三河平定の章~第五話~
「出陣します!門を開けよ!」
甲冑を纏い、騎乗した家康の号令で岡崎城の門が開く。岡崎城下に迫った一向一揆軍に対し、徳川軍は本多忠勝を先鋒にむしろ旗を掲げて迫る一向一揆軍の兵と対峙する。
「仏敵徳川家康を討て!」
「行けば極楽、退けば地獄ぞ!行け!我らが精鋭たちよ!」
陣頭指揮を執るこの一騎の首謀者なのだろう、荒法師たちが喚き立てる。そして僧兵や流れ者らしき粗末な鎧を着た者達が統率されていない乱雑な喚き声を挙げて突進して来る。
そして―――彼らは一閃された槍により、血の花を咲かせて舞った。
「争いを糧にする悪法師どもに誑かされし愚か者ども・・・」
その中心にいるのは黒き甲冑を纏い、名槍を携えた銀髪の少女。
「この本多平八郎が蜻蛉切の錆にしてくれる!命が惜しい者は早々に失せよ!」
凄まじい気迫とともに放った美少女の大喝に、勢いが完全に呑まれる一向一揆軍。その隙を逃すほど仮にも軍師役を務める聖一は優しくはない。
「本多隊は一時後退!鷹村隊、弓構え!」
本多隊が忠勝を残して下がった(忠勝は前線で槍を奮っている)のを確認し、彼女が射程範囲外に入ったのを確認し、号令を下す。
「放て!」
放たれた矢は一直線に一向一揆軍の部隊に降り注ぐ。阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されるが、聖一はそこから目を逸らさない。
―――これは自分が歩むと決めた道。ならば、目をそむけずにそれと向き合うべきだ。
本多忠勝の大喝とともに開かれた岡崎城下の戦いは、忠勝の奮戦や聖一の策略、そして―――
「あー!蜂屋の不忠者~!小平太がやっつけちゃうもんね~!」
「このっ、ちび平太が!」
元同僚には本気で槍を突き合わせてくる敵軍主力の元徳川家臣だが―――
「半之丞!私が相手です!」
「あっ、殿・・・ううむ、殿には槍を向けられぬ。ここはおさらばでござる」
家康が現れるとすたこらと逃げ出してしまい、徳川軍優位に進んでいった。
しかし、徳川軍の勝利を決定的にする事が出来なかったのは、敵軍にひとりの騎馬武者の存在があったからに他ならない。三河国寺部城主・渡辺家の跡取り娘にして『槍の半蔵』と謳われ、『月の使者』鷹村聖一の側に仕える勇将―――
「我こそは一向一揆軍総大将・渡辺半蔵守綱なり!我こそと思わん者はかかってまいれ!」
聖一の下より去った、渡辺守綱の姿がそこにあった。