105.勇者様、価格は二十万円也!(3)
テーブルの上に置かれた剣は、普通の拵えの――ううん。
どぅえとさんとかきゅきぃさんが持ってたサーベルより質素で、飾り一つなくて。なんだか武骨だった。
戦車砲の砲弾を切るためにって、テアがけむりからもらった刀と比べたら、鉄の棒みたいに見えちゃうくらい地味で
「これが、大僧正が探してた“神殺し”の武器ですか」
手に取ったクレアラさんがしゃらんと鞘を取り払うと、その刀身があらわになる。
鈍い光。
それに、刃自体も、こう。なんだろう。
「なまくらですね」
「“剣聖”の君がそういうなら、そうなんだろうね」
刃を見たテアがすぱっと言い切った。
別に剣とかの目利きがきく訳じゃない私が見ても、あんまり上等じゃないって一目でわかるくらい。なんていったらいいのかな?
こんなんじゃ、神様どころか、母さんが作ってくれたハムを捌くのも無理なんじゃないかって思っちゃうくらい駄目駄目に見える剣。
なのに
「その剣を使って、ぼくを殺せば。そうすれば、トレブリアの破片は元通り一つになる」
「……でも」
オーシニア侯国の王様でもあるし、クリーネ王国の王様でもある。そして、この世界の神様でもあるその人は、はっきりとそう言い切った。
でも、それじゃあ、王様のお母さんは――けむりさんは、そんなのどう思って聞けばいいの?
王様の事、信じてる家来の人だっていない訳じゃないはずだし。
神様だからとか、そういうの関係ないよ。
「神を殺せばどんな願いもかなえると言われていますが、元の世界に帰るというのも可能ですか?」
「殺す時に、そう、願うのなら」
剣を鞘に収めながら、王様に問いかけたクレアラさんの口調は、なんだか平板で。感情が感じられないその声は、ちょっぴり怖かった。
でも、クレアラさんは手に持ってたその剣をほいってテアに渡して。そのまま腕組み。それと足も組んで、椅子の背もたれにぐいーって背中を押しつける。
物凄く横柄で、だらしない形で座りなおすと、じいっと王様をにらむ。
「ぼくもなにか望みがあったはずなんだけど、もう思い出せないからね」
「思い出して、その上で叶えるってのも、出来なくはないよ?」
剣を握ったテアは、くいって親指で柄飾りを押し上げて、少しだけ刃をのぞかせて。でも、きんって音を立てて、鞘の中に刃を戻した。
「トレといる今が。それと、これからの方が、どんな願いより価値があると思うから。ぼくもこの剣はいらない」
鞘の先を持ったテアが、私の目の前にぬうって差し出した剣。
その柄はギヘテさんの目の前に届いてて。でも、ギヘテさんはそれを掌で押し返しながら
「そもそも、私は望みなんか覚えてない。今が一番大事だ」
「なら、この世界で叶う願いでもいいんじゃないかな?」
「叶えたいなら、一個一個自分の手でやる方がいい。機械だって、組み立てるときが一番楽しいからね」
歯を見せて、すっごく獰猛な感じで笑う。
この人、大貴族の娘さんのはずだし。皇兄殿下――って、肩書きだけはえらそうだけど、初対面の私のお尻をもむし。ほんとは大好きなのに、ギヘテさんにそういうの言えなかった。
私は、ハセンさんの情けないとこしかしらないけど。
それでも、皇帝陛下のお兄さんの婚約者でもあるはずなで。おしとやかでいなくちゃいけないはずなのに、なんだかすごく男前で。
そういうの、すごく格好いい。
「君は、どう?」
「私は……」
最後に残ったのは私。
私は、どうしたいんだろ。
眼の前の、今日あったばっかりの。自分は神様の破片だって言ってるこの人を殺して、それで世界は平和になりました。
なんて。
それでいいのかな?
少なくとも、私達の話を聞いてる――もしかしたら言葉が通じてないかもだけど。それでも、けむりさんをお母さんって呼んだ、目の前にいるこの人。
人?
神様?
