテさんの眼に、私はどんな風に映ったんだろう?
「ん?」
そう、ききたかったのに。きけなかった。
包帯を持ったクルセさんが戻ってくるまで、ギヘテはほっぺの傷を抑えててくれた。
相変わらず、ごわごわの肌触りの手袋。
でも、その内側にあるギヘテの手は、あったかくて。なのに、隠してた秘密を誰かに見られた不安が、お腹の底を冷たくする。
昨日まで、同じご飯を食べてた仲間。
さっきまで、一緒に生きたいって願ってた友達。
なのに、その視線が急に冷たくなった気がして、胸がきゅーってなっちゃった。
今回は、戦闘が決着するエピソードをお届けしました。
色々削って。二話に分割して。それでも、一万文字に届いちゃいそうな文量。
めまぐるしい動きがあるシーンが、上手に切り取れなかった手応えが……。
もう、しばらくは戦闘とかしません!
ですけど。
日常に戻るまで、もうちょっとかかります。
次回更新は2014/06/26(木)7時頃、帝都に戻ってしばらくのエピソードを予定しています。
更新についてなにか変更があれば、活動報告にて。




