表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/106

79.言葉だけじゃ届かない気持ちもある

 空を見上げると、さっきまでより少し厚みを増した雲が見える。

 その向こうにいるはずのお日様も、ちょっぴり元気がないみたい。


 そんなどんより空の下。

 馬車に荷物を積み込む皆をぼんやり見てるしかないって、なんか寂しい。



 訓練も何個かを免除されてるし、野外演習で他の学校と競争する種目にも参加しちゃ駄目。

 医局からそんな指示を受けてるのを知ってるからなんだろうけど。


 なにか手伝おうかなって声をかけても


「こっちはいいから」

「あっちで人が必要だって」

「ここはもう大丈夫」


 なんて、どこに行っても断られちゃうのって、どうなんだろ?

 気遣ってもらってるのはわかるし。嬉しいんだけど、仲間外れにされてるみたいで寂しいんだよ。



 でも、変にまとわりついてても邪魔になっちゃうかなって。

 ちょっと離れたところで、ダフィアさんが手配した人足さんの馬車に、皆が荷物を積んでくのを眺めてる。


 検品くらい一緒にやるって言ったのに、断られちゃうしさ……。

 事務仕事くらいさせてくれてもいいのにさ。


 いいけど。



 でも、ここ半年。きちきちに予定が詰まった生活をしてたせいで、なんにもないって落ち着かない。

 いがいがした気持ちで、足元の土をブーツのつま先でがりがり耕してたら


「ひまそうだな」


 すぐ後ろから、急に声をかけられちゃった。

 学校で一番おっかない――教官より、迫力ある顔のジデーアさんの声に、背中がびくぅってなって。

 それで、身体が勝手に気をつけしちゃう。


「今年はお前が仕切るかと思っていたが、意外だった」

「意外、ですか?」

「あぁ」


 隣に立ったジデーアさんの視線の先には、おっきな声出して、あちこちに指示を出してるギヘテさんがいた。


「機械にしか興味がないものだと思っていたが、いい傾向だ」

「そう、でしょうか……」


 夕焼けの中で泣いてたギヘテさんを知ってる私には、今のギヘテさんはなんだか痛々しく見えてる。

 ちょっぴり皮肉屋で。でも、いつも穏やかに笑ってたギヘテさんの方が、幸せそうだったってどうしても思っちゃう。


「気がかりがあるなら、離れずにいろ。どうにもならなくなった時、話を聞いてやるだけでいい」

「でも、そばにいて、なにも出来ないのは辛いと思います」

「そうか。だが、なにをするかはお前だけの問題だ。相手を気にする必要はない」


 への字に曲がった口元。

 不機嫌とかそういうんじゃないのは、半年も見てきたからわかってるけど。それでもジデーアさんはやっぱりおっかない。


 だって、教官と並んでても、おっさん度ではジデーアさんが圧倒的だもん。

 今朝の訓辞――ながーいお話があったんだけど。

 訓辞を話す学長より、ジデーアさんの方がよっぽど威厳があるし。言葉にも重みがある気がする。


「出発前にいい事を教えてやる」

「いい事、ですか?」

「あぁ。去年、おれ達もやった」


 もう、完全におっさんだと思ってたジデーアさんがにーって楽しそうに笑った。

 秘密のいたずらを打ち明けてくれるみたいに話してくれたのは、もう。ほんとに規則外の話で。

 そんな話をしてくれたジデーアさんは、やっぱり私達とそんなに歳が変わらない。子供みたいな人なんだって、ようやく分かった気がしたんだ。



 ジデーアさんが言ってた通り、装備課にお願いして、懐炉を一人一個だけ追加してもらっちゃった。

 お腹が冷えて大変だったなんて、ジデーアさんの口からきくなんて思わなくて。それがおかしくて、半笑いのまま。


 装備課の教官に、へらへらするなって怒られちゃったけど。ジデーアさんに比べたら、迫力不足だったかな。




 荷物の積み込みが終わって、そろそろ出発の時間。

 さっきギヘテさんに頼まれたから、荷物と一緒に駅まで行かなきゃって、支度してたんだけど


「……いや、聞いてないぞ」

「そうなんですか?」


 駅までギヘテさんと一緒に先行する予定だったホノマくんは、そんなの全然知らなかったみたい。

 びっくりしたせいなのかな。

 ショルダーバッグがずるって肩から落っこちちゃった。


「話し合いがあるって言われたんですけど」

「だったら、トレだって呼ばれるだろ。委員会なんだから」


 あー。

 確かにそうかも……。


 じゃあ、なんでかわってほしくなっちゃったんだろ?


