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マコト可愛いな~。

 アタシはマコトを見ている。

 彼女は服装や口調が男っぽい。

 だが、顔も整い、スタイルも良い。

かなり可愛い女の子。

 しかも、胸は十分に有る。

 お風呂で奇襲……ではなく、胸の大きさを手で図った時はEカップぐらい有ったかな。

 でも、あれは彼女の仕草を見る為の物だったし、胸の大きさを測る為じゃなかったから少し曖昧かな。

 間違ってないと思うけど。

 ちょっとからかってみよ。

「ねえ、サツキさ、この二人の――って所が聞こえなかったからもう一回言ってよ~」

 アタシは可愛い彼女を見る。

「嫌だ」

 睨まれた。

 その顔もまたいい。

 マコトは睨んで誤魔化しているつもりだろうけど、アタシの瞳を良く見たい様だ。

 誤魔化している。そこがまた可愛い。

「なんでよ~」

 アタシは頬を膨らます。

 誤魔化していると言う事は恥ずかしいからだ。

 だから、こうやってひと押しすれば……。

「恥ずかしいセリフ言えるかよ」

 恥ずかしそうにそう言い、マコトは恥ずかしがって天井に視線を向けた。

 アタシに掛かれば造作も無いね。

 恥ずかしがっているマコト可愛い~。

 相変わらずのツンデレだね。

「ツンツンしてないで、少しはデレてよ~」

 ……無視された。

 今度、何か言ったら無視してやろ~。

「営業中の看板取れているんじゃないのか?」

 マコトはそう独り言を言った。

 看板見て来いって言いたいらしい。

 無視。

 ノゾミが動いた。

 看板を確認してきたノゾミがマコトと会話をする。

マコトは起き上がり、きちんとソファーに座る。

「でも言えるって事は、キミにそんな考えが有るからでしょう。例えふざけた考えだとしても」

 ノゾミはマコトを褒めた後、窓際へ行った。

「マコトの勘は鋭いからね」

 アタイはマコトを見ずに褒める。

 その後、マジ女狐が来て面倒な依頼をして帰った。

 女狐に感謝はしているが尊敬はしてない。

 嫌いでは無いけど、好きでも無いね。


 店の掃除が終わったから部屋に帰って来た。

 そしてアタイは手洗い、うがいを済ませて、椅子に座る。

「今日の晩御飯は何かな~?」

 目の前のテーブルにどんな晩御飯が並ぶのかな~。

 マコトの携帯電話が鳴った。

 携帯電話の画面を見たマコトはアタイを呼ぶ。

 それ相応の返事をして、立ちあがり準備運動をする。

 マコトはお気に入りの革ジャンを着て出て行く。

 アレはアタイが出会って最初のマコトの誕生日に買ってあげた物。

 気に入ってくれていて嬉しい。

 アタイはそんな事を考えながらマコトの後を付いて行く。

 女狐の部屋に行くと人間のフリをしたキツネが出て来て言う。

「部屋の奥に有るから持って行きな。あと、マコトは役に立たないし、邪魔になるから入らない方がいい。サツキ一人でも十分だろ?」

 ……その女狐がアタイのマコトを馬鹿にしやがった。

 アタイは両手を握り、戦闘の準備をする。

「三百程度しか生きていないデカイだけの爬虫類が」

 頭が良いからって生意気言いやがってババアが。

 アタイにはマコトに注ぐ愛が有る。

食ってやろうかこのキツネ。

「サツキ。俺達がこうやって生活出来るのもタマさんのお蔭だし、お前もタマさんがいたから人間の姿で人間として生活出来るんだろ」

 確かにそうだけど……。

「でもマコトの事を……」

「そのくらいどうでもいい。タマさんも悪気があって言った訳じゃないはず」

 マコトに止められる。

 彼女が言うなら仕方無いね。

 熱くなりすぎちゃったと思うし。

 とりあえず謝り、タマさんの部屋に入る。

 中は広い。

 妖術で部屋の中を広げているのかな。

 テレビは消しているがテレビゲームの電源は点けっぱなしになっている。

 さっきまでしていた様だ。

 奥の部屋へ行くとガラクタが置いてあった。

 あのキツネにとっては宝なのかも知れないけれど。

いろんな妖しい物がいっぱい有る。

その中に冷蔵庫が有ったから、持ち上げて来た道を戻る。

さっきのテレビゲームが目に入った。

なんのゲームをやっていたのか気になった。

冷蔵庫を置いて、テレビの電源を入れる。

…………見なかった事にしよ。

テレビの電源を消し、服で指紋を拭き取る。

冷蔵庫を持ち上げ、部屋を出て行く。

………………マコトがキツネを抱きしめて喜んでた。

つい、冷蔵庫を投げてしまった。

次の瞬間、マコトが冷蔵庫の下敷きになっていた。

赤いのが流れている。

ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。

「タマさん! マコトを!」

 キツネに助けを求める。

 見るとアタイの後ろにいるキツネの傍らにマコトが居た。

 ……なんで?

「余が助けなきゃマコト危なかったぞ」

 え、冷蔵庫の下のアレ何?

「慌てちゃって可愛い事。あの赤いのはケチャップだ。お前さんをからかうのに使った」

 怒りが込み上がる。

 でも、マコトを助けて貰ったのには変わりは無い。

「ありがとうございます」

 アタイは頭を下げた。

 そして、泣き崩れ落ちた。

 マコトが無事で良かった事で。

 アタイの嫉妬深さに落胆した事に。

 アタイを捨てるなら死んじゃえって思ってしまった。

 彼女がアタイを捨てる筈ないのに。

 アタイはマコトを信じ切れて無い……。

 そう思うと涙が止まらなかった。


「邪竜だ。殺せ」

「殺せ」「殺せ」そんな声ばかりが聞こえる。

 嫌。

 わたしが何をしたの?

 知らない。

 わたしはこの洞窟から出た事は殆ど無い。

 滅ぼした国とか知らない。

 何もしてない。

 何もしてないのにみんなみたいになってしまうの?

 嫌。

 飾り物になってしまうの?

 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌。

「正義を振りかざすだけの人間に狂っているなんて言われたくないね」

 入口の方からそんな声が聞こえた。

 その方を見ると、人間が一人居た。

 油断させてわたしを殺すつもりなのだろう。

 その人間が近づいて来る。

 わたしは身を守るため爪で切り裂いた。

 それでも近付いて来る。

 当たって無かった様だ。

「大丈夫。怯えないで」

 その人間が言った。

 近くで見て気付いた。

小さな女の人間だった。

 成長し切っていないのだろう。

 わたしは声を上げ、もう一度切り裂いた。

 それでも近付いて来る。

 また、当たって無かったようだ。

「貴方、無闇に殺しはしないのね。安心した」

 近付いてきた人間を見て気付いた。

 中心辺りから血が出ている……。

 ×の形に赤くなっている。

 両方とも当たっていた。

 だが平気で近付いて来る。

 傷つけられたのに、恐れず近付いてきた?

恐怖を感じた。

 あたしは目の前の恐怖から逃れる為、目を閉じた。

「目を閉じないで。貴方、瞳が宝石の様に綺麗なんだから」

 意味が分からなかった。

 嫌な気分はしなかった。

 目を開け、その人間を見た。

 先ほどより近付いて来ていた。

 わたしより恐怖に怯えていた。

 でもその人間はそれでもここまで来た。

「もう怯えなくていいから。わたしが助けてあげるから」

 わたしは何故だか安心し、頭を地面に下ろした。

 その人間はわたしに近付いてきて、頭を触った。

「もう大丈夫だから……」

 嫌では無かった。

 むしろ、嬉しかった。

 

その人間――マコトはわたしに「皐月」と名前をくれた。

 

 ……彼女の目はいつも虚ろだった。

だけど、その目はわたしを見ている時だけは輝いている。

わたしが彼女を必要としているんじゃ無くて、彼女がわたしを必要としている。

そう思った。

いいや、そう思っている。


……目が覚めた。

わたしって言っていたって事は出会った時の話か……。

マコトもわたしって言うから被るのが嫌だからって、「サツキはアタイ。で、わたしは俺って呼ぶ事にする。両方使わないんだから不満は無いだろ」って決めたんだったね。

でも、アタイは自分の事サツキって言っちゃっているけどね。

心の中ではアタイって呼んでいるけどなぁ。

顔を触ると濡れていた。

マコトに見られたら恥ずかしい。

……『その目はわたしを見ている時だけは輝いている』か。今はノゾミやあの女狐を見ても輝いているしね。

アタイがあの二人に助言したからだけどね。

顔を洗うのに洗面所に向かう。

「あ」

『全裸の』マコトが居た。

「あ」

 向こうも同じような声を上げる。

 最愛の彼女が全裸で居たら、我慢出来ませんよね。

出来ません。なのでOK。

アタイに聞いてアタイがOK言ったしOKだ。

「サツキ。マコトはシャワー浴びているから」と言うノゾミの声が聞こえた。

「サツキも一緒にシャワー浴びるから」

 条件反射で言ってしまう。

「うわ、面倒な事を言い出したよ」

 マコトはそんな顔で言う。

 思っている事が声に出ちゃったようだ。

「思ってる事が口に出てるって。なんで面倒なのよ~」

「ベタベタくっ付いて来て邪魔だ」

「その方がいいでしょ」

 一瞬視線が揺らいだ。

良い様だ。

浴室の中で襲撃するぞ~。

「洗っている時はくっ付いて来ると迷惑だ」

「ドラゴンはご主人様と一緒にシャワー浴びないと死んじゃうの」

 大嘘です。

「ノゾミ~こいつを頼む」

 軽く流された。

「そうやってすぐノゾミを頼るし。そんなに嫌な……」

 アタイが喋っていると後ろから引っ張られ連れて行かれた。

 抵抗する間が無かった。

 敵ながらあっぱれ。

 その後、食べたご飯はより美味しく感じた。

 マコトとお風呂入る約束もしたからね。

 

アタイは車に乗ってすぐに眠ってしまった。

……振動に起こされた。

起きてすぐにボロボロの教会が見えて来た。

 良く眠っていた様だね。

 そして教会の前で車は止まった。

 車を降りると気持ち良い風が吹いた。

 目の前に怪しげな教会。

 そして、それに入って行くアタイ達。

「この雰囲気かっこいい~」とはしゃいでしまう。

「先に行くから」

 マコトとノゾミは教会のドアを開け、先に入って行く。

 そして、女狐が続いて行き、アタイは最後に入る。

 中も良い感じにボロボロ。

 何か出てきてもいいかも。

 キツネは辺りを見回している。

 彼女は溜め息を吐く。

 そして大きく息を吸い、「エレン居るのだろ!」と大声を出す。

すると奥から、キャミソール、ホットパンツ、とアタイだったら凍えそうな服装の、波打った赤い髪が腰まで有る女性が現れた。

 年齢は二十歳ぐらいかな。

「綺麗な人だね~」

 アタイはそう呟いた。

 中は綺麗とは限らないけど。

「タマちゃんか。お久し~だね」

 声も結構綺麗だ。

 女狐は包装紙に包まれた日本酒を前に出す。

 彼女はキツネに近付き、日本酒を受け取ろうとする。

 その瞬間、マコトはキツネに体当たりをした。

 二人は地面に倒れた。

「何やってるの!?」

 状況が分からず叫ぶ。

 マコトは敵に何か言いながら起き上がる。

「その腕!」

 マコトの左腕を見てアタイは叫ぶ。

 左腕から血が流れていた。

 彼女がそんな気にしていない様子から深い傷では無いっぽいね。

 彼女は敵を睨みつける。

「アンタ……見えたのか?」

 敵は驚いている。

「よくもマコトに」

 アタイはマコトを傷つけた敵に殴りかかる。

 敵はそれをかわす。

「ウチと喧嘩する気かい。子供と喧嘩はする気は無いのでな」

 挑発して来た。

 ムカつくから腹を殴ってやろう。

 敵は片手を出した。

受け止める気だね。

 でも――無理だよ。

アタイは敵を吹き飛ばし、壁に叩きつけた。そして、数メートル下の床に落ちる。

血が飛び散る。

……殺しちゃったかも……。

「サツキ!」

マコトに怒鳴られた。

 体が固まってしまう。

「殺したりしたら……」

 血の気が引く。

「ご、ごめん。ゆ、ゆ、許して……」

 彼女の方を向き、手を合わせ、後退りをする。

「まだ殺してないんだから、謝る必要無いだろ」

 彼女はそう言い溜め息を吐く。

「え?」

 あれで死んで無いの?

