48.壁の花でも綺麗かな
お屋敷の主の性格のせいもあると思うけど、人がいない部屋の明かりなんてまずつけないし、いつもなら暗い建物の中が煌々と明るい。
人がいない部屋のランプにも入れられた火は、少しずつ暗くなってきた夜の暗さに溶け込むみたいに、お庭を淡く照らしてる。
普段なら人がいないところ――例えば、西の外れにあるこの尖塔の周りもそうなんだけど。
そこから母屋に伸びる廊下も、オレンジ色の光に照らされてる。
練習のために何度か履いてはいたけど。それでも、かかとの高いブーツは少し歩きにくくて、長い廊下をゆっくり歩く。
「トレ様、足痛いんですか?」
「あ、いえ。ちょっと歩きにくいだけで……」
お祝いだからって買ってもらったかかとの高いブーツは格好良くて。だけど、転んだらかかととかとれちゃいそうで、どうしてもそろそろ歩きになっちゃうんだよね。
でも、あんまりゆっくり過ぎたのか、顔を上げたらコトリさんが心配そうに手を差し伸べてくれてた。
なんか、ごめんなさい。
パーティ会場はいつかオーシニア人の皆を尋問した食堂よりずっと向こう側。
お屋敷の西の外れに来る人なんかいるはずないって思ってたのに、母屋の方から歩いてきてる人がいた。
こんなとこでもたもたしてたら、ご馳走食べ損なっちゃうのに。……って、私も人の事言えないんだけど。
黒地のところどころに紫色をあしらった、すごく仕立てのいい詰襟を着たその人のぴんと伸びた背筋は、けむりさん――クリーネ王国の王様のかわりに来てくれたお婆ちゃんね。
あの、格好いいお婆ちゃんとなんだか似てる。
私がこのお屋敷に来るきっかけになったあの人達と同じ、真っ黒い制服を着た人を二人従えてるところが、なんだかちょっぴり違うかな。
あの人は、付き従う人なんかいなくても偉そうだったもん。
かつかつと規則正しい足音のままのその人がすれ違おうとすると、コトリさんがすごく丁寧なお辞儀――敬礼とかじゃなく、きちんとした礼をする。
それを見て、私もフィテリさんから習った形でお辞儀。
全然知らない人だけど、偉い人だったら(私以外の誰かが)困るしね。
「お前がデアルタの秘蔵っ子か」
「どちら様ですか?」
でも、そのまま行っちゃうのかと思ったその人は気軽く声をかけてきた。
父さんとかデアルタさんに比べると少し声が高くて、ちゃらちゃらした感じのしゃべり方もなんとなく好きになれなくて。
だから、ぶっきらぼうに返した私に、その人の後ろに控える黒服の人達が、なんだかぴりついた感じになって。それに反応したコトリさんも頭は軽く下げたままだけど、ものすごく嫌な雰囲気に。
私のせいで一触即発。なの!?
でも、その立派な格好の男の人はにーって笑って、私の手を取ると、跪いてキスをした。
ぞわって嫌な感触が上ってくるけど、お腹に力を入れて我慢。きっと、ぶん殴ったりしちゃ絶対いけない人みたいだし。
そもそも、人をぶん殴ったりしちゃいけないんだけど。そこは、ね。
「淑女に名乗りもせずすまなかった。私はハセン・ヴィ・エザリナ、御名をたまわれまいか。麗しい姫君よ」
「トレ・アーデと申します。不躾な物言いでした。ごめんなさい」
「いや、いいのだ」
名乗りを上げたハセンさんは、わははっていう感じで豪快に笑って、そのまま立ち上がると私の頭をぽんぽんって軽く叩いた。
それで、びりびりとした雰囲気が少し和らいでく。
「トレか。良い名だ」
「……ありがとうございます」
ほんとはあんまり嬉しくない。
嬉しくないけど、きっと身分の高い人だし、お礼は最低限の礼儀かなって。
「トレブリア神の様に、アマレの子とアトリアの子を仲立ちするに足る娘と聞いているぞ」
「はぁ……」
なんだか難しい事言ったハセンさんは、なにが楽しいのかにこにこと笑って、うんうん一人でうなずいてた。
ちょっと不気味。
そういう全部が気持ち悪くて、居心地も悪くて、コトリをちらっと見る。
でも、コトリさんはびしっとお辞儀をしたまま。
そんなにかしこまらなきゃいけない理由って、なんなんだろう?
