26.家路は遠くても一歩から
ようやく主人公が気持ち的にも身体的にも元気になりました。
生まれてから八回目の春。
州都には村よりも早く春が訪れるみたい。
雪はあまり降らないし、窓から見えるお屋敷の庭は白いところなんかほとんどなくなってる。
まだ土の地肌が見えるところも多いけど、日に日に芝生の緑が増えてくのを見るのは、パズルが埋まってくみたいで少し楽しい。
芝生の周りでは庭師さん達が花を植えて、お庭の中に命を吹き込まれてく。
なのに、そのお庭を見てる、部屋の中の私はちょっと死にそうな溜息をつくばっかり。
「前、開けろ」
白衣の男の人――デアルタさんが中央から呼んだお医者さんは、なんだか不機嫌そうに言って、私の向かいに座った。
二ヶ月ちょっと診察を受けてきたから、別に不機嫌なんかじゃないっていう事は知ってる。
ただ、男の人に肌をさらすっていうのに抵抗があって。それでもたもたする私をせかすために乱暴に話してる。そんな感じ。
まぁ、もともとそういうしゃべり方の人なんだっていうのもあるんだろうけど……。
男の人に触れられるのはまだまだ怖くて、なんて言ったらいいのか。
病気で苦しかった時より死にそうな感じ。
雪国生まれだからなのかもしれないけど、身体のどこを見てもなまっちろい肌。
それに先っぽ辺りが少しだけ主張を始めたおっぱいを目の当たりにすると、自分の身体なのになんだか気恥ずかしい。
聴診器と触診。
見ようと思わなくても、その手が次にどこに触れるのか“見えて”しまって、その度に身体がきゅっと縮もうとする。
そんな風にするつもりないんだけど、やっぱり嫌なんだ。
それなのに、向かいに座るお医者さんは毎度の様に「動くな」「楽にしろ」って繰り返してくる。
まぁでも、二ヶ月もおんなじように診察されてるからね。
いい加減学習したって言えばいいのか。
診察の間は窓から見える庭の木――淡い紫の花をつける木蓮に意識を向けてやり過ごす。
そうでもしないと、どうにかなっちゃいそうだし。
前世の記憶の中。
薄いピンクの花をつけてた桜と同じように柔らかい色合いに、なんだか吸い込まれそう。
つぼみの頃は色の濃かった花びらも、その内側は白くて、お日様に照らされると外側の色が透けてくる。
それがほんとに綺麗なんだ。
「おい」
私が知ってる木蓮に比べると花が小さくて、ちょっと小ぶりな感じ。
もう外に出て遊びたいのに。
「おい、馬鹿」
父さんも母さんも。それにカレカも、私が目を覚ましたら、もうお家に帰っちゃうっていうしさ。
薄情者なんだから。
ごちん
「いたあ!」
現実から逃避してたら、なんか硬いので叩かれた!
しかも、頭叩かれたよ!
「胸の異音はもうない。今日からは普通に暮らしていい」
「あ、ありがとうございます」
きっと、口から魂とか出ちゃってる感じだったんだろうから仕方ないのかもだけど。でも、患者さんをぐーでひっぱたくなんてどうなの!?
