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月の光と葵の乙女  作者: 三好八人衆
聖一、上洛の章
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聖一、上洛の章~第七話~

斎藤龍興による将軍御所襲撃の翌日、龍興と別れて桂川に布陣する三好三人衆の軍勢は、川を挟んで御所救援に向かう軍勢と対峙していた。敵の旗の家紋は九曜紋。山城国勝竜寺(しょうりゅうじ)城主細川藤孝(ほそかわふじたか)率いる救援軍である。

細川藤孝―――彼は前々将軍足利義輝の代から仕えている幕臣で、義輝の死後は義昭の供をして各地を流浪していた。非常に教養に富んだ人物でありながら、武にも優れ、突進してきた牛を投げ飛ばす怪力の持ち主である。

救援軍大将・細川藤孝は鋭くとがった髭を弄りながら、つまらなそうに呟いた。

「・・・つまらんであ~る・・・」

彼の大敵は『暇』であった。普段は和歌を作ったり、料理を作ったりして暇をつぶすが、さすがに戦場ではそうはいかない。

「まぁ、公方様のご無事の為の暇であるからな・・・」

江北の若鷹が、将軍を助けるまでの暇だ。せいぜい三好勢をおちょくってやるとしよう。




「続けぇぇぇぇぇぇ!」

普段の穏やかな浅井長政とは打って変わって、戦場での彼は鬼神の如き力を振るう。自ら馬を駆って敵勢に飛び込むと、大きな太刀を振りまわして敵兵を切り捨てる。

「うわぁ!なんだこいつは!?」

「鬼だ!鬼がいるぞ!」

背後からの奇襲、それに加えて鬼の如き力を発揮する謎の人物の登場である。斎藤兵たちは浮足立った。










その騒ぎが起こったのは、将軍御所攻撃開始から三日が経った時だった。斎藤龍興は自軍の後ろ備えが騒がしい事に気が付き、人を遣って状況を確かめさせた。

「何事だ」

「はっ!我が軍の後ろ備えを敵勢が襲撃しております!敵将は浅井備前守!」

「チッ、浅井勢が引き返してきたか・・・桂川の三好勢は!まだ細川勢を退けられぬのか!?」

「申し上げます!」

龍興が役に立たぬ味方に苛立ち、斥候を出そうとしたちょうどその時、三好勢からの伝令が転がり込んできた。

「申し訳ございませぬ!我が軍、桂川の守りを突破されました!敵勢は細川に加え、河内の三好義継勢、摂津の池田勢が加わり・・・」

「もうよい!引き揚げるぞ!」

彼は苛立たし気に立ちあがり、采配を折って悔しがった。馬を駆り、戦場を離脱しながら龍興はひとり呟く。

「やはりひとつの家だけでは対抗できぬか・・・ならば・・・」

『織田』という大きな敵に『個』では対抗できない。ならば、大きな輪で対抗しなければ―――








遠江国・浜松城(はままつじょう)―――

今川家から遠江国を奪った徳川家康は、曳馬城(ひくまじょう)を浜松城と改名して遠江攻略の拠点としていた。後々には、対武田家の戦略の為に岡崎城から居城を変えようと考えている。

その浜松城の本丸で、家康は西の夜空を眺めていた。黒曜石の様な彼女の瞳には、憂いの色が込められていた。

「殿、お風邪をひいてしまいますよ」

「彦ねぇ・・・」

彼女の肩に着物をかけたのは、徳川家のお姉さん役・鳥居彦右衛門元忠(とりいひこうえもんもとただ)

(先日から、ずっとこの調子ね・・・)

曳馬城(浜松城)を攻め落とした徳川軍に、凶報が飛び込んできたのは正月すぎの事だった。

―――将軍御所を斎藤龍興・三好三人衆が襲撃。明智光秀・鷹村聖一がこれを迎撃。

「聖一さんは無事でしょうか・・・」

「ええ、きっと大丈夫ですよ。聖一君だけじゃなくて、織田家の明智殿もおられますし、周囲には織田家の与党も大勢おられます。一日は持ったそうですし、すぐに救援軍が来ますよ」

このやりとりもすでに今日だけでも10回近くに渡る。聖一が将軍御所に立て籠もったという報が入ってからはすでに50回ほどにもなるだろうか。内容は少しずつ詳細が分かるたびに長くなるだけで、ほぼ変わりない。

「ほら、殿。元気を出してください。殿が毎日そんなに落ち込んでおられては、聖一君も安心して戦ってはいられませんよ?殿がお元気であればこそ、彼も京で過酷な戦いを繰り広げられているのですから」

だから、何か一つでも家康の心を変えるために、元忠は少し言葉を付けくわえてみた。

「・・・そうですね。聖一さんが帰ってくるのに、私がこんな調子じゃ駄目ですからね・・・」

何しろ問題は山積しているのだ。京で激戦を終えて疲れて帰ってくるだろう、彼に負担を課す訳にはいかない。

「さぁ!明日から仕事をいっぱいこなして聖一君をあっといわせましょう!」

「うん!」

パタパタと自室に引っ込んでいく妹の様な主君を見送って、元忠は微笑んだ。

「うふふ・・・本当に殿は聖一君が好きなんですね」

まだ本人は、その気持ちを理解していないみたいだけど。

その気持ちに早く2人が気付いてくれればいいのだけれど・・・それが本当に元忠が気にかけている事だった。


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