8 武闘家+聖女見習いの日々/LV2
アルフォンスに紹介された一人目の仲間は、武闘家サシャだった。
彼は、少年ながら、見事な気功術を操る。
(さすが、北の雄。ディアボリ公国の出身者ね。魔族や魔物の多い土地柄だもの、自然と強いものが多くなるのね)
公子アルフォンスの側近なのだから、さらに選りすぐりの人材なのだろう。
サシャは、迎えに来てくれた日の前日まで、アルフォンスに大変な仕事を言いつけられていたという。
そのため、待ち合わせに遅れてしまったらしく、何度もブランシュに謝ってくれた。
旅の仲間が、口は悪いが、気のいい少年なのがわかって、ブランシュはほっとした。
今、ブランシュとサシャは、王都の北にある村まで、馬車で向かっている。
途中、聖魔法の訓練をしつつ、ゲームに出てきたダンジョンをクリアしてレベルを上げながら、北へ向かうつもりだ。
「あのくそメイド」
ブランシュがなぜ、あの場所にいたかを話すと、サシャはそんな反応をした。
どうもサシャは商人ギルドでの待ち合わせを要求したのだが、それがうまく伝わっていなかったらしいのだ。
「ねえ、あそこなんだったの?」
「……暗殺者ギルド」
「……」
<ま、無事で帰ってこられてよかったよな!>
「なあ、鳥、お前、神獣ってほんとかよ」
<お前ら、主従そろって、失礼な奴だな!>
「あ、やっぱり? あの人失礼だよなあ。人使い荒れえし」
<失礼なのはお前もだ! もっと俺様を敬え!>
サシャもギィの声が聞こえているらしく、ギィはブランシュ以外の話し相手ができたことでノリノリだ。
ブランシュは、そんな風に楽しげにやりとりする二人の横で、一人、聖魔法の練習を続けていた。
道中の馬車の中でできることと言えば、このくらいだ。
体の中に魔力はある。
集中すれば腕の聖痕が熱を帯びるのもわかる。
けれど、魔力が聖痕の付近で溜まり、凝り、発露までは至らない。
そして、ずくり、と慣れた痛みが腕いっぱいに広がる──。
「わーーっ。何やってんだよ、ブランシュ!」
腕に浮き出てしまった聖痕の周りのひどい火傷の跡を見て、サシャは、大声をあげた。
「あ」
ブランシュにとってはいつものことだが、初めて見たサシャは驚いてしまったらしい。
「大丈夫。いつものことだから」
「ばっ、何やってんの。女の子がこんなにけがしてっ」
大きなカバンをごそごそやって、中から薬の小瓶を取り出して、ブランシュの腕にふりかける。
アルフォンスがくれた薬と同じものなのだろう。
みるみるうちにけがが治っていった。
「……ありがと」
「なあ、こんな練習の仕方。よくないだろ」
「でも、聖魔法はどうしても使えるようにならなくちゃいけないの! 私がやめたら……」
真剣なブランシュに、サシャは、うーん、と考え込んだ。
「んー。じゃ、やり方を変えようぜ。今のブランシュには、聖魔法は使えねえんだろ。で、闇雲に練習しても成果はでねえ。なら、ブランシュ自身に何か変化とか成長があったら試してみるってことで練習の回数を絞ろうぜ……焦っても結果につながらないことのほうが多いだろ?」
今まで、ただがむしゃらに努力を続けていたブランシュは、はっとさせられた。
よく考えると、スランプに陥っていたのかもしれない。
<なるほど、効率よくいくってことだな>
「そーそー。だからそれまではさ、聖魔法のレベル以外のとこ、成長させようぜ。他の魔法使っても魔力は上がるし、体力とか素早さとかも必要だろ?」
「そうね! いったん他のことに目を向けるわ」
そして、三日後、ブランシュは、村の周辺にあるはじまりのダンジョンに初アタックをかける。
ゲームの世界では手慣れたものだが、ブランシュにとって、この世界における初ダンジョンだ。
ゲームの知識をフル活用した装備は万全だった……はずなのだが、何かが違う。
「ねえサシャ。この鎧、軽くてとっても動きやすいし、かっこいいのだけど。──私、聖女なのに、何で鎧?」
「あー、それ、主から持たされたの。ブランシュが弱っちいからさ、ダンジョン入る時はこれ着せとけってさ」
ブランシュとサシャは、お互いに命を任せる旅の仲間になるのだからと、名前で呼びあうことにしている。
「聖女って、序盤はただのローブしか着られないんだと思ってたんだけど、これもありね」
「だろだろだろ、ミスリルの鎧だぜ!」
「えーーっ。それってあり?」
「いんじゃね? 経験値は変わんねえし」
ミスリルの鎧は、魔王のいるボスダンジョンが近くなってから、やっと手に入るのだ。
「まあ、そう…………そうね!」
ブランシュは、とりあえず深く考えるのはやめにして、目の前のダンジョンに集中することにした。
そして、記念すべきダンジョンの初アタックは──ちょろかった。
スライムは、魔法攻撃しか聞かないので、ブランシュの水魔法で一撃。
コボルドは、物理攻撃が有効なので、サシャの掌底で一撃。
ハーピーは、ブランシュが水魔法で一撃を加えた後に、サシャが蹴りで一撃。
レベルも上がった。
名前:ブランシュ
ジョブ:聖女見習い
レベル:1→2
体力:120 → 150
魔力:80 → 100
魔法攻撃力:50 → 60
所持魔法:第三階位水魔法、第二階位風魔法
スキル:なし
ちなみに、ボスダンジョンクリアレベルは25前後、このゲームのMAXレベルは30だから、この上がり方は悪くない。
ブランシュとサシャとギィは、ダンジョンを出たあと、見晴らしのいい丘に転がって、反省会をする。
「魔力は上がってるのに、何で聖魔法を使えないのかしら」
転がって、頭を寄せ合う形で、ブランシュのステータス画面を一緒に眺める。
<ジョブも聖女見習いのままだしな。これ、聖女になれんのか?>
「ギィ! あんた、少しは、自分の選んだ聖女を信じなさいよ!」
ギィは、パタパタと飛んでいってしまう。
最近、ギィは都合が悪くなると、こうして飛んで行ってしまうのだ。
「へえ、おもしれえなあ。自分の能力が数値で見られるなんて。俺もわかんねえかなー」
「サシャも見られるかも。これって聖女パーティの特典かもしれないし」
「やってみるか、ステータスオープン」
青い画面が開く。
「おおっ」
ブランシュが期待して見上げていると、突然ブチッと音がして、サシャの画面が切れた。
続いて、ゴロゴロと何かが勢いよく転がち落ちる音がする。
脇を見ると、サシャが、丘から転がり落ちていた。
その姿は……だいぶ下だ。
きっとすごい勢いで転がり落ちたに違いない。
「いいご身分だな」
ブランシュが視線をあげると、そこには、アルフォンスの姿があった。
機嫌が悪そうに顔をしかめていても、美形は美形なのだと、どうでもいい感想を抱く。
同時に、何故ここにいるのだろうと、ブランシュは首を傾げた。
「迎えに来た」
「はい?」
そして、アルフォンスは、転がったままのブランシュの手をぐいっと引き起こした。
「お前の出番だ、ブランシュ。──学園に戻る」