 敵の方を向くと、血だらけの敗者がゆっくりと立ち上がった。

「アンタ何者だよ……」

 敗北フラグ言いながらヨロヨロしている。

 何者か聞いてみるとヴァンパイアだと答えた。

 本当にそんな生物居たんだね。

「それで、アンタは?」

 向こうも聞いて来た。

「サツキはドラゴンだよ。タマさんの道具で人間の姿をしているだけ~」

「正確にはワイバーンだが。四足じゃないからな」

 マコトが少し説明を加える。

 ドラゴンでもワイバーンでもいいでしょうよ。

「アンタ火吐けるのか?」

「ワイバーンは吐きません。毒と爪で獲物を狩るんです」

「基本、バカデカイ鷲だな。毒はオマケ」

 マコトがワザワザ分かりやすい説明を加える。

「マコト~。口出ししないでよ~」

 彼女が虐めて来るので泣きそうになる。

「そうなのか。けっこう戦いがいの有る相手だな……」

 敗者はそう言うと場所を少し移動する。

 そして、足元に落ちていた大きな石を上に投げた。

 天井から大きな十字架が吊り下げられていた事に気付いた。

錆びた鎖に石が当たり、鎖が千切れ、十字架が敗者に向かって落ちて行く。

凄い奇跡だね。普通一発で千切れないよ。

敗者に当たる寸前の所で十字架の長い部分を右手で掴み、落ちてくる勢いを使い短い部分を左斜め上に向けて大きく振り回す。

衝撃を横に逃がした様だね。

「ウチと本気で戦おうじゃないか」

 挑発してきた。

 何故かノリノリである。

十字架が平気と言う事に驚き、独り言を言ってしまう。

 向こうはカッコ付けているしアタイもカッコつけよ~。

「そっちがその気なら、マコトの分の仕返しをしてあげるよ」

 両手を握り、臨戦態勢を取る。

「久々に血が騒ぐね」

 そう言い、敗者は向かって来る。

 けっこう足速いね。

 でも。

「サツキは強いよ」

 敗者は走りながら十字架を持ち上げる。

そして数メートル前で止まり、アタイに向かって十字架を振り降ろす。

 アタイはそれを左手だけで受け止める。

 風が気持ちいい。

「これで本気なの?」

 弱くてがっかりした。

 つい溜め息を吐いてしまう。

敗者は何か言うと、左腕を振った。

いつの間にか剣を持っている。

 後ろへ跳ぶ。

 左手に当たってしまう。

「サツキ!」

 マコトがアタイを心配してくれた。嬉しい。

 とりあえず左手を確認して、彼女を安心させよ。

確認をして大丈夫だったので「大丈夫だよ~」と左手を振ってあげる。

「アンタみたいに力任せじゃないの」

 敗者は勝ち誇った様な口調で言う。

「それがそっちの本気って事だね」

 弱過ぎて笑っちゃけどね。

「何が可笑しい?」

 敗者は敗北フラグを出した。

 やっぱり敗者だね。

「そのセリフ、敗北フラグだよ」

 アタイは軽くジャンプして敗者の後ろに上から移動する。

 敗者が振り向く。

 今度は敗者に向かってジャンプをする。

敗者は十字架を自分の前に出す。

 邪魔なので殴って壊した。

「残念だったね。ウチに拳は届かなかったね」

 敗北フラグ言っているし。

 しかも攻撃は腕以外でも出来るから。

「それも敗北フラグだよ」

 肩を一時的に掴んで蹴りを入れると同時に手を離す。

敗者は吹き飛び、再び壁にぶつかる。

なんかさっきと似ているけど、今度は壁に綺麗にめり込んだ。

「死なない程度にやったからね」

 そう決め台詞を言い、マコトに向かって左手でVサインを出す。

 左手が大丈夫って事を教える為に。

マコトは楽しそうだ。

 その後、敗者はまだ食ってかかって来たがタマさんに止められた。

「なんでアンタは駆除される事になったんだ?」

「国を滅ぼしたりしたしね~。全てはサツキのお母さん、お父さん、友達を殺し、剝製にした人間への報復をしたからだよ」

 みんな剝製にされた事以外は嘘だけどね。

 思い出すと、耐えがたい苦痛で心が押しつぶされそう。

でもマコトが居たからアタイは笑顔で言えた。

少しだけ過去を克服できた気がした。

「そんなアンタが何で人間と居るんだ?」

 敗者に聞かれた。

「色々有ったの」

アタイはマコトを見て「ね~」と言う。

マコトはオロオロしている。

そこもまた可愛い~。

 女狐と敗者が話をしていたがどうも敗者、えっと……エレンは女狐に騙されたらしい。

 御気の毒だね。

 そして、行く時よりも一人多く乗った車で帰った。

 マコトの怪我の事を忘れてしまっていた。

 彼女は『いいよ』って言っていたけど本当は心配して欲しかったはず。

 ごめんね。マコト。

 

 また車の中で寝ちゃったらしい。

 起きたら家にいた。

マコトが怪我していた。

 つい叫んでしまった。

 マコトその事に特に反応せずに、面倒そうな表情でアタイを見た。

 

 助けた女子高生に怪我させられたらしい。

「つまり『それ』を殺せば万事解決だね」

「どこらへんが万事解決なんだよ」

「復讐するあたり」と笑顔で言う。

 八割方ふざけているけどね。残りの二割は本気。

「俺もお前みたいに笑えたらな……」とマコトは呟いた。

 問題有る事を言いながら笑っちゃったのは不味かったな。

 彼女はちゃんと笑えないから。

「ごめんね。マコト」

「謝る必要は無いよ」

アタイの頭を撫でてくれた。


 マコトは約束を守り、アタイと一緒にお風呂に入った。

 いつもの様に胸の検査をした。

 そしていつもの様に、反撃された。


 今日はアタイが先に起きたのでマコトを起こす。

「嫌な予感がする」

 起きて最初の言葉がそれなのはがっかりだよ。

「起きて最初にそれはないよ」

「俺の勘は天気予報より当たるんだろ?」

「マコトの勘はもっと的中率有るって。今日の天気はどうなると思う?」

 彼女を褒めてあげれば好感度は上がるはず。

 彼女は窓の方を見る。

 外を見ている様だ。

「昼間はこのままの天気で、夕方から晴れるんじゃないかな」

 多分勘で言っているだけだね。

それでも当たる場合が有るからマコトは凄いと思う。

「さっきテレビ見たら、天気予報では一日中曇りだって」

 彼女は淡白な答えを返した後、布団から出て来て、朝の挨拶をする。

アタイは元気よく返事をする。

 マコトに付いて行き、台所を通るとノゾミが料理をしていた。

 アタイとマコトがノゾミに朝の挨拶をする。

「おはようございます」

 ノゾミはこちらを向いて丁寧に朝の挨拶をした。

 そして洗面所へ行った。

マコトは洗面所で少し顔を洗おうと思った様だが、包帯の事を思い出したらしく、タオルを濡らして顔を拭いた。

彼女は鏡を見続ける。

 アタイは鏡越しに彼女の可愛い顔を見る。

 彼女は視線に気づいてこちらを振り向く。

「何?」

「いや。なんでもない」

 アタイは首を横に振ると、笑顔で誤魔化した。

 誤魔化すほどの事じゃないけどね。

 彼女は特に気にしなかった。

その時、インターホンが鳴った。

「手が離せないからマコトかサツキ出て下さい」

 台所からそんな声が聞こえた。

 アタイとマコトは玄関へ向かう。

 彼女が玄関のドアを開けた。

外には敗者……じゃなくてエレンが居た。

マコトとエレンが話をするが、アタイは興味が無いので聞かない。

でも、マコトが『あの子』と言ったのは聞こえた。

……誰の事?

アタイに秘密の友達かな?

アタイに秘密にするって事はアタイに知られたく無い。

つまり恋人。

マコトの恋人はアタイ。

『あの子』=排除=食べる。

「『あの子』って何? サツキに秘密の友達? つまり食べて良いの?」

 マコトの左肩を右手で掴み、目を覗き込む。

「友達でも無いよ。もちろん恋人でも。見かけただけ。あと、食べるのは無理だと思う」

 見た事が有るだけの人物なら良かった。

マコトは嘘を言わないから。

エレンは話が終わると、隣の部屋の前に行った。

インターホンを押した。

? 何しているのかな?

 数秒後、ドアが開いた。

 なんで? 空き部屋じゃないの?

 エレンは無言で侵入した。

何か有るかと盗みに入ったんだね。さっきドアが空いたのは自動ドアだからだね。

納得。納得。

そして手ぶらで出て来た。

 ……そりゃあ盗む物無いでしょうね。

 そう言えばさっき、なんかエレン持っていた様な? 気の所為だね。

 そして、ドアが閉まった。

 この部屋も自動ドアにして貰いたい。

 エレンはこちらを向いた。

彼女の顔が蒼白になっている。

貧血かな?