「では、トレ。後程、宴席で会おう」
「ハセンさんもパーティに出席するんですか?」
「なんだ、お前。そう嫌そうな顔をするな」
だって、なんか胡散臭いんだもん。
嫌そうなんじゃなくて、はっきりと嫌なんだけど、ハセンさんには伝わらなかったみたい。
せっかくの晴れの日だし、変な人と関わりたくないのにな……。
「では、私はこの先に用があるのでな。失礼する」
「この先って、塔と納屋くらいしかありませんよ?」
「歩き回って時間つぶしをしているのだ。気にせずともよい」
にかっと笑うとハセンは私達の横を通り過ぎ……。
過ぎさまにお尻ぎゅむってされたんだけど!?
「よい子を産む、いい尻だ!」
なに、あのおっさん!
なにか投げつけてやりたい!
でも、手元にはなんにもなくて、気持ちだけきーってなって
「変態親父!」
って、おっきな背中に声だけたたきつけてやった。
一緒に歩いてるいかつい人達が「ぷっ」って噴き出してるのが聞こえたけど、上司が変な事してたら止めなよ。
「コトリさん。なんなんですか、あの人!」
「……トレ様。あの方が、皇帝陛下のお兄様です」
この国、先が長くない気がする。
会場につくと、会場の扉の前で父さんが待っててくれた。
中から聞こえてくる弦楽と、人の笑いあう声はすごく楽しげで、お祝いって感じ!
なのに、父さんが眼を合わせないようにしてる気がする。
なんで?
「お待たせしました」
「……あぁ。カレカとは会ったか?」
「はい」
「……そうか」
話しと話の間に、なんだか微妙な間が漂って、ものすごく変な感じ。
いつもなら、見下ろすみたいで、いかにも強そうな父さんなのに。さっきからあちこちよそ見してる気がして、居心地悪い。
もしかして、この格好ってよっぽど変なの?
「やっぱり似合っていませんか?」
「あ、いや。そうじゃない!」
慌てて否定してくれる父さんだけど、試着の時も微妙な反応だったしなあ。
ほんとはものすごくへんてこなのかもしれないけど、今日一日しか着ない服だもんね。我慢する。
明らかに挙動不審な父さんに「行きましょう」って促して会場に入った。
今まで見た事ないくらいきらきらな照明。
生まれて初めて見るくらい豪華な料理。
それから、これでもかっていうくらいおめかしした大勢の人、人、人!
学校で見知った疎開組の子もいるし、そのお父さんお母さんかなっていう人もいて。それぞれがなにか話しをしてて。
でも、私が会場に入るといくつかの視線がこっちを向いた。
知らない人から向けられる、ちくちく刺さるみたいな視線はちょっぴり怖くて。足が進まなくなっちゃった。
「トレ、遅かったじゃない!」
「フィテリさん」
扉の前でまごまごしてた私に声をかけてくれたのはフィテリさん。
襟ぐりの開いた薄いオレンジのドレスが、ランプの照明を反射してまぶしいくらい綺麗。
胸元に飾られたバラのコサージュがパッと目を引いて、可愛いだけじゃなくて、その。なんて言ったらいいのか。
ものすごくボリュームを強調してる感じ。
女の子らしいって、きっとこういう感じなんだろうなっていう見本みたいなフィテリさんにぐいぐいって手を引かれた。
「貴女もこちらにいらっしゃいな」
「え、あの……」
こういう会場で一人で行動してもいいのかな?
