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2.生まれる方だって大変です

 という訳で転生初日。

 いよいよ出生なんですけどね。


 おれのエロのバイブルだった『生命の神秘――出生』という本によれば、出産は一大事業で、お母さんの大変さは男には想像出来ないくらいのものらしいです。

 例えるなら、鼻の穴からスイカを出す感じという話が掲載されてたっけ。

 ……まぁ、読んだ当時の主目的は、完全にエロですけどね。 女性には気持ち悪がられるかもしれませんが(ってか、おれ自身もどうかと思ってる)、モザイクなしのあそこやおっぱいを見られる本として珍重しておりました。

 どっちも出産のシーンとか授乳のシーンとか、エロの方向に志向しちゃいけない感じの写真でしたけどね。

 まぁ、青少年にありがちな好奇心というヤツです。



 それはさておき。

 生まれる方も大変だってのはその本には書いてなかった気がする。 胎児にインタビューする訳にもいかないし、当然か。


 んで、今まさに出生なうなんだけど、すっげー苦しいの!

 転生請負人(もう正式名称は忘れた)の四十万(しじま)があんまりにも軽い調子だったから簡単に考えてたけどさ。生まれるだけで中距離のハードメニューなんか目じゃないくらいの負荷なんだよ。

 転生、全然気軽じゃねえ!


 通れそうもないような狭い空間から無理やりひりだされるらしくて、まず、今まで余裕のあった空間の一点に頭ががっちりはまり込む。

 はまり込んだ後は、足元の方から壁がぎゅむぎゅむ縮まって、頭がその穴に押し込まれていく。


 全身を無理やりこごめられるせいで息は詰まるし、心臓の方もなけなしの酸素を全身に送るために全力運転。 動悸がどんどん強くて早くなって胸の辺りが痛くなってくるという、完全な悪循環。

 アップもなしにこんな重い負荷とか、死なす気か!


 その後は、壁のぎゅむぎゅむが規則的になってきて、その過程で頭の形が変わってくのを明確に意識できるくらい圧迫される。 そっちもけっこう痛い。

 一生懸命身体を動かして外に出ようともがくけど、全身の筋肉がふにゃふにゃで大して力が出ないんだよ。


 穴の内側もヌルヌルしてとっかかりがないし、どんなにもがいてみてもものすごい疲労感ばっかりがたまってく。


 四百メートル五十八秒を延々やらされるようなものすごい負荷が身体中にかかっているのに、出口は狭くて、しかも女の人――たぶん、現世でのお母さんがきれぎれの声で


「いたあああああああああ」


 とか言ってるのも聞こえるもんだから、「早く出ないと!」なんて気ばかり焦ってくる。

 焦ってはいるんだけど、手も足も出ない(頭もだけど)し、息も苦しい。


 しかも、そのお母さんの絶叫に応じる少し年のいった感じ(っても声だけで判断してます、若かったらごめん)の女の人は


「痛いからって身体に力を入れると赤ちゃんが苦しいですよ! 頑張って!」

「うぅぅ、ああぁぁ!」


 出産はマヂに戦争だ。

 おれ、男でよかった。 本当によかった!


 お母さんがもう何回か「ん゛ー!」とか「ぅあ゛ー!」と気合を入れた後、頭が狭いところをすぽんと抜けた。


 そこからは、誰かに頭を持って引っ張られて(出生って頭への負荷の多い作業だよなあ)、白い幕みたいなものの向こうに光を認識できるようになるまで、全工程通して十五分くらいだったろうか。


 その白い幕を破ってもらった後も、鼻や口からだらだらとなにかが出てきてそれを吐こうとするんだけど、肺が問答無用で酸素を求めているからそれがうまく出来ない。


 首を支えてもらったまま、管か匙みたいなものを鼻に入れられて、どろどろを外に吸い出してもらう、この間は数秒。

 でも、永遠みたいに感じる酸欠状態の後


「うあー!」


 と、ようやく声が出せるようになる。

 声を出したと同時にお湯で体をぬぐってもらって、それから現世でのお母さんの所に。


 これからよろしく!

 ……と、しゃべれれば声をかけたいところだけど


「うだー」


 という間の抜けた声が漏れただけ。


「こんにちは、私の可愛い子」


 それなのに、お母さんは涙を流して喜んでくれた。

 これだけの苦行を一緒にこなしたお母さんと子供の絆ってのは、やっぱり強くなるんだろうな。 厳しい合宿の後、先輩とか後輩と友情が生まれるのとおんなじ様なもんか。


 まだまだ苦しいけど、呼吸が確保されて余裕が出てきたからか、周囲の喧騒は嫌でも耳に入ってくる。

 誰かがどたどたと走る音。 ……あ、こけた。


「旦那様、奥様、おめでとうございます。 元気なお嬢様です!」

「でかした、でかしたぞ、トルキア!」


 男の人の声もして、みんなが幸せそうな空気に。 眼の調子もよくないのか、焦点が合わないままだったけど、その暖かい空気だけは感じられた。


 地獄の出生ブートキャンプを終えたおれの方も達成感でいっぱい!