 足が震えている。

 あんな格好しているから風邪ひいたんだね。

 バカみたいに口をパクパクしている。

 こじらせて声が出なくなっちゃったんだね。

 マコトは部屋を出て、エレンに近付いていく。

 引っ張られて気付いた。

 マコトの肩つかみっぱなしだ。

「ま……マコト……」

 エレンの声が震えていた。

 風邪だね。

「サツキ。エレンを怪我させない程度に殴れ」と言われたので、即、殴る。

 エレンは倒れる。

「何するのよ!」

 エレンは起き上がる。

「どうした?」

「アンタが指示させたんじゃないのよ!」

 エレンは怒鳴る。

そして何か言った後、しゃがみ込む。

「もしかしてお前、幽霊とかそう言う系苦手か?」とマコトが唐突に聞く。

 エレンは震えながら、マコトの方を向いて何回も頷く。

 幽霊が苦手な殺し屋はダサい。

「エレンって本当にヴァンパイア? しかも元殺し屋なの?」と虐めてみる。

 幽霊が怖いのと自分がヴァンパイアは無関係だと思うけど、虐める為にそう言った。

 彼女は立ち上がり、アタイの胸倉を掴む。

「本当だ! アンタみたいなペットとは違う!」

 アタイの胸倉を掴んでいる手が震えている。

 ペット=家族だからアタイ的にはOKだけど。

「マコトのペットならサツキは喜んでなるよ」

 アタイは一呼吸を置き、話を続ける。

「でもそうやって強がっているだけでしょ」

 なんとなく虐める。

「つ、ちゅおがってなんかいない!」

 噛んだ。

 エレンもけっこう可愛いかも。

「あんな、ゆ、幽霊なんかホントは怖くないし」

 声が震え、目がウルウルしてきた。

 この感じを言葉で表すと『萌え』だね。

「……本当だもん」

 しまいには泣き出した。

 そしてまたうずくまった。

 マコト! この子お持ち帰りOK?

「信じてあげるから泣かないで」

 マコトは優しくエレンの頭を撫でる。

 そして、起伏の全く無い声で「サツキ」と言った。

 鳥肌が立つ。

 寒さの所為では無い。

「……ご、ごめ、んなさい」

 そう言い、マコトの向きとは逆方向に走って行き、柵を越え、庭に飛び降りる。

 二階程度から飛び降りたって平気。

そして、ここから逃げる。

 虐め過ぎた。

 反省は……あんまりしてない。


 ある程度時間が経った後、家に帰ると誰もいない。

店に行くと、店の前で考えている女の子が居た。

手には包帯を巻いている。

マコトを襲った女子高生と判断。

 気づかれない様に後ろに回り込む。

「何してるの?」

 アタイがそう言うと彼女はこちらに振り向く。

「いや……その……なんでも無いです……」

 彼女は逃げようとする為、腕を掴む。

「マコトに謝りに来たの?」

 彼女はこちらを見る。

「あなたは……?」

 マコトを襲った女子高生で正解。

「マコトの……」

 言葉が詰まってしまう。

 アタイはマコトの何なのだろう。

 恋人と言ってはいるが言っているだけだ。

「ここの従業員」

 とりあえず店を指差し、言う。

「そうなの。でも、もう謝ったわ」

 どう言う事?

「なら何でここに?」

 彼女は答えない。

「依頼だね」

 彼女は動揺する。

「もしかして、マコトに依頼断られたの?」

「いいえ。まだ依頼を言っていません」

「マコトに謝ったならその時に……」

 言えばいいじゃないと言おうとしたがなんとなく読めた。

「話す機会を失ったのね。それで、店を出ちゃったんでしょ?」

「そんな所です」

 彼女は小さな声でそう答えた。

 多分、マコトが依頼に嫌な予感を感じて追い出したのでしょうね。

 それとも、この子が嫌なのかも知れないね。

 マコトの我儘かな。

 本当は我儘な子だしね。

 アタイは店に近付き、窓から中を覗く。

 ソファーに座っているマコトと向かい側のソファーに座って居るノゾミが話をしている。

 アタイは女子高生の方を向き手招きする。

 彼女は少し戸惑ったが、こちらへ来てアタイと一緒に中を覗く。

「サツキは俺が仲良くする奴には激しく嫉妬するからな」

マコトはそう言い、緑茶を飲む。

 アタイ。そんな激しく嫉妬するかな?

「だけどボクには嫉妬しませんよ」

「俺がお前に好意を持ってない訳では無いから大丈夫」

 ノゾミは無言。

「サツキがお前に嫉妬しない理由はそれでは無いって事」

 彼女は首を小さく傾げる。

「俺がお前に好意が無いから嫉妬されないと考えをして今落ち込んだから、そう言っただけ」

「落ち込んだ動きなんてしていませんよ」

「それは知らないけど。ただ、お前が落ち込んだのが分かっただけ。俺の勘違いなら流して貰っても構わない」

そう言い、マコトは緑茶を飲む。

 ノゾミが何か呟いた。

マコトは湯呑みをテーブルの上に置く。

「……んで、そこの不審者は何をしているんだ?」

 マコトの声が聞こえた。

 ノゾミがこちらを見る。

 アタイ達はしゃがみ込む。

 しばらくすると誰かがお店から出る。

 ノゾミがやって来た。

 嫉妬してあげてみるかな。

「マコトといい雰囲気になってちゃダメだよ」と優しく、大きく言う。

 彼女の表情が変わった。

 ノゾミがキレた。

 言った事が癇に障ったようだ。

 ノゾミはアタイに殴りかかって来る。

避ける。

反撃してもいいが本気で殴ったら不味い。

ノゾミが吹き飛ぶ。

彼女は傷ひとつ付かないと思うけど……そして、アタイ達の正体がこの女子高生にバレる可能性が有る。

その時、お店の外に置いてあった箒を見つけた。

あれなら箒が先に壊れるからある程度威力を軽減できる。

それを手に取り、ノゾミに向かって振り下ろす。

彼女はそれを避ける。

勢いが止まらず下に振り下ろす。

箒が壊れる。

それを見て気付いた。

壊れたのは箒だけじゃない事に。

ノゾミを見る。

それを見たまま硬直している。

彼女も気付いた様だ。

「秘密にしてね」

「口外しないで下さい」

 アタイ達は自体が飲み込めていない女子高生に向かって言う。

 彼女は頷いた。

そして、お淑やかに笑った。

「何?」

 アタイは首を傾げる。

「あなた達、私と似ていますね」

 ?

 アタイはノゾミを見る。

彼女も首を傾げた。


鈴を鳴らし、ノゾミが店の中に入る。

続けてアタイとコトリが入る。

「コトリ。そっちに座っていいぞ」

マコトは女子高生に反対側のソファーに座るように指示する。

彼女はコトリって言う名前だね。

「何か壊さなかったか?」

 マコトが聞いていた。

 背筋が一瞬凍るが、マコトに悟られないように自然に振舞い、答える。

「外に置きっぱなしになっていた箒だよ」

 外に置いてあったタマさんのお店の商品も壊したとは言えない。

「片づけていたのか?」

「そうだよ」

 嘘では無いよ。

 壊した商品をタマさんにバレない様に『片づけ』たしね。

「で、コトリは何しに戻って来た?」

 マコトがコトリの方を向いて言う。

 安心した。

「頼む事が有ったから戻って来たの」

マコトは「そうか」と呟いた後、「サツキ。ノゾミ」と言う。

アタイ達は仕事中の定位置に移動する。

マコトはコトリと話し合いをしたものの、依頼を断った。

交渉決断と思った時、マコトは「俺自身の好意でやってやるよ」という内容の言葉を言った。

理由は「マコトとして彼女の力になりたいから」らしい。

 そんな彼女の手伝いをしたい。

だから「サツキも力になりたいしそれでいいよ」と言う。

「仕方ないですね」

 ノゾミはやれやれと言う感じで答える。

「それで……依頼は無いんですが、今少しの間ここに居てもいいですか?」

 コトリがマコトに向かって言った。

マコトは了承をした。

連絡を取るため、マコトとコトリはアドレス交換をする。

 アドレス交換が終わった為、コトリに気になっている事を聞く。

「なんでそれが宝物なの?」

 それとはキーホルダーの事。

「ある人から貰ったんです」

「ある人って?」

「偶然出会った同級生です」

 なんかロマンティックな感じ。

「その時の話聞かせて」

 彼女は黙り込んでしまう。

 マズイ事聞いたかな。

「喋りたく無かったら喋らなくていいよ」

「詳しくは話したくない……。けれど大まかな内容なら話してあげるよ」

 そう言った後、彼女は話を始める。

「数年前、私は落ち込んでいたの。その人は私を優しく慰めてくれて、宝物……さっきのキーホルダーをくれたんです」

 彼女は愛しい人を思い出すように話している。

 初恋の人なのかな?

「その人はコトリにとって特別な人なの?」

「はい。彼女を尊敬しています」

 好きな人って意味で聞いたんだけど。

 ……彼女?

「彼女って、女なの?」

「何か変な事言いました?」

「その人が初恋の人かと思ったから。同性愛を否定する訳じゃないけど」

 アタイはマコトの事が好きだしね。

 忠誠心から来る物かも知れないけれど。

「初恋……そう言っても過言では無いかも。彼女に対する思いはそれほど強いから」

 アタイも彼女みたいなのかな。

「それほど感謝しているんだね」

「感謝では無くて……」

 彼女は言葉を濁し、俯く。

「もう帰りますね」

 コトリは顔を上げて言い、立ち上がる。

 アタイ達も立ち上がる。

 そしてノゾミは先回りして店のドアを開ける。

「それじゃあよろしくお願いします」

 コトリはそう言うと鈴を鳴らし、店を出て行った。

「有り難う御座いました」

 アタイ達三人はそう言いお辞儀をする。

 そしてノゾミがドアを閉める。

 アタイはソファーに座り溜め息を吐く。

「どうした?」

「彼女がマコトを襲った人と同じ人とは思えないよ」

 そんな度胸が有る感じでは無かったから。

「双子とか他人の空似……」

「それは無い」

 マコトが話を遮ってきた。

「なんで?」

「彼女がちゃんと俺の事を知っていたし」

「なら本人だね」

 この店の知名度から考えて、店主の知名度も低いはず。

 彼女がマコトを襲った人で納得。

マコトは少し考え込む。

「…………けど……でも…………」

「何?」

 マコトが何かブツブツ言っていたので聞く。

「いや、何でも無い……それじゃ、依頼をこなすか」

「そうですね」

「それじゃあ一緒にエイ、エイ、オー」

 アタイは景気付けに元気良く右手を上げる。

 二人はやらない。

 酷い。

 アタイは紙を取り出し、『――そんな感じでキーホルダー奪還が始まった。

 まさか、その依頼が俺達の運命を変える事になろうとは――』と書いてマコトに見せる。

「サツキ。ふざけて無いで行くぞ」

 彼女は振り向き、ノゾミと共に店を出て行く。

 アタイのおふざけを無視した。

 さっきっから酷い~。相手してよ~。「まってよ~」

 アタイは二人を追いかける。


「どうですか?」

 目の前に立っている美少女となったノゾミが言う。

「いいんじゃないか」

 マコトが褒めた。

 目の前にいるノゾミは服装と髪の長さと胸の大きさが違うだけだ。

 胸はとりあえず絶壁じゃ無くなったけど、あれはノゾミ本来の胸じゃないし。

 もしかして胸が有る方が好みなのかな?

