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58.お風呂掃除なんかしたくない

 帝都に来てから二ヶ月。

 礼儀作法に紋章学。

 怪我とか病気とか、いろんな事情で遅れてた勉強の復習も始まったし、刺繍――繕いものとかじゃなくて、絵を糸で作る奴ね。

 そんなのも始まっちゃって、生活はぎちぎち。


 でも、コゼトさんに叱られる事も少しずつ減って、ご飯時にばちばち叩かれたりも少なくなってきた。



 様になってきたってカレカも褒めてくれたしね。

 頑張ってるって自分でも思うんだ。

 ……思うんだけど。



「腰が引けています。もっと身体を寄せる!」

「む、無理です」

「何故ですか?」


 何故って……怖いからだよ!

 なんて言えなくて、ステップの切れ目でえいって身体をはがした。


 背中の辺りがぞわぞわするのがちっとも治まらない。

 ダンスって、なんで男女のペアでやるの!?


 練習に使ってるちっちゃなホールは音がこもるのか、遅れたタイミングで響く、コゼトさんの抑えた声の余韻がわあんと聞こえてきて。

 そんなのも怖くて、なんかもう立ち上がるのもやんなっちゃう。

 膝の震えも止まらないし、身体を動かして出たあったかい汗じゃなく。

 冷たい汗がぶわって出てきて、身体の芯まで冷えてく感じ。


 前世の記憶なんて、もうずいぶん曖昧で。なのに、怖い思いだけは鮮明で。

 だからもう、自分でもどうしていいのかわかんなくて。


 でも、「前世が……」なんて話できないし、相談する相手もいなくて――テアとかに相談しとけばよかったのかもだけど。


 だから、ダンスの練習でパートナーを入れて……ってなって。カレカを練習台にした時は大丈夫で。

 それがコゼトさんに代わった途端、こんなだもん。

 そりゃあ、怒るよね。



 でもさ。


「男の人が、怖いんです」

「……怖い?」


 目を吊り上げて見下ろしてくるコゼトさんが怖くて、なんとかして言葉を絞り出した。

 もう、これ以上話せる理由なんかないし。なにより、見下ろされるのが怖くて、ぎゅっと自分の身体を抱きしめた。


 頭の上でふうって大きなため息が聞こえる。

 そういうのも。もう、なにもかもが怖い。


 こんな風にがちがちになっちゃうなんてしばらくなかったのに、なんでこんな風になっちゃうんだろう?

 でも、思い当たる理由なんかなんにもない。


 ただ、ほんとに。もう、ほんとに急に、鮮明になっただけなんだよ。

 コゼトさんがどうこうとかじゃ、絶対ないはずなんだけど。

 でも、駄目だった。


「トレ様。士官学校に行ったら格闘技の訓練もございます。軍隊に入ったなら、実戦でそれを使う事もあるでしょう。どうなさるおつもりですか?」


 そんなの知らない。

 そう言ってやりたかったけど、口を開こうとしたら、歯の根が合わなくてかちかちって音がして。


 その音が聞こえたのか、コゼトさんはもう一回大きなため息をついた。


 自分でも、こんなになるなんておかしいって思うんだけど。どうしてもふるえが止まらない。


「……今日はここまでにいたしましょう」

「ごめんなさい」




 こんこんって扉を叩く。

 もう、夜もかなり深い。いつもならベッドに入って眠ってる時間なんだけど。

 でも、ジゼリオさんに呼び出されて、お部屋の前まで来てる。


「入れ」

「失礼します」


 扉を開けるとランプやランタンみたいに、なにかが燃えて出る赤みを帯びた明るさじゃなくて。

 なんていえばいいんだろう?

 黄色味を帯びた、薄い明かりが部屋を照らしてるのが見えた。


 電球……なの、かな?