 でも、なんかね。 気になる言葉が聞こえたんだけどさ。


 聞き間違いか?


 あの女の人、お嬢様っていったね。

 女の子のことだね。

 ……女の子?

 女の子だぁ!?



 しぃじぃまあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!


「なんでしょう?」


 おれの呼びかけに即座に応える四十万。 テレパシーであるせいか、向こうの匂いみたいなものまで感じる。

 暢気にポテチ食ってる場合じゃねえぞ。 なんで女に転生だ、こら!


「貴方、世界の説明きちんと読みましたか?」


 さっとは。

 長い戦争のせいでぼろぼろだとか、向こうの勢力には明確に人間じゃない種族がいるとか。その辺りは押さえたけど。

 他になんかあるの?


「そっちの世界、神様があんまり熱心に管理していない関係で、畸形発生率と乳幼児の死亡率がものすごく高くなっています。なので、五体満足な女子はそれだけで、長じては子供を生み、一家子々孫々の繁栄につながるので大変大事にされます」


 そこは管理しようぜ。 神としてさ。

 っていうか、それなら前世みたいに健康な男子でもよかったんじゃねえ?

 おしべがないとめしべも実らないって、あんな可愛いパンツをお召しになってる、おぼこい四十万さんにもわかるでしょ。

 おれが女子になる理由がよくわからないんですけど……。


「出産の本を見てエロを感じてた変態にだけはおぼこいとか言われたくねえよ! っていうか、ご自分で希望されてましたよね? 来世では出来る限り大事にされたいって」


 そういえばいいました。

 ……いってましたね、おれ。

 確かにいったけど、お前が鼻っ柱に拳骨食らわしてきて、なにがなんだかわからないときにいった話だろうよ。

 相手は馬鹿だけど話のわかる女だとちょっと思っていたおれが馬鹿でしたか?


「失礼な事を思考しやがると、出来上がったばっかりのその鼻っ柱に一発行きますよ?」


 いやあ、美人で頭の切れる営業マンは素敵!

 というか、生まれた直後に鼻っ柱殴られるって、なんの冗談だよ。 鼻が低くなったらどうすんだ。


「問い合わせ内容は以上ですか?」


 これ、チェンジ的なシステムは用意してないの?

 ほら、エロイお店で、写真と全然違う子が来たときとかにできる、ああいう感じで、転生先を変更するとかさ。


「貴方、本当に高校生だったんですか?」


 四十万の深い溜息みたいな雰囲気と、けっこうな嫌悪感的なものがじんわりつたわってくる。 なんていうか、耳元でふぅーってされるみたいで心底気持ち悪い。

 スポーツ新聞のエロイ記事で読んだ知識だ、文句あるかこの野郎!

 まぁ、気持ち悪いと思っているのは向こうも同じだろうしお互い様だ。


「チェンジは別料金になりますし、いまの貴方の身体は魂が抜けた事によってころりと死にますので、いまの転生先のご両親はすげー悲しむでしょうね。 こんな短期間に何度も親不孝が出来る精神的タフネスはプラスにもマイナスにも評価に値しますけど」


 あぁ、そうか。

 この世界での両親もいるんだよな。

 忘れてたけど、その人達も前世のおれの両親と同じように、子供を思って悲しむかもしれない。

 誰であれ、自分の子供が死んでしまったせいで、あんな悲しい顔をする人がいるってのは嫌だ。


 チェンジはなしで!


「そういうと思っていました。 前世のご両親を心配する気持ちもわかりますが、この世界のご両親も大切にしてください」


 うん、わかった。


「では、テレパシーの通話料の方は前世のご両親の総幸福量から引き落としておきますんで!」


 待て、こらああぁぁ!

 ……って、切れた。

 四十万の事だから、ダイヤルQ2(前世の父さんがひどい目にあったくらいの情報しかない遺物のお話)もびっくりの通話料金を請求してきそうだし、テレパシーをするのは、前世の両親のためにも最低限にとどめておいた方がよさそうだ。


 とりあえず、女子としてやっていく心構えをしなければ!


 一人称は私とか? ……こっぱずかしくて無理だな。 ぼくとかそういう方向ですかね。

 これはこれでなんだか痛々しい気がする。


 それ以外だと、お洒落とか美容とかにも気をつかわないといかんか?

 せっかくだからきれいな感じになるのもいいよな。

 とは思うんだけど、前世では陸上ばっかりやってたから、女子がどんな感じだったとかほとんど思い出せない。 どうしたもんなんだかね。


 理想的な女の子のモデル像を教えてください、誰かー!


 と思いながら、出生初日はあっさり寝ました。 出生ブートキャンプはきついものだったからね。

 まだ名前もないし、何者でもない感じの今からそんな事気にしても仕方ないし。 身動き取れるようになってから考えよう。


 とにもかくにも、新しい父さん母さん、これからよろしくお願いします。

 連載形式の二話目なんですが、どんな風に投稿するのが正しいのやら。 恐る恐る、忍び足で投稿中です。

 次回更新は2012/12/14(金)7:00頃、秋久くん(←主人公の前世の名前……忘れがち)の過去のお話を絡めたエピソードの投稿を予定しております。

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