 事前に計画書も出してるし、ほんとは急に変更するとかよくない。

 そんなの、ギヘテさんだってわかってるはずなんだけど。


「……あいつめ」


 そう口の中で行ったホノマくんは、制帽を深くかぶりなおした。

 帽子のつばが作る陰のせいでよく見えないけど。ほっぺがちょっぴり赤い気がする。

 具合でも悪いのかな?


 それとも、怒ってるとか?


 まぁ、急な予定変更だし、怒るのも仕方ないんだろうけどさ。

 ほどほどにしときなよ。


 なんて、言わないけどね。


「とりあえず、出発しましょう」

「あ。あぁ……」


 車列の一番先頭に止まってる馬車――他の馬車が二頭立てなのに、この馬車だけ四頭立てで。


 だからなのかな。

 他の馬車の荷台より、もりもりに荷物が積みこまれた荷台には隙間なんかちょっぴり。

 その小さな隙間にお尻をねじ込んで座らなきゃいけない。


 ……ねじ込みたい。

 …ねじ込もうとしたんだけど。



 あー。

 太ったのかなあ。

 大丈夫かなって思ったんだけど。


 全然無理だった。


「背負ってる荷物降ろしてから乗ればいいんじゃないか?」

「あ。あぁ、そうですよね」


 太ってなかった!

 よかった。




 駅に向かって、ぽくぽくと馬車は進む。

 荷台の後ろに載ってるから、後ろにずらーっと並ぶ馬車が見えるんだけど、十代以上並んでるのってやっぱりすごい眺め。


 お店も市場もまだ空いてない時間だから、道が空いてて、止まったり走ったりしないのも嬉しいんだけど。


「やっぱり狭かったですね」

「そうだな」


 でも、隣に座るホノマくんが、足を突っ張って荷物がずれてくるのを抑えてて。

 すっごい苦しそうなんだよね。



 ……はじめて学校に行ったとき、カレカもこんな感じになってたっけ。


 って、浸ってる場合じゃなかった!


「降りて場所開けますか?」

「いや、いい。そこにいた方がいい」


 いや、狭いでしょって!

 もぢもぢ身体を動かして、場所を開けようとするんだけど


「動くなって!」

「え。いえ、でも……」

「荷物が落ちる!」


 お尻が隙間を埋める支えみたいになってるらしくて、動こうとしたら荷物がぐらぐら。

 それを支えようとしたホノマくんが、どんどん不自然な姿勢になってく。



 身長に比例するみたいに長いホノマくんの腕が、私の頭をかばってくれてる。

 ちょっと首を動かすだけでそれがわかって。だから、もぢもぢって元の位置にお尻を戻したんだけど


「いいか、トレ。駅に着くまで、動かないでくれ」

「……わかりました」


 それで荷物が動いちゃったみたいで、ホノマくんの顔が真っ赤になっちゃった。

 そんなに力入れないと落ちちゃうのかな。


 ほんとにごめんね。




 そんな感じで、馬車の上は緊張感でいっぱいだったんだけど。気がついたら目の前が真っ暗になってて。

 あちこちでがさがさごとごと音がして。


 でも、寮のベッドで上の段に寝てるクルセさんの酷い寝相に比べたら全然静か。

 だから、それくらいじゃ起きられなくて……。



……ん?

起きられない?


 あー!


「ごめんなさい、寝てました!」


 なんで横になっちゃってるんだ、私!

 口の横が変な感じなのって、よだれなんじゃないの?


 かっこわる!


