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13話

 山の斜面はまだ途中だたようで、緩やかな下り坂がしばらく続く。自転車は快適にスーピー度を上げ、木陰に入れば、わずかに残った朝の空気が僕らの髪をなびかせる。

 道が平坦になると、日を遮る樹木は姿を消し、田園の光るような緑が目の前に広がる。雲はひとかけらもなく、突き抜けるような青空がどこまでも続いている。


 建物の数が次第に増えてくる。最初にあったコンビニで僕らはおにぎりと飲み物を買った。 時間は九時を過ぎたところだ。

「よっちんに電話してみようよ」

 よっちんに近づくとともに気持ちが高ぶってくる。僕はコンビニの前のガードレールに寄りかかり、おにぎりの包みを剥がしながら言った。

「そうだな、近くまで来てるって言ったら、よっちん驚くかな?」

 ケイヤも興奮しているようだ。日焼けした真っ黒な顔に、目だけが輝いている。

「そりゃぁ、きっと驚くよ。ビックリしたよっちんの顔、直接見たかったな」

 ケイヤは携帯電話を取り出すと、よっちんの携帯にかける。

 すぐに眉間に皺をよせ、険しい顔をしながら携帯をたたむ。

「電源が入ってないか、電波の届かないところにいるって」

 僕らは目を合わせ、同時にため息をつく。


「まぁ、行くしかないか。早く喰って出発しようぜ」

 ケイヤは携帯をしまうと、おにぎりを頬張った。


 建物の間隔が狭まり、高いビルが目立ち始める。道は二車線になり、車の量が急に増えてくる。歩道も広く整備されていて、県庁舎の周辺はスーツを着た人達の姿が目立つ。

 さっきから何度も電話をしているが、通じない。時間はもう十時になろうとしていた。あと一時間もすればよっちんの家に着いてしまう。

 道路は三車線に広がり、大きな駅の前には何軒ものデパートや百貨店が立ち並んでいる。アスファルトが真夏の太陽を照り返す。街路樹にとまった蝉が、僕らの不安をあおるように鳴き続けている。


 ケイヤが自分の携帯を畳みながら言う。

「出かけてるってことはないよな?」

「用事がないって確認したの、おとといだからな」

「まぁな」

 ケイヤは口をアヒルのように突き出している。

「会えなかったらどうしよう?」

 僕が言うと、ケイヤは降りていた自転車にまたがる。

「行ってみるしかないよ……」


 ケイヤの後を僕は走っている。やがて、高いビルはなくなり、住宅街に入ってく。空き地が随所に見られ、畑や水田が目立ち始めた。

 ケイヤは自転車を止めて、地図を広げる。

「多分、この辺のはずなんだけど……」

 何度も、同じ道を行ったりきたりしている。

 僕は地図を覗き込む。電柱に書かれた住所がここで、よっちんの家の住所がえーと、ここで、あぁー、ずーっと手前のところで右に曲がらなくちゃいけなかったんだ。

 僕はケイヤの手から地図を奪い取ると、ケイヤの前に出て、自転車を漕ぎ始めた。


 一軒家の前で、僕はは自転車を止める。

「ここだ」

 グレーの外壁の二階建てで、テレビのコマーシャルに出てくるような洒落た造りだ。門から庭を覗くことができる、芝が敷かれ、よく手入れされた花々が咲いている。

「立派な家だなぁ」

 ケイヤはそう言いながら携帯電話を取り出す。やはり、よっちんは出ない。

 ケイヤは僕に、目でインターホンを示す。そのボタンを押せということらしい。この家の中に、よっちんがいると思うと、胸が締め付けられる感じがする。出かけて会えないことを考えると、締め付けははもっと強くなって、苦しいような痛みが走る。

 ボタンを押そうと指を伸ばす。ケイヤを見るとゆっくりとうなずく。勇気を出してボタンを押す。家の中からインターホンの音が聞こえる。僕の心臓の音が、ケイヤにも聞こえるくらい高鳴っている。遠くで車が走る音が聞こえる。相変わらず、蝉はどこかで鳴き続けている。額の汗が頬を伝い、首筋に流れていく。家の中からは何も反応がない。

「いないのかなぁ?」

 頭の芯がシワシワしてくる。息がしづらくなって、吐き気がする。

 今度は、ケイヤがインターホンのボタンを押す。また、家の中で『ピンポーン』と音がする。僕らはそのままの形で、玄関の前に突っ立っている。ときどき、ケイヤと目線が合うが、二人とも何も言い出せない。ジリジリとした時間だけが流れる。

 

 

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