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月の光と葵の乙女  作者: 三好八人衆
聖一、上洛の章
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聖一、上洛の章~第五話~

「う~ん・・・全快だっ!」

将軍仮御所となっている本圀寺の庭に出た聖一は、朝日を浴びながら伸びをした。そして「はふぅ・・・」と息を吐く。

「聖一さんっ、すっかり元気になりましたね!」

「本当に守綱のお陰だよ。ありがとう」

聖一が風邪で寝込んでいる間、付きっきりで看病をしていた渡辺守綱が嬉しそうに手を打って喜んでいる。特に重い風邪でもなかったのだが、誠心誠意尽くしてくれた彼女に聖一は感謝していた。

「い、いえ・・・我が主の御為ですから」

頬を染めて謙遜するが、もし彼女に犬の尻尾があったらパタパタと激しく振っていただろう。聖一は彼女の中に犬をイメージしていた。

(あ、可愛いかも)

柴犬の耳を生やし、尻尾をパタパタと振ってこちらを上目遣いで見上げてくる守綱―――

「やばい、すごいかも・・・」

「聖一さん?」

主に可愛らしさの面で。







「おや、鷹村殿。起きられたのですか」

聖一が次に挨拶に訪れたのは、明智光秀のもとだった。彼女は自室でバラバラになった金具の手入れを行っていた。

「体調を崩しまして、明智殿にはご迷惑をおかけしました」

「まったくです。体調管理も出来ない者を部下に抱えている家など、先が見えております。精々信長様の足を引っ張らないようにしてくださいよ」

冷笑とともに言い放った彼女の嘲りを含んだ言葉に、聖一の隣に控えていた守綱はムッとした表情を浮かべるが、聖一は何も言わずに彼女を制して光秀に頭を下げた。







「・・・ふむ」

鷹村主従が光秀の自室を辞した後、金具―――彼女が愛用している火縄銃の部品を元に戻しながら、光秀は鷹村聖一に対する評価を改めていた。

(わざと彼と徳川殿を貶める言葉を選んでみましたが・・・)

徳川家臣たちは総じて主君家康への忠誠心が厚く、戦いに対して熱い者が多い。同盟国の臣として、その熱さを彼女の主が一番恐れる者に利用されるのではないかという危惧があった。

甲斐の女虎―――武田信玄に。

『竹千代は大人しそうに見えるだろ?でもな、あいつ怒ると手がつけられないんだ。加えて徳川家の家臣たちは熱血漢が多いときてる。それを信玄に利用されるんじゃないかって、いうのがオレの一番の懸念事項なんだ・・・』

そこで、彼女の主織田信長が期待を賭けているのが異邦人・鷹村聖一だった。

『鷹村は徳川からしてみれば外様の者・・・だからこそ、客観的に見て冷静に彼らを止められるんじゃないかとオレは思ってる。まぁそれも、みんなを止められるくらいの実力を身につけないといけないけどな』

「ふんっ。風邪なんかひいている御仁に、勇猛の名高き徳川軍を御せるとはこの十兵衛には思いませぬがねっ」

主君が自分ではない人物、しかも男性に期待をしている事にちょっとだけ嫉妬する光秀だった。







「鷹村!鷹村!余と蹴鞠をするのじゃ!」

「あ、ちょっと待ってください公方様!」

聖一の着物の裾を引っ張る小さい人物は、征夷大将軍・足利義昭。見た目通り子供の彼は、最近遊び相手として聖一を見出したらしく、よく蹴鞠相手に彼を誘う。初めは慣れない蹴鞠に悪戦苦闘した聖一だったが、徐々に上達していき、ついには御所に訪れた公家の相手ができるまでになった。特に関白二条晴良(にじょうはるよし)嫡子二条昭実(にじょうあきざね)とは昵懇の仲になり、彼の姉妹を娶る娶らないの話し合いになったが結局は霧散した。








そんななか、聖一は京で正月を迎えた。彼の風邪が完治した頃から出発しては三河に戻る前に正月を迎えてしまうので、ともかく正月を過ぎてから三河に戻っては―――と義昭の近臣に勧められて、ともかく正月はここで過ごす事に決めたのである。

正月はいつだってめでたい。義昭に新年の挨拶を述べ、守綱や兵士たちとともにお雑煮を食べていた聖一は、ふと、何かを忘れている事に気が付く。

(なんだったっけ・・・?何かを忘れている気がするんだけど・・・?)









人知れず京の町を目指して駆ける軍団があった。彼らの先頭で騎馬に跨る男は粗野な風貌に違わぬ怒声をあげて兵士たちを鼓舞する。

「者ども続けぇ!足利義昭の首を挙げる好機は今をおいて他になし!この斎藤龍興とともに三好家の栄華を取り戻さん!」

旗は二頭波。兜の前立てにも同じ物が使用されており、自身がかの『蝮』の血を引いている者であると主張している。

復讐の鬼・斎藤龍興率いる軍勢は、京・六条の本圀寺を目指して突き進む。すべては、復讐の為に。


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