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102.勇者様、深手は時が癒すもの也!

 燃える戦車の中から助けてもらって。

 でも、あっちこっち火傷だらけで、ぼろぼろだった私は、ジレのお屋敷に運び込まれた。


 戦車って鉄で出来てるし、燃えにくい燃料――なんか、矛盾した表現だけど。でも、全体的には火がついたりしにくくって。

 かわりに、砲弾とか弾丸とか。そういう危ない物に燃え移って爆発したら、中の人は助からない。

 そういうものらしくて。


 だから、燃える戦車の中で生きてるってだけで奇跡的で。


 身体のあちこちの火傷と。

 右のほっぺに、ぴって一本線の火傷があるくらいなんでもないって思ってたんだけど


「この火傷の痕は、残る」

「そうですか」


 でも、傷を診てくれたジゼリオさんがそんな話をした時、セレさんもピエリさんもすっごくショックだったみたい。


 ショックだったっていうか、なんかぼとぼと泣いちゃってた。

 二人が泣き出したせいで、ちょっぴり冷静になって。だから、泣かないで……なんて、なだめてた私も、その後すぐ泣いちゃうんだけどね。


 火傷でぐしゅぐしゅになった傷口に、ぺったりはりついた服をはがしたり。あと、傷口が化膿しない様にって、湿布――なのかな?

 にゅるにゅるじめじめなガーゼみたいのをはってもらったり、痛いの目白押しだったんだもん。



 そんなこんながあってから、もうすぐ一ヶ月。

 でも、傷の治りはあんまりよくない。


 火傷だけならよかったんだけど、飛び散った破片が突き刺さって、傷口の奥に入っちゃったのを取り出したり。

 そのために切った場所を縫ったり。

 それが火傷のとこと重なってると、縫ってもきちんとくっつかなかったりとか。



 痕が残っちゃうのはしょうがないかなって思ってたけど、そういうのすっごい痛くて。

 痛いとこが熱を持っちゃって、ずーっと熱があるみたいにふわふわ。



 そんななのに、火傷の痕もあっちこっちじゅくじゅくしたままで。

 肌に張りついちゃうと、はがす時にまた痛い思いしちゃうからって、服もなんだかぺなぺなで。薄くて、肌が透けちゃうようなのしか着ちゃ駄目で。

 そんな格好で外なんか出れないし。


 でも、絶対安静とかっていうとそうでもなくて。


 治った時、肌がかちこちにならない様に、それなりに動いてなくちゃ駄目って言われて。

 でも、身体中痛いし、ちょっとストレッチしたら血がどばーって出ちゃったりとか。とにかく不自由!



 そんななのに、お見舞いに来てくれる――っていうか、来ちゃう人がたくさんいて。

 その人達とお話しなくちゃいけない時も多くて。だから、ほんとにゆっくりしてる時間なんてほとんどなかった。


「お客様たくさんで、大変ですね」

「申し訳ありません」


 ちょっとコゼトさんに愚痴ってみたんだけど。

 そのお客様のほとんどが、南部の戦車が大活躍したって聞きつけた人達らしくて。


 だから、ほんとはもっと大勢の人がお屋敷に来てるのを、コゼトさんが門前払いしてくれてるみたい。


 それにね。


「ビッテ従士や南部の方々が、トレ様のかわりにあちこち挨拶に行ってくれてますからね」

「そうなんですか……」


 司令とかコトリさんとか。

 コゼトさん自身もそうだし、お屋敷にほとんど戻ってこないカレカも、皆で私のとこに行かないでってお願いしてくれてる。


「具合が悪かったら断っていい」


 なんて。

 眉間にぎゅっとしわの寄った、しかめっ面一歩手前くらいのジゼリオさんも行ってくれたし。


 そうやって皆が頑張ってくれてるのに、私だけぽーっとしてられないから、ジレの家より家格が高い人とか。

 あと、普段、お屋敷の皆がお世話になってる人には我慢して会ってたんだけど。


 来る人来る人。自分の息子さんの話ばっかりしてたんだよなあ……。

 なんか変な感じ。



 そういうの考えたら、今日みたいに知ってる人が来てくれるのは、気持ちも楽だし。ちょっと気が紛れるかなって。

 そう、思ったんだけど


「どうした?」

「あ。いえ、あの……」


 二人っきりでホノマくんと部屋にいて。ベッドに座ったままなのって、なんか。

 なんだろ?


