内緒のぬくもり
澄んだ空気と草木の匂いが心を安らげ、耳を澄ますと虫たちの声があちらこちらで聞こえてくる。
小高い丘の上にレジャーシートを広げ、二人は寄り添いながら、ただ、夜空を眺めていた。
満天の星でびっしりと埋め尽くされているその夜空は、都会で見るには明るすぎて、普段お目にかかれる事はまず無いと言っても過言ではないだろう。それを証明するかのように、二人はあまりの美しさに、言葉を発するのを忘れていた。
どれ位時間が経っただろう。
風が少し肌寒くなってきて彼女が腕を擦る。
「寒い?ちょっと風が冷たくなって来たね」
「あ、ううん。まだ大丈夫」
彼女は寒さのせいで今この時間を失いたくなかった。周りは人影も無く静かで綺麗な夜空を、彼とこうして見上げている。その空間を大切にしたかった。
「もうちょっとこっちへおいで」
今でも十分近い距離にいるのにもかかわらず、そう言われて一瞬戸惑う。
ほんの少し彼に近づいてみたが、彼は何処か不服そうな顔を覗かせた。
「もっとこっち来てくれないと、肩抱けないよ」
予想はついていたが、いざそう言われるとシャイな彼女は尻込みしてしまう。
そんな彼女を見て彼はくすっと微笑むと、自分から彼女に近づいた。
彼は長い腕を上げながらブランケットを広げ、それをそのまま彼女の肩に回す。肩に触れた途端、ぐっと引き寄せられ一気に二人の距離も縮まった。
ブランケットに包まれた二人。
彼の髪のシャンプーの匂いも、
彼のジャケットに染み付いた煙草の匂いも、
そして───、直に触れる彼の温もりも、
至近距離にいるからこそ感じる事の出来るこの幸せに彼女は星を見上げる事を忘れ、ただ彼の胸に顔を埋めていた。
目を瞑れば、トクントクンと彼の胸が小さなリズムを刻んでいるのが判る。しばらくすると、その鼓動が明らかに早くなって来た事に気が付いた。
“・・・どうしたのかな?”
そう思った途端、指先に冷たい何かが触れるのを感じる。
「?」
指先に触れたものは、ゆっくりと彼女の指の間に自身の指を絡めようとしていた彼の指である事が判った。
その事に気付いた彼女は軽く握っていた手の平を開くと、彼もそれにあわせる様にして大きな手の平に包み込まれていく。最初は冷たかった彼の手も、二人の温もりによってすぐに温かいものへと変化を遂げた。
「───。」
完全に手を繋ぎきった事にホッとしたのか、彼がわずかにため息を吐くと胸のリズムも又元通りゆっくりと小さなリズムを刻みだしたのが判る。
彼はシャイな彼女の為に、いつも平静な振りをして手を繋いでくれていたのだと言う事が、この事によって彼女は初めて気づいたのであった。
こんなに一緒にいるのに、何度も手を繋いだ事もあるのに、彼も又シャイなのだと実感した。
───でも彼女は気付かない振りをする
絶対に内緒にしなければならない。
彼ともっと、触れ合いたいから。
LOVE IS MAGICAL