居待の月
一人コラボ企画作品。
ラプソディ・カタストロフの方も宜しくお願いします。
ルネ、ルナ、チャンドラ
黄色い月に、狂気が宿る
銀のひかりにあてられて
今宵貴女は何処へ往くの
◇
月にはね、女の人が居るのよ。
窓の外を見遣り乍ら、彼女はそんな事を考えていた。満月の日から幾日かが経ったお陰か、陽はもうすっかり暮れてしまったというのにまだ月は姿を見せてはいない。だから、彼女が月に居るという女を見る事は未だ叶わない。
アレは、一体誰なのか。
けれどそんな中、彼女は唯ぼんやりとある人について思考を巡らせる。遠い昔のあの夜に、月に女性が居る、と言ったあの人。黄色い月に照らされて笑っていた"彼女"を。
黄金色の髪に、翡翠の瞳。丁度彼女と同じ色なのに、何故かそれはとても濁って見えた。
何故。
ふつりと疑問が沸く。
何故、そんなに悲しそうな色をしているのかしら。
しかし、未だ幼かった彼女に、その理由を知る術はなかった。
あれから幾年が過ぎた。彼女の周りに溢れていた幸せは何時の間にか絶望へと変貌してしまった。5歳の時に弟を、8歳の時に父を、10の時に母を亡くし、彼女は天涯孤独の身となっていたのだ。しかもまた、両親の遺した遺産でさえ周りの醜悪な大人達に殆ど奪われ、彼女の元にはぼろぼろのあばら屋しか残らなかった。
"悲しみに流した涙は
もうずっとまえに枯れ果てて
私はただ待っている"
彼女は堪らなくなって外に飛び出した。懐には果物ナイフを隠し持ち、冬の夜空、ネグリジェたった一枚で。
"凍えそうな程寒い夜"
彼女は街の外れに向かって裸足で一心不乱に駆けてゆく。寒さなどもう微塵も感じはしない。こんな夜なら、あの人に会えそうな気がするのだ。
"タナトスとエロースの狭間を"
夜空に明星だけが彼女を見つめて居る。未だ月が出る気配は無い。
"月はその境界線"
霞んだ視界の隅に、黄金色の髪の少女が映る。
"貴女は何方へ往くの
貴女は何方を見捨てるの"
思わず立ち止まる。彼女は込み上げて来る何かに、一瞬呼吸が出来なくなってしまった。
"いつかまた"
少女は幸せそうな笑顔を振りまいて、月の出る方を眺めている。
"死は、やって来る
死は、やって来る"
ようやく上がった居待の月が森の影から顔を出し、彼女を背後から照らす。
"時間が無いわ"
じっとりと汗が滲む。表情が引き攣ってゆくのが自分でも判る。
"死が、迫って来る
死が、迫って来る"
辺りは白く霞んで、もう何も見えないのだ。
"逃げきれはしない"
彼女は銀にひかるそれを、ただぎゅっと握り締めた。
「月にはね、女の人が居るのよ」
目の前の少女に向けて精一杯の笑顔を形成し乍ら。
◇
ルネ、ルナ、チャンドラ
黄色い月に、狂気が宿る
銀のひかりにあてられて
今宵貴女は何処へ逝くの