 マコトは巨乳だしね。自分の胸は否定しないと思うし。

 アタイは自分の胸を見る。

視界良好で、地面が見える。

……認めたくないけど、アタイも絶壁だしね。

でも目の前のノゾミは美少女。

ノゾミは褒められるのが好きだし褒めてあげよ。

「かわいい~」と言いながらアタイははしゃぐ。

「ありがとうございます。しかし何故、ボクなのでしょうか?」

「口調。コトリの友人になりきるんだから注意しろよ」

「なんで私なの~? サツキが適任でしょ~」

 アタイの身長や外見や口調から女子高生に近いからだね。

 でも、マコトの方が絶対適任だと思うけどね。

 可愛いし。

 他人とかかわるのが嫌らしいから絶対にしないと思うけど。

「サツキが口を滑らせたりするし、なにより喧嘩っ早い」

 なんか悪口言われた。

 いや、アタイを褒めたんだ。

 そうに違いない。

「サツキの喧嘩の早さは天下一品だよ」

「威張るな」

 悪口だった。

 アタイは元気良く手を上げて「は~い」と返事をする。

「サツキの精神年齢は小学生程度な気がする」

「また、思ってる事が漏れてるよ~」

 ……マコトが虐める……。

「感情は銀行並みのセキュリティなのに、考えはノンセキュリティだね」

「サツキ……と思ったらノゾミか。口調変わっているから間違えそうになった」

「間違えたよね」

 ちょっとふざけて言ってみる。

「サツキ」

 アタイは条件反射で後ろに下がり「ごめんなさい」と強く謝る。

「で、ノ……」

「ごめんなさい」

 ノゾミは素早く謝る。

 その後、アタイに耳打ちをする。

「ふざける時は考えなさい。マコトは強がってはいるけど、本当は心の中で泣いている筈だよ」

「それはサツキの口が甘いの所為だよね」

 アタイはノゾミに言う。

 彼女は頷く。

 今度からふざける時は気を付けよう。

 マコトの心は傷つきやすいから。

「ノゾミはコトリと合流してくれ」

 電話で連絡を取り、駅で待ち合わせする事になっているらしい。

「で、俺とサツキは待機だ。何か有ったら連絡頼む」

「分かった」

「待機なんてつまんなーい。サツキも行きたーい」

 駄々をこねれば相手してくれるかも。という理論で駄々をこねる。

「ノゾミが情報を集めたら行動するから。我慢しな」

 頭を撫でてくれた~。

 成功した~。

「はーい」

 アタイは元気良く返事をする。

「行って来るね~」

 ノゾミはそう言うと出かけて行った。

「ちょっとお菓子買って来る。何か食べたいもの有るか?」

「コンソメポテチ~」

「分かった」

 マコトはそう返事すると、店の外へ出て行った。

 

 店でお菓子を食べながら待っていると、マコトの携帯電話が鳴った。

 アタイは持って無いから携帯電話はマコトのしか無いんだけどね。

 ちなみに持ってないのはアタイがマコトの傍にずっといるから必要無いから。

 マコトは電話に出る。

「はい。どうした?」

 電話の相手はノゾミだろう。

「なら、待ち合わせするか。場所はそっちで決めて良いよ」

 彼女は携帯電話を畳むとポケットに入れた。

「サツキ!」

 マコトが叫ぶ。

 急に叫ぶから驚いた。

食べていたポテチを詰まらせそうになったよ。

マコトはアタイの事を気にせず店を出て行った。

アタイは後を追う。

「どうしたのよ。マコト!」

「嫌な予感がした。いや、嫌な予感がする」

「ノゾミが危険にさらされてるの?」

「分からない」


 場所は鉄橋の下。

 鉄橋の下はただでさえ暗いのに、天気が曇りなのも後押しして、より一層暗くなっている。

 そこにノゾミはいなかった。

 代わりに、地面に倒れている複数の女性の姿が有った。

 倒れているのはコトリが持って来た写真に写っていた人の数人だ。

血の匂いが漂っている。

耳を澄ますとうめき声が聞こえる。

その中央には血で染まったワンピースを着たコトリが立っていた。

 それはコトリの形をした、憎しみだった。

 怖い。

 マコトの服の袖を掴む。

 誰かがアタイを呼んだ気がした。

「お前は俺が守ってやる。だから安心しろ」

マコトがアタイの正面に立ち、目を見て言って来た。

 彼女の目を見て分かった。

 その目は怯えていた。

 マコト自身は自覚して無いだろう。

 彼女だって怖いんだ。

 それでも我慢してアタイを安心させようとしてくれている。

 アタイは自分を落ち着かせる為に深呼吸をする。

 落ち着かなかった。

でも、彼女を心配させる訳にはいかない。

そんな思いが恐怖を打ち消した。

「ありがとう。それで、彼女達を助ければいいの?」

 マコトは頷く。

「分かったよ」

 アタイはそう言いながら一番近くに倒れている人に近付き、様子を見る。

 息はしているが苦しそうだ。

 両腕と両足が酷い事になっている。

 何度も何度も同じ箇所を刃物で刺されたようだ。

 殺すために刺したのでは無く。苦しめる為に刺した様だ。

 出血が激しい。

 自分の服を脱ぐ。

 こんな事態の時に恥ずかしいとか言っていられない。

服を破り、傷の場所で縛る。

「マコト」

 誰かがマコトを呼んだ。

「そんな奴を助けちゃダメ」

その声がした方を見ると、コトリがマコトを見ていた。

 眼は虚ろで焦点が合っていない。

 何かを呟いている。

 よく見ると右手に鋭いハサミ、左手には果物ナイフと言う『凶器』を持っている。

 マコトに向かって、右手のハサミを投げた。

 彼女は間一髪で避ける。

その時、彼女は手に持っていた携帯を落としてしまう。

 彼女はそれを拾おうとしたが、途中でそれを諦めた。

 コトリがマコトへ向かって行くのに気付いたからだろう。

 向う途中、コトリは倒れている人の手、足、体、頭をなんの躊躇いも無く踏みつけた。

弱々しい苦悶の声が上がる。

マコトは後ずさりをする。

すぐにコトリはマコトの目の前に行く。

落とした携帯を踏みつけた。

マコトは携帯を拾う為に彼女を退かそうとした。

すると彼女はマコトに『凶器』を振りかざした。

マコトは手で頭部を守りながら後ろへ跳ぶ。

無理やり後ろへ跳んだ為、着地できずに尻餅をつく。

俺はコトリを呆然と見る。

 聞こえないが、コトリは何かを呟いているようだ。

「マ……マコト! 大丈夫!?」

 アタイは叫ぶ。

 マコトはこちらを見るが、すぐに視線を戻す。

「今、そっちに……」

 アタイはマコトの方に行こうとする。

 マコトは横に手を伸ばす。

来るなと言う事だ。

アタイは行くのを我慢した。

「いや、来なくていい。お前はそのまま処置していろ」

 彼女はコトリに視線を向けたまま言う。

「でも!」とアタイは叫んでしまう。

「今、お前がこっちに来なかったのは偉いぞ。ちゃんとそいつらを優先したんだからな」

 彼女はそう言い、コトリの腕を掴みにかかる。

 コトリが暴れ、マコトの体に傷が付いて行く。

 彼女はアタイが応急処置をする為に傷を付いている。

 出来る限りの事をしなくちゃ。

 そう思い、アタイは怪我人の応急措置を続ける。

「マコト!」

「お前さん達大丈夫か!?」

 ノゾミとタマさんの声が遠くから聞こえた。

 そしてすぐにアタイの所へやって来た。

 見ると、ノゾミは両手に応急箱を持っており、タマさんは手ぶらだ。

「今は取りあえず、これで止血して」

 ノゾミはアタイに包帯を渡す。

 そして違う怪我人の方へ行った。

「このまま抑え続けるのもきつい。そいつらをここから退避させてくれ」

 マコトの叫び声が聞こえる。

「まあ、緊急事態だからしょうがない」

 タマさんのそんな声が聞こえた。

 数秒後、視界が真っ白になった。


 視界が戻った時には景色が変わっていた。

 ここは……何処?

