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「生徒会役員」になんてなるもんじゃない。  作者: いわん


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第4回:「生徒会予算編成なんてやるもんじゃない」(後編)

各部部長との予算折衝はまだまだ続いた。


軟式テニス部。なぜかうちの高校には硬式テニス部がなく、軟式テニス部しかなかった。なぜだろう。ま、僕の高校の立地条件上、テニスコートを取るスペースがない、というのが一番の理由なんだろうが。その軟式テニス部そのものはごく普通の部だったのだが、ここの顧問が一癖も二癖もある先生だった。僕は、運良く、その教師の授業を受けた事はなかったのだが、とりあえず評判はかなり悪かった。そして、その教師が顧問をしている軟式テニス部の予算要求も。

「……あのさ」と僕は軟式テニス部部長に言った。「これってさ、よくわからないんだけど」

僕は要求予算の項目の「ベンチ購入」という項目を指差した。

「……確か、コート上に、部員が座れる椅子はもう十分にあるよね?これ、何?椅子が壊れたって話は聞いてないんだけど……壊れたの?」

「あー……それねぇ……」軟式テニス部部長はものすごく言いにくそうだった。

「うちの顧問が、横になって練習を見たいからベンチを買え、って言ってね……」

「あー……」絶句。なんという顧問だ。生徒会予算はお前の小遣いじゃねぇ。

「……削るなら、削るでいいですよ。椅子はあるから問題ないし」

「……うん。悪いけど、さすがにそれが理由じゃ通せないわ」と僕。本当にどうしようもない教師というのは実在するのだなぁ、ということをその時知った。

「……ごめんね。変な要求して」と申し訳なさそうに軟式テニス部部長は言う。あんな顧問の下でなんて、あまりにも部長が可哀想すぎる。

僕は思いついた助け舟を出した。「いや、例えば、『練習試合で他校の生徒を呼ぶとき、それ用に必要』とかって理由なら通せない事もないけど……そういう理由にしとく?」

「いやいや」意外にも部長は僕の案を思いっきり拒否した。「うちのコートは狭いから、他校との練習試合には使えないんで。そういう理由で買ったら練習試合に他校を呼ばなきゃダメになるじゃん?普段、練習試合はこちらが出向くようにしているし、現状、それで問題ないから、削っていいよ」

「……うん。わかった。じゃ、これは削っておくね。その分、ボールとかラケットとか消耗品は新入生用って事の意味で、多めにしといたから」

「……ありがと……正直、ベンチ置きたくないんだよね」と部長。それでも要求せざるを得ない部長の悲哀。そういう顧問の下だと苦労してそうだなぁ。

「あのさ」僕は言った。「ベンチのことで顧問から文句言われたら、『生徒会がNGを出した』って言っていいから。僕の名前も出していいよ。『あの副会長がNGを出した』って」相手は授業において僕と直接関わりを持たない教師である。僕がその教師に嫌われたところでどうということはなかった。

「うん。ありがと。でも大丈夫だよ」軟式テニス部部長は笑った。でも、どこか哀しい笑いだった。


野球部。サッカー部の方が強く優勢なうちの高校において、弱小であるためグラウンドでも肩身の狭い思いをしている。だからといって、「弱いんだから予算は少なく」ということはしたくなかった。

「失礼しまーす、野球部でーす」と時間通りに野球部の部長が生徒会室にやってきた。

「はい。お疲れさまです」と僕。

そうして席をすすめる……とは言ったものの野球部の部長とは旧知であったので、他の部とは明らかに僕の態度が違っていた。これはこれで問題があるよな。だめだねぇ、僕。

「はい。これがこちらの回答。ボールとバット、消耗品だから増やしておいたわ」

「いいの?」と部長。

「いいのいいの。今年は予算が多めなんで、全体的に増やして回答しているから。他に問題ある?」

「いや、これだけ貰えればOKだよ」

ということで折衝そのものは終わり、雑談モードに。初心者への対応の件も聞いたが、問題ないようだった。

「そういやさ」僕は思い出した。「気がついたら、ピッチングマシンがあるけれど、あれ、いつ買った?去年の予算にも一昨年の予算にも見当たらなかったんだけど」

「あー……」部長は言いにくそうに言った。「あれね。毎年貰う予算と部員の部費を貯めて、今年買ったんだよね」

またしても僕は絶句。いくらなんでも哀しすぎるだろ、そういうのは。

「……聞かなかった事にしておくから。他の人にはあんまり言わないでね」と僕。

「うん。ありがと」と部長。

「あと、一度通した予算について、決算時にオーバーしていなければ、その内容を細かく問うことはしないから。例えば、ボールの代わりにバットを買っても、それが予算の範囲内である限り、生徒会としては特に問題にしないし、予算を使い切らなくても、特に問題にはしない」僕は言葉を継いだ。「あと、大きい金額のものは学校の備品として買えるから、そういうものが欲しい時は遠慮なく言って。例えば、サッカー部が使ってるゴール、あれはサッカー部の部費で買ったわけじゃないだろ?な?」

なんだよ、僕の高校。マジでお金の使い方がおかしすぎる。野球部の顧問は何してんだよ。顧問が備品申請して買ってやれよ。今まで誰がどんな風にしてたんだよ。予算折衝していくほどに、各部の見えない事情が見えてきて、僕は哀しくなっていった。


――えっと……次は美術部か。

今日も3つほど予算折衝を終え、生徒会室で一息ついていたら、

「おらぁ!来たぞぉ!」

と、いきなり生徒会室のドアが開けられた。

「……何してんの、テツローちゃん」

どうしたことか、テツローちゃんがやってきた。予算関係はノータッチで逃げてたのに今日に限ってどうしたんだろう?コーヒー牛乳導入に進展でもあったんかな?