なのかな。
よくわかんないけど、穏やかに笑ってるその笑顔が見られなくなったら、きっと悲しい思いをする人を、私は知ってる。
いつでもぴんと伸びた背筋が格好いい。でも、ちょっぴり意地悪なお婆ちゃん。
その人が悲しい顔をするなんて、そんなの嫌だ。
「もし、お願いできるなら、大僧正とちゃんと話し合ってほしいです」
「それは、無理」
「でも、一人は嫌だって。身体をばらばらにしなくちゃいけないくらい寂しかったんですよね?」
「うん」
一人ぼっちが嫌だって思うなら。ちゃんと話し合えばいいんじゃないかな。
言葉を勉強して、いろんな人と会って。離して、それでオーシニアの人、全員とわかりあえたなんて思わないけど。でも、ちゃんと気持ちは通じたんだもん。
私だけじゃなくて。南部の人達とクリーネ王国の人達は、ちゃんと向き合って、話し合って。友達にだってなれてる。
なのに、神様――破片っていっても、やっぱり神様でしょ。
その、神様が作った人間に。今、ここにいる私達はそうじゃないのかもだけど。でも、この世界に住んでる皆に出来たのに、神様に出来ないなんて嘘だよね?
だったらさ。
「王様は、けむりさんの息子さんなんですよね?生まれ変わるのって大変なんですか?」
「いや。そうでもない、けど……」
だったら。
「だったら、私がお母さんになっちゃ駄目ですか?」
すっごくいい思いつきなんじゃないかって思ったんだけど。私の言葉で、かちーんって空気まで凍ったみたいに、部屋の中が静かになっちゃった。
「なにいってるの、トレ」
「そうすれば、南部の人として生まれられるんですよね。そうすれば、大僧正と会っても不自然じゃないんじゃない、んじゃ、ないかなあって……」
説明しはじめて。そしたら、自分でもへんてこりんな話してるかもって、なんとなく思ってきちゃって。
お母さんになるって、すっごく大変なんだろうなっていうのも。どうなっちゃうのかとか、自分でもよくわかんない。
前世の記憶に残ってる、『生命の神秘――出生』っていう本でも、物凄く大変なんだって書いてあった気がするし。
あと、赤ちゃんにならなんとなく大丈夫な気がするけど、中身が目の前の男の人だって思ったら、おっぱい上げたりとか、ちょっとやだし。
そういう全部が、やっぱりちょっと怖いけど。
でも、がたって椅子から立ち上がったテアの方をちらっと見て。それから、ぽかーんって口を空けてるギヘテさんを見て。
二人が大慌てな感じだったから、私の頭はすっと冷えて。
だから、すっごくいい思いつきなんだって、心の中で自分に言い聞かせて。
でも、そしたら
「なぁ、王様。生まれ変わるときって、必ず“授かり物”を持たないで生まれるって、出来るの?」
「いや。君もか?」
「私なら、トレよりよっぽど現実的な距離に、あんたを運べる」
「正気か」
ぽかーんから立ち直ったギヘテさんが、私の前にぐいって割り込んできちゃった。
現実的な距離ってなに?