「お。お目覚めだ」

「あの、ごめんなさい。検品しなくちゃいけなかったのに……」

「もう終わるよ」


 荷物を降ろし終わったのか。馬車のすぐ脇で煙草を吸ってた人足さんが、笑いながらホノマくんを指さした。

 私が持ってたはずの荷物のリストを片手に、がりがりって音がしそうな勢いで、数を書き込んでる。


 荷物が落っこちそうなの支えてもらったのに、居眠りしちゃうとか。

 ほんとに、なにやってんだろ。


「あの、ごめんなさい。寝ちゃって……」

「ちょっと待って。……ん。いや、まぁ。気にしなくていいよ」


 検品中なのに話しかけたの、もしかしたら駄目だったかも。


 ちょっと変な話し方になって。書類を書くのやめて。でも、ホノマくんは振り返ってくれなかった。



 ……怒ってるのかな。

 っていうか、怒ってるよなあ。


 私なら怒るもん。


 でも、それはそれとして


「あの。ホノマくん、お手洗いってどこですか?」

「あ゛?」


 はっきりと、濁点が目に見えるくらいおっきくて濁った声を上げて、ホノマくんはようやく私を振り向いた。


 怒ってるのかもしれないけど、こっちはこっちで緊急事態なんだってば!

 だから、もっかいきく。


「お手洗い。どこですか?」

「あ、あっち」

「ありがとうございます!」


 持ってたペンを列車の後ろの方――改札の方に向けて、ホノマくんはそっぽ向いた。


 起きたと思ったらトイレかよ!とか思ってるんだろうけど、しょうがないでしょ!

 生理現象なんだからさ!


 でも、そんなの抗議してる余裕なんかない。


 とにかく、トイレにダッシュ!

 しちゃいけないんだった。


 安静安静……って、もう!

 なんて不便!


 漏れちゃうかも!




 なんとか間に合って、ふいって一息ついて。

 でも、落ち着いてみたら、一安心なんて言ってられる状況じゃないって気がついちゃった。



 基本的に単線。州都とか大きな駅でも十四本しか停車場がなかった南部の駅。


 なのに、帝都の北にある支線の駅なのに二十本以上停車場があるんだよね。


 だから、ね。

 どこに戻っていいのかわかんなくなっちゃったんですよ。



 転車台とか炭水塔とか。

 とにかく、いろんな設備がある駅の中。

 しかも、こんなに朝早いのに、列車が出たり入ったりしてて。あちこちで吹き上がる真っ白な蒸気が遠くを見とおさせてくれない。


 案内表示もあるにはあるんだけど、煤で汚れちゃってて読めないんだもん。

 もう、どこ行っていいのかわかんないよ!



 荷物の番をしなくちゃいけないのに居眠りして。眼が覚めたと思ったらおしっこ。

 それだけでも子供みたいなのに、迷子って……。


 もう、最悪!



 ホノマくんと一緒にいた停車場は十一番。

 端っこが一番だったら、順番に数えて、候補を絞れるんだけど。


 なんかね、一番端っこの停車場の案内表示が八番なの。

 訳わかんない!



