第六幕:執筆の催促とわしづかみ
やあ、君。創作者は、物語を作り続ける前に、自分が人間だと自覚しなければならない。この社会はルールで人が守られてるようで、実際にはそうじゃない。攻撃する者が必ずいる。
だから、自分で身を守らなきゃいけないーー。
第五幕では、シャーロキアンを名乗る男をアーサーは見た。
イチョウの並木通り。黄色い葉が、ひらりひらひらと、地面に落ちた。
「シャーロシアン? そうか、ファンなんだね。君ーー、きみ、誰だい?」
アーサーは額に油汗を浮かべながら微笑んだ。
本当なら、この無礼な男に右ストレート、腹にフックをかましてやりたかった。
それくらい、男は細長かった。
男はジロジロとアーサーを上から下まで見つめながら言った。
男はアーサーを無遠慮に観察してた。
「シャーロキアン」と男は訂正した。
見ることに飽きたのだろうか、男はしばらくして、口を再び開いた。
「ミスターコナン。最近のあなたの執筆スピードは、初期の頃とくらべてノロマになっている。
これはあなたが、執筆活動よりも友人たちとの対話または遊戯に興味があるからだ。あなたの肩に背負っているリュック。おそらく個人のスポーツではない。ちいさなリュックにはグローブがある。ボクシングだ。そして、あなたは気分良く歩いていた。勝ったんだーー」
アーサーの頬がひくついた。
男の早口言葉は彼の嫌いなものだった。
目の前にヤツがいる。彼をバカにし、ノロマ、マヌケ、デブとさえいうヤツが。
「なぜ、スポーツをしたかというと、あなたは、いや、君は太ってきたからだ。シャーロック・ホームズの生みの親がブタでは示しがつかないからね。」
可哀想にアーサーは口をあんぐりとあけた。ヒゲが落ちそうな感じだ。
しかも男は、アーサーのワガママボディの胸をわしづかみにした。
そうさ、ニヤニヤしながらね。
「すまないが、そんな風にされると困る。手をはなしたまえーーミスター......?」
「僕はホームズだ。シャーロック・ホームズだ」
「わかった、ホームズ。胸から手を離してくれ。ーー気持ちが悪い」とアーサーはハッキリ言った。主導権は、彼にあった。
ホームズは、彼から手をどかした。
「君は太っているーー。」とホームズは悔しそうに言った。
アーサーの頬がビクッと引きつった。
「お前は何がしたいんだ?」と荒っぽく、アーサーは男に聞いた。
男は目を細めた。
「君が、君の執筆活動がノロマだから......僕は様子を見にきた。大丈夫かなって......」
「心配無用!本は書く!お前は待て!
不愉快だ!どきたまえ!」とアーサーは顔を真っ赤にして並木道を進んだ。
彼は何度か後ろを振り返った。
ホームズは、彼の後ろ姿を眺めていた。
「ーーバカにしやがって」とアーサーは唾を吐いた。
気持ちいい気分が台無しだった。
でも彼の恐怖は、まだ始まったばかりだった。
しばらく歩いた先にも、ホームズがいた。
「やあ、僕はシャーロキアンだ。コナン・ドイルだねーー?」と彼は握手を求めてきた。
アーサー・コナン・F・ドイルは、この後も観察され、胸を掴まれた。
わしづかみだ。
(こうして、第六幕は観察と太っているで幕を閉じる。)