よくわかんなくて、父さんを見た。そしたら、今度はばちって目が合って、今は逸らしたりしないみたい。
友達の前で格好悪いよりずっといいけど。でも、やっぱり変なんだよなあ。
「お嬢さん。娘がいつもお世話になっています。ファルカ・アーデと申します」
「不躾なところをお見せしました。わたくしフィテリ・マシタと申します」
堅苦しい感じで父さんが挨拶すると、フィテリさんはスカートをつまんで綺麗にご挨拶。
学校にいるときは元気な印象のフィテリさんも、こういう場所ではきちんとお嬢様なんだね。
「トレさんとはとても仲良くさせてもらっています。これからも末永く仲良くさせて頂きたいですわ」
「こちらこそ、娘をよろしくお願いします」
大人同士みたいに二人は笑いあって、間に挟まれた私はほんとに居場所がなかった。
しばらく二人でなにかよくわからない、ものすごく上滑りした感じの話をした後。フィテリさんは私の手を引いて、いつものグループのところに連れてきてくれた。
でも、こっち見たアールネさんが素っ頓狂な事言い出すんだよ。
「フィテリ様、こちらは?」
「あら、わからない?」
同じ教室で勉強してるのにひどい!
フィテリさんも笑ってるばっかり、その上
「自己紹介なさったら?」
だって。
なんだよ、もう!
「トレです。……あの、わかりませんか?」
名前を言ったら、アールネさんがものすごーく顔を寄せて――それこそちゅーしちゃうんじゃないかってくらいの距離でじーっと見てきてさ。
口の中で「面影はあるけど……」とか言ってるの、聞こえてますから!
まぁ、もういいけど。
「お化粧と髪を結い上げただけで、こんなに変わるのね」
「いつもの牧歌的なトレさんの方が私は好きだわ」
「……ぼくも」
きゃいきゃい騒ぐ女の子の声に、少ししゃがれたテノールが混じって。その声が聞こえた途端、「きゃー」ってすごい声が上がって。そのせいで、周りの大人にきろっと睨まれちゃった。
大騒ぎするようなとこじゃないって事だよね。
注意しないと……って、私が思っても、皆は大騒ぎ。
これだから美形さんはやだ。
苦情言ってやろうって思って、言葉を探すけど、ちっとも出てこない。
「テアさん。ほんとにいらしてたんですね」
「なんだか棘のある言い方だなあ。せっかく綺麗にしてもらったんだから、いつもみたいに笑ったらいいのに」
嫌味を言ったつもりなのに、テアはすごく笑顔。
っていうか、グループの皆が複雑な眼でこっち見てるから!
いつも着てるのより鮮やかな青――群青の教会服が少し日に焼けた肌の色によく映えてて。袖口や襟は金糸で刺繍されてて、元々華やかなテアがきらっきら。
文句なしに格好いいんだろうけど、こういう大人モードのテアはすっごい苦手なんだよなあ。
他の皆の視線が痛い。
「皆も綺麗だね。学校で会うのとは全然違うよ」
私の立たされた微妙なポジションに気づいたのか、テアが皆にぼんやりとした褒め言葉を口にする。
そんな風に言われて悪い気はしないみたいで、それぞれ自分のドレスのアピールポイントを話しだしちゃった。
きゃいきゃいした雰囲気の中に、私の居場所はきゅーっと狭くなってく。
格好いいテアもだけど、こういう雰囲気もあんまり得意じゃないんだよね。
(父さんと一緒にいた方が楽かも……)
そう思って視線をめぐらせると、ホノマくんの姿が見えた。
こっちは黒のタキシード。
髪を後ろになでつけて、いつもとは全然違う風情。
変わらないのは、ちょっと仏頂面っていうか、話しかけづらい雰囲気を醸し出してるとこ。その雰囲気のせいなのか、ホノマくんの周りには男の子もいなかった。
ホノマくんと一緒なら静かに過ごせそう!なんて考えてたら
「テア様、トレはこういった場に出るのは初めてです。それに、ふたつなの祝いの主役はこの子。一緒にあいさつ回りをして上げて頂けませんか?」
ってフィテリさん。
そういうの、ほんとにいらないです!