うっかりお礼とか言っちゃったけど、なんか釈然としない。
ぎーってお医者さんをにらみつけてみるけど、知らんぷりされた。
「胸を隠した方がいいぞ」
「ぇう」
はだけた寝間着の前を直しながら、お医者さんが書き始めた書類をじっと見る。
診断の記録とか、デアルタさんへの報告書を兼ねてるんだって言ってた書類。そこに望む文字が書き込まれるか確認したかったから。
あの日、ようやく家に帰れると思ったあの時。でも、それなのに熱を出して倒れた私。
急いで言葉を覚えなくちゃいけないからって三ヶ月休みなし。
るいゆさんのお葬式の準備で寝不足。
要は過労だった。
そんな弱った私の身体はあっさりと病に負けちゃった。
病名は肺炎。
こんな事になるまで知らなかったけど、肺炎は簡単に命を奪ってしまう。
特に抵抗力の弱い、子供と年寄りを高い確率で死に至らしめる怖い病気なんだって。
咳はどんどん体力を奪うし、熱だってそう簡単には下がらない。
倒れた後、熱が下がらないまま四日間も眠り続けてたみたい。
寝てた私は全然自覚なかったけど。
でも、父さんも母さんも私が死んじゃうんじゃないかって心配してくれてた。
カレカが言うにはなんか変なうわごと言ってたらしいけど、なにを話したか教えてくれないんだよね。
どぅえとさんと話をし始める辺りから記憶が途切れてて、思い出せない。
変な事言ってなきゃいいけど。
まぁでも、そんなうわごとが出るくらいの病気から助けてくれた、目の前にいるお医者さんは、でも望むような文字をその書類に書き込んでくれなかった。
「あの、いつになったら家に帰れますか?」
そう問いかけてみたけど、こっちをちらっと見るだけ。
口の端が少し上がったように見えたのは、多分気のせいじゃないんだろうな……。
「感じ悪いですよ」
「なんとでも。だが、お前が家に帰れるかどうかは、おれの気持ち次第だってのはわきまえた方がいい」
なに、その言い方。
感じ悪い!
そういうとこ、どっかの誰かと似てる気がする。
秋の麦畑みたいな髪は目元にかかって、その向こうの鋭い眼はどこまでも威圧的。
ターコイズブルーの瞳も冷たい印象に拍車をかけてる。
全体として整ってる気はするけど、お医者さんとして患者を安心させる人なのかっていえばあんまり。
人柄とか見た目とか。
全体的にお医者さん向きじゃない気がする。
なんといっても、このお屋敷の主。デアルタさんとそっくりだし。
といっても、この人の治療は痰の採取とか採血とかから始まって。栄養に関する色々な指導。
とにかく、前世に受けた事があるような、どこか科学的な感じだった。
なかでも特徴的なのは薬。
この世界の薬って、だいたい植物の匂いがするんだけど、この人が処方してくれたのはそんな匂い全然しない。
量も少ないしね。
今だって、小指の爪くらいの大きさの錠剤が何個か出てるだけ。他のお医者さんだったら、苦くて臭い薬湯を、お腹がたぷたぷになるくらい飲む様に行ってきたりするのに。
そういう意味でも先進的。
治療が始まってしばらくたった頃、薬が小さくて嬉しいって話したら
「小さくても強力な薬だから安心しろ」
なんて言ってたっけ。
薬はたくさん飲まされるものなんだって思ってたからすごく驚いたんだよね。
「そんな強力な薬が作れるなんて、帝都の医術は進んでるんですね」
「おれのはすこぶる遠方で習得したものだ。誰にもまねはできん」
そんな話をしたこともあったっけ。
よくわかんないけど、その話をした時、お医者さんの顔はどこか寂しげだったっけ。
もしかしたら、踏み込まない方がいい話だったのかも。
そんな、ちょっと前に話したのを反芻するみたいにぼんやり思い出してたら。また意識がどこかに飛んでたみたい。
「聞いてるか、馬鹿」
きつい言葉が聞こえて。
ちょっと抗議の気持ちになったのと、お医者さんがまたぎゅーっとぐーを握るのが見えたから戻ってきた。
ほんと痛かったんだから。
「帰宅の件はデアルタと話しておく。それより、外にいるライオンみたいな奴が情けない声で呼びかけてくるのをなんとかしとけ」
「言葉わかるんですか?」
「ニュアンスの違いくらいはな」
そう言われても……。
それに、デアルタさんはそういうの誰にもわからないって言ってたのに。なんだかこのお医者さんはどこか規格外なんだよなあ。
あ。
そうだ。
「あの、治ったお祝いにお願い事一個いいですか?」
「なんだ」
「お名前を教えてください」