 ホールの様な所だが。

 マコトとコトリ以外は全員居る。

「お前さん等。余の方に来い。そこにいると巻き込むぞ」

 タマさんの声が聞こえた。

 いつの間にか少し離れた所に居る。

 アタイとノゾミは指示通りにタマさんの所へ行く。

「余の事を頼む」

 そう言うとタマさんは何かを呟いた。

 また視界が真っ白になった。

 視界が戻った。

 先ほどと何も変わらない。

 キツネ……タマさんが血を流して倒れている事以外。

 いや、良く見ると怪我人の傷が治っている。

 しかも一人では無く全員の様だ。

「タマさんを頼みます」

 そう言うとノゾミは怪我人の方へ行く。

 タマさんを見ると、酷い傷だらけである。

 ギリギリ息をしているが今にも止まりそうだ。

 動物の応急措置の仕方は分からない。

 とりあえず傍に落ちていた包帯を広げ、傷口を押さえる。

 ノゾミは素早く全員を確認する。

 彼女は救急箱を拾い、戻って来た。

「呼吸や脈拍など正常で、命に別条はなさそうです」

 ノゾミはそう言うと手際良く応急措置をして行く。

 気付いたが、タマさんの傷口が見る見るうちに塞がって行くのが分かった。

 応急措置の途中、タマさんは目を開き、喚き、暴れる。

 激痛で暴れている。

「これじゃあ処置が……」

 アタイとノゾミが抑えつけるが、抑えつけても無理に暴れる為、塞がった傷が開く。

「麻酔でもあれば……」

 ノゾミがそう呟いた。

 麻酔……そうだ。

「ノゾミ。ちょっとそのまま我慢して」

 アタイはタマさんから離れ、自分の指にはめている指輪をはずす。

 本来の姿へ戻って行く。

 この醜悪なドラゴンの姿に。

 爪から分泌される毒をタマさんの傷口に垂らす。

 すると、タマさんは痙攣し、大人しくなった。

 アタイは落ちている指輪を触る、すると人間の姿へと戻る。

「何をしたのです?」

 ノゾミは応急措置をしながらアタイに聞いて来る。

「神経毒を垂らしたの。人間なら数分で死に至るけどタマさんなら大丈夫なはず……」

「確証ないのにそんな事をしないで下さい! 即、死んだら如何するんですか!」

 ノゾミは怒鳴る。

「ここに解毒剤も有るし。犬でも数分なら死なな……?」

 そこで気付いた、今ダッフルコートを着ていない事に。

 血の気が引く。

 アタイは急いで周りを見渡し探す。

ダッフルコートを見つけた。

そこへ走って行き、マコトが付けてくれた内ポケットから液体の入った注射器と針を取り出す。

 それを持って戻って来る。

 ノゾミはそれをアタイの手から奪い取り、タマさんに素早く注射を打つ。

 数秒すると痙攣が止まったが、まだ麻痺している様だ。

 その隙に応急措置をする。

 傷が殆ど塞がった為か暴れなくなった。

 そして、タマさんは口を開いた。

「余の事を診てくれてありがとう」

「大丈夫?」

「大丈夫ですか?」

 タマさんは頷く。

「そこの爬虫類。余を殺めようとしたな」

「してません! 単なるミスです!」

「何故、タマさんが傷を負っていたのですか?」

「此奴等の傷を余が受け持ったからだ」

「なんでそんな事を?」

「まあ、そうしなきゃ此奴等を助けられなかったからな。余が傷つくのを代償として傷を治す妖術を使ったからだ」

「マコトの所に戻らなきゃ」

 ほとんど聞いて無い。

「行かなくても大丈夫だ」

「マコトを見捨てるの!?」

「いや、来たからだ」

 そう言うとタマさんは端の方に有った扉からここを出て行く。

 アタイとノゾミは後を付いて行く。

 見覚えの有る部屋にやって来た。

 タマさんの部屋である。

 今度は漫画が山積みになっている。

 先ほどのホールの様な所はタマさんの部屋の中だったようだ。

 タマさんは玄関へ向かっている様だ。

 彼女は玄関を開ける。

 すると右肩から血を流しぐったりしたマコトを背負ったコトリが居た。

 何故ここが分かったのだろう。

「か、彼女を! 彼女を助けて下さい」

「言われなくても。アンタ等、マコトを連れてきておくれ」

 そう言うとタマさんは近くの部屋に入った。

 アタイ達は協力してその部屋までマコトを運ぶ。

 病院の病人や怪我人を乗せる『アレ』が置いてあった。

「ストレッチャーの上に仰向けに乗せて」

 タマさんが指示する。

 『アレ』ってストレッチャーって言うのか。

 アタイ達は指示通りにする。

「邪魔だからこの部屋から出て行きな」

 アタイ達は部屋を出て行く。

 ドアが閉められる。

 それと同時にアタイはコトリの胸倉を掴む。

 声が出ない。

 言いたい事が多すぎる。

 今すぐにでも殺してしまいたい位だ。

「サツキ」

 ノゾミがアタイの肩に手を乗せて言う。

 アタイは手を離す。

「……ごめんなさい」

 コトリは頭を下げてそう言った。

「……サツキにじゃなく……マコトに謝って……」

 アタイはそう言う事しか出来なかった。

『マコトが死んじゃうかも』と言う考えで埋め尽くされて何も出来ない。

 でも何もしないで待って居たくは無い。

「……いったい何が有ったの?」

 ノゾミに聞く。

「マコトが起きた後に話してあげる」

 彼女は表情一つ変えず冷静にそう言った。

 マコトが助かる事を確信しているからこそ、冷静で居られるのだろう。

いや、もしかして彼女も――


 サツキに話をする為に出来事を思い出す。

「最高のナレーションですね。しかも、一ヶ月前の台詞と一字一句違っていません。凄いですね」

 ボクはあの時、窓の外を見ながらマコトに言った。

「それが分かるお前も凄いよ」

 彼女はボクにそう言った。

 少し胸が暖まる気がした。

……何故だろう。

彼女との記憶が蘇る。

タマさんが処置をしているのだからマコトは助かる……。

なのに何故こんなに不安なのだろう。

 マコトは無事でまたボク達といつものように過ごしていくはずなのに。

 彼女が死んじゃうなんて事は無い。

 でも……マコトの死を考えてしまう。

 マコトが死んでしまうのではないかって思ってしまう。

 すると何故か思い出に浸ってしまう。


「おはよう」

 マコトが挨拶をした。

 ボクはそちらを向く。

「おはようございます。心配しましたよ」

 ――初仕事の日の記憶だ。

「心配?」

 彼女は首を傾げる。

「昨日、サツキが投げた冷蔵庫が当たって大怪我をしたのですから心配します。タマさんの処置に不安が有る訳ではないですけれど……」

マコトは台所を素通りし、御手洗いに向かった。

「ちょっとシャワー浴びるわ。またサツキが起きて来て俺を探すかも知れないから、その時はそう言っておいて」

 洗面所の方からそう聞こえた。

「了承しました」

 マコトに聞こえる様に返事をする。

料理を作るのに集中していると「マコト~。どこ~!?」と言う声が通り過ぎて行った。

過ぎてからそれがサツキと言う事に気付いた。

とりあえず「サツキ。マコトはシャワー浴びているから」と言う。

「サツキも一緒にシャワー浴びるから」

 そんなサツキの返事が返って来た。

「ノゾミ~こいつを頼む」

 呼ばれると予想していた。

「そうやってすぐノゾミを頼るし。そんなに嫌な……」

 ボクはすぐに洗面所に向かい、サツキを掴み、連れて行く。

 彼女が抵抗する間もなく連れ去った。

「ノゾミ! 邪魔しないでよ~」

サツキはそう言うと椅子に座り、ふてくされる。

しばらくすると暖まったマコトがやって来る。

 彼女はサツキに近付いて、顔を覗き込みながら頭を撫でる。

「今晩一緒に入ってやるから。機嫌直せよ」

 するとサツキの機嫌は瞬く間に直り、マコトの両肩を掴む。

「本当!?」

輝いた目でマコトを見る。

彼女はその輝きにたじろいでいる。

「嘘じゃないよ」

 サツキは満面の笑みを浮かべる。

マコトはサツキの隣に座って「今日の九時に車出さないと」と独り言を言う。

 ボクやサツキに覚えさせておく為だろう。

「それまでにいろいろ準備もありますから食べて下さい」

 ボクは、出来上がった朝食を二人の前に並べる。

 並べ終え、彼女達の向かい側に座る。

「いただきます」

「いっただきまーす」

 二人はそう言い、朝食を食べる。

「美味しいですか?」

 美味しそうに食べているのでつい聞いてしまう。

「うん。おいしーよ」

 サツキは笑顔で答える。

「美味しいかな」

そう言っているマコトは美味しそうに食べている。

「素直に言えばいいのに」

 サツキが呟く。

「ほっとけ」

 マコトはサツキに言い返す。

 そんな二人を見ているとなんだか心が暖まる。

「羨ましいの?」

 サツキがボクに言う。

「羨ましくないと言えば嘘になってしまいます」

 羨ましいと言えば羨ましい。

「所詮食べると言うのは単なる栄養補給。食べるのに時間掛かるし、時間が勿体無いだけだよ」

 マコトは淡々とそう述べる。

「うわ。贅沢」

 彼女に向かってサツキが言う。

 マコトの事だから気を使ってそんな事を言ったのだろう。

ボクはそんな彼女に見て「ありがとう」と言う。

「俺に感謝する意味など無いだろ」

 彼女に冷たく言い放ち、ご飯を口に入れる。

恥ずかしいのだろう。

「機械が『ありがとう』ねぇ……」

 サツキがボクを見ながらそう呟く。

 マコトはサツキを睨む。

 サツキはその視線に気付いた様だ。

「ご、ごめんなさい……」

サツキは縮こまる。

「ボクが機械なのは事実なのですから。そんな怒らなくても良いですのに」

「別に怒って無い。あと、お前の為じゃないから。俺が不愉快だからそうしただけだ」

 マコトは牛乳を一口飲む。

「ボクが人間ならそう言われる事も無い。ですからマコトが不愉快になる事もないのに」

 彼女はコップを置き、溜め息を吐く。

「大雑把に言えば、お前と人間の違いは、エネルギー源が違って、体の仕組みが違う。ただ……」

「『ただそれだけ』でしょ?」とサツキが言う。

 マコトがそう言おうとしたのか、サツキを睨みつけ、頷く。

「ノゾミは性格も感情も存在しているだろ。それが単なるプログラムと言えばそれまでだが。人間の感情なんて脳内物質の化学反応なんだろ。大差無い」

 マコトは淡々と述べ、食事を続ける。

「マコトはいつも冷徹な事言うよね……」

 サツキはそう呟く。

「無視は酷いよぉ~」

「仕事が有るのですから、話をせずに朝食をちゃんと取った方がいいですよ。話ながら食べていると満腹感が得られにくいですよ」

「は~い」

 サツキはだらけた感じで返事をし、素直に従う。

 彼女は良い子。

「サツキの悪口、頭の中で言ってない?」

 サツキがマコトの方を向く。

「お前も俺ぐらい勘が鋭くなったか?」

 マコトは笑みを浮かべた。

悪口を言っていたのだろう。

「やっぱひ考えへはんだ~」

 サツキは軽く笑いながら言う。

「食べながら喋らないでね」

 優しく注意する。

サツキは頷き、食事を続ける。

 その後、特に会話も無く食事は終わった。

そしていつもの様に三人で協力をして食器を片づけた。


――タマさんの依頼をこなしたが、ボクが活躍をする場は無かった。

「ノゾミ。どうした」

 運転席に座っているマコトが言う。

「別にどうもしていないですよ」

「その割には不機嫌そうだが」

「ボクなんて空気同然ですから気にしなくていいですよ」

「さっきの教会で全く相手にされていなかったからか」

 その通りです。

「ボクが何もしていなかったのが原因ですからいいですよ」

「そのくらい良いじゃないか。俺なんて怪我したのに誰も処置してくれなかったしね」

 マコトはワザとらしく言う。

 車内が静かになる。

「だって、マコトを傷つけたエレンが憎かったから。元凶を取り除かないと」

「サツキの事が気がかりで……。キミに気が回らなくてすみません」

「大丈夫だったか? アンタに怪我させるつもりは無かった」

「その位の怪我大丈夫だ。そんなの処置する必要は無い」

 ボクを含めた四人はそれぞれの答えを返す。

「いいよ」と彼女は答える。

「本当に許してくれる?」

 サツキが聞く。

「俺は基本、嘘はつかないだろ」

「でも……」

「マコトがいいって言っているならいいだろ」

 タマさんが言う。

「うん……分かった」

 サツキは暗い口調で答えた。

 