 よくわかんないけど、こういうぺなぺなの服で――カーディガンは羽織ってるし、下着見えちゃうとか、そういうのないと思うんだけど。

 でも。

 それでも。

 なんか恥ずかしいんだよ。



 塹壕戦の時、ホノマくんも怪我しちゃったみたいで、私とお揃いみたいに左眼に眼帯してて。

 いつでもちょっぴり怒ってるみたいだった顔は、眼帯のせいでおっかない感じになっちゃってて。


 だけど、なんだか柔らかく笑ってくれてて。

 それが嬉しかったり。でも、じいって目を見られてると恥ずかしかったり。



 ちょっと離れたとこにある椅子に座って、こっち見てるだけなのに。

 お茶を飲もうってカップに手を伸ばしたり。まだ、眼帯に慣れてないんだろうね。

 時々気にして、顔の左側を手で撫でたり。


 そういう、ちょっとした仕草を見るだけで、色んな気持ちがごちゃごちゃになって、お腹の中をぐるぐる回る。


「傷はどう?」

「まだちょっと……。でも、気持ちは元気ですよ」

「そっか」


 うん。

 気持ちは元気。


 ほんとに。


 熱があるし、ちょっとふわふわしてるけどね。

 ……なんか、熱のせいだけじゃない気もするけど。


「でも、今日はどうしたんですか?」

「ん?」

「非番の日って、週に一回ですよね?」


 前世の学校みたいに、急に週休二日になったりとか。そんなのないと思うんだけど。でも、ホノマくんは今日。

 今、ここにいる。


 前に来たの、一昨日くらいだった気がするのに。どうしてかなって。

 気になるよ、やっぱり。


「うん。……いや、なんていうか」

「なんていうか?」


 なんだろ?


 両手で包むみたいに持ったカップのふちを、ごしごしって指でこすって。そのカップの中のお茶に視線を落として。

 それから、もごもごもごって口の中でなにか言ってたみたいなんだけど、ホノマくんの声はちっとも聞こえなくて。


 だから


「ごめんなさい。聞こえませんでした」

「あ、うん。だよな……」


 もう一回言ってって、促す。


 こういうの、士官学校の頃から時々あったから。慣れっこって言ったら、そうでもないけど。

 でも、こういうとき、いっつもふわってぼやかされちゃうから。


 だから、ちゃんとって


「この間さ。生きてたら話すって言ったの、覚えてる?」

「はい、覚えてます……けど」


 そう思って自分で聞き返したのに、ホノマくんの目にじいって射抜かれて、なんだかしどろもどろになっちゃって。

 だけど、さっきまでもごもごしてたホノマくんは、今度ははっきり言ったんだ。


「軍役が終わったら、おれも南部に行く。だから……」


 だから。

 そこで一回、ホノマくんは大きく息を吸い込んで、それから


「結婚してほしい」


 って。



 けっこん、してほしい、って。


 ……どう、して?


 胸がどきどきして、息が上手く出来ないよ。



 息を吸おうと思って口を開いただけで、ぼろぼろ涙が出ちゃう。

 ちゃんと返事しなくちゃって思ってるのに、声だけが出なくて。だから、なにも言えないまま。


 泣いてるの見られたくなくて、手で顔を隠したけど。でも、もう、なんだろ。

 どうしていいのかわかんないよ!