二ヶ月も治療につきあってもらったのに名前をきいた事がなかった。
軍医さんもそうだけど。
病気とか怪我が治ったらあんまり会う機会もないし。いつかお礼を言いたい人に限って名前知らないんだよね。
きいた私の目をじっと見て、それからふんてちょっと鼻で笑った。
……なんていうか、失礼だから。
そういうの。
「ジゼリオ・ジレだ」
うん。
聞き覚えのある苗字。
性格悪そうなのは、お家の問題なのかも。
ジゼリオさんが部屋から出ていくのを確認して部屋のクローゼット――というか、衣裳部屋っていうくらい広いんだけど。
たくさんの服が収められた部屋に入る。
量だけ見ると、こんなに着ないでしょ……ってあきれるくらい。
袖を通した痕跡がない服の方が多いけど、私のために揃えてくれたんだとしたら、量が多すぎる気がする。
でも、ずっと置きっぱなしだったにしてはきれいに手入れされてるし、気味が悪いって言えば気味が悪いかな。
怪我がなかなか良くならなかったりとか言葉の練習とか。あと、今回の肺炎もそうだけど、とにかく外出する機会もなかったし。
部屋着と動きやすい服とパジャマを着まわすばっかり。
でも、せっかくいっぱいあるんだし、動き回ってよくなったんだもん。
可愛いのを着よう。
どれも鮮やかな色で、村の方――なんとなく認めたくなかったからずっと村の方って言ってたけど、要は田舎だよね。
織物をふんだんに使った服は、どちらかといえば編物が中心の田舎の服に比べて厚みが少ない。
それに形に工夫をしやすいのか、ちょっぴり凝ったつくりをしてる。
部屋の中はともかく、窓を開けた時に外から吹き込んだ風は身体がきゅーって縮こまるくらい冷たかったし。
少しあったかい格好をした方がいいよね。
田舎でそういう格好を選ぶとどうしてももこもこに着ぶくれるんだけど、織物の服だとすとんとした感じ。
とっかえひっかえ着ては脱いで。
姿見の前で確認して。
そんな事してる間に寒くなって、スリップのまま暖炉の前に行って……。
なんて事してたら鼻水出てきた。
せっかく治ってきたって言われたのになにしてんだろ。
さんざんファッションショーをしたのに、結局は薄桃色の毛糸の帽子と赤いダッフル――村で暮らしてた時と同じような服に落ち着いたりして。
ちょっと恥ずかしい。
服選びも落ち着いて。いよいよ二か月ぶりに外に出ようって部屋のドアを開けたら
「トレ!」
って、お腹の底を揺さぶるような声。
その大きな声を出したのは、ドアを開けたところに座っていたどぅえとさん。
ライオンががおーってするような、本当に大きな声が頭の上から聞こえて、ちょっとびくんってなっちゃった。
州都ではあまり見かけない。でも、田舎では誰もが着ていたところどころに毛皮をあしらった服はちょっとワイルドな感じ。
少なくとも、スーツよりは似合ってる。
『おかげさまで、病気治ったみたいです』
『そうかそうか!』
病気が治ったって報告しただけなのに、どぅえとさんは私を抱き上げて。ほっぺをこすりつけてくる。
ちょっと痛いんですけど!
このたてがみ、思ったよりふわふわじゃないんだなあ。
って、そんなのどうでもいい!
『どぅえとさん、“納屋”から出ていいんですか?』
『いや、よくわからん。お前が倒れた日から、この塔に移されてな』
屋敷の中でも外れの方にあるこの尖塔は、少し前まではるいゆさんと私だけ。
るいゆさんがいなくなってからは、私一人が住んでいた場所。
怪我が治るまではコトリさんや他の当番さんが詰めて、生活に必要な物を届けてくれてた。
怪我が治ってからはそういうのも自分で母屋に取りに行ってたから、他に人の出入りなんかほとんどない。
だから、“納屋”の皆を移しても、人目に触れる機会は少ないんじゃないかとは思うけど。
でも、それでも使用人さんが全然来ないっていう訳じゃない。ベッドリネンとかカーテンとか、一人で運ぶのが大変なものは手伝ってもらったりもしてる。
皆を隠しておくのは思うより簡単じゃない気がするんだけど。でも、どぅえとさんはここにいる。
『他の誰かが来たりしませんでしたか?』
『来たには来たんだが、特になにを言われるでもなかったな』
どぅえとさんは“納屋”の皆が交代で私の部屋の張り番をしていたって教えてくれた。
心配してくれてたのはもちろんありがとうなんだけど。ここにいる理由が、本当によくわからない。
ただ、この塔の外に出ようとしたでゅえふさんがコトリさんにこっぴどく――もう、素手でここまで出来るの?