 その光の向こう。

 ぴちっと整理された机の向こう――デアルタさんは、あんまり整理しない人だったな。

そういうとこはやっぱりお兄さんなんだなって、ちょっと感心しちゃうくらい綺麗な机の向こう。

 白に近い金色の髪を後ろになでつけたジゼリオさん。

 それから、足ぐみをして座ったそのすぐ左後ろにコゼトさんが立ってた。


「なにをぼんやりしてる」

「ごめんなさい。明かりが、珍しくて……」


 鋭すぎる言葉と視線が突き刺さるみたいで、なんとなく目を逸らしちゃう。

 デアルタさんもそうだったし、ジゼリオさんもそう。兄弟そろっておっかないんだよ。


「電燈が珍しいか」

「はい。南部にはありませんでしたから……」


 答えた私に「そうか」ってだけ言って、ジゼリオさんは書類に視線を落とした。


 あ。

 書類を読むときは片眼鏡をするんだね。


 って、どうでもいい。

 そんなの。


「ダンスの練習でトラブルがあったそうだな」

「はい。あの……」

「理由は話さなくてもいい」


 ごまかしでもなんでも、それっぽい理由を話さないとって、頭の中ぐるぐる回してたのに、ジゼリオさんはばっさり。


「明日から、一日一度。乗合バスで皇宮まで来るように」

「え?えと……」

「その時、なるべく男の近くに立て。慣れろ」


 書類からほとんど目を上げないで、びしっと言い切って。その後は、質問も意見も許してくれない雰囲気を出し始めちゃった。


 でも、きいとかないと。


「あの。コゼトさんから一人で外出してはいけないって言われてます。それに、用事もなく皇宮に行けません」

「……コゼト」

「部屋づきか、ビッテ従士を護衛に連れてお出かけください。皇宮の門衛にはすでに話が通っております」


 もう、全部決まった話なんですね。


「他になにかあるか?」

「ありません」

「さがっていい」


 にべもないって、きっとこういうのを言うんだろうな。

 デアルタさんも「お前に払う礼儀はない!」とか、とりつくしまない話してたし。ジレの家の流儀なのかな。


「あの、理由とか。きかないんですか?」

「興味がない。

 お前の恐怖はお前だけのものだ。

 きいても解消できん。

 出来るとすれば、せいぜい我慢出来るよう訓練をほどこすくらいのものだ。

 ……こいつにストレス耐性が高くなる食事をとらせろ」


 後半はもう、私の方を見もしないで、コゼトさんにご飯について話して。しまいには


「もう、用事はない。出ていけ」


 だって。

 ……お医者さんのはずなんだけど、こんなで患者さんは怒ったりしないのかな?

 この人。患者さんに「お大事に」って、言わない気がする。



 そんな訳で、日中の予定が増えて。それなのに、生活には少し余裕が出来た。

 時間は決められてるけど、寄り道とかできるしね。


 心に余裕が出来たからなのか。それとも、少しずつ慣れてきたのか、ちょっと触られるくらいなら大丈夫になってきた。

 ……様な気もする。


 少なくとも、コゼトさんとダンスの練習は出来るようになったもん。

 こういうのも練習だよね。


 食事にすっぱいものがやたらと出るようになった気がするけど、それは気のせい。

 かな?




 新しい予定が組み込まれても、生活はそんなに変わらなくて。

 その中のちょっとした変化。


 それは、週に一回。

 一日、全部の練習とかをお休みにしてもらえる、休日がもらえるようになったこと。

 ……なんだけど。


 まぁ、特にお出かけしたい先がある訳でもなく。というか


「……暑いですね」

「何度目だ、ちび。もうあきらめろ……」


 もう、ちびとか言われても反論する気力も起きないくらい、暑いの!

 お出かけなんてちっともしたくならない。


 前世でも、盆地は暑いって習った気がするけど、なんていうかね。

 暑すぎ!


 夏でもそんなに暑くならない。

 というより、私なんて、南部の夏は肌寒いとか思ってたくらいなんだけどさ。


 その私が音を上げてるんだもん。

 ぜーったい暑い!

 暑すぎ!



 まだ、春になったばっかりのはずなのに、窓から見えるご近所のお屋敷の屋根とか、逃げ水が見えるしね。



 でも、部屋の隅に立ってるピエリさんの顔色はちっとも変わんない。


 いつもと変わらないお仕着せ。

 長袖で、襟元もぴっちり。リボンタイもぴちーっ!

 ふくらはぎまであるスカートもしわ一つなくて、きっちりがきっちりをきて歩いてるみたい。


 襟を開けて、シャツもだらしなく出しちゃってるカレカにも見習ってほしいよ!


 私だって、だらーんでずるーんにしたらいくらかましなのにさ。

 男の子はいいよね。

 まったくもう!