「……今すぐ返事してくれなくて、いいから」

「ん」

「トレがカレカさんを好きなのも知ってる」


 好き、だけど。

 でも。



 頭の中ぐしゃぐしゃになって、どうしていいのかわかんないまま。ホノマくんの胸におでこをくっつけるみたいに抱き寄せられて。

 頭の後ろをぽんぽんってしてもらって。

 そんな風に優しくしてもらっても、声も出せないまま、どれくらい時間経ったのかとかよくわかんなくて。


 とんとんってノックの音が部屋の中に飛び込んできて


「トレ様。そろそろお薬をかえませんと……」


 その音を追っかけるみたいにピエリさんの声。

 それから、ドアノブを回すかちりって金属の音がして。でも、別に慌てるとかそういうんじゃなく。ゆっくり、落ち着いたままのホノマくんはそっと離れてく。


「考えといて」

「……はい」


 それだけ言って、ピエリさんと入れ替わるみたいに、ホノマくんは部屋を出てった。




 すれ違うみたいに出てったホノマくんを送ってったセレさんの背中が、廊下の角っこに消えて。それを見計らって、ピエリさんはベッドに絹のシーツをかけ始めた。


 私の方なんか見ないまま。すっすって手際よく。


 ぴちーってベッドが綺麗になるまで二十秒くらい。


「準備出来ました」

「はーい」


 だから、私も服を脱いで準備。

 ちょっと前まで、はがれた皮膚と傷口から出てくる液体でぶにゅぶにゅで。自分でもちょっぴり怖かった傷口。



 だけど、そういう傷口も少しずつ。

 ほんとに少しずつだけど、うっすらと皮膚の覆いが戻ってきてる気がする。


「では、失礼しますね」

「はい」


 火傷がひどかったところにはってある、湿ったガーゼをとって、新しいのに変えてもらう。


 これが、朝と夕の一日二回。



 はだかんぼで、あっちこっちぺたぺた触られるの。最初の内は恥ずかしかったんだけど、もう、今更だもんね。


 帝都に来たばっかの頃は、お風呂で身体中洗ってもらってたんだしさ。


 首とかお腹とか。

 あと、手首のとこもそうだし、太腿の辺りも。

 ぺたぺたってガーゼをはってもらって。全部すんだら、今度はベッドに寝そべる。


「背中も綺麗になってきてますね」

「そうなんですか?」

「鏡、お持ちしましょうか?」

「いえ。ピエリさんの事、信じます」


 絹のシーツは肌に触れた瞬間、ひやって冷たくて。でも、ちょっとずつあったかくなって。

 そのせいなのかな。


 頭の中ほわほわして。

 ちょっとだけ眠くなってきて。


「それで。ハーバの御子息とはどうなされたんですか?」

「……結婚してって、言われ、ました」

「そうですか。お目が高いですね」


 ぼんやりしながらそんな話しして。ピエリさんの声は、ほんとに何気なくて。


 けど。

 けどさ。


 そんな。

 急に結婚とか。


 全然わかんないもん。


「ピエリさんは、結婚してって言われた事ありますか?」

「何度かあります。けど、トレ様のお世話の方が大事ですから」


 ふふって笑ってるけど、そんな簡単に断っちゃっていいの?

 私のためとか、そういうのも。


 なんだろ。


 ちょっと、やだ。



 ほんとは、こういうのカレカにききたいのに。

 どうしたらいい?って、ききたいのに。どうして帰ってきてくれないのかな?


 私のためとか、そんなのいいよ。


 帰ってきて。

 会いたい。


 ぱたぱたぱたって涙がシーツに落ちて。はだかんぼのまま寝ちゃ駄目なのにって思ったんだけど、ほわほわあったかくて。

 眠くて……。



 泣き泣きのまま。うつぶせに、枕に顔を埋めたまま寝ちゃってたと思うんだけど。

 眼が覚めたらあおむけで、ちゃんと服も着てた。


「んぅ」


 変な姿勢で寝たからなのかな?

 ごわごわする身体をんーって思いっきり伸ばして、それからぱちって眼を開ける。


 まぶたごしに、ちょっぴり明るいの感じてたけど。まだ、朝じゃないみたい。


 カーテンの隙間から、お月様が見えるから。



 さえざえと青い月。


 その光に照らされて、夜空に溶けるみたいな黒い服の人がベッドに座ってるのが見えて。

 せっかく伸びをした背筋は、きゅーって縮こまっちゃった。


「目、覚めた?」

「……クイナ、さん」


 真っ白い――でも、月の光でちょっぴり青みがかかって見える包帯で覆われた手が、ほっぺに伸びてきて。

 またひどいことされるんじゃないかって、ぎゅーって目をつぶるんだけど。その手はすっと火傷の痕にそっと触れただけ。



 今までクイナが私にしてきた色んな事。

 それから男の人に触れられて、それで怖いっていうのとはちょっと違う。


 なんだかそわそわした気持ちになっちゃった。

 包帯でぐるぐるの手が、助けようとしてそうなったって聞いてるからなのかな?