「正気だ」
そんなに厚みのない胸をぐいっとはって、ギヘテさんがにいって笑った。
戦車が出来たって自慢しに来たときの、得意満面な、あの時と同じ顔。
自信満々の笑顔のまま、ギヘテさんは
「あんたが、皇帝になればいい!」
びしいって神様を指さして、言い放った。
……人を指さしちゃいけないって、そういう礼儀とか、神様に払う必要はないんだって。話し合いが終わった後、ギヘテさんは言ってたけど、やっぱり駄目だと思うよ。
それ。
そんな話が終わってすぐ。
父さん母さん。カレカとエウレにも、王様と話をしたって説明して
「クリーネ王国の力を借りて、大僧正を引きずり下ろすから、力を貸してほしい」
なんて、ギヘテさんが真顔で言って。それを父さんが大真面目にきいてくれて。
だから、今。
私は。
私達、南部方面軍は、中央軍と近衛師団。それと、ずいぶん少なくなっちゃった僧兵と睨みあってる。
サルカタ司令の後を引き継いで、南部方面軍の司令になった父さん。
おっきな人事異動って、そういう話だったんだ……って、新聞に載るまで知らなかった私。
なのに、就任式典には出席しなくちゃいけなくて。一年の間に何度も盛装して。その度に、綺麗綺麗って言ってもらって。でも、普段着で会ったら「誰?」とかいう失礼な人ばっかりで。
まぁ、そういうのも全部過ぎた事。
同じタイミングで、帝都の新聞でギヘテさんとの結婚を発表して、近衛師団長をやめたハセンさん。
帝都の北東にあるテレルの町――野外演習の時、近衛師団の車を止めさせてもらった、紺色の瓦が可愛い建物がいっぱいの。でも、帝都に比べたらちょっぴり田舎で。
そのかわり、静かな町に引っ越した。
そして、クリーネ王国と共同で、帝都に対して宣戦布告をしたのが先月。
“授かり物”がある師団長が引退しちゃったからなのか、遠くに見える近衛師団には、私が知ってるごちゃごちゃした感じはなくて。かわりに、士官学校の同級生だった子とか、先輩達の気配がちらほら。
姿が見える訳じゃないけど、ホノマくんもあの中にいるはず。
梟の旗――七校の校旗と同じマークを掲げた部隊いるってきいてるけど、その旗は見えない。
連絡は取りあってたし。今日、なにが起こるかも知らせてあるけど。それでも、ホノマくんのことを思い出すと、お腹がきゅーってなっちゃう。
「怖くないか?」
遠くに見える城壁。
その前に並んでる軍隊。
そこに先頭切ってって乗り込むのが、今日の私の仕事。
眼帯外してるから、未来は見えてる。
大砲の弾とか、そんなの全部避けられる――っていっても、実際に戦車を運転してくれるのは、カレカで。私は指示を出すだけなんだけど。
でも、去年、戦車の中で蒸し焼きになりそうになった時みたいにはならないって。そういう自信はある。
あるんだけど。やっぱりちょっと怖いかな。
「……ちょっぴり」
「そっか」
だから、正直に答えて。そしたらカレカの返事が聞こえて。
それからちょっぴりの沈黙。
呼吸が行って戻って。三回目の途中で、煙草の臭いとカレカの体温がきゅーって近くなって。
硬い生地の制服に、鼻がぺたーって押しつけられて。
ちょっと息苦しいけど、嬉しくて。だから、カレカの背中に手を回して、ぎゅーってする。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「はい」
抱きしめられたままだったから、カレカの声はちょっとくぐもって聞こえた。
身体が離れて、カレカがハッチにもぐりこんだところで
“仲良くていいなあ”
ざしっていうノイズが耳元でなって。それから、エウレの声が耳に飛び込んできた。
今日は車長席で無線に専念するはずのエウレ。
私とおしゃべりするために無線とか使っちゃ駄目なはずだから
「覗きは駄目ですよ」
“頭の上でいちゃつかれてたら、のぞかなくてもわかるよ。見せつけないでよね”
ちょっと意地悪のつもりで言ったら、そんな返事。
見せつけてなんかないもん!
ない、よね?
よくわかんない。
まぁいいや。
「カレカ、エンジン始動。エウレは打ち合わせ通り、無線の周波数を合わせてくださいね」
“了解”
“はいはーい”
ふにゃんとしたエウレの返事。
でも、そういういつもと変わらないのが一番大事だって思うから、もうなんにも言わない。
ただ、私達の戦車の後ろを振り返る。
ずらりと並んだ、ギヘテさん特製の戦車。
南部のためにって作ってくれた、私達のカメムシくんよりちょっぴり車高が低いその戦車は、なんていうか、まるっきり台所に出る茶色いあれみたい。
「ギヘテさん、この戦車の名前、ご……」
「その名前だけは、駄目だ」
カメムシなんて名前を許してくれたギヘテさんなのに、それだけはって真顔で断ってたっけ。
その、私達の乗ってるかめむしくんの後ろに続く、台所に出るあれみたいな戦車の上に、銀色の鎧をつけた人が何人も乗っかってる。
ちゃんと説明はしてもらったはずだけど、もう、誰が誰なのかとか、よくわかんない。
でも、兜に真っ青な羽飾りをつけてる人だけは、それが誰なのかわかる。
テア。
私の大事な幼馴染。
初めてちゅーした人。
それよりずーっと後ろの方。
父さんがいるはずの幕営を見ながら、キュポラの脇に据え付けられた荷物入れから旗を取り出す。
濃紺の生地に、銀糸で刺繍した梟と百合。
それを囲む藤の花。
今日、この日のためにちくちくお家で縫ってきた、南部とクリーネ王国。
両方のマークを入れた旗を掲げる。
この旗を掲げるのが、父さんと決めた合図。
「じゃあ、そろそろ行きましょう」
ちょっと怖いけど。それでも進むんだ。
あの日、手帳に書いた誓いを果たすために!