――アパートの近くまでやって来た時にはボクとマコト以外は寝ていた。

「想像もしてない依頼来ましたね」

 運転している為、寝る事が出来ない彼女に言う。

「タマさんの依頼とは言え、まさか人間ではないなんてね。しかも、あんな戦いになってしまうなんて」

 彼女はそれを聞いて少し笑う。

「何が可笑しいのですか?」

「俺はそこよりも、元アパートの住人をまた住まわせるための依頼だった所が驚きだよ。『日本酒を頼んだ人物の素性が分らない』なんて嘘をついて依頼しに来たしね」

「しかし、普通じゃあんな事は在り得ませんよ」

 ヴァンパイアが居たり、戦ったりなど普通じゃ有り得無い。

「でも俺達は普通じゃ無いだろ。だからそんなのファンタジー小説に魔法が出てくるぐらいの驚きだよ」

「ならキミの驚きはどの位の驚きですか?」

「そうだな、実は主人公が悪の帝王だったぐらいの驚きかな」

 通じるが、イマイチぱっとした説明では無い。

「微妙な説明ですね。先ほどはまあまあ良かったのに」

「ボクはあの日本酒が高価な物で、それを狙うブローカーとカーチェイスするとか思っていました」

「映画の見過ぎじゃないのか。あと夢見過ぎ」

「酷いですね。夢は見ても良いじゃないですか」

「俺は良い場合も悪い場合も有ると思う」

 彼女は淡々と答える。

「マコトはどのくらい想像が当たっていました?」

「想像して無い」と即答した。

「そうですか」

淡々と返す。

「基本、想像は当たらないからな。だから現実は物語よりも面白い」

 マコトは口を押さえて笑う。

「面白い……ですか……」

 ボクは考え込む。

「俺をバカにしているのか?」

「いいえ。違います。ちょっと引っかかる事が有っただけです」

「引っかかる事って何だ?」

「色々です」

「サツキの真似か?」

 サツキの真似なので頷く。

「少しアレンジしました」

 マコトはまた口を押さえて笑う。

「それ止めた方がいいですよ」

 ボクは指摘した。


――アパートに戻り、部屋に入って一段落した。

「今日の功績からして一緒に風呂入っても良かったんだけどな」

「治るまで両腕が使えないのだし、明日一緒に入って洗って貰えば良いじゃないですか」

「俺は一緒に入りたくないんだよ」

「サツキは入りたいのですよ」

 優しく言う。

 彼女はボク達を信用していない。

「だが……俺はまだお前たちの事を信用していないし」

「疑っていてもけっこうですよ。ボク達の事を信じてくれるまで待ちますから」

 彼女は無言。

「ボクとサツキにはキミしかいないのだから裏切らないよ」

「信用していないからそんな事を言っても無駄」

 彼女は冷たく言い放つ。

 だがボクは笑う。

 彼女がボク達を信じてくれるのを信じているから。

「マコトとお風呂入って無い!」

 そう言いながらサツキが起きて来た。

サツキはマコトの両腕の包帯と血だらけの服を見て一言。

「何が有った~!?」

 サツキが驚愕な表情を浮かべる。

マコトは面倒臭そうな表情をした。

ボクが彼女でもそんな表情をするだろう。


――お店に行くとマコトが知らない女の子と話をしていた。

彼女がマコトを襲った人物と理解した。

「キミが、マコトが言っていた女子高生ですね。初めましてノゾミと言います」

 お辞儀をする。

「初めまして。私、コトリと言います。迷惑かけてすみませんでした」

 彼女は立ち上がり、ボクに向かって大きく頭を下げる。

「頭を上げていいですよ。マコトが怪我するのは日常茶飯事ですから」

「そうなんですか?」

 彼女は頭を上げて聞く。

「そうですよ。こないだも強打して気絶しました」

 冷蔵庫の話です。

「こないだのは俺の所為じゃない。サツキの所為だ」

 マコトはそう言うと少し考え込む。

「ノゾミ。サツキがそのうち帰って来るかもしれないから」

そこで言葉は終わった。「そしたら、彼女を襲う可能性が有るから止める準備しておいて」と続くのだろう。

「了承しました」

小さく頷く。

「で、依頼は無いんだろ?」

「え?」

「え? じゃなくて、俺を探すのが依頼だったんだから、もうその必要は無いんだから依頼は無いだろ」

「無いですけど……。遠まわしに「帰れ」って言っているの?」

 マコトは答えない。

「依頼が無いと言う事はお客じゃないし、居たら迷惑ですよね」

 コトリは立ちあがる。

「依頼が必要な時は来ますから。迷惑かけてすみませんでした」

 頭を下げ、彼女は店を出て行った。

「ありがとうございました」

 マコトは淡々と言う。

「そんな事ばかりしていたらお客が来ませんよ」

「分かってる。ただ彼女の依頼は受けたく無かった」

「そうやってお客を選んでいると……」

「違う」

 声を遮られた。

「コトリが頼もうとしていた依頼を受けたくなかったんだ」

「でも、彼女は無いって言っていましたよ」

「俺の勘が当たっていれば嘘。彼女にはちゃんとした依頼が有った。俺を探していたなんて嘘だ」

「いくらキミの勘が鋭いからと言って、絶対的中する訳じゃないですよ」

「俺の我儘と思っていいよ。実際そうだしな」

 彼女はソファーにもたれかかり溜め息を吐く。

「あと、サツキが戻ってきてコトリを殺しちゃっても面倒だしな」

 ボクは緑茶を汲みに奥の方に行く。

そして、いつもの様にして、持って行く。

「サツキならやりかねないですからね」

 緑茶の入った湯呑みをマコトの前に出す。

 そして急須の乗ったお盆を少し奥に置く。

 ボクは向かい側のソファーに座る。

「サツキは俺が仲良くする奴には激しく嫉妬するからな」

 彼女は湯呑を両手で持ち、緑茶を飲む。

「だけどボクには嫉妬しませんよ」

「俺がお前に好意を持ってない訳では無いから大丈夫」

 理解不能。

「サツキがお前に嫉妬しない理由はそれでは無いって事」

 まだ、理解できない。

「俺がお前に好意が無いから嫉妬されないと考えをして今落ち込んだから、そう言っただけ」

「落ち込んだ動きなんてしていませんよ」

「それは知らないけど。ただ、お前が落ち込んだのが分かっただけ。俺の勘違いなら流して貰っても構わない」

 彼女は緑茶を飲む。

「勘違いじゃないですよ」

 優しく呟く。

 彼女は湯呑みをテーブルの上に置く。

「……んで、そこの不審者は何をしているんだ?」

 彼女は大きな声で独り言を言う。

 そして、窓の方を見る。

 ボクもつられて見てしまう。

 窓の外に二つの影が見えた。

サツキとコトリさん。

「ノゾミ」と呼ばれた。

そう呼ばれた意味を理解して「了承しました」と答えた。

 ボクは鈴を鳴らし、店を出て行く。

 外へ行くとサツキとコトリさんがしゃがみ込んでいた。

こちらに気付くとサツキは立ち上がり「マコトといい雰囲気になってちゃダメだよ」と言って来た。

ボクは激怒した。

マコトはサツキだけの物でも無いし誰の物でも無い。

しかもボクがマコトと仲良くして悪いですか?

悪くないですよね。

 ボクはサツキに殴りかかっていた。

彼女は避ける。

彼女は近くに置いてあった箒を手に取り、ボクに向かって振り下ろす。

ボクは避ける。

勢いが止まらず下に振り下ろした。

箒が何かに当たり、壊れた。

それを見て彼女は固まった。

ボクも釣られて見てしまう。

その時、思考が一度フリーズした。

箒以外の物が壊れている事に気付いて。

壊れている物はおそらく店の外に展示してあったタマさんの店の商品。

「秘密にしてね」

「口外しないで下さい」

 ボク達は自体が飲み込めないコトリに向かって言う。

 彼女は頷いた。

そして、お淑やかに笑った。

「何?」

 サツキは首を傾げて聞いた。

「あなた達、私と似ていますね」

 ?

 サツキはボクを見る。

ボクも首を傾げるしかなかった。

 

 ――無償で依頼をこなす事に決定した。

「どうですか?」

 マコトとサツキに感想を聞く。

 服装はエレンさんに選んで貰った。

「いいんじゃないか」

「かわいい~」

 サツキは、はしゃいでいる。

「ありがとうございます。しかし何故、ボクなのでしょうか?」

「口調。コトリの友人になりきるんだから注意しろよ」

「なんで私なの~? サツキが適任でしょ~」

 とりあえずこんな口調にする。

「サツキが口を滑らせたりするし、なにより喧嘩っ早い」

 指摘が無い所からすると問題はなさそうだ。

「サツキの喧嘩の早さは天下一品だよ」

「威張るな」

サツキは元気良く手を上げて「は~い」と返事をした。

 子供みたいだ。

「サツキの精神年齢は小学生程度な気がする」

「また、思ってる事が漏れてるよ~」

「感情は銀行並みのセキュリティなのに、考えはノンセキュリティだね」

「サツキ……と思ったらノゾミか。口調変っているから間違えそうになった」

「間違えたよね」

「サツキ」

 サツキは後ろに下がり「ごめんなさい」と強く謝る。

「で、ノ……」

「ごめんなさい」

 彼女が言う前に素早く謝る。

 そしてサツキに耳打ちをする。

「ふざける時は考えなさい。マコトは強がってはいるけど、本当は心の中で泣いている筈だよ」

 そう、マコトはいつも強がっているだけ。

 彼女は弱い部分を他人に見せない。

「それはサツキの口の甘さの所為だよね」

 ボクは頷く。

「ノゾミはコトリと合流してくれ」

 マコトが電話でコトリさんと連絡を取り、駅で待ち合わせする事になっている。

急に連絡したにもかかわらずコトリさんは承諾したようだ。

まさか彼女も今日依頼した事を今日中にやるとは思って無かっただろう。

「で、俺とサツキは待機だ。何か有ったら連絡頼む」

「分かった」

「待機なんてつまんなーい。サツキも行きたーい」

 サツキが駄々をこね始めた。

「ノゾミが情報を集めたら行動するから。我慢しな」

 マコトは彼女の頭を撫でる。

 彼女は元気良く「はーい」と返事をした。

「行って来るね~」

 ボクはそう言い、出かけた。


――駅に行くとコトリさんが居た。

「久しぶりっ。コトリちゃん」

近付いて声をかける。

彼女は困惑している。

「久しぶりだから忘れちゃった? ノゾミだよ」

「ノゾミ?」

 ボクとは思っていない様だ。

 彼女に誰が行くとは言っていない為、おそらくマコトかサツキ辺りが来る事を予想していたのだろう。

「ちょっと変装してきただけです。あの格好よりこちらの方があなたの友達らしいかなと思いまして」

 彼女の耳元で言う。

「その胸は……?」

「……偽物です」

 小声で呟く。

マコトとサツキはボクがアンドロイドだから簡単に胸を取り換えて大きく出来ると思っているようですけど。

不可能です。

したがって、パッドを入れているだけです。

「ゴメン……」

 彼女は申し訳なさそうに謝る。

「ワタシが分からなかったからって謝らなくていいよ」

 胸の事で謝られているとは周囲の事で知られたくない為、誤魔化す。

「……こ、ここで話するのもアレだし、近くに公園有るからそこに行こ」

 彼女に連れられて近くの公園へ行く。

 空いているベンチに向かって行き、座る。

 ボクは彼女の左に座る。

「ノゾミちゃんの事教えて」

コトリさんが聞いて来た。

「事情が有るから秘密」

 ボクは人間じゃ無くアンドロイドなんて言えない。

「なら、マコトちゃんの事を治療した人を教えて」

「どうして?」

「人に言えない傷を負った時に治してもらおうと思うから。怖い人だったら遠慮するけどね」

 ボクは少し考える。

タマさんの事を喋っていいのだろうか。

もしタマさんの所にコトリさんが来ても上手に対応するだろう。

「怪しいけど怖くは無いよ。ボク達の店の裏に有るアパートの大家さんだよ」

「大家さん?」

「ちょっと特別な経歴の持ち主らしく、並大抵の事をこなす凄い人だよ」

 正しくはキツネ。

「どんな人?」

 ボクは一瞬口ごもる。

「胸の……大きな綺麗な女性」

「もしかして……ノゾミちゃんはその胸コンプレックス?」

 小さく頷く。

「大丈夫だって。胸なんか無くったってノゾミちゃんは綺麗なんだからモテるよ」

「そうかな」

 少し恥ずかしい。

「そうだって」

「あら、ゴ……いや、コトリじゃない。何をしているのかしら?」

そんな声が聞こえて来た。

 その方向を見るとコトリと同じくらいの女の子が二人居た。

 コトリさんを見る。

彼女は軽く頷く。

彼女達がキーホルダーを奪った人と言う事を理解した。

そしてコトリさんは彼女の方を向いて言う。

「友達と話をしていただけよ」

「貴方に私達以外に友達が居たの?」

「この間、知り合ったの」

 彼女は「ふぅん」と興味無さそうに返事をする。

「それより、のどが渇いたから飲み物を買って来てくれないかしら? 友達なのだから奢ってくれるよね?」

 コトリは小さく歯軋りをするのが見えた。

「……分かったわ。奢ってあげる」

 ボクはコトリさんに連れられ、飲み物を買いに向かう。

「ゴミを相手する子なんて居るんだね」

「ゴミと友達になるなんてね」

 すれ違う時、彼女たちの小声が聞こえた。

 ボクが人間だったら聞こえなかっただろう。

「さっきの子もゴミだね」

 そんな言葉も聞こえた。

「……ちょっと待ってて」

「え? ノゾミ……………」

コトリの声を無視して、ボクは公園の女子トイレの個室に入った。

彼女が「行かないで」と言ったのにも関わらず来てしまった。

壁にもたれ込む。

 何で、何で、何でこんな時に……思い出すんだ。

 体の震えが止まらない。

 早く、コトリさんの元へ戻らなければ。

 今、人間を見たら殺してしまいそうだ。

 ボクを作り、身勝手に捨てた人間共を。

 マコトに拾われてから思い出さなかったのに……。

 消そうと思えば記憶を消せる。

 だが、ノゾミと言う人格も消えてしまう。

 マコトならどうやって励ましてくれるだろう……。

 