 目が覚めたらカレカに抱きしめられてただけで、あの日、なにが起こったのか、私は知らない。


 ただ、私達の戦車を撃った戦車は、コトリさんの戦車がやっつけてくれて。


 その頃には、東側の塹壕戦も終わってて。

 士官学校の同級生とか近衛の人達とか。


 南部の皆も、テアも。

 それから、今、目の前にいるクイナも。


 大勢の人が、燃え上がりそうな戦車から私を助けてくれたんだって。



 燃料が漏れて、それが燃えた炎でものすごく熱くなってたハッチを力づくでこじ開けて。

 それで、両手に大火傷してまで。そんな風に助けてくれるなんて、思ってなかった。


「あの。助けてくれて、ありがとうございました」

「別に……」


 ぷいって顔をそむけたクイナは、それっきりなんにも言わない。


「君が死んだら、南部と全面戦争になるかもって思っただけだから」

「そう、ですか」


 そういえば、司令から脅かされてたもんね。

 だから助けてくれたのかな?


 でも、そんなの言うためだけに来るなんて、それこそ意味わかんないよ。


 気まずい沈黙。

 それから


「ずっと思ってた」

「なにをです?」

「どうして、よわっちいくせに戦えるの?怖くないの?」


 はじめはぽつりとつぶやくように。

 それから、最後は少しだけ大きな声でクイナにそうきかれて。だから、ちょっぴりだけ考える。



 どうしてかなって。



 戦いたくなんかないし。

 怖い。


 それでも、私は……


「私は、前世のお父さんお母さんを幸せにするためにこの世界に来ました」

「なに、それ?」

「神様同士の戦争を終わらせたら、父さん母さんを幸せにしてくれるって、約束してもらったんです」


 あの日、四十万さんがおこしてくれた奇跡の中で、父さん母さんと会って。秋桜久ちゃんとも、大鳥とも話して。

 皆が幸せだったのかは、ほんとはよくわかんなかったけど。

 でも、父さんも母さんも、笑ってくれてて。

 だから、約束は守ってもらえてるって信じられたから。



 私が頑張ったら、きっと誰かが幸せになるって信じてたから。


「だから、私は、意地をはれるんだって思います」


 そんな風に考えてたなんて、口に出さなきゃわかんなかったかも。

 そういう気持ち。


 それで、なんだか笑う余裕が出来た。



 そっか。

 そうなんだって。



 でも、クイナの目はすっと冷たくなる。


「なら、大僧正を殺すの?」

「どうしてですか?」

「あの人、神様だからね」


 どう、いうこと?


 神様って、そういうものなの?