 忙しそうに働いてる人足さんを呼び止めるのも悪いし――っていうより、呼んでもきいてくれなかったんだけど。


 朝早い時間だからなのか、普通のお客さんもいなくて。だから、どうにかしてホノマくんのところに戻らなきゃって思うんだけど。


 思ってるのに、どうしても目が離せない景色が目の前に広がってた。


 もし、駅にある全部の機械が止まって。ごーごーっていう音が聞こえなかったら、おっきな絵なんだって思っちゃう。


 そんな景色。



 機関車が吐き出した真っ白な蒸気。

 その中に浮かび上がる、夏の空みたいに深い藍色。


 教会服と同じ左右合わせの服の足元が、風に吹かれた蒸気と一緒に波みたいにはためいてる。

 それから、腰までまっすぐに伸びた黒い髪も。


 風に流された髪の隙間から、銀糸で刺繍された藤の花が覗くのがすごく綺麗で。

 そんな服の色と真逆の、日に焼けた肌は、白と灰色ばっかりの駅の中で鮮やかに映える。



 その人は家畜を運ぶための貨車に向かって話しかけてた。

 ここにいる誰にも、きっとわからない。


 でも、私にはわかる言葉。


『……雪が降るのが合図だ』


 盗み聞きなんか、ほんとはしたくない。


 でも、その人の声は、機関車の大きな音にも。時々なる汽笛の音よりもはっきりと。

 なのに、耳障りなんかじゃない大きさで、私に届いたから。


 だから、思わず声が出ちゃった。


『あの……』


 何ヶ月も話さなかった言葉。

 だから、ちゃんと発音できてるのか不安で。でも、話しかけないでなんていられなくて。

 そのせいで、思ってたより小さかった私の声。


 けど、そんな小さな声にその人は振り向いた。


 金色の瞳は射殺そうとするみたいに鋭くて。見据えられた途端、つきっと胸が痛くなる。

 それでも、目を逸らす事なんかできなかった。


『お前、おれの言葉がわかるのか?』


 きっと、返事なんか期待されてないって、すぐわかるくらい冷たく言って、その人はすっと目を細める。


 銃を打つとき、狙いを定める時みたいに。目を凝らすっていうのとはちょっと違う。


『私は……』


 なにか話さなくちゃって思うのに。喉の辺りで言葉がつっかえちゃう。

 どうして思うように話せないんだろう?



 きっと、ホノマくんよりずっと背が高いその人が足を踏み出すのが見えた。


 こつって硬い足音。

 革靴の足音とは全然違う。


 もっともっと硬い――南部ではよく見たけど、帝都では誰も履いてる人なんかいなかった、木靴の足音が少しずつ近づいてくる。


 南部の人なのかな?

 でも、私が生まれるまで何年も“選ばれた子”が生まれてないって、デアルタさんが言ってた。


 帝都の決まり事で、“授かり物”がある人が身に着ける鈍い色の服を、この人は着てない。


 だったら、この人はなんなの?


『どこの出だ?』


 声も出せないままの私の目の前に、その人は立った。


 学校で一番背が高いホノマくんより少し高いところから、金色の目が私を見下ろす。

 きっと、こんなタイミングじゃなかったら、格好いい人だって思ったんだろうけど。


 でも、今は……。

 この瞬間に、そんな余裕なんかない。


 ある訳なかった。


『どこの出だと、きいている』

「う、あ……ぅ」


 だって、この人は。この人が私に向けてるのは、きっと殺意とか害意とか。

 そんな、硬くて冷たいなにかだから。



 逃げなくちゃ!


 気持ちはそう言ってるのに、身体が動かない。

 どきどきって耳元でうるさく鳴り響く心臓の音は、警報みたいに早くなる。


『……さっきの、どういう事ですか?』

『やはり言葉がわかるのだな』


 つかえたみたいになってた喉から、ようやく絞り出した言葉。

 それを聞いたその人は、表情をなくした。


 ぴりぴりって肌に電気が走るみたいに、あちこちがしびれる感覚。



 あの日。

 デアルタさんが殺されたあの日、向けられたのと同じ視線。


 それが怖くて、腰に佩いてるはずのサーベルを探す。

 でも、そこにあるはずのサーベルの柄はちっともつかめなかった。



 だって、今、腰にあるのって練習用の剣じゃない。

 ほんとに。


 誰かに振り下ろしたら、怪我させて。もしかしたら、そのまま殺しちゃうかもしれない。

 本物の剣なんだもん!


『もう一度聞く。どこの出だ』

『……南部から来ました。あの、さっきの。雪が降ったらって、なんの話なんですか?』

『……ルザリアか』


 話がかみ合わない。

 通じてる気はするのに、どうして答えてくれないの?


 緊張感のせいなのか、じくじくと胸の辺りが痛くなってく。



 ようやく捕まえたサーベルの柄。なのに、震えて力が入らない手で引き抜くなんて出来なかった。



 訓練では散々繰り返してきたはずなのに。


 金属の――違う。

 引き抜いた瞬間に、自分の手に握られるのが命の重みなんだってわかってるから。


 だから、抜けないんだ。



 命の重みが怖くて、手が動かない。


 情けなくて格好悪くても。それでも。

 それでも、口は動くはずだから。私は聞かなきゃいけない。

 聞きださなきゃいけない。


『さっきの、雪が降るまでって。なんなんですか!?』

『……言葉どおりの意味だ』


 声は冷たいのに、視線だけで私を焼き尽くそうとするみたいに、金色の瞳が熱を帯びてる。



 怖い。

 この人は、怖い人だ。


 男の人だからとか。

 よくわからない人だからとか。


 それこそ、クイナの気味の悪い笑い方に感じる嫌な気持ちとも違う。


『いいか。雪が降るのが合図だ……』


 貨車に向かって話しかけてたのとは、別の温度の言葉に、お腹の奥の方がきゅーって冷えてく。


 怖いからそんな風に感じるの?