ってくぅりえさんが心配するくらい、ぼっこぼこにやられて果たせなかったなんていう話をしてると
『やられてねえよ。油断しただけ!』
『それをやられたっていうんじゃないの?』
『ちげー』
『でゅえふは子供だ』
きゅいあさんにくぅりえさん。
それから、顔のあちこちに青あざが残ってるでゅえふさんが、なんだか大騒ぎしながら上ってきた。
これで“納屋”の皆が塔の中にいるって事になる。
いいのかな、これ。
それぞれどぅえとさんと同じように身体にあった服を身に着けた三人は口々に病気が治った事を祝ってくれた。
毛皮をところどころにあしらった単色の服は、オーシニア人の風貌に似合ってる。
ちょっとワイルドすぎる感じもするけど。
久しぶりに会えて、わーわーやってたら
「廊下で立ち話というのは感心しませんね」
って、石造りの塔の中。
らせん状の階段にわんわんと響くソプラノを聞くと、でゅえふさんが身構えた。
すごい緊張感。
……なんだけど、コトリさんの表情は柔らかくて、でゅえふさんをぼこぼこになんてしそうもない。
しそうもないんだけど。でゅえふさんが警戒するのを見たら、見かけによらないって言葉がふわふわと頭の中をよぎってった。
『なにしに来たんだこら!?』
拳を前に突き出したでゅえふさんはオーシニアの言葉で威嚇する。でもまぁ、あんまり通じてないと思うよ。
がおーって言ってるなってくらいかな。
「小僧はすっこんでなさい」
『んだとこら!?』
亜麻色の髪の向こうで目を細めるコトリさん。
エメラルドみたいに光る瞳は、ちょっと剣呑な光を放ってるような気がして、ちょっと怖い。
でゅえふさんがオーシニアの言葉で応酬。
言葉は噛み合ってるけど、お互いなんも通じてないはず。
なんていうか。
年跨ぎの日の宴会でも思ったけど、通訳っていらないんじゃないかな。
特にこういう鉄拳で語り合うタイプの人達にはさ。
ともかく。
でゅえふさんに静かにしてくれるように頼んで、コトリさんと向き合う。
「トレにはなにがなんだかわかりません。説明してもらえますか?」
「もちろんです、トレ様。ですが、まず司令に顔を見せてあげてください。すごく心配してましたから」
なんだか眼尻に光るものが見えた気がするけど、どうしたんだろう。
そんなこと思った瞬間、コトリさんの手が脇の下に入ってきて、あっという間もなく抱き上げられちゃった。
それだけならいいんだけど、その手でわきわきとあちこち触るのやめて!
女の人が女のお尻触っても面白くないでしょうが!
「トレ様、痩せましたね」
お尻触っていう言葉がそれって、どうなの。
ねぇ、どうなの!?
木目調でまとめられた落ち着いた部屋。
窓からは春の柔らかい日差しが差し込んで、はじめてこの部屋に入ったときとはずいぶん違った趣に見える。
目の前にはオークウッドで作られた重みのある執務机。
その上にはやっぱり重みのありそうな大量の書類がのせられてる。
その書類の山の向こうにいるのがこの部屋の主、デアルタさん。
少し色の濃い金色の髪を後ろになでつけてて、険の強い目元。
象牙色の肌のせいで強く光って見えるターコイズブルーの吊上がったその眼が私をじっと見る。
「あの、なんで怒ってるんですか?」
「怒る?おれがか?」
あんまり怖い目をしてたから、怒ってるのかなって思った私の問いかけにデアルタさんは綺麗な形のくちびるをちょっと歪ませた。
整った顔立ちだからだと思うけど、ものすごく怖い顔になってる。
デアルタさんの唇がゆがむのと同じタイミングで、すぐ後ろに控えていたコトリがくくと笑うのが聞こえた。
別に面白い事なんかなんにもないってば!
