4 パーティメンバーを勧誘せよ/LV1
魔法の成果は上がらないまま、さらに一週間がたった。
ブランシュは、裏山の近くにある空き教室を公爵令嬢権限で貸し切っていて、そこを訓練の拠点にしている。
<思うにだ! お前の聖魔法が使えるようになるのを待っていたら、いつまでたっても仲間が集まらねえ! 先に仲間を探しに行くぞ!>
机の上に飛び乗って羽根をぴっと上げたギィは、お決まりのポーズだ。
「そうね。聖女パーティの仲間にもレベル上げの時間が必要だもの」
RPGゲーム「神獣に導かれし者」のオープニングで、ヒロインが神獣に聖痕を授かるのは、ヒロインが学園の二年生の進級する春だった。
そして、一か月後には魔王を倒す旅に出て、二年にも及ぶレベル上げの旅の末、ついに魔王を倒すのだ。
「私の魔法は、旅の途中で仲間と一緒にレベル上げしていけばいいわ。私が他の人たちの足を引っ張ったら申し訳ないし」
旅の準備期間を考えると、今からパーティメンバーの勧誘を始めても遅いぐらいだ。
<すげえやつ、選べよ>
「え、私が選んでいいの?」
<俺、わかんねえもん>
「え、ほら、そこは、素質がある人間が、神獣の力でピーンとくるとか……ないの?」
<あったら、お前を選ばねえ>
「……」
お互いにダメージが大きかった。
「ごほん、じゃあ、僭越ながら、私が有望そうな人物を当たってみるわ」
ブランシュは、ゲームでのパーティメンバーに声をかけることにした。
この時までブランシュは信じて疑っていなかった。
ゲームの聖女パーティの彼らが、魔王を倒す旅へと快く同意してついてきてくれると。
彼らとは──。
一人目は、第二王子。
学園の三年生で、ブランシュより一つ上の婚約者だ。
熱血漢で、時々暑苦しいが、様々なことに常に前向きに取りくむ姿勢は尊敬に値する。
将来ヒロインと親しくなることがわかっているので、友人以上の関係にはならないように注意している。
彼は武芸に秀でた、学園の槍術のクラスの首席だ。
彼はヒロインと旅に出ることで、聖騎士としてその実力を開花させる。
二人目は、魔道侯爵家の嫡男。
学園の三年生で生徒会長だ。
冷たい印象を与える彼だが、身分を問わず公正な判断を行う姿は、生徒の鏡だ。
彼も将来ヒロインと親しくなることが分かっている。
ブランシュとは学年も違うが、会えば挨拶を交わす程度の知り合いだ。
お互いに敬意を持って接している。
彼は魔法に秀でた、学園の魔法学クラスの首席だ。
彼はヒロインと旅に出ることで、魔法使いとしてその実力を開花させる。
三人目は、公爵家の次男。
学園の二年生で、ブランシュとは同じクラスの顔なじみだ。
ちゃらちゃらと軽薄な印象を与える彼だが、実は人をよく見ており、気配りに長けている。
彼も将来ヒロインと親しくなることが分かっているため、同じクラスとはいえ、あまり親しくなりすぎないように気を付けている。
彼は実は剣技に秀でたソードマスターだ。
彼はヒロインと旅に出ることで、勇者としてその実力を開花させる。
それなのに。
「愚かしいな、ブランシュ。確かに北方に不穏な動きはあれど、魔王の襲来などを口にして人心を惑わすとは」
「君は、物事をわきまえた現実的な人だと思っていたんだが、そんなことを言い出すとは残念だよ。それが本当だというのなら、学生の君が動くのではなく、むしろ王家や騎士団に伝えて彼らを動かすべきだ」
「ブランシュ。君が頼ってくれてうれしいな。でも、僕と一緒にいたいなら、そういうやり方はスマートじゃないな」
──見事に玉砕した。
(なぜなの⁉ ヒロインには、割とちょちょっと誘うだけでOKしてたじゃない⁉ ちゃんとヒロインと同じセリフで勧誘したのに)
精神が削られまくる勧誘の結果、ブランシュは、くたくたになって邸に帰った。
ベッドに倒れこむブランシュの枕元で、ギィは難しい顔をして(いるような気がするだけで、シマエナガの瞳はつぶらなだけだ)首をかしげる。
<ああ、そっか。あれのせいか>
「あれって何?」
<いや、普通聖女ってあ、こう、溢れ出る魅力みたいなのがあってさ、自然と言葉に説得力が増すんだよなあ。それがねえから断られるんだよ>
(あった、そんなのがあった。パッシブスキルの、魅了!)