 ううん。

 それだけじゃない。


 足元にわだかまってた蒸気がいつの間にか消えてる。

 言葉だけじゃなく、いつの間にか本当に下がった温度のせいで、私とその人の周りから、蒸気が水に戻ってく。


『お前、名前は?』

『トレ。トレ・アーデ、です。貴方は?』

『うすらい』


 急に冷やされた水が、足元で凍りついた。

 ズボンとか靴下とか。身に着けてるものも、湿気を吸い込んでたあちこちに霜が降りる。


『いいか、トレ・アーデ。雪が降る前に、その忌まわしい服を脱いで、ルザリアに。……故郷に帰れ』

『どうしてですか?』


 ほっぺたとか鼻とか。

 冷たくなりすぎて、逆に火傷みたいに熱い。


『町に……。帝都になにをするつもりなんですか?帝都には友達がいます。お世話になった人だって、たくさんいます。もうすぐ赤ちゃんを産む友達だっているんです!』


 平和に過ごしてる。

 戦争なんか知らないで暮らしてる人だってたくさんいるのに。そんな町になにかするなんて。

 そんなの、させない!



 まだ重いままの手にぎゅっと力を入れる。

 革製のサーベルの鞘は、気味が悪いくらいつるっとした手触りで。その鞘の上にある柄は重くて。


 それでも、この人をそのままにしちゃいけないって。その気持ちだけで、サーベルを引き抜く。


 練習用の剣よりも鋭くて、少しだけ重いしゃりんっていう音。

 それから、重たい手応え。


 その重みを全部声にのせるつもりで、お腹に力を入れた。


『なにを。するつもり、なんですか!』


 足を伝うみたいに這い上がってくる冷気はどんどん冷たくなって。うすらいの視線も、同じように冷たさを増す。


 お尻にぎゅっと力を入れてなきゃ、立ってられないくらいの威圧感。


 だけど、退くつもりなんか。


 ない!


『ルザリアの出なら、お前も知っているはずだ。同法を取り戻す。手段は選ばん』

『私達がしてた事、知ってるんですよね?なら、どうして……』


 どうして、南部に行かないの?


 奴隷の皆を助けるために、帝都になにかする必要なんてない。

 誰かを巻き込む必要なんて……。


『先に町を焼いたのは、お前と同じ服を着た連中だ』


 私が引き抜いたサーベルを見つめるうすらいの声が、一際冷たくなった。

 心臓を打ち抜きそうなくらい強い視線は、サーベルに映ってるなにか――それは、もしかしたらうすらい自身かもしれないけど。


 少なくとも、その冷たさは、私以外の誰かに向けられてる。


『いいか。雪が降るまでだ』


 そういって、うすらいは私に背中を向けた

 背中から切りつけてくるかもしれないって思ってもおかしくないのに。

 裾に向かって銀糸で刺繍された藤の花が無防備に翻る。


『待ってください!』


 走り出そうとした。

 足は踏み出した。


 そのはずなのに。


 でも、次の一歩が踏み出せなかった。



 あの日のクイナがそうだったみたいに、その後姿が機関車の吐き出す蒸気の中に消えてくのが見えたから。



 あの背中にサーベルを振り下ろしたら、それでなにかが解決したなんて思わない。

 オーシニアの言葉を覚えた私に、戦争を終わらせるのは言葉だってデアルタさんは言ってくれた。



 その言葉が本当だって、私は今でも信じてるから。

 けど、その言葉が届かないとき、どうすればいいのか。

 私は知らなかった。



 答えを知ってたはずの人も、もう、この世界にはいないんだ。

今回は、久しぶりに異文化コミュニケーションするエピソードをお届けしました。


遠足気分が一転、明確な敵意を持った人と出会って、緊迫する一幕。

なんていう場面を意図してたんですけど、コントラストが強すぎて、書いてる私自身大混乱なとこがあります。


他にも、なろうコンの結果が気になりすぎて、手が動かなくなったり。

いろいろ大変でした。



これを書いてる今は、まだどんな結果になってるかわからないんですけど。お話はちゃんと続きます。

これからもおつきあい頂けたら嬉しいです。



次回更新は2014/05/02(金)7時頃、どうしようって相談したりのエピソードを予定しています。


更新についてなにか変更があれば、活動報告にて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