「何って、美術部の予算折衝だ!こっちの要求は何も問題無し。そういうことで全部オッケー!はい!おしまい!」とテツローちゃんは一方的にまくしたてる。

「……部長じゃなくて、テツローちゃん一人で来たの?」そういえば、テツローちゃんは美術部だった。すっかり忘れた。

「文句あっか!この予算でオッケーだろ?じゃ、そゆことで」と一方的に話を切り、テツローちゃんは去ろうとした。

「待って待って待って!テツローちゃん!美術部とはいくつか話したい事があるんだよ!」と慌てて制止する僕。

なんだよーメンドクセーナー、と言いつつも席に着くテツローちゃん。

「……あのさ、吹奏楽部の部長にも同じ事を話したんだけどさ」

「なんだよ!吹奏楽部なんて予算削れ!削れ!」

「そう言いたきゃ予算折衝作業手伝ってくれよ!……吹奏楽部の予算を削るって話じゃなくてさ」

「なんだよー吹奏楽部は良くてうちの予算はダメなのかよー」

「そんなこと言ってないだろ……この項目に書かれてある詳細がいくつか専門的すぎて、実際どんなものなのか内容がわかんないんだよ。予算NGって意味じゃないよ。ただ、金額も金額なんで、それの説明をして欲しいのと、それと」

「それと?」

「美術部ってさ、新入部員に画材とか道具とか貸したりしてるの?」

「してるよー。先輩が使って残していった使い古したやつだけど、油絵が初めて、だとかそういう新入部員には残ってる備品から貸してやってるよ。大丈夫だって!ちゃんとやってるって!うちは初心者大歓迎だから!だからカンバスは多めに申請しているんだし」

「そっかー」僕は安心した。「もし、そういう点で足りないものがあったら予算追加しようと思ってたんだ」

「えっ!予算追加か!予算追加の話か!ないない!新入部員には何も貸してない!新入部員は、全部自分で道具を買うようにしてもらって……」

「……テツローちゃん……今更言っても遅いよ……」と僕は呆れた。

それでも、新入部員用にと、画材数点に関しての数量を相談して増やして、予算に追加した。

「このくらい増やしておけば大丈夫かな?」とテツローちゃんに伝える。

「オッケー!オッケー!予算増!問題無し!お前、いい奴だなぁ」とテツローちゃんはニコニコして僕の肩を叩いた。

「……いい奴だと思ってるんならさ、予算折衝で苦労している僕の手伝いもしてくれ……」

「そこはお前にまかせた!お前、そういうの得意そうじゃん!今日もちゃんとやってるし!問題ない、問題ない。じゃな!」と、テツローちゃんは風のように去っていった。

……一番時間が短かく済んだ予算折衝だったが、一番疲れたのは何故だろう?これが、この日の最後の折衝だったのがまだ救いだった。予算折衝は明日以降も続くんだけれど。


結局、二週間ほどかけて、全ての部との予算折衝が終わった。基本的に一次折衝で全て合意。予算案との変更金額も十分許容範囲内に納まった。あとは折衝結果を文書化してまとめ、次の生徒会の定例で報告し、皆の同意が得られればいい。生徒総会では会長かアヤちゃんに説明してもらう。僕はそこまでする気力は無い。今回の予算編成は運が良く、ほぼ増額回答が出来たのが幸いだった。それでも文句を言ってきた部がサッカー部以外にも無かったとは言わないが、おおむね、こちらの修正予算案で、削減項目の事情も納得してくれた。でも、僕は、この折衝作業で本当に本当に身も心も疲れた。会長を含め、予算編成、特に折衝において、みんなが逃げる理由もよくわかった。こんなのは、とてもじゃないがやってられん。ま、最初に予算の原案を作って、自分から泥沼に落ちたのがそもそもの原因なんだろうが。あぁ、僕の馬鹿。

「いやー、君が原案を作ってきてくれたおかげで、予算編成が楽に済んで助かったよ」という会長のねぎらいの言葉も、素直に受け取れなかった。そう思ってるんなら、少しは手伝ってくれよ!

――本当に、生徒会予算折衝なんてするもんじゃない。


<続く>


次回:第5回「新入生歓迎会になんて出るもんじゃない」

応援団員として、そして生徒会役員として。身体は一つしかないのに、二つの役割をこなせというのか? 僕の高校生活は、多重業務の板挟みで始まる。


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