「お前に怒ってなどいない。怒りを向けるとするなら、お前に無理をかけて気づかなかったおれ自身に、だ」
「は、はぁ」
大人の考える事はよくわかんない。
無理をしたのは私だし、そうしたいって思う確たる理由もあった。
だから、誰かにそれをなすりつけるつもりなんかないんだけどな。
「ジゼリオから話は聞いた。今後、十日間でぶり返さないなら、お前の帰宅を許可する」
「本当ですか!?」
「嘘を言ってどうする」
象牙色の肌をしたその人は、口角だけを上げて笑う。
その口の形を見ていつ皮肉を口にするのかと思ったけど、今日のデアルタさんは笑うだけで、それを言葉にはしなかった。
それはすごく意外な事で、ちょっぴり気味が悪い。
もちろん、お家に帰れるのは嬉しい。
でも、嬉しい気持ちの一方で気がかりだってある。
「あの、“納屋”の皆はどうなるんですか?」
問いかけるとデアルタさんはまた厳しい顔になった。
仕事の話をするときの顔。
「オーシニア人はお前の父に奴隷として譲り渡した。お前の家からそう遠くないところに住まわせる」
「そう、なんですか」
でも、それっておかしい。
いままで人目に触れさせない様に納屋に閉じ込めてきた皆。
それは、オーシニア人が無事でいる事を隠すためだったはず。
戦争を続けるために、奴隷という建前でオーシニア人を見世物にして、恐怖と憎しみをあおる人がいて。
その人達に皆が無事だって知らせないために、ずっと隠してきたんだって思ってたのに、それなのに無事だって知らせていいの?
デアルタさんは自分の言いたい事しか話さない。そういう人だって、半年くらい付き合ってきたからなんとなくわかる。
仕事の時は違うらしいけど、少なくとも、子供の私に対して説明する気はないんだ。
だから、すぐ後ろに控えるコトリを振り返る。
ちょっぴり目があって、そしたらコトリさんはデアルタさんの方に向き直った。
「司令。クリーネ王国への使者の選定と書状の準備についてはいかがいたしますか?」
「指示はファルカに出してあるが……」
少し口ごもって、でもデアルタさんはもう一度コトリさんを見た。
二人の間で視線のやり取りがあったんだと思うけど、目線が違いすぎてよくわかんない。
背の高さもそうだけど、二人に見えてる未来とか展望とか。そういう視点が高すぎるんだ。
ちょっと間があった後、デアルタさんは深くため息をついて、椅子の背もたれに身体を預けるように座りなおした。
「あの連中も家に帰してやらねばならん。そのためにクリーネ王国に使者を立てる。きゅいあという女と、他に一人。人選はお前とファルカに任せる」
「それって……」
「奴らに初めて言葉が通じたあの日。お前を通じて家に帰すと約束した。これは手始めだ」
もう半年も前の事なのに。
それに、口約束みたいに軽くかわした約束なのに、デアルタさんは覚えていてくれた。
それが嬉しくて、鼻の奥の方がつんとする。
泣くもんかって思うけど、ぽろぽろ涙が出るのはちっともとめられない。
「泣くな、馬鹿者」
「馬鹿っていう方が馬鹿なんです……」
ふんって鼻を鳴らして、デアルタさんは私に背中を向けた。
照れちゃって……って、コトリが言ったのは、聞かなかった事にしとこう。
うん。
あのおっかない人が照れるとか、ありえないもん。
だから、コトリさんの言葉はきかなかったふりしとく。
今回はどういう目的を持って故郷に帰るのか告げられるエピソードをお届けしました。
辛い事とか苦しい事とか。
病気に怪我、誰かの死。とにかく大変だったので、故郷に帰った主人公には少しいい思いをさせてあげたいです。
そうなるかは私次第だけど!
次回更新は2013/04/18(水)7時頃、帰郷前に州都をめぐるエピソードを予定しています。