 ピエリさんにしたって、自分が大丈夫だからって、私も大丈夫だって思ってない!?

 なんなの、この襟元ぴっちりのブラウスは!


「それにしても暑いな」

「何度目ですか。いい加減にしてください……まったく」

「……暑い、ですね」


 うんうん。

 ピエリさんも暑いですよね。


 って、え!?




 その人は目の前で、ふーって大きくため息をついた。

 目の下にくっきりと刻まれたくまと、ため息は絶対無関係じゃない。

 とは思うんだけど、口から出た言葉をなかったことになんてできないし。もう、なんとなく、首をかしげて笑っといた。


 あははは。


 これ、うまく笑えてるのかな?

 ほっぺが強張ってる気がするけど……。



 まぁでもね。

 そりゃ、ため息も出ると思うの。

 せっかくのお休み――しかも、きっと徹夜明けに、こんな用件で話をきかされたら、私だったら怒るもん。

 ……後の祭りだけど。


「暑いからなんとかしろ……と。この、おれに」


 なんか、さっき窓から見えたお屋敷の屋根みたいな逃げ水がジゼリオさんから立ち上ってるみたいに見えるよ。

 目つきだっていつもより剣呑な感じだし、切りつけるみたいな威圧感だし。


「夜勤明けの。しかも、訳の分からん馬鹿が訳の分からんものを食って、腹を下したとかで徹夜をしてきた、この、おれ様に。お前は、そういう訳だな、ちび助よ」


 怒ってるっていうのをとっくに通り越しちゃった感じのジゼリオさんは、一言一言。

 もう、不必要なくらいに区切って話す。



 なんていうか、本当にごめんなさい!

 忘れてもらっていいんで!


 そう思っても、どう考えてもそれで解決する未来が思い浮かばなかった。

 ……未来なんて、見るまでもない時ってあるよね。

 今がそう!


「コゼト。お前も暑いと思うか?」

「……いかばかりかは」

「……お前もか」


 いつもならつきっきりでいろんなことを教えてくれるコゼトさん。

 だけど、今日はそういうの全部お休みの日。


 だから、ジゼリオさんの後ろに控えてる。

 ……控えてるんだけど、その立派な長身が、ジゼリオさんから少しだけ。ほんとに少しだけだけど、じりっと距離をとった。


 コゼトさんの額には、じんわりと浮かぶ汗。

 暑さのせいなのか、それとも別のなにかなのか。


 よくわかんないけど、ジゼリオさんの不機嫌のおかげで部屋の温度がきゅーって下がってる気がする。


「わかった、ちび助。お前らには素敵な仕事をくれてやる」

「仕事、ですか?」

「あぁ。暑いときは、水浴び……そうだな、コゼト?」


 問いかけられて、「は」って短く返事したコゼトさんと目が合った。

 ばちっと。


 その眼がはっきりと私を責めてたけど。

 ……けどさ、もう、どうしようもないでしょ!


 ジゼリオさんの顔が怖くて十分涼しくなりました……なんて言ったら、頭からぼりぼりかじられちゃうかも。

 そう思いながら、徹底的な愛想笑いを浮かべて


「あ、ありがとうございましたー!」


 お礼を言いながら、逃げるみたいに部屋を出た。





 んでね。

 確かに涼しいとは思うの。


 水浴びっちゃあ水浴びだもん。


 けどさ。


「トレ様、手が止まってます」

「あぁ。えぇ、はい」


 お風呂掃除させられるなんて思わなかったよ。

 入る時は広くて気持ちいいお風呂だけど、掃除するってなるとその広さのせいで、ものすごく大変。


 ちなみに、カレカは庭師のおじさん達と噴水を掃除するって言ってたけど、どっちが大変なのかなあ。

 ……さておき。



 海綿でごしごし湯船の中を洗う。

 前世で使ってたみたいな便利な洗剤とかなくて、サイカチの実と砥石をこまかーく砕いた粉でごしごし。

 台所の掃除で使った記憶しかないけど。 これ、手がひりひりしてくるんだよなあ……。


 汚れが落ちるか落ちないかのところで、水をどばどばかけて流してく。


 ピエリさんもセレさんも。今日は私も、いつも身体を洗ってもらう時に二人が着るガーゼの服を着てるし、別に濡れてもいいはずなんだけど。


 なんていうか。

 濡れて浮き出してくる身体のラインとか、ボリュームとかさ……。


「戦力差は甚大」

「……やめてください」


 ぴとーって背中にくっついたセレさんが耳元でそんな――まぁ、事実だし。実際そう思ってたけどさ。


 セレさんもピエリさんももう大人だし。

 私はまだまだ伸びしろがある子供。……のはず。

 多分。

 きっと!