「あの、それなら父様とまわりますから……」
「ありがとう、フィテリさん。確かにそうだよね」
言い終われないところでテアが言葉をついで、そのままぐいっと腕をとられちゃった。
触れられたところから、ぞわっとした感触が上ってくる。……と思ったのにそんな事なくて、なんだか普通に触れられて、その事にちょっとびっくり。
おかしい。
なんかおかしい。
でも、自分でもよくわからない気持ちのままテアに腕をひかれて、引きずられるみたいに皆のところを離れる。
「挨拶が終わったら、皆と踊りたいな」
なんて、歯が浮くみたいに言って、テアが皆に笑いかけるのがなんだか面白くない。
そういうの、他の子に言ってるの、なんかやだ。
ぐいぐいって引っ張られて、会場の隅っこまで連れてきてもらった。
立食パーティみたいな形式だからなのか、隅っこには椅子が置かれてて、ようやく一息。ほんとは主役なのに壁の花……なんて。
まぁ、テアが一緒にいるし、壁の花っていう訳じゃないとは思うんだけどね。
帝都でもテアは有名人だって聞いてるし、実家も大きいお家だからなのか、色々な人が挨拶をしに来て。その度にテアはにこにこしながら「この子が今日の儀式の主役です」って紹介してくれる。
「貴女がジレ長官の秘蔵っ子なのね」
「買い被って頂いてるんだと思います」
「まぁまぁ。謙遜して……」
なんていう会話が何回かあったり。脂っぽいおじさんがにたにたしながら話しかけてきたり。
とにかく疲れる空間から抜けられて、椅子に座ったら、慣れないかかとの高い靴に疲れたあしはずーんと重くなっちゃった。
「パーティって疲れますね」
「はじめてだからっていうのもあるんじゃない?帝都で暮らすなら、何度かは参加しなくちゃいけなくなるよ」
「ぅぇえ」
もう、ほんとにやで。なんだか変な声が出ちゃった。
こんな風に壁際で休んでる人なんてほとんどいないから、テア以外には聞かれてないと思うけど。それでも、あんまり行儀がいい感じじゃないきがする。
テアも疎開組の子達みたいに上品な感じの子が好きなのかなあ……。
会場のあちこちできらきらな人達の輪が咲いてる。
その大小は色々で。でも、皆、なんだか行儀がいいっていうか、洗練されてるっていうか。とにかくちょっぴり格好良く見える。
もし、帝都がこんな人達ばっかりの場所だったら、私に居場所なんてあるのかな?
少し離れたところに見える大きな人だかり――やっぱり大きな花みたいに見えるその輪の中心では、デアルタさんが、いつものむすっとした表情をどこかに引っ込めて、にこにこと愛想よくお話してる。
南部の人なのに、デアルタさんには帝都での居場所があるんだろうな。
いろんなとこが違うって知ってるけど、そこが私と全然違う。
むすっとした顔を見慣れてるせいだと思うけど、眼を細めて笑顔を作ってるデアルタさんはちょっと気持ち悪くて。その隣には、さっきお尻をむぎゅってしてきた変態おじさんがいて、やっぱりにこにこしてる。
二人ともはりつくみたいな笑顔で、なんだかへんてこだし。またお尻を触られそうな気がするから、あの輪には絶対近寄りたくない。
さっきから何回かデアルタさんと目が合うんだけど、見ないふり。
気づかないふり!
一生懸命目を逸らしてたんだけど……
「トレ、司令が呼んでるみたいだよ」
「ぅえぇ」
なんか、またあんまり可愛くないうめき声みたいのが、喉の奥から漏れちゃった。
社交界慣れしてるテアは、デアルタさんの様子とかそういうのちゃんと気にしてたんだろうね。もう、いろんな意味で立ち上がりたくない私の手をとる。
行きたくない。
壁際でテアと二人でいられる方がいい。でも、そんなのお構いなしみたい。
強引過ぎると嫌われるよ!
