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月の光と葵の乙女  作者: 三好八人衆
三河平定の章
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三河平定の章~第二話~

松平元康、織田信長と同盟―――

この情報は、すぐさま駿府の今川氏真の下に届けられた。

「お、おのれ元康の女狐め!今川家の大恩を忘れ、我が父の敵・織田信長と結ぶとは!」

激怒した氏真は詳細が記された書状を破り捨て、興奮のあまり肩で息をする。「許さん・・・許さんぞ元康め!」と叫んだ氏真は人を呼び、ある人物に向けて伝令を命じた。

「余自ら松平討伐に出る!ついては吉田城代小原鎮実(おはらしずざね)に先鋒を命じる故戦闘準備をするよう命じよ!」

―――その光景を天井から見ている者がいることに、誰ひとり気が付く事はなかった。




服部半蔵正成の正体を知る人物は、松平家でも三人いない程度。そのうちの一人、正成の主君である松平元康に報告を行っていた。

「そうですか・・・氏真殿が動きますか」

「はっ。吉田城代小原鎮実を先鋒に三河に攻め込む様です。数は1万余と推測できます」

正成は小柄な体格で、髪は黒色のおかっぱ頭。目つきは鋭いが、その眼差しには松平家への忠誠心が溢れている事を知っている。

「では、さっそく皆を呼んで軍議を行いましょう」

「御意」

元康は小姓を呼んで家臣たちを集めるよう命じた。




岡崎城の大広間に集まった酒井忠次・石川数正・本多忠勝・榊原康政・鳥居忠吉・元忠親子・大久保忠世・忠佐兄弟等松平家臣達は一様に重苦しい顔を―――

「くくく、腕が鳴る!」

「『東海の弓取り』といわれた義元公が相手ならともかく、馬鹿息子が相手では我らが殿の相手にもなりませんね」

していなかった。忠次と数正を皮切りに、次々と上がるのは『交戦上等』の勇ましい掛け声。その光景を見て、聖一は改めて思いなおす。

(ああ、そうだった。この人たちは事実上の天下人だった秀吉にも喧嘩を売って、それで勝っちゃった人たちだったっけ・・・)

ようは運命や時勢への反骨精神旺盛なのだろう。しかしそれだけではどうしようもない事もある。今川の大軍を待ち受ける気満々の彼らにため息交じりで一石を投じる。

「皆さん、ちょっと待ってください」

聖一の制止の声に、皆が振り返って自分を注視する。『何だお前は戦わないのか?』という大勢の視線に晒されながらも、続ける。

「僕も殿が今川家と開戦するのには賛成です」

清洲同盟以降、聖一は元康の事を『殿』と呼ぶようにしていた。すでに元康は一城の主であり、もう気安く呼べるような仲ではないと思っていたからだ。

「ただ、すこし戦端を開く方法を凝らさなければならないと思うのです。軍を東に進める上で、松平家の敵は今川だけではないのですから」

聖一の進言に、家臣たちから納得の声が上がる。今川家の侵攻はあくまでも防衛戦であり、例え勝利しても兵力差から被害は大きい可能性が高い。兵力の面や兵糧などの軍事の体力面でも今川家が優位なのはゆるぎない事実なのだ。いくら当主が凡庸でも。

「じゃあさ、お兄ちゃんはどうすればいいと思うのー?」

小首をかしげた康政の質問には微笑みを返すだけであえて答えず、元康の前に広げられた東三河の地図の一点に短刀を突き刺す。

「今川軍の目的は松平家の討伐―――とは表向きの理由。本当の目的は吉田城を迫りくる我ら松平家から守るべく、小原肥前を後詰する事です」



後詰とは、戦国大名と大名に従って城を守る者の絆の様なものだ。敵軍が自分の家臣及び従属する勢力の城を攻めた場合は、彼らを庇護する立場にある大名は城を救援する義務がある。

「後詰が撃退されて吉田城が私達の手によって攻略されれば、今川家の東三河における影響力は失墜する事は必定・・・」

「しかし鷹村よ、我が軍が吉田城を攻略するより今川軍が吉田に到達する確率のほうが高いぞ。そうなれば不利になるのは我が軍だ」

忠次の指摘はもっともな事だった。しかし、聖一はそれに対する答えも用意していた。

「はい。確かにそうです・・・でも―――今川家は一枚岩じゃないんです。特に、遠江方面の豪族たちは」

遠江国は氏真の祖父である今川氏親が元々保持していた遠江守護職を斯波家から奪還する以前は、遠江の国人の大半は斯波家に味方して氏真の曽祖父今川義忠を討ち取っている。

「噂では井伊ヶ(いいがや)城主井伊直親(いいなおちか)曳馬(ひくま)城主飯尾連竜(いいおつらたつ)、堀越氏・天野氏など謀叛が噂される国人が多くいるようです。氏真は彼らに疑心暗鬼になっているようで、軍の発進が遅れることは必定。そして、こちらをご覧ください」

「これは・・・書状ですか?」

聖一が元康に渡したのは一通の書状。その内容は―――

「遠江国曳馬城主・飯尾連竜殿から松平家へ帰属したいとの内容です」



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