「セレはまたおっぱい大きくなったのね」

「ふふん」


 ……泣いてない!


「それにしても、広いお風呂ですよね」

「そうでしょうか?」


 ごしごしやってたら腰が痛くなってきたから、立ち上がってんーって伸びをしながらちょっとお話って思ったんだけど。

 ピエリさんはごしごししながら、ちっとも表情を変えないで答えた。


 んー。

 帝都ではこれくらいが普通なのかな?


 でも、貴族のお屋敷が多い地域はともかく。

 帝都って人が多いせいか、高い建物に何件もお家が入ってるっていう――アパートとか言えばいいのかな?

 そういうお家ばっかりで、西の市に行く途中に見たところだと、この浴室だけでワンフロアぐらいのところもあったもん。


 珍しくない訳ない。

 よね?


「ここまで本格的に浴室をしつらえるのは珍しいよ」

「そうかしら?」

「よそのお屋敷で働いたときは、シャワーしかなかったし」

「湯屋代を惜しんでるとか、そういうこと?」

「湯屋、ですか?」

「お金をとってお風呂を使わせてくれるお店があるんだよ」


 お休みの日に呼び出されてお風呂掃除をさせられてるせいなのか、セレさんの口調はいつもと全然違う。

 ……巻き込んでごめんね。


 それにしても、帝都には銭湯なんかあるんだ。

 行ってみたいなあ。

 富士山の絵とかかいてあるのかなあ……。



 前世の記憶をひっくり返しても、銭湯なんて全然だもん。

 行きたい!


「水が高いし、湯屋代も馬鹿にならないもんね」

「高いんですか?」

「私共も終い湯を使わせてもらっていますし、私も値段までは……」

「湯屋なんて贅沢だし、お風呂だって贅沢品だよ!

 月一で十分!

 身体をぬぐうだけで充分でしょ」

「……まぁ、セレみたいに思う使用人も少なくないのですが、健康維持のために入れってお館様が言うので」


 おしゃべりがにぎやかになっちゃったからなのか、手を休めたピエリさんは、眉をハの字にして、ちょっと困った風に笑った。


 この分だと、命令みたいに突きつけただけで、どうしてっていうとこ話してないんだろうな……。

 喧々してるくせに周りの人に気を使って、その理由を話さない。


 そういうとこ、やっぱり兄弟だ。

 でも、お風呂が月一っていうのは、一般的なの?


 帝都ではお水が高いってセレさんは言ってるし、南部に皆が疎開してきたのだって渇水が原因だった。


 お水が貴重品っていうのはあるのかもだけど。

 南部では井戸からくみ出したらいくらでも使えたし、お水を売ってるお店なんかどこにもなかった。


 渇水になるくらい暑いから、お風呂掃除なんかする羽目になったんだって思うと、お水の価値が……ていうのも、簡単には言えないってわかるけど。

 それでお金を儲けられるって、不思議。


 っていうか、お水が高いのはわかるけど、こんなに暑いのに、お風呂はあんまり入らないとか、ものすごく気持ち悪い気がする。


「あの。月に一度って、気持ち悪くないですか?」

「トレ様。お風呂はという話で、身体は拭いておりますよ」

「うんうん。それに、トレ様もこっち来たばっかりの頃は魚のにおいしたし。南部だってよっぽどでしょ」

「私、やっぱり臭かったんですか!?」


 思わずおっきな声が出ちゃった。


 っていうか、二人で含み笑いとかすんな!

 もう、恥かしくて、顔がかーって暑くなっちゃう!


 でも、エウレはいい匂いって言ってたもん。

 他の人に魚臭いって言われた事なんて一回もないし。

 ……言えなかっただけなのかもだけど。


 うあー!

 もう、なにこれ!


