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14話

 諦めかけたとき、玄関の扉が開いた。そこからよっちんのお母さんが顔を出す。

「あら、あなた達?」

 僕らは肩をすくめるようにお辞儀をする。そして、ケイヤが言った。

「こんにちは。よっちんいますか?」

「今、出かけてるんだけど…… もしかして、陽一にわざわざ会いに来てくれたの?」

「いないんですか?」

 眩暈がする。立っているのも辛い――

「そうなのよ。携帯に電話してみた?」

「電話したけど出ないんです」

「多分、図書館だと思うから、電源切ってるのかなぁ。行ってみる?」

 よっちんのお母さんは図書館の位置を教えてくれた。

 ここから十分はかからない。僕らはお礼を言うと、図書館へ向かった。


「よっかったなぁ、図書館で。ハラハラしたよ。ここまできて会えなかったら、悲惨だよ。でも、よっちん図書館なんかで何してんだ? 読書って柄でもないのに」

 ケイヤと並んで走りながら、僕は安堵のため、少しお喋りになっていた。そのとき、急にケイヤが自転車を止める。

「どうした?」

「タイヤがパンクしたみたいなんだ」

 見ると、後輪がペシャンコに潰れている。

「さっき通ったところに自転車屋があったから、そこまで戻るか。先に、図書館に行っててよ。直したらすぐ行くから」

 自転車屋があったのはよっちんの家のだいぶ向こうだ。

「僕も一緒に戻るよ」

「いや、よっちん見つけるまでは気が気じゃないから、先に行って探しておいてよ」

「分かった。よっちん捕まえておく」


 僕らはそこで別れた。よっちんのお母さんに教えてもらった道は、それほど複雑ではなかったけど、念のため、地図に図書館の位置をペンで書き込み、ケイヤに渡した。

 まったく知らない場所を、一人で走るのは心細かった。離れてみて初めて、ケイヤの存在を強く感じる。一人になったとたんに世界は違って見える。

 言われたとおりに道を進むと、程なくして、図書館に着くことができた。白い二階建ての建物で、入口に書かれた図書館という銀色の文字が少しはげてる。自転車を置き、入口の前に立つ。よっちんが中にいるのだと思うと、緊張する。自動ドアが開き中に入ると、冷房の冷たい空気と、図書館特有の紙とインクの匂いに包まれる。

 一階の窓際にテーブルが置かれ、読書コーナーになっているが、そこにはよっちんはいない。本棚の間を一周し、確認してから、二階の閲覧室に向かう。階段を上がって左側の部屋だ。ガラスのドアがあり、そこから中を覗く。部屋の奥から二番目の席に、よっちんは一人で座っていた。僕のことにはまだ気付いていない。本に目を落としている。

 ――よっちんだ。

 なんか、すごくドキドキしてる。デートの待ち合わせって、こんな感じなのかもしれない。

 僕はドアを開けて閲覧室の中へ入っていく。よっちんの机の横に立つけど、僕に気が付かないみたいだ。

「よっっちん」

 言葉がかすれてしまう。

 よっちんは読んでいる本から顔を上げると僕のことを見た。目をパチクリさせながら、ただ僕のことをじっと見ているだけだ。反応がない。ポカンとした時間が過ぎていく。

「しっ、翔くん!」

 突然、我に返ったようによっちんは素っ頓狂な大きな声を上げる。部屋にいた全員が、僕らのことを見る。

「何で! 何で、翔くんがここにいるんだよ!!」

 よっちんは部屋に響き渡るような大きな声で言う。

「分かったわかった。とりあえず、ここから出よう」


 僕とよっちんは図書館を出ると、抱き合い、そして僕はよっちんの頬っぺたを摘まんでプニュプニュしながら、再開を祝った。

「ケイヤも来てるんだ。自転車がパンクして、直したらすぐにここに来るよ」

「まさか、自転車で来たの?」

「そうだよ」

「うそ!」

「そうだろ。僕もケイヤが自転車で行こうって言い出したときには、嘘だろって、思ったよ」

「でも、どうして?」

「おととい、ケイヤのところにメールしただろ。それが気になったのと、お前のこの頬っぺたをこうやってプニュプニュしたかったからだよ」

 僕はもう一度、さっきよりも少し力を込めて、よっちんの頬っぺたをプニュプニュした。

「ごべん。ぼひがへんにゃミェールしひゃったから」

 よっちんは頬っぺたを引っ張られながら言う。

「ただ、遊びに来ただけだから、気にしなくていいよ」

「でも、大変だったでしょ?」

「うん。大変だった――」

 僕は目頭が熱くなってきた。本当に大変だったんだよ。本当に、本当に、本当に大変だたんだよ! ウゥッ……。でも、よっちんにあえてよかったぁー。ウゥゥッ……。僕は涙を堪えながら、もう一度、よっちんを抱きしめ、頬っぺたをプニュプニュした。

 

 

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