主に私に。
きらきらの人が集まる輪は本当に花みたいで、きらきらってまぶしい。
そんな人達の中に連れ込まれた私って、花の中に必死に潜り込もうとするカナブンみたいに見えるんじゃないかな。
花の中心はべったりと笑顔をはりつかせたままのデアルタさん。
そんな気持ち悪いおじさんの前までエスコートしてくれたテアは、すすすっと私のすぐ後ろに下がっってく。
いよいよわっかの中で独りぼっちになっちゃった。
きらきらな人達の視線がぎゅーって集まってくるのがわかる。
いまはデアルタさんと向き合ってるだけだから、大丈夫だけど、振り返ったら人がいっぱいいるはずで。そう思ったら、ほっぺがどんどん熱くなってくるんだ。
振り返りたくないって思うんだけど、デアルタさんに両肩つかまれて、ぐりって回されちゃった。
その上、耳元で
「さっきからなぜ無視していた。馬鹿者め」
って、きっと周りの皆には聞こえないくらい小さく。けど、耳に入ったら怒ってるんだってはっきりわかる声で言ってくるんだもん。
目の前の人達も、デアルタさんもおっかない。
最悪だ。
そんなこと思ってる私の気持ちなんかお構いなしのデアルタさんは、すと私の隣に立つと、会場中に届くんじゃないかって思うくらい大きな声で呼びかけた。
「皆さん、本日は南部自治州の“選ばれし子”のふたつなの祝いにお集まり頂きありがとうございます。
こちらにいるトレ・アーデは、南部方面軍の要。千人長を務めるファルカ・アーデの息女です。
来る年には帝都の士官学校に入り、帝国の明日を担う若者となるでしょう。
どうぞ、お見知りおき。また、帝都での健やかな成長に一助を賜りますよう、お願いする次第です」
その声は高らかで、歓談してた人達も給仕の人達もすっと静かになって。会場中の視線がぎゅーってこっちを向いた気がする。
整った顔なのは変わらないけど、堂々と話すデアルタさんはほんとに格好よくって。そんなデアルタさんに恥ずかしい思いをさせちゃいけないって、自然と背中が伸びてきた。
話し終わったデアルタさんがお辞儀をするのに合わせて、私もフィテリさんに習った通り、お辞儀する。
きちんと出来てるかわからないけど、精一杯やったら感じ悪く思う人なんかいないはずだもん。
……って、私が思いたいだけなんだけどね。
ご挨拶が儀式のメインみたいで、その後は集まってた人達からの質問タイムが始まった。
いつだったかコービデさんが、後見人になる人が、その後見する子が――まぁ、今回は私しかいないんだけど。
面倒を見る事になる子がどんな子なのか。
家風にあう子なのかとか、出世しそうな子なのかとかを見極める場なんだって言ってたのは本当みたいで、次々といろんな事をきかれる。
ほとんどの人は当たり障りのない話をして、その答えでなにかを判断してたんじゃないかなって思うけど。色々な人が話しかけてきて、同じような質問をする人がいて。
でも、答えた事がちぐはぐだったらいけないからって、一生懸命考えて、思い出して、それをまとめてっていうのは結構大変で疲れ切ってたところで、その人は話しかけてきた。
黒い教会服を身に着けたその人は、口元を片方だけゆがめるみたいな笑い方のまま、私を頭の上からつま先まで舐めるみたいに見てくる。
目と目が少し離れてて、爬虫類を思わせる印象のその人は、顎を少し撫でながら「ふん」って鼻で笑った。付き従ってる、同じ黒い教会服の人達の表情はちっとも動かない。
それがものすごいコントラストで、お互いの不気味さを引き立てあってる気がする。
この人達は怖い人なんだっていう先入観があるせいかもしれないけど。そんなのなくても不気味な人達だなって思う。
「この娘が司令の秘蔵っ子ですか」
「ヴィダ司教。今宵はわざわざ足をお運び頂き光栄です。