「ま、まさか。ひょっとして……『ステータス、オープン』……って、出た。ほんとに出た!」
ブランシュは、がばりと起き上がる。
中空に青いパネルが浮かび、そこに文字が浮き出ている。
名前:ブランシュ
ジョブ:聖女見習い
レベル:1
体力:120
魔力:80
魔法攻撃力:50
所持魔法:第三階位水魔法、第二階位風魔法
スキル:なし
「なんなの、なんなの『聖女見習い』ってっ、見習いって……それに、ないじゃない、聖魔法! おまけにパッシブスキルどころか、スキルが一つもない……」
ブランシュの記憶が正しければ、ヒロインは、はじめから聖女だった。
<なんだ、なんだそれ>
どうやらギィにも見えるらしい。
<おもしれえ!……って、なんで聖魔法がねえんだ?>
そんなのブランシュが聞きたい。
「ねえ、ギィ。やっぱり、私じゃダメなのよ。このままじゃ、魔王に滅ぼされて世界が終わっちゃう」
ブランシュは、愚かではない。
努力はするが、努力だけではどうにもならないことがあるのを知っている。
めずらしく、ギィは真面目な顔で黙り込んだ。
「ギィ、始めに会いに行ったという彼女に、もう一度、会いに行ってみない? 彼女にもう一度聖痕は授けられないの?」
<聖痕は、一人にしか授けられねえ>
「そんなっ。方法はないの⁉」
<あるにはある……けど>
言いたくない、とそっぽを向くギィに、ブランシュは顔を近づけて視線を合わせた。
「ギィ。もしかして、私に遠慮してる? かまわないから、言って」
<……ぐり、だすんだ>
「え?」
<聖痕を、えぐり出すんだよっ。すっげえ痛いぜ。大の大人でも泣きわめくぐらい! それに傷も残るし!>
「教えて、ギィ。大事なことよ。痛いのは、私だけ? 移植される側は痛まないの? それから、ギィにも負担がかかったりしない?」
<それは、ねえ。大変なのはお前だけだ>
それを聞いてブランシュはほほ笑んだ。
「よかった」
<よくねえだろ!>
「それなら、迷う必要ないわ。聖痕を、彼女にもらってもらいましょう」
<……本当に痛いんだぞ。傷だって……>
確かに、痛みはともかく、貴族令嬢として体に傷が残ることは、今後の結婚にも影響するだろう。
婚約破棄される可能性も高い。
「痛みも傷も、どうってことないわ。だって、戦いに行く人達を見送って、王都でのうのうと待ってるだけなんて、逆に申し訳なくてたまらないもの。私にもできることがあってよかった」
<……お前、いいやつだな>
「何か言った?」
<なんでもねえ>
こうして、ブランシュとギィは、ヒロイン──ノエラ=シャレット子爵令嬢に会いに行くことを決めた。
数日間、ブランシュは、ノエラのことを調べた。
彼女のことはゲームの登場人物と言うことで知った気になっていた。
けれど、実は、学校での行動範囲や、仲の良い友人など何も知らないことに気づいたのだ。
(会いに行くなら、少し彼女の状況を知っておかなければならないわよね)
家の執事に彼女のことを調べてくれるよう頼んだ。
何とも言えない微妙な顔をされたことが気になったのだが、その理由は、すぐに明らかになる。
「ここが、ノエラ様がよくお昼を楽しまれているという、第二庭園ね」
<あ、あそこじゃねえか>
「ほんと。ほんとにいた……」
執事が調べてきた話を聞いたときに、まさかとは思ったのだ。
(ゲーム開始前なのに、ノエラ様とパーティメンバーが仲良くなっているだなんて)
庭園には、仲良くお昼を楽しむ、ゲームのヒロインであるノエラと、パーティメンバーの三人の姿があった。