 ――落ち着いてから戻ると、彼女達はベンチに座っており、コトリさんは立っていた。

 彼女達が三人に増えていた。

 コトリさんに近づき「ゴメン……調子が優れなくて」と言う。

 嘘は付いていない。

 人間だったら確実に嘔吐するほどだ。

「……大丈夫」

 ?

 なんだろうか。今の間は。

 怒っているのだろうか。

「一人にしちゃったから怒ってる?」

 小声で聞く。

「え……いや、怒って無いよ」

 彼女はこちらを向いて笑った。

 作り笑いだった。


――『コトリは学校ではどうなの?』と言う名目でもしない話をした。

嘘の話をしていたり、歪曲した言い回しをしていたりしても、ボクは分かる為、十分な情報は手に入った。

その後、彼女達と別れコトリと二人きりになった。

「コトリさんのクラスメイトの事は把握しました。しかし、帰るのは無理そうです。ボクが便利屋と言う事がバレそうです」

 自分の携帯電話で連絡をする。

 自分がアンドロイドと言う事を忘れそうだ。

『なら、待ち合わせするか。場所はそっちで決めて良いよ』

 電話の向こうのマコトから言われた。

「どこで待ち合わせします?」

 隣にいる彼女に聞く。

「鉄橋の下で。他人が居る所は嫌」

 彼女の思いを考慮し、そこを待ち合わせ場所にした。

「鉄橋の下で待っています」

 そう言って携帯電話を耳から離し、電源ボタンを押す。

「終わった?」

「終わりましたよ」

「それじゃあアナタも終わりね」

「え?」

一瞬フリーズした。

 何が起きたか理解できなかった。

 コトリさんがボクを殴った。

 頭脳からの信号が途切れた。


 ――気が付くと公園のベンチで寝ていた。

 コトリさんが居なかった為、先に鉄橋の下へ向かったと思い、行くと彼女が居た。

 血を流して倒れる少女の傍に立って居た。

 奥の方に先程の同級生が二人居た。

 よく見ると血を流して倒れているのはもう一人の同級生である。

コトリさんを見ると右手に果物ナイフ、左手には調理用ハサミを持っている。

血で染まっている。

それを見てボクは、自分で彼女を止める事よりも助けを呼ぶ事にした。

彼女を止めないで助けを呼んだのは賢明な判断と言い聞かせていたが本当は「怖かったから逃げた」だけなのかもしれない。

タマさんを呼び、戻って来た時には怪我人が増えていた。

そしてマコトがコトリさんを止めようとしており、サツキが応急措置をしていた。

「マコト!」

 意味も無く叫んでしまう。

「お前さん達大丈夫か!?」

 タマさんが聞く。

「怪我人を優先してくれ」

 マコトはこちらを見ずに言った。

 見る余裕など無さそうだ。

「元からそのつもりだ」

 タマさんはマコトの横を通り過ぎ、迷い無く怪我人の方へ向かって行く。

「すみません。ボクはタマさんを呼ぶ事しか出来ませんでした」

 ボクはマコトの様に彼女を止める事が出来なかった。

もし止めていれば二人は傷つくことなど無かっただろう。

何も出来なかった事を後悔して言った。

「十分だ」と答えが帰って来た。

 その短い言葉でボクは自分のしたことに自信が持てた。

 そして怪我人の方へ行き、怪我の様子を見る。

「このまま抑え続けるのもきつい。そいつらをここから退避させてくれ」

 マコトが叫ぶ。

「まあ、緊急事態だからしょうがない」

 タマさんのそんな声が聞こえ、視界が光に包まれた。

 

――そして先程に至り、現在の状況になる。

他の二人は心ここに有らずと言った感じだ。

 すると突然コトリさんが立ち上がり、サツキの両肩を掴む。

「あなた達、彼女達に私が依頼した事、話ししたんでしょう?」

「していないよ」

 サツキは平然と答える。

「していません」

「ならなんで彼女達がその事を知っているのよ? 彼女は『便利屋の従業員が、あなたが依頼に来たって言っていた』と言っていたのよ!」

「まさか、サツキ」

 ボクはサツキの方を向く。

「違うよ!」

 サツキは怒る。

「なら……マコトが?」

「マコトがそんな酷い事をするなんて考えられないよ」

 サツキは悲しそうな表情をする。

 その時、血だらけのタマさんが部屋から出てきた。

そして唇を噛みしめて「助けられなかった」と小さく言った。

 僕達三人が絶望した。

 コトリは気絶しそうになった。

それを見たタマさんは「まあ、嘘だ」と言った。

その瞬間、コトリさんの目に光が宿り、タマさんをビンタした。

 勿論、ボクとサツキもそれぞれ一人一発ビンタをした。


 タマさんが「しばらくすれば目が覚めるはず」と言っていたためボク達はマコトの傍で彼女が目覚めるのを待った。

数分後、マコトが目を開いた。

「ここは……?」

 タマさんがマコトをいきなり叩く。

そして「出血し過ぎだ」と言い、一呼吸を置いて「お前さんの所為で、今まで溜めて置いた血が無くなったわ」と言った。

 そして再び叩く。

「すいません」

 タマさんはマコトに手を差し出す。

彼女はそれを掴み、起こして貰う。

「左肩の傷は一生残るから」

 タマさんは上着を渡す。

「そんな傷、他にも有るんだから気にしないよ」

「あいつ達は?」

 マコトは服を着ながらタマさんに聞く。

「ちゃんと治療して、余やお前さん達の記憶は消して、家に帰した」

「そうか」

「コトリが連れて来たんだよ」

「傷つけたのはコトリさんですけどね」

ボクは嫌味を言う。

普段は嫌味なんか言わないのに。

「ありがとう。コトリ」

「……私はあなたを傷付けたのよ。憎くないの?」

マコトは溜め息を吐く。

「全て俺が悪いんだから仕方無い」

「全て自分が悪い? そんな勘違いも大概にして」

コトリさんはマコトの左頬を叩く。

「痛くなかったの?」

 コトリさんはマコトの左肩を優しく触る。

「……精神の苦痛に比べたら、何てことないね。お前もそんな事分かっているだろ」

「そうじゃない。心が」

「本当は……泣きたいぐらいだよ」

「泣けば楽になるのに……」

 彼女は涙を流す。

 逆にマコトは口を押さえて笑う。

「泣くなよ。許してやるからさ」

「私を許してくれるの?」

「お前達も許してあげるだろ?」

「許さないと言いたいけど、サツキ達もマコトに同じような事したしね」

「しましたね」

「傷つけたの?」

「そうだ」

 マコトが答える。

「サツキの時は切り刻まれて重傷。ノゾミの時は火傷、感電で重傷。タマさんが居なかったらとっくに死んでいるな」

 マコトが笑った。

「だからサツキ達は許して……あげると思ったら大間違いよ!」

 コトリは驚く。

「マコトを傷つけた罪は重いから。その罪の償いとして毎日マコトに会いに来なさい」

「毎日は酷いだろ」

「なら出来る限りの範囲で!」

「お店が休みだったら裏のアパートに来て下さいね」

「恋敵増やしてどうするんだ~?」

 タマさんがぶっきらぼうに言う。

「サツキの恋敵なんて現れない。だってマコトは永遠にサツキにゾッコンだから」

「ゾッコンって使う奴久しぶりに見たな」

 タマさんが言う。

 同感です。

「ゾッコンって死語ですか?」

「まあ、古語だ」

「そう言えばキーホルダーは?」

 マコトが聞いて来る。

 ボクを含め、皆答えない。

「捨てられていたって事か?」

 頷く。

 マコトは少し考え込む。

「俺の革ジャンどうなった!?」

「そこに有りますよ」

 ボクは壁際を指差す。

マコトは手術台から飛び降り、そこに駆け寄る。

「俺のお気に入りの革ジャンに穴が……」

 彼女は落胆している。

「ごめんなさい」

 コトリが謝る。

「大丈夫だよ。まだ使えない訳じゃないし」

 マコトは振り向かず、革のジャンパーのポケットを漁る。

「あった」

 彼女は振り向き、コトリにそれを優しく投げる。

「これは……?」

「お前のじゃないけどお前の物と同じ物だ。俺がお前のキーホルダーを見つけるまで持っていてくれ」

 彼女は掌の上のキーホルダーを見て困惑している。

「今日は疲れたから帰ってくれ」

 マコトはコトリさんに冷たく言い放つ。

「サツキ。コトリを送って」

 彼女が言うと、サツキはコトリの腕を掴んで引っ張って行く。

「すみませんでした」

 半分引きずられながらコトリさんはそう言った。

「ボクも行きます」

 ボクは二人に付いて行く。

 

タマさんの部屋を出たボク達はアパートが見えなくなった所で立ち止まる。

「すみません。マコトさんにあんな傷を負わせて」

 コトリさんは二人に向かって頭を下げる。

「コトリちゃんがそう罪の意識を背負っていればいいよ」

 サツキが慰める。

「でも、あなた達に悪いけど、マコトを泣かせる為なら何だってするわ」

「サツキ達もやってるんだけどね。マコト泣かないんだよね」

「そうですね。彼女が泣いている所をボクは見た事が無いですし」

「でも、マコトは表に表さないだけでかなりの泣き虫だよ。しかもよく感動するし」

「動物の映画は特に弱いですよ」

「確かに弱いよね~」

 ボクとサツキは笑う。

「涙を流して泣きはしないのだけれども、感動したり悲しんだりしている姿はよく見ますね」

「強がっている所が可愛いから、ちょっとからかっちゃうんだけどね」

「そう言えばコトリさん。キーホルダーを見てなんであんなに困惑していたのですか?」

「私のキーホルダーは、『彼女』が自分で作った物で世界に1つしか無い物なの」

「ならそれがコトリちゃんのじゃないの?」

「これは私のじゃありません」

「それが分からないの」

 サツキはボクの方を向く。

 逆にボクはサツキの方を向く。

 ボクとサツキは首を傾げた。

 