 私が知ってる神様って、もっとふわふわした具体性のないなにかだったのに。けど、クイナにとっては具体的で、実際に助けてくれる。

 そういう人だったんだね。


 でも、だとしたら。


「あの、きいてもいいですか?」

「なに?」

「もう一人の神様を見つけたら、どうしようと思ってるんですか?」


 大事な誰かに傷ついてほしくない。

 今まで、そういうの、クイナにはわかんないんだって、勝手に思ってた。


 けど、大僧正様を大事に思ってるクイナには、きっとわかるんじゃないかって。

 もう一人の神様の近くにも、クイナと同じように、その人を大事にしてる人がいる。


「さぁ……」

「言われませんでしたか?」


 そういうの、わかってても、全部台無しにしちゃう。

 それは、私にもクイナにも。

 テアもクレアラさんも。


 勇者候補とか英雄とか。呼び方なんかどうでもいい。


 他の世界から転生してきた私達は、きっとみんな言われてきたんだ。


 この、呪いみたいな言葉を。


「神様同士の戦争を終わらせたら、願いをかなえてくれるって」

「言われた。かもね」

「だったら!」


 だったら、どうなんだろ。


 大僧正様が神様で。

 その人を殺したら、神様同士の戦争が終わって。


 それでなにかが丸く納まって。それでお終いなんて、そういうのやっぱりやだ。


「もし、もう一人の神様ってのが見つかって。

 それで、あの人が、そいつを殺せっていうなら、行って、殺すと思うよ」


 どこにでも行けるクイナの能力なら、そんなの簡単だよね。

 もう一人の神様の居場所がわかったら、それで全部おしまいに出来る。


 けど


「もし、そこに君がいて。そいつを殺さないでって言うなら、ぼくはそうする。

 君があの人を殺そうっていうなら、君を殺すけど……」


 冷たい眼をふにゃってゆるませて、クイナは笑った。


 はじめて会った時とおんなじ、糸みたいに細い眼で。口元だけ釣り上げた、作り物みたいな笑い方のまま。くくって喉を鳴らしながら


「まぁでも。君にあの人をどうこう出来るなんて思えないけどね。よわっちいし」

「それは、そう。かも、ですけど……」


 だって。


 どうせ私はよわっちいよ!

 でも、だからって、なんだよ。そんな言い方。



 別に元々仲良しなんかじゃないし、クイナと仲良くなろうなんてちっとも思わないけど。

 でも、なんだかむかむか。


「変な顔」


 うっさい!


 ひとしきり笑って。でも、その後、ふっと視線を手元に落としたクイナはぽそぽそって話し始めた。


「……この間、さ。はじめて怖いと思ったんだ」

「なにをですか?」

「自分より強い人が、寄ってたかって攻めてくるの」


 真っ白い包帯でぐるぐるの手をもじもじって膝の上で手を動かして、視線をちょっとあげて、窓の外を見る。

 目が覚めたときと同じ、青白い月に照らされて、クイナの顔が浮かび上がった。


 さっきまで笑ってたのに、横顔に見える糸みたいな細い眼に表情は浮かんでない。

 ただ、その表情のない眼がつと私に向いて


「君、あんな気持ちを抱えて、ぼくと向き合ってたんだね。知らなかった」


 ぽしょっと。

 ほんとに、ぽとってコップからミルクがこぼれるみたいに細い声で言って、クイナは笑った。


「だからね」


 いつかの、あの気持ち悪い笑い方――きっと、普通にしててもそういう笑い方なんだね。

 くくって笑って


「君があの人にちょっかいを出さないなら、ぼくはもう君のとこには行かない。……約束する」

「あの人って、大僧正様のことですよね?」


 返事も頷きもしないで。

 ただ、クイナはじっと私を見てた。


 別に、大僧正様をどうにかしたいなんて、思わないもん。

 もしあの人が、ほんとに神様だって、私は……。


 だから


「約束、します」


 そう答えた。


 こくって頷いたクイナは、ぽんぽんって私の頭を軽く叩いて。それから、ゆっくり立ち上がって


「じゃあ」


 それから軽く手を振ると、空気に溶け込むみたいに消えてった。



 もしかしたら、しちゃいけない約束だったのかもって思うけど。

 でも、誰かを傷つけて、それで後悔するような約束を、ずっと守ってるより。傷つけないって約束する方が、きっといいって。


 そう思うから。


 だから。

 私は。



 もし、この約束が、私の魂を買ってくれた神様に怒られて。

 それで、ちょっと嫌な思いしたって、前世の父さんと母さんは許してくれる。


 そう、信じられたんだ。


今回は、約束にまつわるエピソードをお届けしました。


心に決めてた最終回の前、最後の一話。

なのに、物凄い難産でした。


決められた結末を導くために。あと、足かけ二年に届きそうなくらい積み上げてきた、色々な気持ちを形にしなきゃって、悩んで。

ぎりぎりぎりーって自縄自縛になっちゃってたのかもしれません。



最終回の更新は2014/10/27(月)から始まる週のどこか。いつも通り、午前7時頃の投稿を予定しています。


更新についてなにか変更があれば、活動報告にて。

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