「あの、いまは大丈夫ですよ」

「……余計傷つきました」


 良かれと思ったのかもだけど、ピエリさん。

 それは追い打ちです。



「あー、あー。でもね、私が小さい頃は、湯あみは身体に毒って言われてたんだよ」

「そうなんですか?」

「そういう方もありましたね」


 明らかに強引に話を変えようとするセレさんに、あっさり乗っかる私。

 ピエリさんもするするーって乗っかってきた。



 それにしても、お風呂が身体に悪いってどういう事なんだろ?


 セレさんが言うには、帝都には古くから水道があって。

 でも、その水源のレキサ大河は流域の人がいろんなものを流しちゃうのもあって、伝染病を運んだりするものだったんだって。

 だから、水道の水は一度沸かさないと使えなくて。お風呂もぐらぐらに沸かしちゃう訳にいかないから、そういう伝染病とか、お風呂からはやっちゃうこともあったんだとか。


 水道の有無は南部と違うけど、沸かさないとっていうのは変わらないだなあ。

 なんて、変な関心してる私を置いてきぼりに、セレさんとピエリさんの話は続いてて


「うちのお館様と、近衛の技術廠にいる……なんてったっけ?」

「バラオ様ですか?」

「そう、そのバラオっていう人が、水を消毒する機械を作ったの。もう、大発明!

 その機械を設置した家では、水道から出る水をそのまま使えるんだよ。

 でも、その機械がすごく高くて……」

「だから、湯屋の組合があったりして大儲けなんです」

「はぁ……。すごいお話ですね」


 もう、なにがすごいって、そういうのを発明した人が身近にいるっていう事なんだけど。まぁでもね。

 その人が私達にお風呂を掃除させてるんだから、手放しに感心できない気持ちなんだけどさ。


 お金持ちのお家では、お風呂掃除をした水もおトイレも。

 あと、お台所のお水とかそういうのも、お薬である程度綺麗にしてから、ちょっと遠くにまとめて溜めといて。

 少しずつ川に戻してるんだって。


 セレさんの実家とか、一般的なお家には汲み取り屋さんが来て処理をするんだとか。

 うーん。


「汲み取り屋さんが出来る前なんて、ぜーんぶ窓から捨ててたけどね」

「うぇ。ばっちい……」

「だから、雨が降ると皇宮の周りのお堀なんて、もうものすごいにおいだったそうですよ」


 窪地だから、全部流れてっちゃうとか、そういう事なのかな?

 でも、先々週、実際に見てきた皇宮のお堀はすっごく綺麗だったけど、そんな時代があったんだ。


 ……さりげなく、話題がにおいの話に戻ってる気がするのは気にしない様にしよう。

 うん。


「まぁ、じいちゃんのお父さんくらいの頃の話みたいだけどね」

「そうですね。昔の話です」


 昔の話って妙に強調された気がするのは、きっと気のせい。

 被害妄想だ!

 ……って、なんかそうじゃない気もするけど。


 でも、本で読んだ帝都のイメージとずいぶん違うんだなあ。

 それとも、他の地域では窓からうんちとか捨てるのは今も普通で、南部だけ違ったのかな。


 デアルタさんもジゼリオさんも、すごい人なんだってなんとなく感じてたけど。

 そういうなんとなくが、ちょっぴり近づいてきた気がする。


「んで、トレ様のにおいなんだけど……」

「うぎゃー!もう、辞めてください!」


 なんて、三人でわいわいおしゃべりしてたら完全に手が止まっちゃってて。

 掃除が終わったって報告しに行ったら、コゼトさんのおでこの右側辺りに、くっきり見えるくらいの青筋が浮かんでたんだけど……。


 まぁ、こんな休日もあるよね。

今回は、御屋敷で過ごすふわんとした一日のエピソードをお届けしました。

ちょっと長患いで更新が遅くなってしまって、続きを待ってもらえていたとしたら申し訳なかったです。



相変わらず男の人が怖い主人公と、それをなんとか慣らそうとする後見人。

それと、帝都のお水事情。


そんなのをからめて、一日のお話にしてみました。


今までそういうシーンが少なかったのもあると思うんですが、何人かでわーって話すシーンって、書いててちょっと面白かったです。

でも、ぎこちない感じもあるので、次の機会はもっと頑張りたいなあって思いました。



次回更新は2013/11/21(木)7時頃、士官学校に入学する日のエピソードを予定しています。

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