これはここ数年“選ばれた子”のなかった我が南部自治州に生まれた、宝のような子。
長く帝都に秘していた事、ご容赦頂ければと思います」
すいっと半歩踏み出したデアルタさんは、私を隠すみたいにその人の前に進んだ。
顔は見えないけど、声音だけでいつか黒い制服の軍人さんをやっつけた時みたいな、怖い笑顔をしてるんだってなんとなくわかっちゃう。
「教会から資料を取り寄せてみれば、特段成績が良い訳でもなく。むしろ、中より下。体調を崩して休業する事も多かったとか。そのような娘を秘蔵とは……」
「それだけ休んでいても落伍していないのですから、私はそれで充分だと思っております。半年近く静養していて中の下であれば、努力家と言えましょう」
試験の結果発表がある訳でもないし、自分の成績なんか全然知らなかったよ。
中の下、だったんだね。
前生十六年分のアドバンテージがあるから、皆より出来てるって信じてたのに。すごいがっかり。
大人二人が私をめぐって険悪なムードをめらめら燃やしてて、周りに集まるきらきらの人達は、なんだか遠巻きに見物ムード。
そんな言い合ってる二人を誰も止めようとしない。
酷いのは、皇帝陛下の弟さんだっていうハセンさんまで、口元おさえて――しかもね、眼元は面白そうに笑って、二人を見てるの。
偉い人なんだからやめなさいって言ったらいいのに!
そんな事思ってたら、すぐ後ろから声が上がった。
「ここにいるトレは、ぼくが剣術の決闘で唯一おくれをとった人です。
特段剣術の訓練をうけたでもなく、です。彼女には不思議な才能があるのだろうと思います。
ヴィダ司教も彼女を後見して損はないかと……」
なんて、ものすごく昔の話を持ち出して、私の事を持ち上げてくれるテア。でも、そういうの、ほんとにいらない!
あんなの勝った内になんて絶対入らないし、そういうので期待されたら後々辛く……。って、心配しなきゃいけないくらい、周りの大人はざわざわと盛り上がってる。
帝都の大会で一番だったっていうのを知ってるからなのか、皆がざわざわどよどよ。
これ、ほんと駄目!
皆、テアが言ってるのは誇大広告なんです!
なんて言えたらよかったんだけど
「その話は本当ですかな?」
ざわめく人の輪の中から、どこかで聞いた声がそんな風にきいてきて。それに答えなきゃいけなくなっちゃった。
「勝ち負けという話だと、私が勝ったとは思えません。
でも、テアと決闘したのは本当で。怪我して、気絶しちゃって。でも、全然格好いい事じゃなかったんです」
それ以上でもそれ以下でもない、ほんとにありのままの事を話す。
話したはずなのに、きらきらの皆が騒ぎ出す。
「是非、我が家で後見したい」
「いえいえ、私が個人的に後見しますわ」
「いや、私が……」
そんな風に取り合ってもらうほど、私に価値なんかないんだってば!
あんな人達に言われたのは嫌だけど、黒い教会服の人が言ってた評価のが、妥当なんだって思うもん。
騒ぎが大きくなって。いたたまれなくなっちゃったのか、トカゲみたいな顔の人――ヴィダさんはすすすって人の輪から離れてった。
「っち」って舌打ちの音が聞こえた。
お祝いごとの主役だって言われてたし、目立っちゃうかもしれないって思ってはいたよ。
でも、こんな風になるのは、やっぱりおかしい。
今回は、パーティの最中のエピソードをお届けしました。
お料理の話とか、ダンスの事とか。
他にも色々な事が書きたかったけど、長さがおかしなことになってくので泣く泣くなしにしました。
六千字くらいがちょうどいいのかなあって思ってるんですけど、ここのところ膨張しがち。
もっとすっきりした感じにしないとですね。
頑張ります。
次回更新は2013/09/26(木)7時頃、いよいよ南部でのお話もクライマックスなエピソードを予定しています。