大きく息を吸い込む。
そして
「戦車前進。全車両、我に続け!」
喉元のスイッチを押し込んで。お腹にきゅーって力を入れて、思いっきり声を出した。
全部の戦争を終わらせるために。
私達の戦車――私のせいで、かめむしなんて格好悪いあだ名がついちゃった、真っ黒い、ぺったんこの戦車のキュポラから身体を乗り出す。
速度が上がって、風にあおられた旗は重たくて、手がぶるぶる震えて。ほんとは怖くて震えてるのかもしれないけど。もう、どっちでもいいんだ。
ぎゅっと力を入れて、旗を高く。なるべく大勢に見えるように、掲げる。
私達の戦車を先頭に、鏃の隊列で進む戦車の群れ。
かめむしくんは帝国最新鋭の戦車。
だから、装備を優先配備される近衛師団は、同じ戦車を装備してる。
同じ戦車だから、射程距離もおんなじ。
私達の手が届く距離は、あっちだって届く。
だから、撃ってくるタイミングだって予測出来る。
射程距離まで、残り……十九、十八、十七……五、四。
あと少しで射程距離っていうとこで、左眼に光が“見え”た。
二秒後の未来に見えた光。
その光を合図に、どこに砲弾が飛んでくるのか探して
「二秒後、一時に弾着。進路そのまま、増速して弾道の下をくぐります!」
“了解!”
着弾点を避ける進路をカレカに知らせる。
次の弾着点を探してる内に、ごおんって音と衝撃。
それから、砲弾に跳ね飛ばされた泥んこがシャワーみたいに降り注いできた。
どろっどろになっちゃったけど我慢!
じゃりじゃりの泥んこを吐き出しながら、喉元のスイッチを押し込む。
「エウレ、無線の調子はどうですか?」
“問題なし。いけるよー!”
「では、最大出力で発信」
車長席のエウレが親指と人差し指で丸を作って、準備おっけーって教えてくれた。
うん。
もう一息。
「帝国軍の皆さん、私の声が聞こえますか?」
色んな音が邪魔するけど。きっと、この声は皆に聞こえてるはず。
無線機を中央軍と近衛師団に渡す時、ギヘテが準備した細工。
仕組みは全然わかんないけど、特定の周波数を強制的に受信させるんだって。
ちゃんと実験したけど。でも、ちょっと心配で。
そんな心配なんかしててもどうしようもないんだからって、お腹に力を入れて呼びかける。
「南部方面軍トレ・アーデ十人長です。クリーネ王国全権代理として、全ての戦争を終えるために来ました。交渉の席についてください」
繰り返し、繰り返し。
同じ言葉を、何度も何度も。
その間だって、砲撃はやんでなくて。それを避けるための指示だってださなきぇいけないんだけど、そんなひまなんかなくて。
私達の戦車は少しずつ傷ついてく。
それでも、進むんだ。
無線が届く距離には限りがあって。今、向き合ってる全部の戦車に届かせるためには、あと二百メートルは近づかなきゃいけない。
じりじりと距離を詰める私達の前に、真っ黒な教会服の人達が、にじむみたいに現れた。
現れた、けど。
あの日。
私が蒸し焼きになっちゃいそうだった、あの戦闘があった時の、黒い鎧を着たクイナの姿は、見えない。
戦争を終わりにしたいっていう無線。
聞いてくれてるのかも。
そういうの、ほんとはわかんない。でも、約束、守ってくれてるんだって。今は信じても、いいよね?
戦車の音のせいで声は聞こえないけど。
でもきっと、大声で叫びながら向かってくるその人達に向かって、カレカは速度を上げる。
“ちび、声が止まってる。話し続けろ!”