「俺がその『彼女』だから」

 二人は驚く。

 ……何で驚くんだよ。

「それならコトリさんはマコトが『彼女』って事に気付くでしょ」

 サツキが聞いて来る。

「確か……幼稚園から小学校頃だったしな、俺の外見も口調も違うからな」

「でもコトリさんは数年前って言っていましたよ」

「コトリにとっては数年前の出来事のように思っているんだろ。だからそう言っちゃったんだろ」

「なんか騙された……」

 二人はガッカリする。

「内容も慰めるなんて大層な事じゃないよ。それと、お前等驚きすぎ。俺がお前達に出会ったのを考えろよ」

「でも同級生って言ってたじゃん」

「それはコトリの勘違い。多分年齢が同じだから同級生って思って、同級生って勘違いしたまま覚えていたんじゃないか? だって俺は三月二十日生まれで……」

 俺は携帯を取り出し、コトリのアドレス欄を見せる。

 そこには四月三日と誕生日が書いて有る。

「誕生日が数日離れているだけだが、同じ年の三月と四月では学年は違う」

「でもマコトのイメージと全然違うから」

「昔だしな、あの時は長髪でスカート履いていたぞ。で、口調もこんなじゃない」

「見てみたいな~」

 サツキがこちらを向きながら笑顔で言う。

 その時、携帯が鳴った。

 メールだ。

 見るとタマさんからのメールで「ノゾミだけ来い」と題名に入っていた。

「ノゾミ。タマさんが呼んでいるから行って来て」

「了承しました」

 ノゾミはそう言うと店を出て行った。


 タマさんの部屋のドアを開けるとコトリさんの同級生達が無言で出て行った。

 ボクは不気味で後ずさりをしてしまう。

 まるで亡霊の様だ。

 亡霊を実際に見た事は無いけれどもね。

 そしてタマさんが続いて出て来た。

「彼女達はどうしたのですか?」

「うまく記憶を操作した。まあ怖い夢を見たって感じになっているはずだ。まあ、前よりはコトリを虐め無くはなるだろうな」

 タマさんが笑みを浮かべながら言う。

「そうなのですか」

 ボクはガラス越しに彼女達の背中を見る。

「これ受け取れ」

 タマさんが布のような物を僕に投げる。

 ボクはそれを受け取る。

「これはなんですか?」

「まあ、あの餓鬼等の制服と、マコトの革ジャンだ」

「マコトの革のジャンパーは分かりますが、彼女達の制服がなんでここに有るんですか? 今、彼女達は制服着ていたじゃないですか」

「まあ、あれはそれの複製品だ。血が落ちなかった為、同じ物を作った。折目や微細な傷も再現しているからまず分かりはしまい」

「そうですか。それでこれを捨てて欲しいと言う事ですか」

「その通りだ」

「了承しました」

 そう答えるとタマさんはここを離れて行った。

ボクは彼女達の血だらけの制服を捨てるために纏めていると、何かが付いている事に気付いた。

ボクはそれを手に取り眺めてみる。

それを見て有る考えが浮かんだ。

「もしかして――」

 そう独り言を言ってしまうほどの答えである。

 コトリさんがボク達に頼んだ事が漏れた原因の答え。

 

ノゾミが戻って来た。

「マコト。これ、貴方の物ですよね?」

彼女が俺に小さな何かを投げる。

 俺はおぼつかない感じで受け止める。

「それを付けたのはマコト、あなたじゃないですか?」

手に掴んだ物を見てみると、彼女達の一人に付けた盗聴器である。

「そうだよ」

 俺は淡々と答える。

「彼女達の一人に盗聴器付けていたのですね。彼女達の制服を処理する時に気付きましたよ」

「奴等が何か約束をすると睨んだからそれを聞くのに付けた。まあ経験上の勘かな」

「経験って?」

 サツキの質問に答えない。

 でも、いつか答えを話す時が来るかもしれないな。

「で、俺は約束を破る奴は死ぬほど嫌いだから。破ったら死んででも懲らしめたいから。ちなみに懲らしめるのはお前達」

「何でサツキとノゾミなの~?」

「気になりますね」

「俺が死ぬ原因を作った彼女達に復讐するだろ?」

「そうだね。ズタズタにするね」

「そうですね」

 これは、今俺が信頼されている証拠だろう。

「話を戻しますが、いつそれを付けたのですか?」

「ノゾミが出かけた後だ。お菓子を買いにコンビニに行った時にコトリが持って来ていた写真に写っていた奴を見つけたから、依頼の事を教えて、ついでに盗聴器を付けた」

「あの時ね~」

サツキは納得した様だ。

「何故そんな事を」

 ノゾミは俺を睨みつける。

「それを引き金にして何か約束をさせる為」

「彼女達が約束して、しかも破るのを見こしていたのですか」

「そう言う事」

「わざと彼女達にコトリさんの事を洩らすのは酷いと思うのですが」

「コトリには悪いとは思ったけど、彼女達が懲らしめられて、俺も死ねて一石二鳥だからそうした」

 笑顔でノゾミに言う。

 彼女は悲しそうな顔をする。

 どうしたのだろう?

「どうした?」

「なんでも無いです。しかし、『彼女達がマコトを殺せば、ちゃんとした友達になる』と言う約束をしなかったらどうするつもりだったのです?」

「その時はその時かな。でもそう言う約束をすると睨んでた」

「何の確証があってそんな事」

 俺はテレビを指差す。

 ノゾミはその方向を見る。

 ある映画のコマーシャルが流れている。

『奥さんを殺せば、アナタの恋人になってあげるわ』と最後に女優が言う、印象的なコマーシャルである。

「最近よく見るコマーシャルだ」

「それも計算に入れていたのですか」

「そこまで考えてたんだ。すご~い」

 サツキが俺に抱きついて来る。

「凄くないよ。他にも何種類か仕組んでいた。出来たのがこれだったって話だ」

「でも何故今回、行動したんですか? 虐めとかが嫌いのは知っていますし、虐めている人を懲らしめたいと思いますが行動には移りませんよね」

「珍しく自分の欲望のままに動いたよね」

 俺は二人を見る。

そして「彼女を助けたかった。ただそれだけ」と言った。

「嘘だね」とサツキが即答する。

「嘘なんかついて無い」

 本当だ。

 サツキは微笑む。

「彼女を助けたかった訳じゃないでしょ。彼女と一緒に居たかっただけでしょ。だから笑って許したんでしょ」

 彼女は優しく俺に言う。

「確かにそうかもな」

 俺も微笑む。

 その時、サツキが「あ!」と叫ぶ。

「どうした?」

「どうしました?」

「そう言えば……店の名前入れて無かったね」

 サツキのその言葉でその事を思い出した。

 最初の依頼が終わったら入れるつもりだったのに入れていない。

「なんだかんだあって忘れていたな」

「マコトが名前を決めて」

「俺が決めていいのか?」

「いいよ」

「いいですよ」

「そうだな……店名は――」


 翌日。

「なんだか、ウチはカヤの外でしたね」

 タマの店を手伝うエレンが呟く。

「昨日はずっと部屋で蹲っていたらしいですね」

 タマが壊れた展示品を片手に言う。

その時、タマのポケットから紙切れが落ちる。

タマは気づいていない様だ。

 エレンは気づかれないようにそれを拾い見る。

 そこにはこんな事が書いてあった。


――盗聴器のメモ―― 

※同級生Aが主犯格と思われる。 ※同級生Cにマコトが盗聴器を付けた。

――不要な部分は中略――

おそらくコトリは携帯を奪われた。

同級生B「あれぇ~? ゴミの携帯に新しい名前が入ってる~」

コトリ「返してよ!」

同級生A「このマコトって子もアナタみたいにゴミなのでしょうね。類は友を呼ぶと言いますしね」←盗聴器を付けた一人がそこにやって来て、彼女に耳打ちをした様だ。

同級生C「このゴミ、便利屋に私達から奪われた物を取り返してなんて依頼していましたよ」

同級生A「先程の人は便利屋の方ですか。可笑しいと思いましたよ。ゴミに友達がいるなんて」

同級生B「ならこのアドレスに入っているマコトってのは便利屋の人だね~」

同級生A「あなた、あのキーホルダーは私にあげた物ですよね」←治療後確認した所、あげたと言うのは嘘。

同級生C「それを取るって事は泥棒だよね」←同級生Aが何か言おうとするが途中で止め考え込んだ様だ。

同級生A「でも……そのマコトを殺せば、この事は許してあげるわ。しかも二度とアナタに酷い事しないわよ。ちゃんとした友達になってあげるわ」

コトリ「本当?」

同級生A「本当よ」

 沈黙。

――不必要な内容な為、中略――

マコトはここまで聞きノゾミの元に向かう。

同級生C「アレ、本当に殺したらどうすんですか? 不味いんじゃ……」

同級生A「殺しをするのはアレ自身。私達には関係ないわ。そもそも彼女にはそんな度胸は無いでしょうけど」

同級生C「それもそうね。でも、本当にして来たら友達になるんですか?」

同級生A「貴方ね……殺人犯を友達にする訳無いでしょ。警察に突き出すか、それをネタに脅すかの二択ですわよ」

同級生B「どう転んでも見物になるなんて。さすがです~」

 携帯の着信音。 → 同級生Aが通話。

通話の内容は不明だがコトリに鉄橋の下に呼びだされた様だ。


そこで書いて有る事は終わった。

 エレンは気づかれないようにそれを床に落とし「何か落ちましたよ」と言った。

 タマはそれを拾い、ビリビリに破いて棄てた。

そして「昨日の事件の原因のメモ。まあ、誰にも見せてはならない物だ。見たら私刑だよ」と言った。

エレンは「永遠に心の奥にしまっておこう」と思った。

それがバレたらおそらくエレンを『あの子』の部屋に連れて行くだろう。

『あの子』の正体はタマしか知らない。

その為、エレンは『あの子』を幽霊と思っている。

それが正しいかどうかはタマしか知らない。


余は壊れた展示品を片手に便利屋の前に赴く。

店の中から三人の従業員と一人の常連の声が聞こえる。

その楽しそうな声を聞くと「商品の件は勘弁してやるか」と呟いてしまう。

 それに感謝する様に『便利屋‐ ‐』といつもと変わらない看板が揺れた。

‐ ‐に入るのは便利屋のイメージらしい。

次の依頼人が見る‐ ‐にはなんと言う文字が入るだろうか。

それは、依頼の内容次第だな。

依頼をこなせれば良い言葉が、こなせなければ悪い言葉が入るだろう。

もし、その内容が苛酷だったらマコトはこう言うだろう。

「苛酷。だけど、ただそれだけ。喜びは有る」と。

読んでくれてありがとうございます。

自分を試す為、三か月で作ったので雑な部分もあったでしょうが。

こんな小説を読んでくれる人に感謝です。

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