「わかってます!」
わかってるけど。
銃弾だって飛んでくるし。砲弾が跳ね散らかした破片とか、どろんことか。
私達の後ろについてきてた他の戦車だって、もうちりぢりだし。
全部ぐちゃぐちゃなんだよ!
旗をかけてある棒をぎゅーって抱きしめるみたいに守りながら、縮こまってるしかなくなっちゃった私の耳元に、きんって澄んだ音が聞こえて。その直後、立ち塞がってた黒い服の人が、真っ二つになった。
「トレ、頑張って!」
声なんか聞こえなかったけど。でも、青い羽根飾りのついた兜から、ちょっぴり除く口元はそう言ってくれてた。
けど、近衛師団の戦車も少しずつ距離を詰めてくるのも“見えて”て。それに
“トレ、十一時にオレンジと赤の狼煙”
“やばいぞ”
やばいよ。
だって、私が士官学校にいる頃と変わってないなら、それって全軍前進の合図のはずだもん。
歩兵に囲まれたら、戦車なんか棺桶みたいなものだからって。コトリさんの言葉を思い出して、お腹の奥がすっと冷えてく。
私の声、やっぱり聞こえないの?
ちょっとくらいは動揺してくれるって思ってたけど。全然甘かった。
もう、駄目!
そう思った時、耳元でざーってノイズが鳴った。
それから“あーあー”って間の抜けた声。
“エザリナ皇国皇帝の父。ハセン・ヴィ・エザリナの名において命ずる。全軍、戦闘を停止せよ”
無線の試験をする間抜けな声を追いかけてきたその声は、私のちっちゃな声と違って、一瞬で戦場を沈黙させちゃった。
黒い教会服の人達も、前進を始めてた近衛師団の戦車も。
皆がその足を止めて、声の主を探し始める。
士官学校でも、コトリさんが作った典範が使われてるってきいてたけど。
キュポラから身体を乗り出してはいけないって、基本的な約束事のはずなのに――まぁ、私も破りたい放題破ってるんだけど。
ごりごりってハッチの蓋を開けて、キュポラから身体を乗り出した人がちらほら。
その中の一両。
金色の毛皮の猿が刺繍された旗を掲げた戦車から、ひょこって乗り出した、物凄く背の高い。きっと、私がちっちゃい頃から知ってる、立派な眉毛の男の子が、、東の方を指さした。
指さした先には、真っ赤に塗られた――いや、そんな目立つ色にしてどうすんのさって思うんだけど。
その赤い戦車の砲塔の上に立ったハセンさん。
その隣には、赤ちゃんを抱いた女の人が立ってる。
遠目なのもそうだし。なにより、長い髪を結い上げてて、私が知ってるギヘテさんよりまるっきり女の子だったからびっくりしちゃったけど。
でも、そこにいるのはギヘテさんで。
抱っこしてるのは、未来の皇帝陛下なんだって。私には。
ううん。
いま、その声を聴いて、ハセンさんとギヘテさんの姿を見た、この線上にいる皆には、ちゃんとわかったんだ。
南部と帝都の衝突は、その無線から十分もたたずに終わって。
クリーネ王国とエザリナ神聖皇国。
言葉が通じ合わない二つの国の間に、はじめての交渉があったのは、それから二十時間経ってから。
私達の戦争は。それから、この世界の戦争は、その瞬間、終わったんだ。
三回分に分割した三回目です。
実を言うと、予定してた結末とはちょっぴり違うお話になっちゃいましたが。
それでも、私自身はよかったんじゃないかなって思ってます。
病気とか、子供の入園卒業とか。
なろうコンさんで入選したり落選したり。いろんな事があったけど。トレと一緒に過ごした二年間は、すごく楽しかったです。
一時間後に予約投稿してある『エピローグ』で、『勇者様、価格は二十万円也!』は完結です。
二年間おつきあい頂き、ありがとうございました。
楽しみに読んでくださった皆さんとトレをはじめとする登場人物皆に、ありがとうって。
感謝の気持ちを花束にして、お届けしたいと思います。
完結したので、次回更新の予定はありません。
後日談とかを書くときは、活動報告にて。




